東京ビッグサイトの展示ホールで、ロボットが歩き、AIが都市の渋滞を読み、気候テック企業が水と電力の未来を語り、投資家が名刺を交換する。2026年春のSusHi Tech Tokyoは、スタートアップの展示会であると同時に、東京が自分自身をどう再発明したいのかを見せる舞台だった。そして秋には、Global Startup EXPO 2026が大阪・関西へ深い技術の視線を引き寄せる。2026年の日本は、万博後の熱を「見せる技術」から「実装する産業」へ変えようとしている。

SusHi Tech Tokyo 2026は4月27日から29日まで東京ビッグサイトで開催された。東京都は、このイベントをアジア最大級のグローバル・イノベーション・カンファレンスとして位置づけ、AI、ロボティクス、持続可能な都市、都市の安全、デジタル変革を前面に出した。都の英語広報によれば、2026年は770社のスタートアップと6万人の参加者を集める規模となった。

一方、Global Startup EXPO 2026は10月5日から7日まで大阪府のうめきた・中之島Qrossで開催される。公式サイトと経済産業省の発表によれば、焦点はディープテックであり、バイオテクノロジー・ヘルスケア、量子、フュージョンエネルギー、宇宙、AI・高度ロボティクスなど、国の成長戦略と結びつく領域が並ぶ。春の東京、秋の大阪。これは偶然のイベント日程ではない。日本がスタートアップを、経済政策、都市政策、安全保障、産業再編の中心へ持っていこうとしている流れである。

SusHi Techとは何か

SusHi Tech Tokyoの「SusHi」は食べ物の寿司ではなく、Sustainable High City Tech Tokyoの略である。ただし、名前の遊びには東京らしさがある。東京都は、寿司職人がシンプルな素材を文化の象徴へ変えるように、都市課題を先端技術、デジタル知見、多様なアイデアで解くというイメージを掲げる。

この言葉には、東京の危機感が入っている。東京は世界最大級の都市圏であり、交通、災害、老朽インフラ、少子高齢化、エネルギー、住宅、医療、行政手続き、気候変動の課題を同時に抱える。巨大都市の問題は、巨大都市の市場でもある。AIで渋滞を減らす、ロボットで介護を支える、センサーで水害を予測する、デジタル行政で窓口を減らす。東京は、自分の問題を実験場にして、世界へ輸出できる都市技術を生み出そうとしている。

2026年のSusHi Tech Tokyoは、ビジネスデー2日とパブリックデー1日で構成され、東京ビッグサイトで開催された。展示、ピッチ、商談、国際パビリオン、自治体、企業、大学、投資家が集まり、会場には日本文化の演出も混ざった。太鼓や提灯が、AIやロボットの横にある。これは単なる飾りではない。東京は、技術を無機質なものではなく、都市文化の中に置こうとしている。

数字で読む2026年の日本スタートアップ季節

770社SusHi Tech Tokyo 2026に並んだスタートアップの規模として東京都が示した数字
60,000人SusHi Tech Tokyo 2026の参加者規模として示された数字
4月27〜29日SusHi Tech Tokyo 2026の開催日程
10月5〜7日Global Startup EXPO 2026の開催日程
6分野GSE2026が掲げる主要戦略領域:バイオ、量子、核融合、宇宙、AI・ロボティクスなど
17領域日本の成長戦略本部が示す戦略領域を背景にしたプログラム設計

東京から大阪へ:イベントの意味が変わった

日本の大規模イベントは、長いあいだ「展示」の意味が強かった。新製品を見せる、来場者数を増やす、企業のブランドを高める。しかし、2026年のスタートアップイベントは、展示だけでは足りない。必要なのは、資金、顧客、規制、実証場所、大学研究、行政調達、大企業との提携、海外展開である。

SusHi Tech Tokyoは、東京という都市そのものを実証フィールドにする構想を持つ。都市課題を持つ自治体と、それを解く技術を持つスタートアップを近づける。大企業は、内製だけでは追いつかない技術を探す。投資家は、日本の研究開発型企業に成長の道を探す。大学は、研究成果を会社に変える。

Global Startup EXPO 2026は、関西の文脈を持つ。大阪・関西万博の翌年、うめきたと中之島Qrossを舞台に、未来社会の展示を実装へつなげる役割が期待される。公式サイトは、ディープテックに焦点を置き、技術とサービスを示す国際イベントと説明する。大阪、京都、神戸、関西経済連合会、大阪商工会議所、関西同友会などが実行委員会に名を連ねる。これは、関西を「研究と産業の実装地域」として再配置する動きでもある。

ディープテックはなぜ難しいのか

ディープテックとは、単なるアプリや広告技術ではない。長い研究開発、特許、大学研究、実験設備、規制、量産、資本設備、専門人材を必要とする技術である。バイオ、量子、核融合、宇宙、AIロボティクス、素材、エネルギー、医療機器。成功すれば社会を変えるが、時間もお金もかかる。

日本はディープテックに向いている部分がある。大学研究、素材、精密加工、ロボット、医療、半導体製造装置、宇宙部品、電池、光学、センサー。研究とものづくりの蓄積がある。一方で、弱点もある。リスクマネーが少ない。失敗への寛容さが低い。大学発技術の事業化が遅い。規制対応が重い。大企業との提携は進むが、買収や大型調達につながりにくい。

