実験で最も目を引くのはドローンだ。傷ついた道路脇の箱から飛び立ち、盛土や斜面の上に定められた航路を進み、数百枚の写真を持ち帰る。しかし、本当に重要な変化は、プロペラが止まった後に始まる。
石川県の能越自動車道・穴水道路の災害復旧現場では、撮影画像を現場のパソコンへ取り込み、技術者が整理し、専用ソフトへ手動で再アップロードする必要がなくなった。画像はKDDIの「Starlink Business」を通じ、KDDIスマートドローンのクラウドシステムから自動的に解析環境へ送られる。別の人が受け渡さなくても処理が始まり、道路、斜面、施工面の形を表す3次元点群ができる。現場事務所だけでなく、離れた支店や本社からも同じデータを確認できる。
東急建設、KDDI、KDDIスマートドローンは2026年5月18、19日、「DJI Dock 3」と遠隔運航対応の「DJI Matrice 4D」を用いて、この流れを検証した。8月7日に発表した結果によると、対象業務の工数を従来比で約50%削減し、飛行後に必要だった1~2時間の手動転送・設定作業を不要にした。
巨大な道路を物理的に復旧する工事と比べれば、事務作業を二時間減らす成果は小さく見えるかもしれない。だが、建設DXが長く抱えてきた難題は、データを集めることよりも、集めたデータを繰り返し使える情報へ変えることにある。
距離を縮めるために造られた道
新技術の意味は、その下にある道路の歴史を知ると、さらに明確になる。
能越自動車道は、石川県輪島市から七尾市を経て富山県砺波市へ至る約100キロの高規格幹線道路として構想された。国道470号の一部である穴水道路は、能登空港と穴水を結ぶ6.2キロの区間で、2006年6月に開通した。細長く山地の多い能登半島で、空港へのアクセスを高め、地域が抱える距離を縮める道だった。
2024年1月1日午後4時10分、地形そのものが激しく動いた。深さ16キロを震源とするマグニチュード7.6、最大震度7の地震が発生した。建物が倒壊し、斜面が崩れ、津波が海岸を襲った。気象庁は後に、輪島市西部で最大約4メートルの隆起が検出されたと記した。国内の陸域直下地震として、近年まれな規模の地殻変動だった。
距離を克服するために造られた道路が、地形によって寸断された。そこには厳しい循環が生まれた。集落へ到達し、資機材や支援物資を運ぶために道路が必要だが、その道路を直すには、作業員が不安定で到達しにくい場所へ入らなければならない。
国は2024年2月16日、能登復興事務所を設置した。能越自動車道、国道249号沿岸部、地すべり、河川などの復旧を進めるためである。道路復旧は一カ所を直して終わる仕事ではなく、形を変えた半島を相手にする長期事業となった。
崩れた地盤に、もう一度線を引く
東急建設が担当する工事は、被災した穴水道路の複数の崩落箇所を対象とする。14.1キロポスト付近では、大規模崩落で道路線形が大きく崩れ、安全確保のため最高速度が時速40キロに制限されていた。
2025年6月に盛土工事へ着手し、本格的な冬を迎える前の11月末、設計速度80キロで走れる形に復旧した。東急建設によると、大型トラックやボランティアを運ぶ大型バスにとっても、走りやすさと安全性が改善した。
しかし、一つの区間が開いても、工事は続く。土は掘られ、運ばれ、盛られ、締め固められる。斜面を整形し、排水施設や擁壁を設けるたび、現場の形は変わる。施工管理者は、現在の外観だけでなく、設計や前回測量と比べて地形がどう変わったかを知らなければならない。
従来は、人が現地へ入り、測点を設け、複数の道具を使ってデータを渡してきた。ドローンは危険な場所への立入りを減らし、広い範囲を短時間で撮影できる。ただし、その写真が信頼できる測量結果にならなければ、施工には使えない。
1997年 ・ 穴水道路の測量・設計に着手。
2006年6月 ・ 能登空港~穴水間6.2キロが開通。
2024年1月 ・ M7.6の能登半島地震で道路と斜面が被災。
2024年2月 ・ 国の能登復興事務所が始動。
2025年6~11月 ・ 14.1キロポスト付近の盛土で線形を復旧。
2026年4月 ・ 東急建設が現場でのレベル3.5遠隔監視を公表。
2026年5月 ・ 3社が点群生成までの自動化を実証。
2026年8月 ・ 実証結果を発表。
ドローンを「繰り返せる計測器」にする
