三つの出発、ひとつの問い

三つの時計が同時に動き出す場面を想像してみよう。東京では、黒いトヨタ「JPN TAXI」が都心の拠点間を結ぶ。ピッツバーグでは、ヒョンデ「IONIQ 5」が、空港とカーネギーメロン大学を往復する経路を含むロボットタクシー試験に向かう。ミュンヘンでは、フォルクスワーゲン「T7 Multivan」がミュンヘン工科大学とともに、都市の多様な走行場面で安全性を確かめる。

三台はメーカーも車格も車載計算機もセンサー構成も違う。通行方向も、標識も、道路利用者同士の暗黙の合図も違う。それこそが試験の狙いである。TIER IVは2026年3月16日、データ中心のAIを用いるレベル4向けソフトウェアスタックをAutowareのリポジトリで公開し、東京大学、カーネギーメロン大学、ミュンヘン工科大学との検証を発表した。

各走行は約60分。法令上必要な安全要員が同乗し、安全と判断される通常走行では手動介入を想定しない。だが、これは試験設計の説明であって成績表ではない。発表時点で、都市別の介入回数、走行距離、事故・ニアミス、未対応場面、独立した比較評価は示されていない。

2026年版通商白書が見たTIER IV

経済産業省は2026年版通商白書の452~453ページで、TIER IVを二ページのコラムとして取り上げた。ここで重要なのは、これが国土交通省の型式認可書ではなく、国際経済と通商政策を論じる白書だという点だ。問いは「車が動くか」だけではない。地政学的な分断が進む世界で、日本発のソフトウェア企業が海外にどのような価値を持ち出せるかである。

白書は事業化の階段を描く。まず工場構内や建設現場など、難易度の低い閉鎖空間。次に中山間地域など交通利便性が低い地域の自動運転バス。その先にタクシー、トラック、建機、農機、最終的には一般向け乗用車を置く。事業形態は、①レベル4水準の車両提供と実装支援、②自動車メーカーや開発企業への高度システム提供、③Autowareを使う開発コンサルティングの三つだ。

さらに白書は、豪州、シンガポール、EUなどで日本製技術が地政学上「中立的な選択肢」として検討され、中東ではコンサルティングや人材育成への関心があると記す。これは政府の戦略的な見立てであって、市場がすでにAutowareを標準採用した証拠ではない。確かな2026年の事実はもっと限定的だ。3月にAIソフトウェアが公開され、世界3地域で試験が始まり、2027年から段階的な実装が予定されている。

レベル4が約束するもの

自動運転レベルは、知能の点数というより責任分担の表である。レベル2では操舵と加減速を機械が支援しても、人間が運転し監視する。レベル3では条件内でシステムが運転するが、要請があれば人間が引き継ぐ。レベル4では、限定された運行設計領域、すなわちODDの内側で、システムが動的運転タスクと不具合時の対応を担い、乗員を運転の予備要員にしない。

数字より境界が重要だ。レベル4は、特定経路、速度、天候、時間帯、道路種別、交通量などに限定できる。境界の外まで走る必要はなく、外に出ない、または安全な最小リスク状態に移ることが求められる。あらゆる人間が運転可能な道路・条件を対象とするレベル5とは違う。

TIER IVの「レベル4+」はSAEが定めた新しい正式レベルではない。同社独自の開発概念であり、人間の役割はレベル4に保ちながら、未知の場面も含めてODDを柔軟に広げるという、レベル5的な機能を一部取り込む考え方だ。

レベル4は「どこでも走れる車」ではない。人間に頼らず走れるよう、世界の範囲を丁寧に切り取ったシステムである。

機能試験と無人営業は別の段階

日本の制度はこの違いをよく示す。2022年改正道路交通法は、運転者がいない状態でのレベル4に相当する「特定自動運行」の許可制度を設け、2023年4月に施行された。道路運送車両法に基づいて車両と自動運行装置が保安基準に適合するだけでなく、運行者は経路、事故対応、監視体制などを記した計画を都道府県公安委員会に提出し、許可を得る必要がある。

