三人の監督を結ぶのは、同じ作風ではない。違いを持った物語が、東京で世界と出会うことだ。
東京が映し出す、三つの日本映画
映画祭の価値はレッドカーペットの華やかさだけでは測れない。10月26日に始まった第39回東京国際映画祭のコンペティション部門には、15作品のうち、日本人監督による3作が選ばれた。三島有紀子監督の『男ともだち』、池田暁監督の『妖怪、化物をひろう』、山本英監督の『過怠』である。三つの作品は、恋愛や友情、国境をまたぐ人間関係、命と家族をめぐる問いなど、異なる方法で現在の社会を見つめる。東京という都市が、国内の物語を世界の観客と批評家に開く場となっている。
まず押さえたい、映画祭と選考の事実
第39回東京国際映画祭は10月26日から11月4日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座などで開催される。10月1日のラインナップ発表によれば、コンペティションには112の国と地域から1892作品の応募があり、15作品が選出された。これは主催者が公表した応募件数であり、応募した全作品をJapan.co.jpが独自に審査したわけではない。最高賞の東京グランプリ/東京都知事賞などの結果は映画祭最終日まで確定しない。3作を「受賞作」と呼ぶのは現段階では誤りだ。
『男ともだち』――言葉にできない気持ちを見つめる
三島有紀子監督の『男ともだち』は、松岡茉優と成田凌を中心に、立ち止まった女性とそばにいる男性の関係を描く。監督は映画祭の公式インタビューで、京都、富山、広島を舞台に、人が他者に寄り添うことの難しさを見つめたいと説明している。単純な恋愛の成就を描く作品と決めつけるより、親密さの輪郭を探る映画として注目したい。三島監督は自身にとって11本目の長編だと語り、独立系映画づくりを経た経験と制作の自由の両立にも触れた。公式に発表された内容から作品の全場面や結末を推測することはできない。
『妖怪、化物をひろう』――金門島から届く日台合作
池田暁監督の『妖怪、化物をひろう』は、台湾の金門島で撮影された日台合作映画で、余貴美子が主演し、オダギリジョーがプロデューサーにも名を連ねる。公式の紹介では実話を土台に、人の愛情や他者へのまなざしを描く作品とされる。金門島は中国大陸に近い台湾の島で、歴史と地理の重なりを持つ場所だ。ただし、その地政学的な背景だけで作品の意味を決めつけてはならない。監督自身が強調する風景の力、登場人物が育む関係を、映画そのものと照合して評価する必要がある。池田監督は2017年に『うろんなところ』が映画祭の日本映画スプラッシュ部門で上映された経験も振り返っている。
『過怠』――日本と韓国、二人の女性の人生
山本英監督の『過怠』は、谷村志穂の同名小説を原作とし、唐田えりかと知英がダブル主演する。生殖医療にかかわる取り違えを背景に、日本と韓国に生きる女性たちの人生が交差する物語だ。監督は公式インタビューで、韓国の出演者やスタッフと制作したこと、非日常的な設定だけでなく人物の普段の暮らしを描くことを重視したと話している。生殖医療を扱うフィクションを、実際の医療事故の再現や制度の実証として読んではならない。俳優の演技、言語の違い、国境を越える共同制作がどのように映画の細部に現れるかが見どころになる。
1985年から続く、東京という上映の場
東京国際映画祭は1985年に第1回を開催した。当初は隔年開催で、1992年から毎年開催となった。第1回を彩った黒澤明監督『乱』と渋谷の街の記憶は、公式の歴史アーカイブにも残る。東京の映画祭はその後、海外作品を日本に紹介するだけでなく、日本やアジアの映画人を世界に知らせる交流の場として役割を広げた。映画は配給契約、字幕制作、国際共同製作、評論・観客の反応を通じて、公開地域を少しずつ増やす。映画祭への選出そのものは商業的成功の保証ではないが、国際的な発見の入口にはなりうる。
「つながる」とは、どのようなことか
2026年の映画祭テーマは「CONNECT―映画が繋ぐその先の世界」。久松猛朗フェスティバル・ディレクターは、国内外の多彩な作品や女性映画人の活動を紹介し、観客の裾野を広げる方向性を示した。プログラミング・ディレクターの市山尚三は、世界の分断が語られる時代に、歴史から現在を問い直す作品が多いと説明した。この三作品を一つの「日本らしさ」に押し込めるべきではない。むしろ、関係性を描く三島作品、台湾と日本が協力する池田作品、日本と韓国をまたぐ山本作品の違いこそが、映画祭の意義を伝えている。
映画をめぐる市場と、作品そのものを混同しない
同じ週には映像ビジネス市場TIFFCOMも開かれる。映画祭は作品を上映し、選び、議論する場であり、TIFFCOMは国際的な権利取引や共同製作などを扱う市場だ。近接した催しでも目的は同一ではない。東京国際映画祭で競う三監督の作品を、そのまま輸出実績や配給成立の証拠に置き換えることはできない。海外公開予定、販売契約、観客数などが分かれば、それぞれ別に確認する必要がある。
観客がいま問えること
3本のうち何が最高賞を受けるかは、現時点では分からない。見えているのは、競争を通じて作家の異なる視点が東京から世界へ示されるという事実だ。選考理由への関心、上映後の批評、映画祭の国際的な対話は、華やかな会見写真以上に映画文化を豊かにする。映画祭最終日の11月4日には、受賞結果だけでなく、これらの物語が誰に届き、何が議論されたかを改めて確かめたい。
出典・確認資料
公式発表、作品ページ、映画祭の公開インタビュー、歴史アーカイブと報道を照合。映画の鑑賞・独自取材は実施していない。受賞結果は未確定。