現場にはすでに「DJI Dock 3」が導入されていた。ドックは単なる収納箱ではない。機体が決まった場所から離陸し、着陸し、充電する基地になる。特別な日に持ち込む機材だったドローンを、定めた航路を繰り返せる計測装置へ変える。
先行運用では、法規上の難題にも直面した。飛行ルートは自動車専用道路の上空を横断する。機体が落下して走行車両へ衝突する危険があるため、通常は慎重な審査対象となる。東急建設は歩道橋の真上を横断ルートに選び、機体が道路へ直接落ちる危険を抑える構成を示した。バウンダリ行政書士法人による申請支援とKDDIの運航指導を受け、許可を得た。
運航には、2023年12月に始まった「レベル3.5飛行」の仕組みを使った。操縦ライセンス、保険、機上カメラによる地上の人の確認などを条件に、航路全体へ補助者や看板を置かない目視外飛行をしやすくする制度である。「規制のない飛行」ではない。人が沿道で見張る一部の役割を、資格、技術、リスク管理の組合せへ置き換える。
東急建設は4月、この遠隔監視によって現場確認の省力化50%を実現したと発表した。当時の主用途は定点撮影で、写真測量と災害時の緊急対応は次の展開として挙げられていた。5月の実証は、その計画の一つを具体化した。
点群が見るもの
3次元点群は、普通の写真でも完成した設計図でもない。空間内に位置をもつ点の集合である。無数の座標が集まり、地形や構造物の見える表面を立体として表す。
ドローン写真測量では、異なる位置から重なり合う画像を撮る。ソフトウェアが複数の写真に共通する特徴を見つけ、その位置関係を計算する。SfM(Structure from Motion)や多視点ステレオと呼ばれる手法から、表面、高さ、断面、体積比較などに使えるデータが得られる。
道路工事では、実測した表面を設計モデルと比較し、土量を推定し、進捗を記録し、危険な斜面を遠隔から確認できる。同じ航路を繰り返せば、一枚の記録ではなく、現場が変わっていく時間軸をつくれる。
ただし、精度は自動的に保証されない。画像の重なり、カメラの補正、位置情報、基準点、植生、光、風などが結果を左右する。国土地理院はUAV公共測量の作業手順と精度確保の基準を整備し、斜め撮影の追加や飛行パターンが高さ精度に影響することも検証してきた。
したがって、3社が「施工管理の実用に十分な位置精度」を検証したという点は重要である。同時に、具体的な数値を公表していないため、どの施工判断に必要な精度を満たしたのか、外部からは評価できない。
| 工程 | 従来の流れ | 今回検証した流れ |
|---|---|---|
| 撮影 | ドローンが重複する数百枚の画像を取得 | Matrice 4DがDock 3から遠隔飛行 |
| 転送 | 画像を現場PCへダウンロード | Starlink Business経由でクラウドへ自動転送 |
| 解析 | 技術者がファイルを再アップロードし設定 | 転送完了を受けてクラウド解析が自動開始 |
| 共有 | 専門担当者が完成データを配布 | 現場、支店、本社が一元管理された点群を確認 |
着陸後に残っていた、見えないボトルネック
建設現場のデジタル機器は、しばしば孤立した島になる。ドローンを飛ばすシステム、写真を保存する場所、写真測量ソフト、工事記録が別々に存在し、技能を持つ社員が橋渡しをする。ダウンロードし、名前を整え、再度アップロードし、解析条件を設定し、結果を確認する。
能登での連携前は、一度の測量で得た数百枚の画像をローカルPCへ取り込み、3次元画像解析クラウドへ再び上げる必要があった。転送と設定に最大二時間を要し、ソフトを扱える人材が必要だった。
新しい流れは、その島々をつないだ。KDDIがStarlink Businessを通信基盤として提供し、KDDIスマートドローンがプラットフォームとシステム連携を構築した。東急建設は現場を提供し、運用と実用性を検証した。
機体が航路を終えると、画像はドローンプラットフォームから点群生成システムへ渡り、解析が始まる。完成データはクラウドで一元管理され、巨大なファイルをメールで送らずとも、複数拠点が同じ現場を見られる。
この違いは、国土交通省の「i-Construction 2.0」と重なる。国は2040年度までに建設現場で必要な人員を少なくとも3割減らす、すなわち生産性を1.5倍へ高める目標を掲げる。三本柱は「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」。能登の実証は、後ろ二つが一つの現場でつながる小さな模型である。
