製油所は「タンカーがいつか到着する」という約束では動かない。原油油種を選び、船を手配し、タンクを空け、精製装置の運転条件を決める。その数週間後に初めて、ガソリン、軽油、ジェット燃料、石化原料が顧客へ届く。2026年にホルムズ海峡の通航が混乱した時、ENEOSは演奏が続く中で、その振り付けを作り直さなければならなかった。
国内最大の石油元売りENEOSは7月初め、9月までの原油調達にめどを付けたと明らかにした。失われた中東分を主として米国産で置き換え、少量のアゼルバイジャン・中南米産、そして海峡を避ける輸出経路へ振り替えた湾岸産も活用した。これは操業時間を買う成果だが、日本が2025年に原油の94%を中東から調達した構造を消すものではない。
「9月まで確保」の正確な意味
ENEOSの田中聡一郎CFOはReutersに、調達が安定し、9月まで良好な供給見通しが立ったと説明した。現行計画の製油所需要に対し、手配済み貨物、代替調達、在庫が足りるという意味である。新たな軍事激化、船舶喪失、制裁変更、製油所事故まで保証するものではない。
石油安全保障には層がある。原油が存在し、生産者が売り、タンカーと保険が確保され、航路が開き、製油所がその油種を処理し、製品が消費者へ届かなければならない。ENEOSは一定期間について、最初の四つを改善した。
巨大エネルギー網の細い門
ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ。最狭部の航路を通り、サウジアラビア、イラク、クウェート、カタール、UAEなどの原油・LNGがアジアへ向かう。通航への脅威は、物理的停止前から運賃、保険料、原油価格を上げる。
日本の集中度は際立つ。2026年紛争前、原油輸入の約70%がホルムズを通った。Reutersが示した時期にはサウジだけで日量約160万バレルを供給した。封鎖は一供給国ではなく、複数国が共有する経路を同時に直撃する。
一部の湾岸原油は海峡を迂回できる。サウジの東西パイプラインは紅海のヤンブーへ、UAEのハブシャン―フジャイラ線はホルムズ外のオマーン湾へ運ぶ。ただし能力は有限で、紅海にも別の安全保障リスクがある。迂回分は重要だが、湾岸貨物すべてを置換できない。
主な代替となった米国産
米国は大量で透明性が高く、政治的に近い供給源だ。日本の2025年の米国産軽質低硫黄原油輸入は過去最高の日量10万3,784バレル。2026年1~2月には前年同期の約3倍となり、危機後は中東減少分の主要代替となった。
WTI Midlandなどは、日本の製油所が長く処理してきた中質・高硫黄の湾岸原油より軽く硫黄が少ない。軽質製品収率が高く脱硫負担は小さいが、製油所の物量バランスが変わる。重質油処理設備にはより重い原料が必要で、価格には長距離航海費も加わる。
米国供給も無制約ではない。メキシコ湾岸の輸出港、パイプライン、天候、タンカー能力に左右される。欧州とアジアが同時に代替油を競えば、価格優位は消える。
アゼルバイジャン――小さな貨物、大きな信号
5月、約4万5,000キロリットル、約28万3,000バレルのアゼルバイジャン産原油がENEOS横浜製油所へ到着した。紛争開始後、日本が受け入れた最初の中央アジア産貨物だった。国内消費に比べれば小さいが、湾岸集中の調達構造にとって象徴的だった。
Azeri Lightはカスピ海地域で生産され、主にバクー・トビリシ・ジェイハンパイプラインでトルコ地中海岸へ出る。ホルムズを通らないが、複数国を横断し、地政学的断層の近くを走る。多様化はリスクを移すが、消さない。
中南米もホルムズ外の供給源だが、航海距離、運河・港湾制約、油質、輸送排出が採算を左右する。必要なのは「技術的に買える遠隔供給国一覧」ではなく、実際に使える柔軟な原油構成である。
ENEOSという一つの名に複数の歴史
グループの一系譜は、明治産業化の中で国産原油を開発するため1888年に創業した日本石油へさかのぼる。日本鉱業は1905年、三菱石油は輸入原油と国内精製を結ぶため1931年に設立。TonenGeneralの系譜も1890年代に始まる。
日本の国内石油資源は産業的野心に足りなかった。元売りは輸入、精製、全国給油所網で成長した。日本石油と三菱石油、JXと日本鉱業、JXTGとTonenGeneralという統合を経て、現在のENEOSが生まれた。
人口減、低燃費車、電動化で国内燃料需要が減る中、統合は製油所効率を高めた。同時に責任も集中した。ENEOSの調達や稼働率の変化は、国内燃料市場の大きな部分へ波及する。
日本政策を作り直した1973年
1973年の第1次石油危機を、日本は石油集約的な高度成長の最中に迎えた。価格は急騰し、トイレットペーパーなどの買い占めが起き、輸入燃料依存がインフレと社会不安を生むことを露呈した。
