高市早苗首相は27日の国会で、為替は多様な要因で動き、特定の一要因の影響を直接測るのは難しいとの認識を示した。最近の円安が政権の金融政策姿勢に起因するのではないかという野党議員の追及に対し、首相が示した答えは日々の相場より大きかった。成長力と競争力を高めて「強い経済」をつくれば、日本と円に対する市場の信認につながる——というのである。

その論理は、半導体工場や造船所から、生産性、賃金、税収、そして為替市場までを一本の線で結ぶ。同時に、スーパーの売り場に立つ有権者に十数年先を見てほしいと求める。政府は投資を2040年度までの累計で測るが、家計は次の給料日までの日数で測る。この「二つの時計」のずれが、高市経済政策の核心になった。

読売新聞が7月24〜26日に実施した世論調査によると、内閣支持率は57%。6月の69%から12ポイント低下し、高市氏が2025年に首相に就任して以来初めて60%を下回った。不支持は21%から34%へ上昇。とりわけ、物価高への対応を「評価しない」と答えた人は56%から71%に増えた。

57%は政権崩壊を意味しない。歴代の多くの内閣にとっては高い水準であり、一つの調査だけで円安が下落の全てを引き起こしたと証明することもできない。調査機関によって標本や方法は異なる。それでも、衆院選勝利で得た巨大な政治資本が、もはや台所の痛みから切り離されていないことは明らかだ。

57%読売調査の内閣支持率。6月から12ポイント低下
71%物価高対策を評価しないと回答
163.74円午前10時29分時点で表示した対ドル円相場
1.6%6月の生鮮食品を除く消費者物価指数
+1.4%5月の実質現金給与総額、前年同月比
−0.4%5月の2人以上世帯の実質消費支出
1.0%6月以降の日銀政策金利の誘導目標
370兆円超2040年度までの官民累計投資目標

インフレ率は「速度」、物価水準は「進んだ距離」

政府を擁護する数字もある。6月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合が前年同月比1.6%上昇。2025年に続いた高い伸びから鈍化し、日本銀行の2%目標に近い。総合は1.7%だった。それなら、なぜインフレが落ち着くほど、物価への不満は強まるのか。

伸び率が下がっても、価格は元に戻らないからだ。2020年を100とする6月の総合指数は113.6。食料は128.6、生鮮食品を除く食料は129.3だった。広い品目の平均は2020年より13.6%高く、食料は3割近く高い。インフレ率は速度計であり、物価水準はすでに進んだ距離である。

中身も重要だ。生鮮食品を除く食料は前年同月比3.1%上昇。調理食品4.2%、菓子類5.7%、飲料6.8%、生鮮魚介9.5%、肉類4.3%。コーヒー豆は23.3%高かった。これらは金融市場の抽象的な価格ではない。家計が何度も買い、何度も政策を体感する品目だ。

政策が物価を抑えた面もある。総務省統計局は、ガソリン暫定税率の廃止などがエネルギーの寄与度を0.74ポイント押し下げたと試算した。負担軽減は現実だが、1.6%という数字だけでは基調的な圧力を読み切れないことも示す。政策支援と円安による輸入コストが、一つの指数の中で逆方向に働いている。

物価上昇率1.6%は、暮らしが1.6%しか高くなっていないという意味ではない。すでに高くなった水準が、さらに上がっているという意味だ。

円安は「日本」を一様に豊かにも貧しくもしない

28日午前、1ドル=163.74円。円は1986年前後以来の水準に入った。円安は海外売上高を円換算した輸出企業の利益を押し上げ、訪日客には日本を割安にし、海外資産からの所得価値を高める。「日本株式会社」にとって一律に悪いわけではない。

しかし恩恵は均等ではない。日本は化石燃料の大半と、食料、飼料、肥料、工業原料の相当部分を輸入する。飲食店、クリーニング店、酪農家、中小メーカーは、ドル相場に左右される仕入れ価格を払いながら、円で給料を受け取る顧客に売る。大企業は為替ヘッジや海外生産、海外利益を使えるが、国内の小企業には同じ手段がない。

家計は電気、燃料、加工食品、海外旅行、輸入品で分配効果を感じる。必需品への支出割合が高い低所得世帯、年金で暮らす高齢者、価格転嫁力の弱い会社の従業員にとっての円安は、輸出企業の株主が見る円安とは違う。為替は国民所得を押し上げることがあっても、特定の市民の購買力を削る。

