白いサンゴは、まだ死んでいるとは限らない。高水温などのストレスで、サンゴと共生する褐虫藻との関係が崩れ、色素を持つ褐虫藻が失われると、透明に近いサンゴ組織を通して白い骨格が見える。水温が下がれば共生関係を取り戻すこともある。高温が長引けば、主要なエネルギー源を失ったサンゴは衰弱し、死ぬ。

2024年の日本では、その分かれ目が石垣島や沖縄島だけでなく、高知県竜串、和歌山県串本、長崎県対馬、静岡県田子島・沼津まで広がった。琉球大学の栗原晴子教授を中心に、東京大学、東北大学、東海大学、和歌山県立南紀熊野ジオパークセンター、特定非営利活動法人OWSの研究者が、黒潮・対馬暖流の影響を受ける8地点を調べた。

成果は2026年8月25日、Scientific Reportsに掲載された。論文題名は「Widespread coral bleaching across subtropical and temperate Japan under record marine heat stress」。調査地は北緯24度から35度、観察水深は5メートル未満。亜熱帯のサンゴ礁2地点と、サンゴ礁を形成しない温帯のサンゴ群集6地点を一つの南北断面で見た。

結論を読む前の注意:これは日本全国の無作為抽出調査ではない。現地観察の方法も地点間で統一されておらず、石垣島は約1時間の遊泳観察、沖縄島はマンタ法、温帯5地点は固定方形区、沼津は別規格の固定区だった。研究は広い地理的連続性を示すが、地点ごとの白化率を同じ精度で順位づけするものではない。
8地点すべて2024年のDHWが8℃週を超えた。
7地点館山を除き、白化または大規模白化を確認。
19.10℃週対馬で記録した最大DHW。
22% → 6%沖縄・瀬底島南側のサンゴ被度。

8地点を白くした熱は、同じ結果を生まなかった

熱ストレスは、DHW(Degree Heating Weeks、積算高水温)で比べられた。研究チームは米国海洋大気庁(NOAA)のOISST日別海面水温データを使い、1982〜2024年の各地点の平年値から、通常の最暖月平均より1℃を超えた高温だけを直近12週間に積み上げた。1℃高い状態が1週間続けば、おおむね1℃週である。一般に4℃週で白化が始まり、8℃週を超えると大規模白化や死亡の危険が高まる。

2024年は全地点で8℃週を超え、DHWは1982年以降の最高となった。対馬19.10、田子島18.73、沼津17.24。比較的北にある3地点で、熱帯・亜熱帯の石垣島9.24、沖縄島8.67を大きく上回った。最高月平均水温も8地点中7地点で42年間の最高だった。高緯度ほど温暖化が遅い、という前提はこの断面では成り立たず、最高月平均水温の上昇率は緯度と強く相関した。

調査海域区分・最大DHW観察された状態読み方
石垣島・白保礁亜熱帯・9.24ミドリイシ属など硬サンゴとソフトコーラルに大規模白化約500平方メートルを1時間観察。定量的な白化率は示していない。
沖縄島・瀬底島南側亜熱帯・8.672024年9月にサンゴ被度の38%が完全白化。2025年2月、被度は22%から6%へ低下約64万5800平方メートルのマンタ法調査。白化後の死亡を追った。
高知・竜串温帯・8超40.8%死亡、19.6%完全白化、25.9%色抜け、13.5%健全優占するAcropora hyacinthus種群の大半が影響を受けた。
和歌山・串本温帯・8超22.0%完全白化、33.4%色抜け。調査時に死亡なしその後、多くが回復したと研究者は観察。台風による冷却の可能性。
長崎・対馬温帯・19.1035.6%完全白化、23.9%色抜け、8.0%死亡研究者らの把握する限り、熱ストレスによる白化の初記録。
静岡・田子島温帯・18.7357.7%完全白化、7.2%色抜け2023年に続く2年連続の白化。
静岡・沼津温帯・17.2474%完全白化、21%色抜け別規格の固定区。優占する二つのミドリイシ類は100%白化。
千葉・館山温帯・12.9色抜け、完全白化ともに観察されず2024年の最高月平均水温は27.86℃で、8地点中最低。

