不知火には、初めから目立つ個性がある。果梗のまわりが盛り上がり、頭を突き出したような形になる。その「でこ」は欠点ではなく、いまや果実を見分ける印だ。それでも、同じ皮に小さな傷が走り、日差しで色が変わり、輪郭が規格から少し外れれば、果実は店頭へ向かう列から落ちる。

切れば、果汁は変わらず甘い。熊本県の生産者、岡村さんはキリンの発表で「規格外であってもおいしさは変わらない」と話した。だが生鮮市場は、舌だけでなく、目、箱、等級、贈答文化で動く。

その列から外れた果実に、別の出口ができた。キリンビールは8月18日、熊本県産の規格外不知火を使う缶チューハイ「キリン 氷結mottainai 熊本産不知火」を全国で発売した。350ミリリットルと500ミリリットル、アルコール分4%、果汁0.2%。数量限定ではなく、通年商品として売る。

キリンが掲げた原料規模は約62トン、果実約25万個相当。傷、日焼け、形の不ぞろいなどを理由に廃棄される見込みだった果実を、国内4工場でつくる大きな飲料ブランドの流れへ乗せる。果実を探して産地とキリンをつないだのは、青果会社ドールだった。

数字が示すこと、示さないこと: 62トンはキリンが食品ロス削減の対象として計画する原料量であり、第三者が確認した廃棄回避量ではない。公表資料は買い取り価格、完成品の生産本数、果汁歩留まり、農家へ新たに生じる所得を示していない。「果実を購入すること」と「売上の一部を農家支援へ寄付すること」は、別の資金の流れである。
約62トン食品ロス削減対象とする不知火
約25万個キリンが示す果実換算
果汁0.2%完成品に表示される果汁割合
4%アルコール分・全国で通年販売

不知火は、どう生まれたか

不知火の歴史は、古代の在来種ではなく、戦後日本の果樹育種から始まる。1972年、農林省果樹試験場口之津支場、現在の農研機構九州沖縄農業研究センターで、「清見」に「中野3号ポンカン」を交配して育成された。清見の果汁感と、ポンカンの濃い甘さ。糖度は高い一方、収穫直後には酸が残ることがあり、貯蔵して味を整える。

品種は試験場で生まれたが、商品としての歴史をつくったのは熊本だった。熊本のJA資料によると、国内で最初の市場出荷は1991年3月1日。宇城地域は「発祥の地」「日本一の産地」として不知火を育て、加温ハウス、無加温、屋根掛け、露地、貯蔵を組み合わせ、冬から初夏まで出荷をつなぐ。

そこで生まれた名前が「デコポン」だ。二つは品種名と商品名の関係にある。不知火は品種。デコポンは、JA系統を通じて出荷され、糖度13度以上、酸度1%以下などの統一基準を満たした不知火に使える登録商標である。商標は1994年に登録され、全国のJA組織へ使用許諾が広がった。

したがって、すべてのデコポンは不知火だが、すべての不知火がデコポンではない。首の盛り上がりの大小だけで決まるわけでもない。選果場では人の目に加え、光センサーで糖と酸を測り、味と外観を何段階にも分ける。均一な等級は、消費者への約束であり、価格をつくる装置でもある。

1972年 ・ 果樹試験場口之津支場で清見と中野3号ポンカンを交配。

1991年 ・ 熊本から不知火を国内初出荷。

1994年 ・ 「デコポン」を商標登録。

2001年 ・ キリン「氷結」が発売。

2021年 ・ ドールが「もったいないバナナ」プロジェクトを開始。

2024年 ・ 「氷結mottainai」第1弾、浜なしを発売。

2026年8月 ・ 熊本産不知火がシリーズ2品目の通年商品に。

なぜ、おいしい果実が規格の外へ出るのか

「見た目が悪いだけ」と言えば、問題は単純に聞こえる。しかし規格には理由がある。同じ大きさなら箱に詰めやすく、輸送中に動きにくい。外皮の傷は鮮度低下や腐敗の見分けを難しくする。売り場では品質の予測可能性が信頼をつくり、高級果実や贈答品では外観自体が商品の一部になる。

一方で、規格は可食性と完全には一致しない。不知火は枝との接触、風、病害、強い日差し、成長のばらつきで傷や日焼け、変形が起きる。これらの中には、皮をむけば食味にほとんど影響しないものがある。生鮮品として高値を得られず、加工先も足りなければ、畑に残す、低価格で処分する、飼料や肥料に回す、廃棄するという順に価値が下がる。