TIER IVは別の地域でこの橋を渡ってきた。長野県塩尻市では2024年、駅と市役所を結ぶ一般交通と混在する経路についてAI Pilotがレベル4認可を取得した。石川県小松市のバスも2025年、車両側の認可を得たうえで、道路交通法上の運行許可を別に必要とした。技術認可と実際の無人運行許可が別物であることが分かる。

これらの経験はTIER IVの実装力を示すが、東京のJPN TAXIが都内のどこでも無人営業できることを意味しない。米国では連邦の車両監督と州の道路試験制度が分かれ、欧州にも車両規則と現地試験許可がある。今回の三都市は安全要員が同乗する。「レベル4機能の試験」が最も正確な表現だ。

大学の公開リポジトリから始まった

加藤真平氏はコンピューターシステムの研究から自動運転へ入った。名古屋大学で、認識、自己位置推定、経路計画、制御を、ロボット研究者に広く使われていたROS上のパッケージへまとめた。初代Autoware.AIは2015年8月に公開され、ROS 1を基盤とする「全部入り」の出発点になった。

当時、多くの研究室は同じ土台を何度も作っていた。センサードライバー、座標変換、地図、可視化、アルゴリズム間の通信である。Autowareがあれば、大学院生は車両ソフト全体をゼロから組まず、経路計画など自分の研究に集中できる。メーカーや部品会社も構造を検査できた。コードを入れれば安全な車が完成するわけではないが、問題を共有できる形にした。

加藤氏は同年12月、TIER IVを創業した。基盤コードを公開し、共同で改善しながら、その周囲の価値――参照設計、センサー、車載計算機、車両統合、クラウド、検証、運行、保守――を事業にする。オープンソースと商業化を対立させない発想だった。

ピッツバーグで歴史が一周する

ピッツバーグは単なる米国の試験都市ではない。カーネギーメロン大学の自動運転研究は1980年代半ばに始まった。1986年のNavlab 1は青いシボレーのバンを改造し、何台分もの計算機ラックを載せ、歩くような速度で走った。1995年にはNavlab 5がピッツバーグからサンディエゴまで2,850マイルを走り、98%超の区間で自動操舵した。ただし人間がアクセルとブレーキを担当していた。

古いバンと新しいIONIQ 5は、道具こそまったく違うが同じ実験精神を持つ。Navlabは、コンピュータービジョンが大陸を横断して車線を保てるかを問うた。TIER IVとCMUは今、データ中心AIが認識、予測、判断、制御をレベル4の枠内で担えるか、難しい都市で得た失敗を世界共通の基盤へ戻せるかを問う。

そこには日本との古い糸もある。Navlabを率いたコンピュータービジョンの先駆者、金出武雄氏は兵庫県出身で、京都大学からCMUへ渡った。2026年の試験は、日本の工学とピッツバーグのロボティクスを、40年の歴史の上でもう一度結び直す。

ルールからデータへ

従来型の自動運転ソフトウェアはモジュール構造を取る。ある部分が物体を検知し、別の部分が動きを予測し、さらに別の部分が譲るか進むかを判断し、経路生成と制御が操舵・制動・加速へ変換する。交通法規や既知の状況には、人間が明示的なルールを書く。車が止まった理由を、どのモジュールと規則が決めたか追いやすい。

苦しくなるのは「ロングテール」だ。配送車が車線の半分を塞ぐ。自転車が穴をよけて膨らむ。雪が白線を隠す。横断しそうな人が一歩下がる。規則を追加し続けても、現実は開発者が列挙するより速く組み合わせを作る。

データ中心AIは力点を変える。学習済みモデルを完成品として扱うのではなく、どのデータを選び、品質を確かめ、ラベルを付け、評価し、再学習するかという循環を製品にする。TIER IVのMLOpsは、データ品質確認、人物の匿名化、検索用タグ、アクティブラーニングに基づくアノテーション、実データと合成データの統合を担う。三都市試験は道路を走るだけでなく、この改善ループ自体の試験でもある。