日本は効率を改善し、発電の一部を石油から移し、産油国外交を強化し、国家・民間備蓄を整備し、IEAの緊急対応へ参加した。LNG、原子力、後には再エネへエネルギーを分散した。
しかし原油調達は再び中東へ集中した。巨大で成熟した油田、長い取引関係、日本の設備に合う油質、直接タンカー輸送の経済性が、政治的に安全でも高価な代替を上回った。政策は途絶に備えて貯蔵し、商業は効率的供給源から買い続けた。
備蓄は時間を買うが、独立は買えない
米EIAによれば2025年末、日本政府在庫は2億6,300万バレルで、政府戦略在庫として世界第3位。法律は民間にも備蓄を義務づけ、産油国との共同備蓄が加わる。
政府は2026年3月、IEA加盟国による4億バレル協調放出の一環として過去最大の放出を開始。6月初めにも政府・民間・共同を合わせ約201日分を保有していた。放出は代替貨物が届く間、製油所稼働の正常化を支えた。
| 安全保障の層 | 解決すること | 解決できないこと |
|---|---|---|
| 政府備蓄 | 国家緊急時の緩衝 | 恒久的代替供給 |
| 民間義務備蓄 | 操業継続 | 無制限の精製稼働 |
| 代替原油 | 地域・航路集中の低下 | 油質と価格の不一致 |
| 迂回パイプライン | 一部湾岸油の海峡回避 | 能力限界と別の要衝 |
| 需要削減 | 全輸入必要量を縮小 | 航空・産業の即時代替 |
備蓄は橋である。外交、生産、物流が調整するまで、パニックと経済停止を防ぐ。混乱が橋より長ければ、新供給か需要減しか穴を埋められない。
多様化が物理になる製油所
原油は互換商品ではない。比重、硫黄、酸価、金属、製品収率で運転設備が変わる。日本の製油所は中東油を処理し厳しい燃料基準を満たすため、脱硫・分解設備へ投資してきた。
軽質低硫黄原油が突然増えると、中間留分に対してナフサやガソリンが過剰になり、重質油転換設備の原料が不足し得る。運転員は油種を混合し、温度、留分境界、水素使用量を変え、中間製品を取引する。利益率と稼働率が変わる。
ReutersによればENEOSは2026年度初めに86%稼働を見込んだが、混乱で約81%へ低下。海外製品価格上昇が利益影響を緩和した。同社は2027年度に90%を目指すが、物流不安定が続けば難しくなる。
多様化には価格がある
中東依存が続いたのは平時に合理的だったからだ。大型貨物、確立した契約、設備との適合、米州より短い航路がコストを下げる。代替供給には小口、長距離、運転資金、設備調整が必要となる。
比較すべきは平時の湾岸価格と平時の米国価格だけではない。途絶確率に価値を付けた総期待費用である。通常は少し高いポートフォリオでも、危機時の緊急購入、製油所減産、燃料不足より安いかもしれない。
ENEOSは政府と経済的に実行可能な多様化を進めたいとしている。非中東産油国との共同備蓄、港湾・タンク、柔軟な精製設備、長期契約、海運支援、レジリエンス費用の透明な評価が政策選択肢となる。
石油安全保障と脱炭素はつながる
日本は急に石油をなくせない。航空、海運、石化、建設、緊急車両、既存交通は液体燃料に依存する。無秩序な不足は、賢い排出削減より先に家庭と産業を傷つける。
一方、恒久的需要削減はホルムズへの露出も減らす。低燃費車、EV、鉄道、持続可能航空燃料、プラスチック循環、産業電化は気候政策であると同時に安全保障政策だ。新航路と違い、あらゆる要衝を通る必要量そのものを減らす。
ENEOSは石油会社からエネルギー・素材企業への転換を図りながら「今日の当たり前」を供給する。移行期間の石油インフラを十分強靱にしつつ、需要減で座礁するほど長寿命資産へ投資しないという資本配分の緊張がある。
9月の先にある成功
3カ月確保は危機管理だ。構造的多様化は数年で測る。中東・ホルムズ比率、実用可能油種数、代替リードタイム、船舶・保険費、製品収率、在庫日数、消費者への燃料供給が指標になる。
一つの集中を別の集中へ変えてはならない。米国産軽質油への過度な依存は、航路、通貨、油質の新リスクを生む。強靱な構成は湾岸供給、迂回路、米州、カスピ海、東南アジア、国内備蓄、需要減を組み合わせる。
7月27日のJapan.co.jp掲載レートでは、円安時にドル建て原油が特に高くなる。供給安全保障は通貨安全保障と切り離せない。原油が買えても、輸入費急騰は経済を傷つける。
日本石油は1888年、工業化を急ぐ国のために国産原油を探す目的で創業した。2026年のENEOSは逆の課題に直面する。成熟経済を動かすため、遠隔地の原油、戦略備蓄、需要削減を組み合わせ、主要航路が止まっても供給する。9月までの確保は危険な季節を渡る橋だ。日本がその橋を使って多様なエネルギーシステムへ進むかが、この瞬間の歴史的意味を決める。
