第2ゲームを落としても、試合の速度は手放さなかった。平野美宇(ひらの・みう)は第3ゲームを11―7で取り返すと、第4ゲームを11―1で押し切り、最終第5ゲームも11―8。2000年生まれの同学年で、長く日本代表を競い合ってきた早田ひな(はやた・ひな)を退けた瞬間、3年間途切れていた国際シングルスの優勝歴に新しい一行が加わった。

カザフスタン最大都市で行われたWTTコンテンダー・アルマトイ。9月6日の決勝は、平野の前陣での速い両ハンドと、左利きの早田がつくる回転量・展開力がぶつかる日本勢同士の一戦となった。WTTは早田を第1シードと記録している。平野にとっては単なる国内対決ではなく、世界ランキング上位の同世代を決勝で破って大会を閉じる機会だった。

優勝は偶発的な一試合では説明できない。平野は本戦1回戦から決勝まで5試合を戦い、落としたゲームは計三つ。梁夏銀(ヤン・ハウン、韓国)、ボロニナ、長﨑美柚(ながさき・みゆう)、早田と、球質も戦型も異なる相手を続けて処理した。大会後の9月7日付WTT女子シングルス世界ランキングでは27位、1315ポイントとなった。

先に動き、先に試合を短くする

数字が最も強く語るのは準々決勝以降だ。ロシアのボロニナには3―0。準決勝では元チームメートの長﨑に第1ゲームを4―11で奪われたが、その後は11―8、11―6、11―7と三つ続けて取り返した。決勝でも1―1から三ゲーム連取。二試合とも、序盤の失点を長い迷いに変えなかった。

平野の卓球は、台に近い位置から早い打点で連続して攻めるところに輪郭がある。相手の威力が完成する前に返球し、次の球を打つ時間を奪う。2017年の躍進時に世界を驚かせた高速の両ハンドは、26歳になった現在も核だ。ただしアルマトイの価値は速度だけではない。ゲームを失った直後にコースとリズムを組み替え、勝ち越した後に逃げ切った点にある。

ラウンド相手結果
1回戦VISHNIAKOVA(ロシア)3―0(11―1、11―9、11―8)
2回戦梁夏銀(韓国)3―1(11―5、11―8、9―11、11―8)
準々決勝ボロニナ(ロシア)3―0(11―8、11―6、11―3)
準決勝長﨑美柚(日本)3―1(4―11、11―8、11―6、11―7)
決勝早田ひな(日本)4―1(11―9、9―11、11―7、11―1、11―8)
5勝女子シングルス本戦
3ゲーム5試合で落とした合計
4―1決勝のゲームカウント
世界27位9月7日付WTTランキング

復調を示すのは、強い一球ではなく、崩れたゲームを次へ持ち込まなかった五試合の連続性だ。

木原美悠との女子ダブルスでも頂点

平野は木原美悠(きはら・みゆう)との女子ダブルスでも優勝し、単複2冠を達成した。1回戦はロシアのアブラーミアン/ボロニナ組に3―1。準々決勝と準決勝をいずれも3―0で抜け、決勝ではインドのダス/S・ムカジー組を11―2、11―5、20―18のストレートで下した。

第3ゲームの20―18は、点差だけを見れば圧勝だった試合の終盤に、何度もゲームポイントが行き来する緊張があったことを示す。それでも決め切った。シングルスで相手の時間を削る平野の速さは、交互に打つダブルスでも、木原の次の攻撃を準備しやすくする。二人は2回戦以降、三試合連続で一ゲームも落とさなかった。

同じ大会では戸上隼輔(とがみ・しゅんすけ)が男子シングルスを制し、吉山和希/小塩悠菜組が混合ダブルス準優勝。日本勢が各種目で上位へ進んだ。そのなかでも、シングルスとダブルスの両方を最後まで勝ち切った平野の二冠は、大会全体の中心的な結果だった。