黒い箱は一つではない――二つのAI構成

公開されたスタックは二系統から選べる。一つ目はハイブリッド系だ。別の機械学習モデルが周囲を認識し、経路生成AIが拡散モデルを使って環境の時間変化を確率的に捉え、判断と走行軌跡を作る。ここでいう「拡散」は、ノイズを含む候補から妥当な軌跡を徐々に形づくる生成手法を指す。生成された軌跡が自動的に安全だという意味ではない。

二つ目はエンドツーエンド、E2E系である。周囲と車両状態をベクトル表現にし、世界モデルの考え方も利用して、認知、判断、操作をより一体的に学ぶ。手作業で分けた境界を減らせば、情報が途切れず、最終的な運転目標に近い形で学習できる可能性がある。一方、統合が深いほど、誤りの原因を説明し、部品単位で切り分け、認証することは難しくなる。

TIER IVが2025年に公開した構成は、説明可能性と運用安定性のためルールベース要素を残していた。CMUとの協業でも、中間表現による推論過程の可視化、未知場面での最小リスク動作、判断根拠の追跡可能性を課題にしている。同社は全ルールを一つの神経網に置き換えたのではなく、モジュール型ハイブリッドから統合型E2Eまでの幅を試している。

「ハードウェア非依存」の本当の意味

3月のスタックは、特定ベンダーのハードウェアに固定されず、異なるSoCやセンサー構成に対応するよう設計されている。これは戦略的に大きい。メーカーは上位アーキテクチャを維持しながら、価格、供給、性能に応じてカメラ、LiDAR、計算機、車両を選べる。

しかし、同じ実行ファイルをどの車にも入れれば終わるという意味ではない。ドライブ・バイ・ワイヤ接続、時刻同期、座標系、カメラとLiDARの校正、車体寸法と運動特性、計算性能と熱設計、故障検知、サイバーセキュリティ、安全性検証が必要だ。TIER IV自身の開発キットが「ECUとセンサーを同期・校正済み」と訴えるのは、通常の統合作業が重いからである。

JPN TAXI、IONIQ 5、T7は、ホイールベース、制動応答、視界、電源構成、乗客用途が違う。都市差はさらに大きい。移植性とは、共通のインターフェース、モデル、道具によって作業を減らすことだ。車両工学も、構成ごとの検証も消えない。

三都市は何を教えるのか

拠点車両・連携先公表された試験目的今後必要な証拠
東京トヨタ JPN TAXI・東京大学都心部の拠点間を移動する利用者体験正確なODD、経路、交通量、介入、乗り心地、アクセシビリティ結果
ピッツバーグヒョンデ IONIQ 5・CMU空港と大学の往復を含む市街地ロボットタクシー経路条件、天候、安全要員の操作、反復走行の成績
ミュンヘンフォルクスワーゲン T7・TUM市内・周辺の多様な都市場面における安全性評価場面一覧、合格基準、規制上の範囲、都市間比較

多様性が科学的価値を持つには、測定に共通性が必要だ。ある都市で晴天の一時間、別の都市で雨のラッシュ時を走っても公平な順位にはならない。介入、目的地到達、法規遵守、乗り心地、不必要な急制動、歩行者・自転車への対応、最小リスク動作を共通に定義しつつ、地域固有の文脈を残す必要がある。

一時間はバグを見つけても、希少事故率を証明しない

一時間あれば、交差点、車線変更、死角、人間の不完全な行動に出会える。統合試験やデモとしては有用だ。しかし、まれで重大な失敗の頻度を推定するには、それだけでは短すぎる。数十万時間、数百万時間に一度の事象を問題にするなら、無事な一時間から率はほとんど分からない。

だからといって試験が演出にすぎないわけではない。シミュレーション、閉鎖コース、ソフトウェア・イン・ザ・ループ、ハードウェア・イン・ザ・ループ、敵対的な場面生成、記録データ再生、構造化した公道走行、安全ケースの文書化という大きな検証体系の一部である。TIER IVの合成データとMLOpsもそこに属する。社会的信頼は、体系からどの指標と失敗分析が公開されるかにかかる。