ここで「食品ロス」という言葉は注意が必要だ。行政上は、まだ食べられるのに捨てられる食品を指す。消費者庁と農林水産省は2024年度の全国推計を461万トンとし、家庭224万トン、事業系237万トンとした。しかし、その統計は製造、卸、小売、外食、家庭を中心に推計したもので、畑で商品化されないすべての果実を正確に数える分母ではない。62トンを461万トンで割り、事業の価値を小さく見せるのも、大きく見せるのも適切ではない。

確かに言えるのは、全国へ流せる加工需要が、これまで出口の乏しかった一群の果実に買い手をつけるということだ。確かでないのは、その62トンの全量が商品なしなら焼却や埋め立てへ向かったのか、農家へいくら戻るのか、翌年も同じ規模で続くのかである。

ドールが産地を、キリンが規模を持ち込んだ

この商品は、飲料会社が選果場を偶然訪れて生まれたわけではない。ドールの説明によると、熊本の青果関係者から、販路が限られる規格外不知火について相談を受けた。ドールは産地とのネットワークを使い、加工原料を探すキリンとの間をつないだ。

ドールは2021年9月、「もったいないバナナ」プロジェクトを開始した。傷、大きさ、熟度などで青果として流通しにくいバナナを、冷凍、ピューレ、粉末、菓子や飲料の材料へ振り分ける。2024年には対象をほかの果実へ広げ、2025年度には200以上の組織と協働し、約5000トンの規格外バナナを活用したとしている。食用に向かないものは肥料や飼料にする。大事なのは、一つの出口ではなく、状態に応じた出口を重ねることだ。

キリンが提供するのは、全国ブランドの吸収力である。「氷結」は2001年に始まり、ダイヤカット缶と果実感でRTD市場の中心商品になった。会社によると、2025年末までの累計販売は350ミリリットル換算で約150億本。2026年は発売25周年に当たる。

その巨大な流れの一部を規格外果実へ向けたのが、2024年に始まった「氷結mottainai」だ。第1弾は横浜のブランド梨「浜なし」。2024年は目標の150%に当たる約27万ケースを売り、約3万4000個の梨を活用した。売上に連動する農家支援として、横浜農協へ599万3296円を寄付した。以後、高知のぽんかんなどへ広がった。

不知火の「でこ」は個性として愛される。別の小さな不ぞろいは値段を失わせる。加工の役割は、その境界を食べられる価値へ引き直すことだ。

果汁0.2%で、どう25万個を使うのか

缶の表示で最も意外なのは「果汁0.2%」だ。単純計算では350ミリリットル缶に0.7ミリリットル、500ミリリットル缶に1ミリリットルの果汁に相当する。これだけを見れば、約62トン、25万個という原料量と釣り合わないように感じる。

しかし全国商品は、本数の桁が違う。微量の果汁でも、数千万本をつくれば大きな原料ロットを吸収できる。矛盾とは限らない。問題は、キリンが予定生産本数、果実から採れる果汁の歩留まり、濃縮や香味原料の工程を公表していないため、外部から計算を照合できないことだ。

公表されていること公表されていないことなぜ重要か
不知火約62トン、約25万個相当を対象廃棄予定量の確認方法、従来の行き先純粋な廃棄回避か、低価値用途からの転換かを分ける
果汁0.2%、350ml・500ml、アルコール4%生産本数、搾汁歩留まり、加工工程原料量と完成品の関係を検証する
売上の一部を農家支援へ寄付今回の商品における1本当たり額、受取先、時期購入代金とは別の支援額を確認する
規格外果実に新たな販路買い取り単価、農家の追加所得、契約期間食品ロスだけでなく経営効果を測る

缶の中に果汁が少ないこと自体は、事業が無意味という証拠ではない。むしろ少量配合の量産品は、大量の原料を毎年受け入れられる可能性を持つ。ただし、環境・社会的な主張が規模を根拠にするなら、規模を追跡できる数字も必要になる。

なお、これはアルコール飲料である。果実の活用は、1缶が果物一食分になることを意味しない。350ミリリットル缶の純アルコール量は11.2グラム、500ミリリットル缶は16グラム。20歳未満、妊娠・授乳中の人、運転する人は飲酒できない。