米財務省の7月報告は、2011年末から2026年4月までに対ドル、実質実効ベースの双方で円が約51%下落したとして、「大幅な過小評価」と指摘した。これは特定の相場水準を命令するものではない。しかし、現在の円安が一時的な風雨では説明しにくいほど遠くまで進んだことを示す。

高市氏の理論——成長が信認を戻す

高市氏の主張は「安い円が好きだ」という単純化より強い。生産性が上がり、企業が強くなり、供給網がしなやかになり、高付加価値技術と税源が育てば、日本経済への信頼が高まり、円も持続的な支持を得る。経済を直さず円だけを支えれば、原因ではなく信号をいじるだけだ、という理屈である。

そこには妥当な経済論がある。生産性向上は日本への期待収益を高める。企業投資が賃金と税収を押し上げる。省エネと国内電源は輸入燃料への脆弱性を下げる。競争力あるサービスとデジタル基盤は、「安いから」ではない理由で海外資本を引きつける。為替介入だけで生産性はつくれない。

ただし、市場は目的地だけでなく道筋を値付けする。計画が大量の国債発行を必要とするように見え、案件が採算より政治で選ばれ、政府が物価上昇率を下回る金利を長く望んでいると映れば、最初に起きるのは金利上昇と円安かもしれない。将来の成長は円を支えるが、その成長を何で買うのかという不確実性は今の円を弱くする。

ここに循環的な危険がある。円安が輸入物価を上げる。生活支援には財源が要る。追加借入への警戒が国債利回りを押し上げる。日銀の利上げを遅らせる政治圧力が高まれば、実質金利差が円をさらに弱める。成長戦略はこの輪を切るためのものだが、工場が完成する前に信認を示さなければならない。

370兆円が意味すること、意味しないこと

日本成長戦略は、2040年度までに17戦略分野、62の主要製品・技術で、官民合わせて累計370兆円超の投資を掲げる。AI・半導体、量子、造船、宇宙、バイオ、サイバーセキュリティ、GX、資源・エネルギー安全保障、コンテンツ、防衛、国土強靱化などが並ぶ。

最重要語は「官民」だ。370兆円は政府が一度に支出する予算ではなく、来年度に配る金でもない。企業と国が十数年かけて行う投資の累計であり、すでに計画済みの事業や既存のGX計画と重なる部分もあり得る。全額を財政負担とみなすのは誤りだ。

しかし、その区別が別の試験を生む。少額の公的資金が大きな民間投資を呼び込めば効率的だ。民間が動かなければ大見出しは願望になる。国が穴を借金で埋めれば財政リスクは膨らむ。日銀審議委員を務めた野村総研の木内登英氏は、官民比率、既存計画との二重計上、つなぎ国債の償還財源が明確でないことを重要課題に挙げる。

産業政策と成長モデルも同じではない。先端半導体工場は供給安全保障を高め、造船支援は戦略的能力を守り、防災投資は巨額損失を防ぐ。どれも合理性があり得るが、それだけで労働移動の乏しさ、人口減少、サービス業の低生産性、デジタル化の遅れ、東京一極集中が解けるわけではない。投資先の一覧は、全国の所得へ届く仕組みが見えて初めて戦略になる。

政策の主張最良の場合主な危険確認すべき証拠
成長投資が円を支える生産性と収益率が上がり、資本と賃金が増える借入と執行不安が成果より先に信認を損なう民間投資、生産性、実質賃金、輸出付加価値
食料消費税ゼロが物価を和らげる必需品の価格を速く、目に見えて下げる財源不足、転嫁不足、実務負担、終了時の価格跳ね店頭価格、財源、所得階層別の効果
政府・日銀の連携が安定を生む財政と金融が互いを打ち消さない必要な利上げへの政治的抵抗と市場が受け取る日銀発信、期待インフレ、円、国債利回り
戦略投資が経済安保を高める国内能力が外部ショックへの耐性をつくる既得権保護と既存計画の重複達成指標、競争調達、第三者評価

日銀は独立している。同時に政府と連携する

高市氏は、金融政策は日銀の所管だとした上で、法律上、政府と緊密に連携する必要があると述べた。二つは両立する。日銀には業務運営上の独立性があるが、財政、賃金、規制と無関係な宇宙に存在するわけではない。連携は必ずしも服従ではない。