AIの中にある「地理」の問題

AIモデルは、データに表れた統計的な世界を学ぶ。移動すれば分布も変わる。標識、信号、白線、車種、制服、緊急対応、路肩の使い方、譲り合いの意味まで国ごとに違う。天候はセンサーの物理を変え、建物は反射を変える。ある地域の日常が、世界モデルには未知であり得る。

だからTIER IVは「環境固有の追加データセット」を使う。三枚の観光写真を集めるのではない。共通モデルがどこで失敗するかを見つけ、再学習、地域アダプター、ルール変更、センサー変更、ODD縮小のどれを選ぶか判断する。都市ごとに完全に別のスタックが必要なら移植性の主張は弱まる。地域適応をせず一つのモデルを押し通せば安全性が弱まる。価値ある工学は両極の間にある。

オープンソースは道路を誰が点検できるかを変える

2018年、Autowareの管理は新設された非営利のThe Autoware Foundationへ移った。プロジェクトはROS 1のAutoware.AIからROS 2へ進み、現在のCoreとUniverseという構造に発展した。Coreは対象ODDに必要な機能を厳格なレビュー、ビルド、文書化、テスト、リリース工程で管理する。Universeは先端研究や追加パッケージを試し、将来Coreへ成熟させる場になる。

コード公開は、大学、メーカー、自治体、スタートアップの参入費用を下げる。不具合を組織間で再現でき、大学の成果が産業基盤になり、巨大な閉鎖型ロボットタクシー企業を持たない国でも共通基盤で人材を育てられる。

しかし責任を群衆へ移すことはできない。誰かがバージョンを選び、供給網を守り、ハードウェアを統合し、その構成を証明し、運行を監視し、更新を保守する。公開性は監査可能性を高めるが安全認証ではない。乗客を運ぶ製品は、管理されたビルドと運行体系であって、「今日GitHubにあるもの全部」ではない。

オープンソースは自動運転の道具を民主化できる。横断歩道に入る二トンの機械に対する責任まで民主化して消すことはできない。

Linuxの比喩――そして限界

TIER IVの事業論理はLinux周辺で成長した企業に似る。共有基盤をエコシステムへ渡し、統合、検証済みディストリビューション、ハードウェア、開発道具、支援、サービスで収益を得る。2026年版通商白書が描く車両、システム、コンサルティング、人材育成はこの範囲に重なる。

メーカーにとって魅力はロックイン回避だ。共通基盤があれば、車両設計と自社データを保持しつつ、複数の半導体・センサーベンダーを使える。完成車が韓国製やドイツ製でも、日本発技術をソフトウェア層として輸出できる。

ただしサーバー停止と道路事故の結果は違う。自動車ソフトは物理公差、認可、整備、ODDに結びつく。オープンな開発は、固定リリース、構成管理、要件追跡、冗長安全機構、長い検証工程と共存しなければならない。勝つ事業は「アプリをダウンロード」ではなく、「共有コードの周りに説明責任を負う工学制度を運営する」ものかもしれない。

データは燃料であり、統治の義務でもある

MLOpsの循環は大量の実走データを必要とする。TIER IVと日本交通は2025年2月、東京のタクシー5台でデータ収集を始め、約20台へ増やす計画を示した。共同基盤ではパートナーのデータと合成データも組み合わせる。

規模が大きくなると問いも増える。街路映像の所有者は誰か。顔やナンバープレートはどう匿名化するか。ある事業者のデータで別の会社が商用モデルを学習できるか。誤ったラベルをどう訂正するか。事故後に規制当局が当時のモデルを再現できるか。日本のデータを欧州へ移すとき、プライバシー規則をどう守るか。

TIER IVは匿名化、タグ付け、品質確認を行うとしている。三大陸の試験は、交通制度だけでなく法制度をまたいで制御が機能するかを試す。世界へ移植できるスタックには、世界で信頼されるデータ来歴が必要だ。