表の割合は原著論文の値である。ただし、石垣島と沖縄島は調査法も尺度も異なり、温帯域でも沼津だけ方法が違う。竜串、串本、対馬、田子島、館山では2015年に設けた3メートル四方の固定方形区を各4区、毎年撮影している。結果の強みは、同じ地点を継続して見てきた研究者が、異例の夏を南北に結んだことにある。弱みは、全国統一の同時調査ではないことにある。

「海洋熱波」とDHWは、同じ物差しではない

海洋熱波は一般に、その季節として統計的に上位10%に入る高水温が5日以上続く現象を指す。JAMSTECの海洋熱波・海洋寒波ウォッチもこの基準を採る。一方、DHWはサンゴの白化リスクを見るため、通常の最暖月平均より1℃を超えた熱を12週間積算する。前者は異常な高温現象を定義し、後者はサンゴが受けた熱の「量」を測る。

研究チームが用いた海面水温は、衛星、船舶、ブイ、アルゴフロートなどを統合した0.25度格子のOISSTである。広域を同じ方法で42年間さかのぼれる反面、格子は沿岸の入り江、湧昇、潮流、日陰、水深差を直接表す現場温度計ではない。海面の指標が同程度でも、サンゴの周囲の温度、光、餌、流れは違いうる。

実際、8地点のDHWと白化・色抜け・死亡を合わせた割合には明確な相関が出なかった(p=0.42)。DHWが役に立たないのではない。すべての地点が危険域を越えたことは大きな警告だった。しかし、その後の被害を一つの数値だけで言い切ることはできなかった。

2024年が壊したのは「北へ行けば安全」という単純な地図である。サンゴの未来は、緯度ではなく、熱の長さ、種、場所、履歴の組み合わせで決まる。

黒潮がつくった北への道

日本沿岸は、サンゴの分布移動を調べる世界でも珍しい自然実験場である。黒潮は南から琉球列島を経て日本の太平洋岸へ暖水と幼生を運び、対馬暖流は九州西方から日本海へ入る。種子島・屋久島以北では、礁をつくる大規模な熱帯サンゴ礁とは異なるものの、岩礁上に造礁サンゴの群集が成立する。

国立環境研究所などの研究チームは2011年、過去80年間の文献、標本、聞き取りを調べ、日本の温帯域で複数種の分布北限が北上し、最速で年14キロに達したと報告した。竜串で現在優占するAcropora hyacinthus種群も、1930年代の調査には記録がなく、比較的新しく北上・定着した可能性があると今回の論文は論じる。

そこから「気候避難地」という考えが生まれる。熱帯の海が白化温度に達するなら、幼生がより涼しい高緯度へ移り、次の生息地をつくれるのではないか。ここでの避難地は、災害時にサンゴを移す施設ではない。気候変動の影響が比較的弱く、集団が長く生き残り、周辺へ幼生を供給できる場所という生態学上の仮説である。

だが、暖流は二つの役割を持つ。幼生の移動を助ける一方、暖水そのものも北へ運ぶ。日本沿岸の最高月平均水温は1982〜2024年に全地点で有意に上昇し、上昇率は沼津で10年当たり0.34℃、館山で0.39℃。石垣島の0.18℃、沖縄島の0.19℃より速かった。逃げ先も同じ速度で温まり続けるなら、分布移動だけでは追いつけない。

1970年の海中公園から、2024年の白化帯へ

竜串と串本は、1970年に日本で最初期の海中公園地区に指定された。温帯でありながら黒潮の恵みで多様なサンゴが育つ海は、半世紀以上にわたり自然保護と観光の象徴だった。環境省のモニタリングサイト1000は2003年度からサンゴ礁の被度、白化、オニヒトデ、サンゴ食巻貝などを継続して追っている。