敏感なのは、高市氏が強力な金融緩和を支持してきたからだ。円安と輸入物価が利上げを示唆する局面でも、政治的な慎重論が正常化を遅らせるのではないかと投資家は疑う。日銀は6月、無担保コール翌日物を0.75%程度から1.0%程度へ引き上げ、31年ぶりの高さにした。それでも物価上昇率を差し引いた実質金利は、尺度によって低いかマイナスだ。

日銀に容易な選択はない。遅すぎれば円安が輸入・生産者価格を押し上げ、期待インフレを不安定にする。速すぎれば住宅ローン、中小企業、巨額債務を持つ国を圧迫し、内需を冷やす。7月30〜31日の会合では1%据え置きが予想されるが、次の利上げに関する言葉は決定そのものと同じほど重い。

為替介入は一方向の投機を戒め、時間を買える。財務当局も過度な動きには断固対応するとしている。しかし、金利見通し、エネルギー価格、政策構成への疑念に根を持つ相場を、介入だけで恒久的に反転させることはできない。政府と日銀は、協調して聞こえながら、日銀が支配されているようには聞こえない発信が必要だ。

賃金は改善した。それでも痛みは消えていない

賃金の物語は、悲観論が語るより良い。5月の現金給与総額は前年同月比3.2%増の31万1,165円。毎月勤労統計で使う物価指数で調整した実質賃金は1.4%増えた。一般労働者の総額は3.5%、パートタイム労働者の所定内時給は4.9%増。物価が賃金を上回り続けた時期の後だけに重要な改善だ。

ただし均等ではない。パートの月額総額の伸びは1.5%で、時間数の影響も受ける。中小企業が大企業の春闘結果をすべて追えるわけではない。年金、フリーランス報酬、給付は別の暦で動く。平均実質賃金がプラスでも、多くの世帯は過去の購買力低下を取り戻す途中にある。

消費は慎重だ。5月の2人以上世帯の消費支出は平均32万345円。名目で1.3%増えたが、実質では0.4%減った。勤労者世帯の実収入は実質0.7%増えても、支出はまだ縮んだ。所得が上向いても、その持続を信じ切れない消費者の行動である。

必要なのは一度の好数字ではない。基本給、中小企業の生産性、可処分所得が必需品価格を上回る流れだ。投資が利益を生んでも、交渉力、競争、賃金への波及を伴わなければ、トレーダーの画面で円は強くなっても、政治経済は弱いままになる。

1974年——輸入インフレへの警戒をつくった記憶

日本の輸入インフレへの感覚は、第一次石油危機で形づくられた。1973年の石油禁輸は、原油のほぼ全量を輸入し、豊富なエネルギーで高度成長した国を直撃した。買いだめ、供給不安、便乗値上げが重なり、「狂乱物価」という言葉が生まれた。1974年の消費者物価上昇率はおよそ20%に達した。

現在のインフレはその規模から遠い。比べるのは数値ではなく政策記憶である。エネルギー安全保障、省エネ、供給先の多様化、外部価格ショックが賃金を追い越すことへの恐れが残った。1970年代、日本は産業構造を転換し、エネルギー効率を高め、高付加価値生産へ進んだ。その意味で高市氏の戦略投資には本物の前例がある。

同時に、国全体の適応が成功しても、その間の損失は家計や弱い産業に集中し得ることを歴史は教える。政府は最終的に経済を変えたかだけでなく、移行コストを誰に背負わせたかで評価される。「後で強くなる」だけでは社会契約として不十分だ。

プラザ合意から「失われた時代」へ

現代日本の通貨政治には逆の記憶もある。強くなり過ぎた円だ。1985年のプラザ合意後、主要国の協調はドル安・円高を加速させた。輸出産業への圧力の中で金融環境は緩和され、金融自由化と投機期待も加わって巨大な資産バブルが生まれた。ただし、その原因を一つの政策だけに帰すことはできない。

1990年代初めにバブルが崩れると、銀行、企業、家計は長い債務調整に入った。物価が下がる、あるいはほとんど動かないデフレが中心課題となる。安い物価は一見好ましいが、支出を先送りさせ、債務の実質負担を重くし、賃上げを難しくした。政策当局は需要不足を恐れるようになった。

1989年に3%で導入された消費税は、景気回復が脆くアジア通貨危機も迫る1997年に5%へ上がった。その後の不況には複数の原因があり、増税の正確な寄与には論争が残る。それでも政治の記憶では、1997年は回復が定着する前に支援を引く危険の象徴となった。