安全性は更新のたびに生き残らなければならない

継続改善は良いことに聞こえる。失敗を見つけ、データを足し、再学習し、良いモデルを配る。しかし安全上は、一つの改善が別の場面の挙動を変え得る。自転車を快適に追い越すよう調整すれば、混雑道路で慎重すぎるかもしれない。合成した雪景色が、あるセンサーには効き、別の構成には害になるかもしれない。

更新には門番が要る。データの版管理、再現可能な学習、事前定義した場面試験、回帰テスト、車載ハード別評価、セキュリティ審査、運行監視、巻き戻し計画である。「モデルが学んだ」は安全論証ではない。何が、なぜ変わり、どの危険に対し、どんな残余リスクがあるかを組織が示す必要がある。

ハイブリッド系は、説明しやすい境界と決定論的な安全策を残せる可能性がある。E2E系は、人間が分割したモジュールでは見落とす相互作用を学べる可能性がある。どちらも利点は無料ではない。三都市試験の価値は、二方式を分布のずれにさらすことにある。成功と同じ精度で失敗を公表すれば、信頼性は上がる。

2026年3月発表の検証台帳

主張2026年8月7日までに確認できる証拠判定
AIレベル4向けスタックを公開TIER IV発表とAutoware Foundationの公開リポジトリ公開を確認
東京・ピッツバーグ・ミュンヘンで試験大学、車両、用途を3月発表で明記プログラムを確認
三都市ですでに無人営業安全要員が同乗。商用無人サービス開始の発表なし違う
介入は不要通常時に介入を「想定していない」。集計ログは非公表試験設計であり結果ではない
ハードウェア非依存複数SoC・センサー構成に対応する設計設計目標。統合はなお必要
「レベル4+」は正式なSAEレベルTIER IV自身が独自概念として説明違う
2027年から商用AI展開通商白書が段階的実装の予定として記載将来計画

公開リポジトリから三大陸までの11年

1984~1986年 CMUがNavlab研究を始め、初の自律走行実験バンを製作。

1995年 Navlab 5がピッツバーグからサンディエゴまで98%超を自動操舵。

2015年8月 加藤真平氏の名古屋大学チームがROS 1ベースのAutoware.AIを公開。

2015年12月 加藤氏がTIER IVを創業。

2017年 同社沿革によれば公道で自動運転試験。

2018年12月 The Autoware Foundation設立、公開プロジェクトの管理を担う。

2020年 西新宿でロボットタクシー実証。国内ではレベル3制度が施行。

2023年4月 運転者不在のレベル4「特定自動運行」許可制度が施行。

2023年10月 相模原の物流施設でAI Pilotがレベル4車両認可。

2024年10月 塩尻の一般道混在経路向けAI Pilotがレベル4認可。

2025年4~7月 CMUとレベル4+協業開始、E2Eアーキテクチャを公開。

2026年3月16日 二つのAI構成を公開し、世界3拠点での試験を発表。

2026年6月30日 経産省が通商白書2026を公表し、TIER IVと2027年実装計画を紹介。

デモを証拠へ変えるために必要なもの

  • 各ODDの定義:対象道路、速度、天候、時間、工事、交通量、フォールバックの限界。
  • 走行量の開示:距離、時間、反復回数、複雑な実交通を走った割合。
  • 介入基準の公開:乗っ取り、予防的制動、遠隔支援、経路中止をどう数えるか。
  • 共通指標:法規遵守、快適性、誤検知、ニアミス、最小リスク動作、目的達成。
  • 構成別結果:ハイブリッドとE2E、車種、SoC、センサーごとの性能。
  • 更新履歴:どの地域データがモデルをどう変え、別地域で回帰不良がなかったか。
  • 独立検証:大学の方法、再現可能な場面試験、規制当局が審査できる安全ケース。
  • 段階の明示:試験、車両認可、道路許可、有償営業、無人運行を混同しない。

走行試験の後ろにある事業試験

TIER IVは400人を超える社員を抱え、複数回の大型資金調達を公表している。もはや大学研究室の副業ではない。それでもオープンソース戦略には長く残る問いがある。基盤コードが無料で読めるとき、統合企業にどれだけ価値が残るのか。