なぜ能登で衛星通信なのか
クラウドの自動化は、現場がクラウドにつながらなければ動かない。土木工事は山間部、谷間、災害地域など、地上回線が弱い、壊れている、混雑している場所で行われることが多い。高精細画像を数百枚送る負荷は、短いメッセージとは比較にならない。
今回、Starlink Businessは現場と外部ネットワークを結ぶ回線を担った。ドローンが衛星から直接操縦されたという意味ではない。遠隔運航と画像転送に必要な現場側の通信基盤を、衛星ブロードバンドで確保したのである。「衛星ドローン」という表現が、機体と衛星の直接制御を連想させないよう、区別が必要だ。
KDDIとKDDIスマートドローンは、ダム、鉱山、トンネル、孤立地域でも似た構成を試してきた。共通する発想は、作業場所に計測機器を置き、強い通信を与え、専門家を危険から遠ざけながら、判断材料との距離は広げないことである。
人のいない現場ではなく、希少な人材を生かす現場
3社は省力化を強調する。高齢化と担い手不足を抱える建設業界にとって切実な課題だ。しかし、今回の実証を「測量士も技術者もいらない道路工事」と受け取るべきではない。
人は飛行計画を決め、天候と空域を判断し、機体を保守し、座標系を確認し、精度を検証し、点群が施工に何を意味するかを決める。自動処理は、正しい測量と同じ速さで誤りを複製する可能性もある。クラウド上の立体モデルは、斜面が安全か、盛土が適切かを自ら決めない。
自動化の役割は、限られた専門性を判断へ集中させることにある。反復的なファイル作業をなくし、遠隔現場ごとに専門担当者を常駐させる必要を減らし、不安定な地盤へ入る回数を抑える。そして測量の頻度を上げられる。
その頻度こそ、長期的に大きな変化を生むかもしれない。手間のかかる測量は必要な時だけ行われる。ほぼ自動で回る測量は、日常業務になり得る。同じ航路を定期的に飛べば、単独の模型ではなく履歴が生まれる。二つの点群の差から、進捗、土の移動、浸食を見つけられる。地震や大雨の後には、直前の状態と比較できる。
実証から標準業務までの距離
能登の試験は、特定の条件で特定の連携を成立させた。普及には、十分な通信速度、信頼できるドック、標準化されたデータ接続、強固なセキュリティ、飛行失敗時の責任分担、季節や地形が変わっても精度が保たれる証明が必要になる。
費用も重要だ。特に中小建設会社にとって、機体、ドック、通信、クラウドを導入する負担は軽くない。UAV測量は雨、風、視程、地表状態の影響を受ける。遠隔離陸だからといって、航空法上の許可や関係者調整が消えるわけではない。災害時には、最も必要な瞬間に電力や通信を失う可能性もある。
3社は連携機能を改善し、他現場への導入拡大を検討する。今回の成果が本当に重要になるのは、印象的な2日間の実証から、監査可能な日常の施工管理へ変わった時だ。
それでも、この場所で試したことには意味がある。穴水道路は、能登を空港、都市、生活サービスへ近づけるために造られた。地震はその約束を物理的に断ち切った。いま、機体、衛星回線、クラウド上の模型という別のネットワークが、技術者に復旧する道の姿を見せている。
ドローンはドックへ戻る。道路の形は今日も変わる。半島から離れた場所で、新しい立体像が組み上がり始める。
- 実施日:2026年5月18~19日。結果発表は8月7日。
- 場所:能登半島・能越自動車道穴水道路の災害復旧現場。
- 機材:DJI Dock 3、DJI Matrice 4D。
- 通信:KDDI Starlink Business。
- 検証した流れ:遠隔飛行 → 画像転送 → クラウド自動解析 → 3次元点群。
- KDDIスマートドローン発表(2026年8月7日)――実証日、機材、連携内容、各社の役割、工数削減。
- 東急建設「DJI Dock 3による能登復興支援」――レベル3.5飛行、道路横断ルート、遠隔監視。
- 東急建設「能登の道を、もう一度。」――14.1キロポスト付近の復旧経過。
- 北陸地方整備局「能越自動車道 穴水道路全線供用開始」。
- 気象庁「令和6年能登半島地震」。
- 国土交通省「能登復興事務所を設置」。
- 国土交通省「i-Construction 2.0」2025年度成果と2026年度方針。
- 国土地理院「UAVを活用した写真測量の精度検証」。
編集注: 性能値は3社が公表した結果に基づく。Japan.co.jpは、5月実証の数値化された精度許容値や第三者評価を確認できなかった。