この歴史が、債務削減より投資を優先する高市氏の直感を説明する。単純な緊縮に批判が集まる理由でもある。だが、デフレ期の処方箋を、歴史的な円安、輸入物価高、人手不足、長期金利上昇の2026年へそのまま移すことはできない。

アベノミクスの後継だが、2013年ではない

第2次安倍政権は2012年末、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の三本の矢を掲げた。日銀は2013年に2%目標の下で量的・質的金融緩和を始め、2016年にマイナス金利と長短金利操作を導入した。円安、企業利益、雇用は進んだが、生産性改革と持続的な賃金・物価循環の成果は均一ではなかった。

消費税は2014年に5%から8%へ上がり、家計消費は急減。2019年の10%への引き上げでは、酒類などを除く飲食料品に8%の軽減税率が残った。消費税は重要財源であると同時に、消費を傷つける政治的象徴になった。

高市氏の「責任ある積極財政」は、国家が期待を変え、民間投資を呼び込まなければ停滞を脱せないという点でアベノミクスの後継である。しかし2026年は2013年ではない。日銀は2024年にマイナス金利と長短金利操作を終了し、政策金利を1%まで上げた。物価は約4年にわたり2%前後で推移し、人手不足は構造化した。円ははるかに弱く、国債投資家は利回りが永遠に固定されるとは考えない。

政策の系譜はアベノミクスである。経済環境は、もうアベノミクス開始時ではない。

食料消費税ゼロの魅力と落とし穴

高市氏は、食料品にかかる8%の消費税を2年間停止する案を掲げる。魅力は分かりやすい。レジで効果が見え、必需品を対象とし、新しい給付制度を一からつくるより速い。低所得世帯ほど食費の所得比が高いため、相対的な恩恵も大きくなり得る。

ただし、広く配ることと正確に届くことは違う。支出額の多い世帯ほど円ベースの減税額は大きい。競争があれば税分の多くは価格へ反映されるだろうが、仕入れ高を吸収してきた店で全額が下がる保証はない。事業者はレジ、請求書、契約を変更し、2年後に元へ戻す。終了時には新たな値上がりが見える。

最大の問題は財源だ。食料はすでに標準10%から8%へ軽減されている。ゼロにすれば、防衛、社会保障、利払いが増える中で恒久的な歳入が大きく減る。与野党は制度設計で合意できず、政権は持続的な代替財源を示していない。「時限」と呼んでも、政治的な減税期待まで時限になるとは限らない。

代案にも欠点がある。現金給付は漏れや遅れがあり、エネルギー補助は節約を妨げる。社会保険料軽減は働く人を助けるが年金生活者すべてには届かない。給付付き税額控除には行政基盤が要る。最良の橋は、一つの派手な手段ではなく、負担の重い世帯への限定支援と、財源を示した中期計画の組み合わせかもしれない。

国債は無害でも、破綻への秒読みでもない

日本の政府債務は経済規模に比べて極めて大きく、長期の国債・借入金残高は2026年初めに約1,130兆円へ達した。しかし、これを破綻時計に読み替えるのは誤りだ。債務の大半は円建てで、国内機関と日銀が多くを保有し、日本は大きな対外資産を持ち、政府には徴税力がある。外貨建てで借りる新興国や家計との単純比較は成り立たない。

一方、金利上昇は計算を変える。国債は順次借り換えるため、債務全体が一夜で高金利になるわけではない。だが満期のたびに利払いは増え、社会保障、防衛、脱炭素、減税へ使える余地を狭める。産業投資に測定可能な収益があるか、市場の問いも厳しくなる。

問題は、明日もう一枚国債を発行できるかではない。できる。問われるのは、高齢化と金利正常化の中で債務残高のGDP比を安定させられるかだ。成長は分母を大きくし、案件の厳選は分子を抑える。成長と財政規律を両立するという高市氏の約束は矛盾ではないが、遠い投資総額より具体的な工程表が必要だ。

市場は2040年まで待たない。民間資金が本当に来る確率、つなぎ国債の償還、人気のある減税が本当に終わるかを今値付けする。財政への信認は成長政策の代替ではなく、成長政策が円のリスクプレミアムを下げるか上げるかを決める投入要素である。

政治問題の本質は「時間差」

半導体工場、洋上風力の供給網、量子研究網は、建設に数年を要し、中位の賃金へ届くまでさらに時間がかかる。内閣支持率は一週間で動く。構造政策と有権者の月次予算は、互換性のない時間軸で動いている。

