沖縄本島中部の石灰岩丘陵で、子どもが公園、住宅、いつもの道路を見て、特別な問いを口にする。「お城は、どこへ行ったの?」。答えは、門の向こうに残っているわけではない。丘そのものが大きく改変された。記憶に残る城壁とアーチ門の大半は姿を消した。今あるのは碑や拝所。そして古いグスクの姿を断片的に伝える発掘痕跡、史料、写真、歌、地域の記憶である。

その「ないこと」が、今度はゲームの材料になる。越来白椿会が中心となり、地域の子どもたちが日本発の基本プレイ無料サンドボックスゲーム「テラビット」で越来グスクをつくる。開発元サイバーステップは、現地の地形をもとに制作環境を用意した。子どもは従来型のコードから始めなくても、ブロックや部品を置き、世界を変え、遊べる仕組みをつくれる。

企業が地域の課題を突然発見した企画ではない。土台は数十年にわたる住民の活動だ。31年前、越来小学校の保護者たちは、越来城について手作り絵本を2冊制作した。2026年2月には白椿会が1年半以上かけた漫画『越来のマンガ歴史本 越来グスク~越来の偉人たち~』250部を完成。57人と16企業の寄付に支えられ、市内の学校、図書館、公設児童館へ配った。ゲームは、この記憶の連鎖に加わった新しい媒体である。

14~15世紀沖縄市が示す建物・炉跡、多くの出土品の主要年代
20人7月31日に越来自治公民館で予定されたゲーム制作講習の対象児童数
250部学校、図書館、公設児童館へ配布された地域制作の歴史漫画
11月最初の体験会後に報じられた沖縄市福祉まつりでの披露予定
証拠の境界:これは地域と子どもがつくる創作的なゲーム世界であり、越来グスクの学術的な確定復元ではない。考古学や記録が欠ける場所では、壁、門、部屋、物語の仕掛けは仮説または創作になる。責任ある作品は、その違いをプレーヤーへ示す必要がある。

こども食堂から仮想の丘へ

サイバーステップが参画を発表したのは、5月28日に越来公民館で住民、関係者、子ども向けの説明会を開いた後だった。同社は制作・体験用端末を寄贈し、越来自治会が定期的に実施するこども食堂「越来カフェ」に合わせて講習を続ける方針を示した。美来工科高校ITシステム科の生徒が年下の参加者を支える世代間の学びも計画された。

6月24日の制作体験会では、子どもや親子連れがテラビットの齊藤徳也プロデューサーから説明を受けた。テラビット・アンバサダーを務める元SPEEDメンバーの上原多香子さん、美来工科高校ゲーム制作部の生徒も支援に入った。参加した5歳児は、琉球新報に「橋を造って楽しかった」と話した。短い感想に方法の核心がある。王統を暗唱しなくても、橋をつくれば問いが生まれる。何を越え、どこへ通じたのか。そもそも、その橋があったと分かっているのか。

同社が後に公表した予定には、7月31日午前の2時間、越来自治公民館を利用する児童20人を対象とする講習も記載された。参加した子どもたちは制作を続け、11月の沖縄市福祉まつりで披露する計画だという。公開資料には、完成マップ、一般公開日、学術監修を終えたとの報告はない。本稿時点で正確なのは「制作中」である。

制作の段階子どもの活動デジタルの力歴史を扱う力
問う「城前なのに、なぜ城が見えない?」という身近な謎から始める。大きな問題を答えられる小さな問いへ分ける。繰り返し聞いた答えと、まだ開かれた問いを分ける。
集める漫画、文化財マップ、博物館資料、古写真、出土品、年長者の話を使う。情報を探し、整理し、出典を付ける。異なる時代・目的で生まれた資料を比較する。
形にする地形、道、壁、建物、物をゲーム空間へ置く。縮尺、座標、空間把握、反復修正を経験する。発掘・記録・記憶・想像のどれかを表示する。
ルールをつくる問いをクエスト、選択、条件、パズルへ変える。順序、条件、因果、フィードバックを扱う。劇的だが不確かな説を唯一の結末にしない。
試す別の子に遊んでもらい、伝わらない場所を観察する。仕組みと説明の両方をデバッグする。事実と解釈をプレーヤーが分けられるか確かめる。
公開する家族や市民へ世界を説明する。判断を言葉にし、協働の成果を発表する。出典、不確実性、現地への入口を残す。