答えはコードの周囲に蓄積するものかもしれない。メーカーには、安全な構成、参照ハードウェア、校正済みセンサー、クラウドパイプライン、検証道具、運用支援、訓練された技術者が要る。自治体には経路、許可、遠隔監視、保守が要る。海外パートナーには、外国企業の黒い箱へすべての判断を預けずに地域適応する力が要る。

三都市の成功だけで事業モデルは決まらないが、輪郭は見える。同じアーキテクチャが三社の車両と三つの規制文化で導入時間を短縮できれば、TIER IVは一台ごとの特注ロボットタクシー以上の拡張性を持つ。毎回が一からの工事なら、公開基盤は広がっても利益率と納期は厳しいままだ。

見えるコードの地政学

通商白書の「中立的な選択肢」という表現は、ソフトウェア構造と経済安全保障を結ぶ。各国政府は、外国製AI、クラウド、地図、車両制御への依存を警戒する。オープンな財団はインターフェースを見えるようにし、国内技術者が能力を築き、一社の閉鎖型ベンダーへの依存を減らす余地を作る。

公開しても地政学リスクは消えない。半導体、LiDAR、クラウド、学習用GPUには供給網がある。フォークは共同体を分断し得る。輸出管理、個人情報、サイバーセキュリティ規則は導入を分ける。それでも、透明な共通基盤は、不透明な一括システムより点検、適応、交渉の余地を与える。

だから白書が記す人材育成が重要になる。Autowareが輸出するものはコードだけでなく、その国でスタックを理解し、運用し、改善できる能力かもしれない。持続する通商単位は製品一箱ではなく、エコシステムである。

三都市は結論ではなく始まり

TIER IVの発表を最も派手に読むなら、「日本のAI運転手が三大陸を制覇した」となる。より興味深く、より難しい読み方は別だ。大学発ソフトウェアの会社が、オープンな管理、二つのAI構成、複数ハードウェア、継続学習の循環を、自動車安全の厳格さと同時に成立させられるか試している。

東京は、丁寧な都市タクシーになれるかを問う。ピッツバーグは、道路ロボティクス発祥の系譜を継げるかを問う。ミュンヘンは、欧州都市の場面と規制期待に耐えられるかを問う。どれも無事な一時間だけでは答えられない。

突破口は、三都市で一度走る車ではない。各都市で何を学んだかを説明し、その学びが安全性を高めたと証明し、その証拠を次の車両へ運べるシステムだ。

2026年8月時点の公平な評価

TIER IVが出したのは構想図だけではない。実際のソフトウェアを公開し、車種、大学、用途を明らかにした。スタックは二つのAI戦略を持ち、複数の半導体とセンサー構成を想定する。Autowareには11年の歴史、非営利財団、研究室を超えた導入経験がある。経産省がオープンソース産業戦略の重要例として扱う理由はある。

まだ出していないものも同じくらい重要だ。三都市を同じ物差しで比べる結果、公開介入データ、ハードウェア抽象化が高価な統合をどこまで減らしたかの証拠、これら三車種が商用無人サービスとして走れる認可はない。「レベル4+」もロードマップであり、新しい法的分類ではない。

誇張しない物語の方が面白い。Autowareは自動運転の機械を見えるようにすることから始まった。2026年、TIER IVはAIによって判断の内部が見えにくくなる時代に、その公開性を三つの道路文化へ拡張できるか試している。オープンなコード、学習する挙動、監査できる安全性――この矛盾を解くことこそ本当の試験である。

取材注記・主要資料

公開情報は2026年8月7日午前9時2分(日本時間)まで確認した。TIER IVの発表は当事者資料として扱い、「レベル4機能試験」と商用無人運行を区別した。「ハードウェア非依存」は対応構成間の移植性を指し、統合作業が不要という意味には取っていない。「レベル4+」はSAE分類ではなく同社概念である。通商白書の2027年は完了実績ではなく予定として記した。