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安全保障・技術 / Monday Long Read

英日テック防衛協定、次世代戦闘機を動かす

GCAPは一機の戦闘機ではない。日本が米国以外の高度な防衛パートナーと、設計・産業・輸出の未来をどう分け合うかという実験である。

Japan.co.jp編集部 · 2026年6月15日

ロンドンと東京が語る「技術協力」は、もはや半導体やAIだけの話ではない。2026年6月、英国と日本が発表した新しい技術・防衛パートナーシップの中心には、次世代戦闘機を共同開発するGCAPがある。日本、英国、イタリアが2035年配備を目標に進めるこの計画は、航空機そのものよりも大きな意味を持つ。どの国が、どの技術を、誰と共有し、どの空で抑止力をつくるのか。そこに日本の新しい防衛産業史が見える。

ロイターは、英国のキア・スターマー首相と日本の高市早苗首相が、技術と防衛を含む広範な協力を発表し、GCAPの前進を確認したと報じた。合意はAI、宇宙、量子、サイバー、製造、インフラを含む大型の経済・安全保障パッケージで、GCAPの次段階契約も月末までにまとまる見通しとされた。日本にとってこのニュースの核心は、英国との共同開発が単なる装備調達ではなく、国家の産業基盤をどう残すかという問題に直結している点だ。

戦闘機の共同開発は、空の話に見える。だが本当は、センサー、AI、エンジン、通信、輸出制度、そして同盟の信頼をめぐる話である。

GCAPとは何か

GCAP、Global Combat Air Programmeは、2022年12月に日本、英国、イタリアの首脳声明で発表された。目的は、2035年ごろに次世代戦闘機を実用化すること。日本側では航空自衛隊のF-2後継、英国・イタリア側ではユーロファイター・タイフーン後継の流れに位置づけられる。だが、現代の戦闘機は単独で飛ぶ機体ではない。無人機、衛星、電子戦、データリンク、AI支援、クラウド化された戦闘管理と一体で設計される。

日本の防衛省は、航空優勢を防衛作戦に不可欠な「公共財」のような能力と位置づけ、他国に全面依存すれば作戦上の主導権を失うと説明している。そのため、GCAPは単に「新しい戦闘機を買う」計画ではない。国内に戦闘機の製造・整備・改修能力を残すための国家プロジェクトでもある。

なぜ英国なのか

日本の戦闘機開発史は長く米国との関係に縛られてきた。戦後、日本は米国機の導入・ライセンス生産・共同開発を通じて航空防衛を築いてきた。F-2は米国のF-16を基礎にした日米共同開発だった。その経験は日本の航空産業を支えた一方で、主導権や輸出、改修の自由度に制約も残した。

英国とイタリアは、欧州の航空防衛産業を維持するため次世代機を必要としていた。英国にはBAE Systemsとロールス・ロイス、イタリアにはLeonardoがある。日本には三菱重工、IHI、三菱電機、国内サプライチェーンがある。GCAPは、こうした三つの産業基盤を一つの設計思想にまとめる試みだ。

産業の名前が変わる:Edgewingの登場

2025年には、BAE Systems、Leonardo、日本航空機産業振興会社(JAIEC)が共同でEdgewingという合弁会社を立ち上げた。EdgewingはGCAPの設計・開発を担う産業側の中核組織であり、長期にわたって設計権限を持つと説明されている。戦闘機開発では、設計権限をどこに置くかが極めて重要だ。設計を理解していなければ、改修も輸出も、将来の派生型も他国任せになる。

日本企業にとっての課題は、単なる部品供給に終わらないことだ。機体、エンジン、センサー、ミッションシステム、電子戦、ソフトウェア、サイバー防護。これらが統合された戦闘システムの中で、日本がどの部分に責任と権限を持つのかが、産業面での成否を決める。

2035年次世代戦闘機の配備目標年。
3カ国日本、英国、イタリアによる共同開発。
EdgewingBAE、Leonardo、JAIECが設立した産業側JV。
Beyond the jet無人機、AI、センサー、データリンクを含む戦闘システム。

日本の防衛輸出史の中で

GCAPは、日本の防衛装備移転政策の転換とも重なる。日本は長い間、武器輸出に厳しい制約を課してきた。だが、2010年代以降、国際共同開発や防衛装備移転の制度が段階的に見直され、2020年代には完成装備や共同開発品の扱いも政治課題になった。戦闘機はその最も重い試金石である。

なぜなら、戦闘機は国内だけで数をそろえるには高すぎるからだ。量産効果を出すには、一定の輸出や第三国参加が必要になる可能性がある。だが輸出を認めれば、日本の平和国家イメージ、防衛政策、国会審議、相手国の使用実態が問われる。GCAPは技術計画であると同時に、戦後日本の安全保障文化の境界線を押し広げる計画でもある。

欧州とインド太平洋をつなぐ戦闘機

英国にとってGCAPは、欧州防衛産業の自立とインド太平洋への関与を結ぶプロジェクトだ。日本にとっては、米国以外の高度な防衛パートナーを持つ意味がある。イタリアにとっては、Leonardoを中心とする航空宇宙産業の長期案件である。ロシアのウクライナ侵攻、中国の軍事圧力、台湾海峡リスク、サイバー戦、宇宙領域の脆弱性が重なり、戦闘機は再び国家戦略の中心に戻った。

ただし、共同開発は美しい言葉だけでは進まない。費用分担、技術共有、輸出管理、知的財産、作業分担、仕様変更、遅延、政治交代。すべてが摩擦の種になる。イタリアからは過去に技術共有への不満も出た。英国の予算、欧州の他計画、参加国拡大の議論も、GCAPの進路を揺らす。

見えてきた日本の新しい姿

それでもGCAPが重要なのは、日本が「守られる国」から「共同で能力をつくる国」へ移ろうとしているからだ。航空機の形をした外交であり、工場の形をした安全保障であり、技術協力の形をした同盟である。英国との新パートナーシップは、その大きな構図を改めて示した。

2035年に実機が空を飛ぶとき、評価されるのは速度やステルス性能だけではない。日本がどれだけ設計に関わったのか。国内の若い技術者がどれだけ育ったのか。輸出と平和国家理念をどう折り合わせたのか。米国依存をどこまで相対化できたのか。GCAPは、まだ飛んでいない戦闘機である。だがすでに、日本の安全保障の未来を映す鏡になっている。

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