「グスク」は「城」だけではない

英語ではグスクをcastle、日本語でも城と訳すことが多い。便利だが、沖縄のグスクを本土の天守の縮小版のように見せる危険もある。グスクは琉球史の中で、防御された集落や有力者の拠点として発達し、多くが聖地を内包し、または聖地との結び付きを保った。高台、曲線を描く石灰岩の城壁、広場、拝所は、政治、防御、交易、祭祀を、現代の分類ほどきれいに切り分けなかった。

沖縄県立博物館・美術館は、グスクの起源を13世紀ごろまでさかのぼらせる。14世紀後半から15世紀前半、有力按司の拠点は城郭として深化し、尚巴志が王権を固める時期に完成した形へ発展した。ユネスコは琉球に300を超えるグスクと関連遺産が残ると説明する一方、世界遺産の構成資産である城跡は今帰仁、座喜味、勝連、中城、首里の5か所である。

越来は、その5か所には含まれない。国の保護は別の指定による。2019年10月16日、越来グスクは琉球の創造神アマミクに結び付く聖地群「アマミクヌムイ」へ追加され、国指定名勝となった。つまり、ここは失われた軍事建築だけではない。現在の公園にある拝所は、聖地と共同体の歴史が続いていることを示す。

デジタルの城壁を積むのは簡単だ。難しいのは、グスクが砦、居館、眺望点、聖地、島々を結ぶ拠点だったことを、一つの世界で伝えることだ。

ギイクグシクと呼ばれた丘

沖縄市の文化財解説は、越来グスクを「ギイクグシク」と記す。標高80メートル前後の石灰岩丘陵にあり、古老によれば頂上は今より高く、東の海を望めた。ゲームで塔を発明しなくても、その眺望だけで地域の重要性を考えられる。

発掘は、より固い証拠を与える。市は14~15世紀の建物・炉跡、墓、貿易陶磁器、青銅鏡片、石製勾玉などを報告する。2012年の市広報は3回目の発掘で、12~15世紀の陶磁器、貝、獣骨、土器が出土し、前年度調査で7体分の人骨が見つかったと伝えた。これらは越来を、食事、建築、埋葬、祭祀、海外交易の網の中へ置く。

文字と記憶は別の層である。越来グスクは古い歌謡集『おもろさうし』に登場し、アマミクがつくったグスクとたたえられる。また第一尚氏の尚泰久、第二尚氏の尚宣威という、後に王となる2人に結び付く。ここで沖縄市の慎重な表現が大切だ。2人は王子時代に越来を領有し、グスクに住んだ「可能性がある」。ゲームにも、この「可能性」を残すべきである。

知識の層ゲームで支えられる表現残る不確実性
考古学利用された範囲、年代、炉、墓、特定種類の出土品。建物の完全な高さ・外観、会話、全ての部屋の用途。
地形石灰岩の丘、およその標高、見通し、周囲との位置関係。開発前の稜線が各時代にどの形だったか。
史料と歌名称、賛歌、政治との関係、聖なる由来。詩的表現や後世の記録を、事件の文字通りの記述とみなせるか。
写真と地図大規模改変前に写った特徴、道、時代ごとの変化。画面外の姿、撮影前にすでに変わっていた部分。
地域の記憶地名、行事、道、語り、住民にとっての意味。正確な年代。複数世代や異なる話が重なることがある。
創作クエスト、案内役、会話、橋、複数の探索方法。出典と結ばない限り、証拠にはならない。

争いと交易が交差した王国の世紀

越来の政治史が最も鮮明になるのは、激動の15世紀である。尚巴志は1416年に北山、1429年に南山を滅ぼし、中山を中心とする統一王権を築いた。しかし統一で戦乱は終わらなかった。沖縄県立博物館・美術館は第一尚氏の時代を、遠征、強い地域按司、短い王の在位が続く時代として描く。1453年には王位継承争いで首里城の広い範囲が焼け、1458年には護佐丸・阿麻和利をめぐる事件が起きた。

尚泰久は1453年の混乱後、第一尚氏第6代国王となった。越来の地域漫画では、現代の子どもを案内するキャラクターとなり、娘の百十踏揚、武将の鬼大城らが登場する。物語として強い素材だが、同時代の中国・朝鮮の外交記録、後世の家譜・歴史書、聖歌、口承は、それぞれ違う問いに答える。漫画の制作陣が専門家の協力を得て、内容を何度も見直したという過程は、ゲームにも必要な編集姿勢である。