日本のスタートアップ政策の本当の勝負は、ピッチイベントの熱気ではない。研究室の技術を、資本、顧客、量産、規制、海外市場へつなぐ「長い橋」を作れるかである。

日本のスタートアップ史:遅れてきた本気

日本にも起業の歴史はある。ソニー、ホンダ、京セラ、セコム、ソフトバンク、楽天、ユニクロ。戦後の大企業の多くは、かつては挑戦的な新興企業だった。しかし、1990年代以降、日本の産業社会は大企業中心、銀行中心、終身雇用中心の空気を残し、シリコンバレー型の高速成長スタートアップを生みにくかった。

2000年代にはITベンチャーが伸び、2010年代にはメルカリ、SmartHR、Preferred Networks、Spiber、ispaceなどが象徴的存在になった。だが、米国や中国と比べると、ユニコーンの数、リスクマネー、出口市場、ストックオプション制度、政府調達、大学発起業の規模で差が残った。

この遅れを変えようとして、政府は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を打ち出した。スタートアップへの投資額を大きく増やし、大学、VC、人材、公共調達、オープンイノベーションを強化する方針である。SusHi Tech TokyoやGlobal Startup EXPOは、この政策の舞台装置でもある。

AI、ロボット、都市:東京の勝ち筋

東京が強いのは、都市課題が濃く集まっていることだ。高齢化した団地、通勤混雑、災害リスク、暑さ、エネルギー、医療、外国人観光、行政手続き、老朽インフラ。普通なら弱点に見えるものが、スタートアップにとっては市場になる。

AIは、東京の複雑さを読む道具になる。ロボットは、人手不足の都市サービスを支える。防災テックは、地震と豪雨の国で試される。気候テックは、猛暑とエネルギー制約の都市で必要になる。モビリティ技術は、鉄道と徒歩と配送が密集する東京で磨かれる。東京の課題は、世界の都市の課題でもある。

だからSusHi Tech Tokyoの意味は、単なる展示会ではない。東京が「都市そのものをプロダクトにする」試みである。都市OS、データ連携、災害対応、介護、交通、行政、観光。ここで成功した技術は、ソウル、シンガポール、パリ、ニューヨーク、ジャカルタ、ムンバイ、ロサンゼルスへ持っていける。

大阪・関西の勝ち筋:研究、医療、素材、産業

大阪のGlobal Startup EXPOには、東京とは別の意味がある。関西には、京都大学、大阪大学、神戸大学、理化学研究所、医療・バイオ、素材、電池、製薬、ロボット、ものづくり企業が集まる。東京が都市課題の実証場なら、関西は研究成果と産業の橋渡しに強みを持つ。

うめきたは、単なる再開発ではない。大阪駅周辺の巨大な都市空間を、イノベーション、大学、企業、医療、国際交流の拠点に変える試みである。中之島Qrossも、未来医療、研究、スタートアップをつなぐ場所として期待される。GSE2026がここで開かれることには意味がある。万博で見せた未来を、研究開発と事業化の場所へ引き戻すという意味だ。

投資家が見ているもの

投資家が日本のディープテックを見る時、期待と不安が同時にある。期待は、技術の深さだ。日本には、長年の研究と製造の蓄積がある。特許、素材、精密機械、ロボット、医療、宇宙、エネルギー。これは短期間ではまねできない。

不安は、成長速度と出口だ。研究は良いが、経営者が少ない。大企業と実証はできるが、大型契約にならない。上場はできるが、世界市場で勝つ前に小さくまとまる。英語での発信、海外採用、グローバル営業、資本政策にも課題が残る。

だから、2026年のイベントで重要なのは、会場の人数ではない。イベント後に何件の実証が契約になり、何件の資金調達が成立し、何社が海外へ出て、何社が大企業に買われ、何社が政府調達に入るかである。イベントは入口であり、成果はその後に出る。

Japan.co.jpの見方

SusHi Tech TokyoとGlobal Startup EXPOは、日本がスタートアップ国家へ変わるための「舞台」ではある。しかし、舞台だけでは会社は育たない。日本に必要なのは、イベントの熱気を、資本、顧客、公共調達、規制改革、大学改革、国際人材へ変える仕組みである。

それでも、2026年の流れには意味がある。東京は都市課題を世界に売れる技術へ変えようとしている。大阪・関西は万博の未来像を、ディープテックの産業化へつなげようとしている。政府は成長戦略の中で、バイオ、量子、核融合、宇宙、AI、ロボティクスを並べている。

日本の次の産業物語は、ひとつの巨大企業から生まれるとは限らない。研究室、町工場、大学、都庁、VC、大企業の研究所、海外投資家、若い創業者。その間に橋がかかる時、日本の深い技術はようやく世界の会社になる。2026年夏、その橋は少しずつ形を見せ始めている。

読者のための要点

項目内容
何が起きたかSusHi Tech Tokyo 2026が4月に東京で開催され、秋にはGlobal Startup EXPO 2026が大阪で開催される。
なぜ重要か日本がスタートアップを、都市課題、ディープテック、産業政策、国際投資の中心へ置こうとしている。
東京の強みAI、ロボット、防災、モビリティ、都市データ、持続可能な都市。
大阪・関西の強みバイオ、医療、量子、素材、大学研究、万博後の実装。
Japan.co.jpの見方イベントの成功は来場者数ではなく、資金調達、実証、公共調達、海外展開につながるかで決まる。

Sources and references

この記事は、SusHi Tech Tokyo公式サイト、東京都英語広報、SusHi Tech Global、Global Startup EXPO 2026公式サイト、経済産業省発表、Kansai Startup Ecosystem、Japan Timesなどの公開情報を参考にしました。