食料価格が上がるたびに長期投資を放棄するわけにはいかない。人口が老い、輸入価格に弱いからこそ、エネルギー耐性、自動化、デジタル能力、生産性向上が要る。しかし今月の食費への質問を、2040年度の予測だけで返すこともできない。

信頼できる橋は三つを同時に満たす。第一に、負担の重い世帯へ財源と終了条件を示した短期支援を届ける。第二に、各戦略分野の官民比率、資金源、測定可能な節目を公開する。第三に、金融正常化を財政が打ち消さない道筋を説明しつつ、日銀が持続的な物価上昇へ対応する自由を守る。

巨大な見出しや一律減税より地味で、実行は難しい。弱い案件に「ノー」と言い、必要なら金利上昇を受け入れ、支援の費用を誰が負うか説明しなければならない。しかし政治の持久力は、制約を否定することではなく、制約を管理することから生まれる。

高市経済政策を測る五つの試験
  • 家計:実質可処分所得と消費が数カ月を超えて増えるか。
  • 円:繰り返す介入に依存せず、政策への信認が改善するか。
  • 投資:公的支援に検証可能な民間資金が続くか、国が穴を埋めるか。
  • 財政:減税とつなぎ国債に信頼できる財源・償還計画があるか。
  • 分配:中小企業、パート、年金生活者、地方も生産性向上を共有するか。

次に注目すべきこと

日銀は7月30〜31日に金融政策決定会合を開く。1%据え置きが有力だが、基調的な物価が目標を上回る可能性への警告が強まれば、追加利上げの選択肢は生きている。円相場、超長期国債利回り、政府と日銀の発信が焦点になる。

政治面では、2年間の食料消費税停止をいつ、どのように進めるかを決めなければならない。見出しと同じほど財源が重要だ。8月または9月の内閣改造観測は、高市氏が支持率低下を広報、人事、政策設計のどの問題として受け止めるかを試す。

次の賃金、家計、物価統計は、5月の実質所得改善が循環になったかを示す。一カ月の実質賃金増は勝利ではなく、一カ月の支出減は不況でもない。賃上げが広がり、食料高が落ち着き、消費が安定する組み合わせが決定的だ。

そして成長戦略には台帳が要る。何が新規で、いくらが国費か。どの事業に民間パートナーがいて、償還財源は何か。目標未達なら何を中止するか。答えが具体的になるほど、投資が円を負担するのではなく支えるという高市氏の主張は説得力を増す。

強い経済は、信じられる前に感じられなければならない

高市氏が正しい本質がある。通貨の長期的な信認は、スローガンや一度の介入ではつくれない。背後の経済力に支えられる。日本には高い生産性、強靱なエネルギー・供給網、競争力ある企業、上昇する実質賃金、高齢社会を支えられる財政が必要だ。

批判側が正しい本質もある。財源が不透明で、金融の独立が制約され、一律の支援が無財源なら、その経済へ向かう道そのものが信認を壊す。「成長」という名が付くだけで支出は正当化されない。収益、分配、規律によって正当性を獲得する。

支持率57%は、高市構想への拒絶ではない。請求書である。有権者は大きな信任を与え、約束された経済力がいつ家計へ届くのかを問う。物価上昇率1.6%を見ても、2020年の食料価格を覚えている。賃金増を聞いても実質支出を削る。競争力が高まれば円は戻ると言われても、今日のドルは163.74円だ。

長期政策はいつも国民に待つことを求める。成功する政治経済は、待つための橋を架け、重荷を誰が背負うかを見せる。高市氏が即時の安心を、検証可能な投資、賃金波及、財政の率直さへつなげられれば、支持率低下は転換点ではなく調整で終わるだろう。できなければ、円安は市場価格以上の意味を持つ。約束された未来と、薄れていく国民の忍耐の交換レートになる。

取材ノート・出典

本稿は2026年7月28日午前10時29分(日本時間)までに公表された情報に基づく。世論調査は因果関係の証明ではなく、その時点のスナップショットである。6月CPI、5月賃金、5月家計支出は概念と対象が異なり、同一の「平均世帯」の数字として合成できない。370兆円は2040年度までの官民累計投資であり、単年度の政府予算ではない。1974年との比較は政策記憶を説明するもので、当時と現在の物価上昇率を同一視しない。