農家の所得は、三つの道から来る

キリンの取組が農家に届く道は、少なくとも三つある。第一は、これまで値段がつきにくかった原料を買う代金。第二は、売上の一部を産地支援へ回す寄付。第三は、全国の商品棚で「熊本産不知火」という名前を見せ、生鮮果実や地域への関心を生む広告効果だ。

この三つを混ぜてはいけない。原料代が低すぎれば、農家は収穫、選別、運搬の追加費用を回収できない。寄付が研究、苗木、設備、担い手育成へ使われれば、個々の果実価格とは別に産地を強くできる。ブランド効果は価値があり得るが、測定が最も難しい。

今回の発表は「売上の一部」を寄付するとしただけで、金額や仕組みを示していない。シリーズの後続商品では、1本につき1円を農家支援へ寄付する方式が公表されている。浜なしでは実額も開示された。熊本産不知火についても、販売本数、原料購入額、寄付額、使途を販売後に示せば、消費者は「もったいない」という言葉を成果へ結びつけられる。

本気のアップサイクルを測る五つの問い
  • 何トンを、どの時点で、どの方法により「廃棄見込み」と認定したか。
  • 商品がなければ、果実は廃棄、飼料、肥料、低価格加工のどこへ向かったか。
  • 原料代から収穫・選別・輸送費を引いた後、農家の所得はいくら増えたか。
  • 売れ残った完成品や製造残さを含め、全体のロスはどれだけ減ったか。
  • 単年の話題ではなく、複数年の購入契約と産地投資につながるか。

暑くなる果樹園で、出口を先につくる

規格外果実は昔からある。しかし、栽培環境はさらに不安定になっている。気象庁によると2025年夏の全国平均気温偏差はプラス2.36度で、1898年以降最高だった。熊本県は記録的高温を受け、果樹を含む高温対策の実証と普及を進めている。

高温は果実の日焼け、着色不良、落果、病害虫、熟期のずれに関わる。ただし、今回の62トンすべてを気候変動の結果と断定する資料はない。傷や形は風、枝、病害、栽培条件でも起きる。気候を単純な広告の背景にせず、変動が増えるほど複数の販売先が保険になる、と捉える方が正確だ。

農家に必要なのは、収穫後に「もったいない」と見つけてもらう幸運だけではない。生鮮の上位等級、手頃な家庭用、ジュースや酒、菓子、冷凍、飼料・肥料まで、品質ごとの出口を収穫前に設計することだ。加工会社と数量、基準、価格を先に合意できれば、規格外は廃棄候補ではなく、別規格の原料になる。

未来は、一缶ではなく契約で決まる

「氷結mottainai 熊本産不知火」は、食品ロスの全体を解決しない。全国推計461万トンに対し、単独商品の62トンは小さい。酒を買うことで環境問題への義務を果たしたことにもならない。

それでも、この商品には無視できない設計がある。見た目の理由で価値を失う原料と、一定品質の味を大量につくる加工業をつなぎ、単発の限定品ではなく通年棚を確保した。処分費か無収入だった果実が、買い取り原料になり得る。全国の消費者が、不知火とデコポンの違い、熊本の産地、外観規格の裏側を知る入口にもなる。

次に必要なのは透明性だ。実際に使ったトン数、販売本数、農家への購入代金、寄付、残さの利用、翌年の契約を報告する。そうすれば「救った果実」は、パッケージの感情的な数ではなく、監査できる供給網の成果になる。

不知火の未来は、完璧な果実だけでつくられない。熊本の農家が育てた一本の木には、贈答箱へ行く実も、家庭用の袋へ行く実も、缶の香りになる実もなる。市場がその違いを価値の階段として受け止め、最下段を廃棄ではなく利用に変えられるなら、傷は失敗の印ではなくなる。

皮をむけば同じ甘さだった。その事実を、全国規模の買い手が初めから契約に書けるか。約25万個の本当の物語は、缶が開く音ではなく、次の収穫期に再び注文が届くかどうかで決まる。

取材・参考資料

編集注: Japan.co.jpは、キリン、ドール、JAの公表資料と行政資料を照合した。約62トン、約25万個、申告された廃棄見込み、農家支援は企業・団体発表であり、当社は買い取り契約や実績を独自監査していない。