フェンシングの団体戦は、個人戦の延長ではない。4人で登録し、3人が9試合をつなぎ、必要なら交代選手を入れる。個人戦なら一人の好調で押し切れる日があっても、団体では一人の乱れがチーム全体の点差として残る。逆に、エースが苦しい日でも、残りの選手が流れを取り戻せる。

愛知・名古屋アジア大会のフェンシング最終日、9月27日。日本は女子サーブル団体で銀メダル、男子エペ団体で銅メダルを獲得した。女子サーブルは決勝で韓国に31-45。男子エペは準決勝で韓国に37-38、1点差で敗れた。[7][8]

31-45女子サーブル団体決勝 日本-韓国
37-38男子エペ団体準決勝 日本-韓国
4人で1チーム3人が試合をつなぎ、1人が交代要員となる団体戦

江村美咲のチームは、また韓国に止められた

女子サーブルは、江村美咲、金子優衣奈、尾﨑世梨、佐野佑衣で構成。決勝の相手は韓国だった。韓国は序盤から主導権を握り、日本は追う展開のまま31-45で敗れた。韓国にとっては2018年以来のアジア大会女子サーブル団体金。日本は銀となった。[8]

この対戦には6月のアジア選手権から続く文脈がある。日本フェンシング協会によると、同大会でも日本女子サーブルは準々決勝でシンガポール、準決勝で中国を破り、決勝で韓国に35-45で敗れて銀だった。[5]

つまり今回の敗戦は、一度だけの偶然というより、現在のアジア女子サーブルにおける韓国との明確な競争線上にある。

男子エペは1本で3連覇を失った

男子エペは、加納虹輝、山田優、松本龍、浅海聖哉の4人。準決勝の韓国戦は最後まで決着がつかなかった。

第8試合を終えて34-34。最終第9試合も規定時間内では同点となり、1本勝負へ。韓国が優先権を得た状況で、日本は加納が攻めざるを得ず、最後の一本を奪われて37-38。杭州大会まで続いていたアジア大会男子エペ団体の連覇は止まった。[7]

フェンシングの1点は、数字としては最小差だ。しかし団体戦では、その一本に8試合分の流れが圧縮される。

個人戦の金メダリストがいても、団体金は保証されない

日本は今大会の個人戦で強さを示していた。男子エペでは加納虹輝が金、山田優が銅。女子サーブルでは江村美咲が金を獲得した。

それでも団体では金に届かなかった。これはむしろ、団体戦という競技の性格をよく示す。個人の世界ランキングや個人戦メダルは重要だが、9試合のどこで誰を使い、どの相手に誰を当て、点差をどう管理するかは別の能力になる。

団体戦では一つの敗戦が後ろの選手へ渡される。エペなら1点差を守るのか追うのかで戦術が変わる。サーブルなら数秒で5点、6点と動くため、流れの切り替えが速い。

東京2020が転換点だった

日本フェンシングの団体戦の歴史で最大の転換点は東京2020だ。加納、山田、見延和靖、宇山賢の男子エペ団体は、決勝でROCを45-36で破り、日本フェンシング史上初の五輪金メダルを獲得した。[10]

それまで日本の五輪メダルは、北京2008の太田雄貴の男子フルーレ個人銀、ロンドン2012の男子フルーレ団体銀など、フルーレを中心に築かれていた。東京の男子エペ金は、日本が一種目の偶発的な成功ではなく、複数種目で世界を狙える国へ変わるきっかけになった。[4]

パリ2024で「日本の強さ」は個人から全種目へ広がった

パリ2024では、その変化がさらに明確になった。加納が男子エペ個人で金、男子エペ団体が銀、男子フルーレ団体が金。女子フルーレ団体と女子サーブル団体も銅メダルを獲得した。日本フェンシングは一大会で複数武器・男女にまたがってメダルを獲得するプログラムへ進んだ。[9]

女子サーブル団体のパリ銅は、とくに重要だった。江村という世界選手権個人王者だけでなく、チームとして五輪表彰台へ上がれることを示したからだ。

2026年6月、日本はアジア選手権の国別1位になった

愛知・名古屋大会のわずか3か月前、デリーで行われたアジア選手権では、日本は金6、銀5、銅4の計15個を獲得。日本フェンシング協会によると、これは同大会で日本史上最多のメダル数で、国別メダルランキング1位だった。[6]