尚宣威は、次の王統に属する。第二尚氏初代・尚円の弟で、越来を領し、1477年に王位を継いだが、在位約6か月で尚真へ譲った。市内には尚宣威王の墓とされる文化財がある。二つの王統が同じ「越来」に触れるからこそ、一つの家、一つの時代へ混ぜてはならない。

13世紀ごろ — 琉球各地でグスクが生まれ、農耕社会と地域按司の拠点として発達。

14~15世紀 — 越来で建物、炉、墓、貿易品を示す考古資料が残る。

1416年・1429年 — 尚巴志が北山、南山を倒し、統一王権を固める。

1453年 — 王位継承争いで首里が焼け、尚泰久即位への道が開く。

1458年 — 護佐丸・阿麻和利の事件が尚泰久治世の重要な物語になる。

1469~70年 — 第一尚氏が終わり、尚円が第二尚氏を開く。

1477年 — 尚宣威が短期間在位し、越来へ戻ったと市の資料は伝える。

1945年以後 — 道路、軍事施設、その他の開発で丘と石垣が大きく改変される。

1985年、2010~11年 — 主な発掘調査が残存資料を記録。

2019年 — 国指定名勝「アマミクヌムイ」に越来グスクが追加。

2026年 — 地域漫画と子どものテラビット制作が、歴史を二つの新媒体へ運ぶ。

二度目の消失は戦後に続いた

越来グスクの喪失は、単純化しやすい。地域ニュースの見出しには「沖縄戦で消失」とある。一方、地域と市の資料は、より長い過程を描く。戦前まで城壁やアーチ門が残り、戦後の米軍道路や基地整備、その他の開発によって石垣が切り崩され、丘の形が変わった。かつての遺跡範囲には住宅と公園がある。

違いは重要だ。ゲームが「一度の戦闘で城が消えた」とだけ語れば、戦争、占領、戦後開発が重なる歴史を一つの爆発へ縮めてしまう。逆に1450年以後を消し、往時の丘だけをつくれば、変わった場所の周りで暮らし、祈り、記憶を守った人々が見えなくなる。考古学的な時代、写真に残る戦前、戦後の改変、現在の公園を切り替えられる設計なら、変化そのものを学べる。

物質的な不在が、企画の感情的な力でもある。中城や勝連では、大きな城壁の上を歩いて学べる。越来では、見えにくい場所を地域が守らなければならない。ゲームは記憶へ立体感を与えられる。ただし、美しい仮想世界で現地を置き換えるのではなく、碑、拝所、改変された地形へ人を戻す入口であるべきだ。

ゲーム制作が「歴史を考えること」になる時

教育ゲームを遊ぶだけなら、年号や用語を正解する仕組みにもできる。つくる側は、もっと多くを決める。何ができるか、何が事件を起こすか、どの物が重要か、空間が注意をどう導くか、何を成功とするか。ルールはすべて主張である。閉じた門は出入りが管理されたと語る。交易のクエストは輸入陶磁器を交流へ結び付ける。拝所の扱いは、丘を戦場だけにしない。

これは、公開できる物をつくり、試し、話し合い、直す過程で知識を組み立てる「コンストラクショニズム」の考え方に近い。文部科学省は、プログラミング的思考やICT活用を含む情報活用能力を、教科を越えた学習の基盤と位置付ける。小学校プログラミング教育の手引も、プログラミング体験を探究の過程へ適切に置くことを求める。越来は学校の正式な実証授業ではないが、この論理とよく重なる。

研究は「可能性」を支えるが、成功を自動的に保証しない。2023年のメタ分析は、24研究、参加者2134人をまとめ、ゲーム型学習と計算論的思考に全体として正の効果を見いだした一方、効果のばらつきも大きかった。10~16歳の29人が地域課題を題材に位置連動ゲームをつくった研究では、制作中に計算論的思考の実践が確認された。どちらも越来の児童の能力向上を証明するものではない。何を測ればよいかを示す。

学びはブロックの中に埋め込まれているのではない。証拠を求め、考えをルールに変え、別の人が遊んで失敗するのを見て、コードと歴史主張の両方を直す時に生まれる。

過去を守る四つの表示

文化遺産のコンピューター可視化に関する国際原則「ロンドン憲章」は、実用的な基準を示す。資料を特定・評価し、方法を記録し、現状、証拠に基づく修復、仮説的復元のどれを見せるか、不確実性とともに明示する。子どもにも分かる四つの表示へ変えられる。