ザグレブからアルマトイまでの3年

前回のWTTシリーズ・シングルス優勝は2023年7月、WTTコンテンダー・ザグレブだった。平野は準々決勝から中国勢を三人連続で破り、決勝では当時世界1位の孫穎莎(スン・インシャ)に4―3。第6ゲームを14―12でしのぎ、最終ゲームを11―6で取った。自身初の対孫穎莎勝利であり、世界ランキングを翌週21位から14位へ上げる大会となった。

その後の三年間を、勝てなかった時間だけで括るのは正確ではない。平野は東京2020に続き、パリ2024でも女子団体銀メダルを獲得し、パリでは女子シングルス5位。2024年世界選手権団体戦では日本の準優勝に加わり、同年アジア選手権では女子団体優勝も経験した。

一方、個人戦の国際タイトルは戻ってこなかった。2025年世界選手権個人戦は2回戦敗退し、2026年2月時点で世界ランキングは65位まで下がった。それでも同月のWTTスターコンテンダー・チェンナイでは決勝へ進み、大藤沙月(おおどう・さつき)に0―4で敗れたものの準優勝。アルマトイは、突然の復活というより、決勝まで戻っていた選手が半年後に最後の一勝をつかんだ大会と見るほうが実像に近い。

16歳で世界を制した選手の長い現在

平野は2000年4月14日生まれ。2016年女子ワールドカップを16歳で制し、大会史上最年少優勝者となった。翌2017年のアジア選手権では丁寧(ディン・ニン)、朱雨玲(ジュ・ユーリン)、陳夢(チェン・モン)という中国の主力を連破して女子シングルス優勝。同年の世界選手権個人戦でも銅メダルを獲得した。

その爆発的な上昇は、平野のキャリアを語る基準を極端に高くした。十代で世界の頂点級を破った選手には、準優勝やベスト8でさえ停滞と映りやすい。しかし競技生活の長さは、最初の頂点を再現することだけでは測れない。技術の研究が進み、同世代と年下の日本選手が増え、ランキング制度も旧ITTFワールドツアーからWTTへ変わるなかで、勝ち方を更新し続ける必要がある。

2016年 — 女子ワールドカップを16歳で制覇。

2017年 — アジア選手権女子シングルス優勝、世界選手権銅メダル。

2021年 — 東京2020女子団体で銀メダル。

2023年 — WTTコンテンダー・ザグレブで孫穎莎を破り優勝。

2024年 — パリ五輪女子団体で2大会連続の銀メダル、女子シングルス5位。

2026年 — チェンナイ準優勝を経て、アルマトイで単複2冠。

一つのタイトルが変えるもの、変えないもの

WTTコンテンダーの優勝は、五輪や世界選手権のメダルとは異なる。アルマトイには中国女子の主力が出場しておらず、この結果だけで世界の序列が塗り替わったとは言えない。日本女子にも早田、長﨑、木原に加え、張本美和、大藤沙月、伊藤美誠ら国際実績を持つ選手がいる。代表争いの結論を一大会から導くべきではない。

それでも、タイトルは準優勝とは違う記録を残す。平野は第1シードの早田を決勝で破り、五試合を通じて失ったゲームを三つに抑えた。加えて、競技特性の異なるダブルスでも決勝を取り切った。結果と内容の両方がそろった一週間だった。

次に問われるのは再現性である。より上位の大会、異なる会場、対戦経験の多い相手、そして中国のトップ層を含むドローで、アルマトイのように先手を取り続けられるか。3年ぶりの優勝は物語の終点ではない。平野が26歳の現在地から、新しい勝ち方を積み上げ直すための、確かな基準点になった。

取材・主要資料

編集注: 人名の読み、漢字表記、大会名、競技用語、五輪成績は日本語の協会・大会資料で照合した。「3年ぶり」はWTTシリーズのシングルス優勝について用い、団体戦メダルやダブルス実績と混同していない。試合後の本人談話は確認できなかったため引用していない。