女子フルーレ団体は6連覇、男子フルーレ団体は2連覇。男子エペと女子サーブルの団体はともに銀。つまり、日本は一種目だけでなく、6種目全体でアジア上位にいる。

その意味で今回の団体戦は、「メダルを取れるか」という問いより、「どの種目で金まで押し切れるか」という水準のテストだった。

団体戦は「4人目」がいるから強くなる

フェンシング団体は3人で9試合を戦うが、4人目の交代選手を登録できる。この4人目は控えではなく、試合の設計そのものだ。

相性が悪い相手に交代を入れる。追う展開で攻撃力のある選手を投入する。疲労や怪我がある選手を守る。交代にはルール上の制限があるため、監督は「いつ使うか」を慎重に判断する。

日本の男子エペで松本龍、浅海聖哉、女子サーブルで尾﨑世梨、佐野佑衣のような団体戦要員が重要になる理由はここにある。個人戦に出る2人だけでチームの強さは測れない。

団体戦の本当の深さは、エースの順位ではなく「4人目まで戦えるか」に表れる。
日本がパリ以降強くなった最大の変化の一つは、複数種目でその4人目を持てるようになったことだ。

加納と山田、その次をどう作るか

男子エペの加納と山田は、東京2020金、パリ2024銀をともに経験した世代だ。加納はパリで個人金。山田もパリ個人7位、団体銀。JOCの公式記録だけでも、二人の実績は日本エペの歴史そのものに近い。[2][3]

一方、松本龍と浅海聖哉は、ロサンゼルス2028へ向けてチームを支える次の層にあたる。団体戦で問われるのは、加納・山田が勝つことだけではなく、その前後のレグを誰が支えるかだ。

女子サーブルは「江村依存」から抜けられるか

女子サーブルでは、江村美咲の存在感があまりに大きい。世界選手権個人連覇、パリ五輪旗手、今大会個人金。日本女子サーブルの国際的な知名度を一人で大きく押し上げた選手だ。

しかし団体金を狙うなら、江村が何点取るかだけでは足りない。金子、尾﨑、佐野が韓国や中国のトップ選手相手に点差を維持し、あるいは詰められるかが決定的になる。

6月のアジア選手権決勝35-45。今回31-45。韓国との差はまだ明確だ。その差を埋める仕事は、江村一人ではできない。

日本フェンシングの次の課題は「再現性」

一大会で多くのメダルを取ることと、毎大会すべての武器でメダル争いを続けることは違う。日本はパリで世界を驚かせ、2026年アジア選手権でも国別1位になった。

次の段階は、その成功を「特定世代のピーク」ではなく、継続するシステムにすることだ。高校・大学・企業の育成、国際大会派遣、分析、コーチング、海外拠点、ジュニアからシニアへの移行。団体戦の4人目まで強くするには、代表選考の外側にある競争環境そのものが重要になる。

銀と銅は、後退ではなく「基準が上がった」証拠でもある

かつてならアジア大会の銀や銅は、日本フェンシングにとって大成功と受け止められただろう。今は違う。女子サーブルは銀で悔しさを口にし、男子エペは銅で3連覇を逃したことが強く意識される。

これは結果が悪くなったからだけではない。期待値が変わったからだ。

東京2020で男子エペが金を取り、パリ2024で複数種目が五輪表彰台へ上がった。2026年アジア選手権では国別1位。日本フェンシングは「メダルを取れれば成功」ではなく、「金を取れるか」を問われる競技になった。

9月27日の銀と銅は、その新しい基準の中で見るべき結果だ。一人のスターが強いだけでは、もう十分ではない。4人が戦え、6種目が続き、次の世代が入っても同じ強さを再現できるか。団体戦は、日本フェンシングの現在地を最も正直に映す鏡になっている。

編集上の注意:本稿は9月27日終了時点の団体結果を反映。男子エペ団体は準決勝敗退で銅、女子サーブル団体は決勝敗退で銀。男子エペの37-38、女子サーブルの31-45は韓国側報道でも確認した。日本側公式結果ページが更新された場合は、公開前にそちらを優先して照合する。

出典・資料

  1. JOC:9月27日競技日程
  2. JOC:加納虹輝 選手プロフィール
  3. JOC:山田優 選手プロフィール
  4. JOC:フェンシング競技解説・日本の五輪史
  5. 日本フェンシング協会:2026年アジア選手権 女子サーブル団体・男子エペ団体 銀
  6. 日本フェンシング協会:2026年アジア選手権で史上最多15メダル、国別1位
  7. SBS:男子エペ団体準決勝 韓国38-37日本
  8. ChosunBiz:女子サーブル団体決勝 韓国45-31日本
  9. JOC:パリ2024 メダル・入賞者一覧
  10. JOC:東京2020 男子エペ団体 日本初の金