白化の歴史は、2024年に始まったわけではない。瀬底島では1980年に4割超が白化し、約1割が死亡したとの記録がある。1998年の世界的大規模白化では、瀬底島のサンゴ被度が85%低下した。沖縄島では2001年、2003年、2007年にも白化があり、1995〜2009年の浅場の被度は24.4%から7.5%へ落ちた。

回復も起きた。瀬底島周辺では2017〜2023年に被度が13.8%から28.7%へ増え、成長の速いミドリイシ属とコモンサンゴ属が回復を支えた。だが、同じ成長の速い種は熱に弱く、2024年の被害も大きかった。回復を担う「勝者」が、次の熱波では損失を大きくする。この振り子が短い間隔で繰り返されると、被度が戻っても群集構造は同じには戻らない。

1970年 竜串、串本などが日本最初期の海中公園地区に指定。

1980年 瀬底島で4割超が白化、約1割が死亡と報告。

1998年 世界的大規模白化。沖縄だけでなく高知・串本の温帯域でも高温白化を記録。

2003年度 環境省モニタリングサイト1000のサンゴ礁調査が始動。

2011年 日本の温帯サンゴの北上を全国規模で検出、最速年14キロと報告。

2016年 石西礁湖などで大規模白化。温帯域でも高温白化を観察。

2022年 石西礁湖で約63%が白化、15%が死亡。

2023年 田子島・沼津で、それまで記録のなかった白化を地元ダイバーが確認。

2024年 8地点すべてでDHWが過去42年の最高。館山以外で白化。

館山の例外と、串本の回復

千葉県館山ではDHWが12.9℃週に達したのに、調査区のサンゴはすべて健全だった。研究チームは、最高月平均水温が27.86℃で8地点中最も低く、現地集団の白化閾値を越えなかった可能性を挙げる。論文は館山産ミドリイシ類が28℃で白化しなかった未公表実験にも触れるが、未公表データは独立に検証できない。優占種の耐性、光、動物プランクトンなど、複数の説明が残る。

串本と竜串の対比も重要だ。いずれもA. hyacinthus種群が優占するが、竜串ではDHWが9℃週を超えた状態が9月10日から47日続き、調査時に40.8%が死亡していた。串本で9℃週を超えたのは約2週間遅い9月21日からで、持続は36日。9月18〜21日に日本沿岸を通った台風が海面を冷やし、串本の被害を和らげた可能性を著者らは示す。

石垣島でも、2024年は広く白化したが、環境省の事後調査では被度の低下が小さかった。2022年に熱に弱いサンゴが先に失われ、残った群集の構成が違っていた可能性と、7〜8月の台風による冷却が論文で論じられている。これは「適応した」と証明したものではない。死亡による選別、種構成の変化、一時的な冷却は、似て見えても意味が違う。

北上したミドリイシも、温帯固有種も白くなった

2024年の影響は、熱帯から北上してきた種だけに限られなかった。北上分布を広げるA. hyacinthus種群、A. solitaryensisA. muricata、温帯性のA. cf. glauca、温帯固有のA. pruinosaはいずれも強い影響を受け、調査した群体のほぼ100%が完全白化した例があった。

一方、熱帯から温帯まで広く分布する一部の種は高い耐性を示した。対馬ではLithophyllon undulatumが健全で、田子島ではLeptastrea aff. pruinosaが白化を免れた。ところが、別の国や別の熱波では逆の反応を示した種もある。種名だけで耐性を固定的に決めることはできず、系統、共生藻、過去の温度履歴、熱の強さが絡む。

高緯度の分布縁辺では、サンゴ本体と共生藻の遺伝的多様性が低下する例も報告されている。著者らは、それが極端な熱への対応力を制約する可能性を挙げた。ただし、今回の研究は8地点の遺伝子や共生藻を測っていない。これは結果を説明し得る仮説であり、実証された原因ではない。