ゲーム内表示意味越来での例見せ方の案
発見発掘または現存する特徴が直接支える。炉跡、輸入陶磁器、墓、現在の拝所。単色の印と博物館・発掘記録へのリンク。
記録歴史写真、地図、信頼できる文書に見える。資料に写る戦前の城壁線やアーチ。日付・出典を付けた縞模様の印。
伝承口承、聖歌、地域の語りに残る。高かった頂上、東の眺望、アマミクとの関係。語り・歌を示す印と、資料種類の説明。
創作証拠のない所を遊べるように加えた。部屋の内装、会話、創作の橋、幻想クエスト。鮮やかな印と別案を提案できる仕組み。

表示はゲームを退屈にしない。もう一つの遊び、「証拠探偵」を生む。出典説明を改善する、矛盾を見つける、二つの妥当な案をつくること自体を成果にできる。不確実性は隠す恥ではなく、遊びの特徴になる。

同じ姿勢が生きている文化も守る。拝所は管理者と関係者の助言のもとで扱い、公開機能があるからといって限定的な知識を開いてはならない。子どもの氏名、顔、チャット、位置情報には大人の管理が要る。端末故障、アカウント終了、将来のサービス停止でも成果が消えないよう、制作ファイルと出典を別に記録する必要もある。

成功をどう確かめるか

会場がにぎわい、カラフルな世界が完成しても、それだけで学習や文化継承の成功は証明できない。11月の披露は、よりよい問いを置く中間評価にできる。児童は出土品を一つ説明できるか。尚泰久と尚宣威を区別できるか。仮説部分を一つ指せるか。幼い参加者は大切な設計判断をしたのか、それとも大人が選んだ飾りを置いただけか。

公開できる成果指標
  • 歴史リテラシー:制作前後の問いで、出土品、文書、記憶、創作を分けられるかを見る。
  • デジタル制作:完成画面だけでなく、計画、ルール、テスト、不具合修正、改訂を残す。
  • 作者性:子どもの判断、高校生の支援、専門家の確認、地域資料をクレジットする。
  • 参加の公平:家庭に端末がない子も参加でき、年齢・能力に応じた操作方法を用意する。
  • 現地への回帰:拝所を尊重しつつ、ゲームから実際の遺跡、博物館資料、漫画へ導く。
  • 持続性:一つの商用アカウントに依存せず、出典、地図、画面、データを保存する。

運営の問いもある。サイバーステップはソフト、専門知識、端末を提供する。一方、テラビットはアイテム販売と世界公開機能を持つ商用サービスだ。子どもの制作物の権利、世界を公開するか、どのアカウントを使うか、交流をどう管理するか、課金圧力が生じないかを明示すべきである。地域の歴史編集権を手放さず、企業支援を受けられる時に、共同体の管理は強くなる。

問いでできた城

越来はすでに、いくつもの記憶媒体を渡ってきた。聖歌、系譜、口承、発掘報告、学校の手作り絵本、漫画、碑、御城印。ゲームはそれらを置き換えず、結び付けられる。輸入陶磁器の破片は交易のパズルに、古写真は壁の制約に、祖父母の話は記憶の道に、発掘者の「分からない」は二つの別世界になる。

最も面白い成果は、完成した城ではないかもしれない。いつもの公園を見て、複数の時間を同時に読める子どもかもしれない。石灰岩の稜線、王子の居館だった可能性、聖なる景観、戦後に切り崩された遺跡、そして記憶の方法を今も決めている地域。

消えた城壁は、デジタルブロックを積んでも物理的には戻らない。しかし、守るための習慣はつくれる。ここに何があったかを問い、知る人を探し、証拠を確かめ、分からなさを表示し、他者が入れる物をつくる。そして、次の人へ、もっとよい問いを残す。

調査・出典

編集注:本稿は公開発表、地域報道、自治体の文化財資料、引用研究に基づき、独自インタビューは含まない。「取り戻す」「再建」は創作的なデジタル世界を指し、物理的復元または考古学的に確定した復元ではない。公開資料から5月説明会、6月体験会、後に公表された7月講習、11月の披露予定を確認したが、本稿公開時点で完成ゲームや成果評価は示されていない。歴史記述では、発掘、文献、口承、推論の違いを保った。為替欄は編集部提供の市場参考値で、本企画とは無関係である。