強い論文だからこそ、言えないことが見える

この研究の最大の価値は、2024年の異常高温を、現地で長く海を見てきた研究者のネットワークが一つにつないだことだ。対馬で初めて熱ストレス白化を記録し、田子島・沼津の2年連続白化を示し、北上種も温帯固有種も極端な熱から無縁ではないと示した。沖縄では翌冬まで追い、白化が死亡へ移る過程を被度の減少で捉えた。

同時に、対象は浅場だけである。深い場所、冷水の湧昇、濁り、強い流れのある小規模な避難地を否定してはいない。調査日は地点ごとに異なり、白化の頂点を同じ時刻で比べていない。統一法でないため、例えば「沼津は竜串より何倍深刻だった」とは言えない。8地点で日本全沿岸を代表するとも言えない。

また、研究は2024年の熱と白化の一致を強く示すが、人為的気候変動が各地点の水温を何度押し上げたかを計算するイベント・アトリビューション研究ではない。長期温暖化と2023〜24年のエルニーニョが世界的な記録高温の背景にあったという科学的文脈と、各湾の局地的な原因配分は分ける必要がある。

この研究が示したこと/まだ示していないこと
  • 示した:2024年の全8地点で1982年以降最大のDHWを記録し、7地点で白化を確認した。
  • 示した:北上種、温帯性種、温帯固有種のいずれも極端な熱で白化し得る。
  • 示した:DHWだけでは地点差を十分説明できず、館山のような例外がある。
  • 未確認:深場を含む各地域全体の被害と、2025年以降の長期回復。
  • 未確認:各地点の差を生んだ遺伝、共生藻、餌、光、流れの因果関係。
  • 未確認:日本の温帯域すべてが気候避難地として機能しなくなったかどうか。

守るべきは「平均」ではなく、違いである

NOAAは、2023年初めから2025年半ばまで続いた第4次世界規模サンゴ白化現象で、世界のサンゴ礁面積の約84%が白化水準の熱ストレスにさらされたと2026年6月にまとめた。1998年、2010年、2014〜17年に続く4回目は、これまでで最大だった。2024年の日本は、その地球規模の異変の北西太平洋側の断面だった。

温室効果ガスの削減なしに、地域管理だけで海洋熱波を止めることはできない。それでも、地域対策が無意味になるわけではない。陸からの土砂や栄養塩の流入、物理的破壊、過剰利用、オニヒトデなど別の負荷を減らせば、白化後に生き残ったサンゴが回復する余地を残せる。環境省の「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」も、継続的モニタリングと地域社会に結びついた管理を重点に置く。

次に必要なのは、8地点を同じ方法、同じ季節、複数水深で追うことだ。海面水温だけでなく現場の温度、光、流れ、餌、共生藻、遺伝的構成を重ね、どこがなぜ耐えたかを調べる。館山の健全さ、串本の回復、田子島で生き残った種は、平均値の外側にある。その違いこそ、限られた保全資源をどこへ向けるかを決める手掛かりになる。

温帯の海は、サンゴにとって自動的な避難所ではなかった。だが、2024年は「避難地が存在しない」とも示していない。安全を保証する太い北緯線が消え、代わりに、湾、深さ、種、台風、流れ、履歴がつくる細かな地図が必要になった。白化した海と白化しなかった海を、同じ注意深さで見続けることから、その地図は始まる。

主な一次・公式資料

編集注:研究者の氏名、所属、役職、地名、論文情報、専門用語は原著論文と日本語の大学・JST公式発表に合わせた。サンゴ種は分類上の不確実性を残すcomplexcf.aff.を原著どおり保持し、確定した標準和名へ置き換えていない。直接引用は用いていない。「全国的」は研究発表の表現だが、本文では8地点の非無作為・非統一調査であることを明記した。台風、遺伝的多様性、共生藻、局所環境による差は著者らの仮説で、今回の研究が因果を実証したものではない。提供された為替の更新時刻、8月26日午後7時24分UTCは、日本時間8月27日午前4時24分に換算した。