この結果が示さないもの:「寂しさ」や感情、認知能力の低下を測った研究ではない。単独飼育群が仲間のそばにいる時間を減らした理由には、社会的な反応性だけでなく全般的な運動量の差も残る。成体まで効果が続くか、回復するか、脳内で何が変わったかも未検証である。

春の浅い水辺に現れる黒い群れは、単なる偶然の密集ではないらしい。京都大学大学院地球環境学堂の長谷和子(はせ・かずこ)研究員は、アズマヒキガエル Bufo formosus の幼生を仲間と育てるか、1匹だけで育てるかを変え、その後に同種個体へ近づく行動を比較した。

単独で育った個体は、兄弟姉妹と育った個体より、実験水槽の中央に設けた「中立域」に長くとどまった。両端にはそれぞれ見知らぬ兄弟姉妹10匹と、血縁のない見知らぬ個体10匹がいた。差が出たのは親族側か非親族側かではなく、仲間のいる側へ寄るか、中央に残るかだった。

京都大学は9月7日、研究成果を公表した。原著論文は8月6日、国際誌『Animal Cognition』にオンライン掲載された。題名は「Social isolation, rather than kinship, influences association behavior in toad tadpoles (Bufo formosus)」。著者は長谷氏1人で、研究の設計、実験、解析、執筆を担った。

90個体行動試験に使った被験個体
4卵塊別々の水たまりから採集した兄弟姉妹群
2週間集団または単独で飼育
60分左右を入れ替えて追跡した合計時間

4つの飼育条件で「経験」と「水」を分ける

実験材料は2021年4月、東京大学大学院理学系研究科附属植物園の栃木県内の敷地で採集された。互いに離れた4つの水たまりから、約100〜150個の受精卵を含む卵紐を1本ずつ採取し、それぞれを別の兄弟姉妹群として扱った。孵化後、幼生が泳いだり餌を食べたりして互いに接触し始める前に飼育容器へ移した。

条件は「脱塩素した水道水か池水か」と「20匹の集団か1匹の単独か」を掛け合わせた2×2設計だった。池水は東京大学構内の一二郎池から運び、100メッシュのポリエチレン網で濾過した。水温18度、明暗12時間ずつ、餌は十分に与え、水は2日ごとに交換した。2週間後、後肢が出始める前後のゴスナー発生段階30〜35の個体を試験した。

水の条件を加えたのは、親族認識に使われ得るにおいの形成に微生物環境が関わるという仮説を検討するためだ。自然の池水なら、水道水より微生物が豊富で、皮膚の微生物叢や個体ごとのにおいが異なるかもしれない。しかし今回、水道水か池水かによる行動差は統計的に検出されなかった。これは、あらゆる水質差が無関係だと証明したこととは違う。

飼育条件被験数兄弟姉妹側中立域非血縁側
水道水・集団221419.0秒875.0秒1306.0秒
水道水・単独211213.3秒1202.1秒1184.6秒
池水・集団251393.3秒822.2秒1384.4秒
池水・単独221075.2秒1332.0秒1192.8秒

表は論文に示された平均滞在時間で、各試験3600秒の内訳である。単独飼育群では中立域の平均が長く、社会経験の効果は統計的に有意だった(p=0.002)。一方、兄弟姉妹側と非血縁側の滞在時間に有意差はなく、4条件のいずれにも血縁へ偏った接近は見いだせなかった。

1匹の進路を1秒刻みで追う

選択試験の水槽は、両端を刺激個体の区画、中央を中立域として使った。片端には兄弟姉妹10匹、反対側には別の卵塊に由来する非血縁個体10匹を置き、細かなポリエチレン網で被験個体と隔てた。被験個体は刺激個体を見たり、水を通じた化学的手がかりを受けたりできるが、直接接触はしない。

5分間の馴化後に30分撮影し、左右を入れ替えて同じ手順を繰り返した。左右そのものへの偏りを打ち消すためで、合計60分の軌跡を画像追跡ソフト「UMATracker」で1秒ごとに記録した。刺激側の個体はすべて被験個体と別容器で育った「見知らぬ」相手である。各被験個体は1度だけ試験された。

見つかったのは「親族を選ばなくなった」ことより、仲間の近くへ行く傾向そのものが、仲間と育つ経験に左右されたという差だった。

半世紀近く続く「親族を見分けるか」という問い

オタマジャクシの親族選好研究は少なくとも1979年、アメリカヒキガエルの幼生が兄弟姉妹と選択的に群れると報告した『Nature』論文までさかのぼる。1980年代には、水中に溶けた化学的手がかりを嗅覚で区別できることや、見慣れた非血縁個体より見知らぬ兄弟姉妹を選ぶ例が報告された。

群れには、捕食される確率を薄め、警告色を目立たせ、餌を探す効率を変える可能性がある。一方で、近くにいる個体は餌や空間を奪い合う競争相手にもなる。どの種が誰と群れるかは、親族を助ける利益だけでなく、捕食圧、群れの大きさ、発生段階、成長差、経験によって変わり得る。

長谷氏はこれまで、ヤマアカガエル Rana ornativentris で、体の大きさと血縁が接近相手の選択にどう交差するかを調べてきた。2019年の研究では、大きな幼生が小さな兄弟姉妹を避け、小さな非血縁個体へ近づく傾向を報告。2022年には、誰と育ったかによって選好が変わる可塑性を示した。今回の研究は、接触する仲間そのものを初期からなくしたとき、接近行動がどう変わるかをアズマヒキガエルで問うた。

なぜ血縁の差が出なかったのか

アズマヒキガエルは東日本に分布し、冬眠後の早春、短い期間に集中的に繁殖する。黒い幼生は密な群れをつくり、約6週間で変態を終えるとされる。今回の2週間は、その短い幼生期のかなり早い部分に当たる。

論文は二つの可能性を挙げる。第一に、黒いヒキガエル幼生の集合では、相手が親族かどうかより群れの数そのものが重要なのかもしれない。両側の刺激群は10匹ずつで、数に差がなかった。第二に、今回の4卵塊の間では、血縁を示すにおいの遺伝的な差が識別に十分でなかった可能性がある。

したがって「血縁への偏りが検出されなかった」は、「親族を認識する能力がない」と同義ではない。別の発生段階、別の集団、異なる数の群れ、変態後の配偶相手選びなどでは血縁情報を使う余地がある。統計的な非有意は、能力の不存在を確定する判定ではなく、この条件で差を確認できなかったという結果だ。

最大の交絡は、社会性か運動量か

見出しの「関心」は、心理状態の直接測定ではなく、刺激個体のいる側に滞在した時間の行動学的な言い換えである。単独飼育が同種個体への反応を弱めた可能性はデータと整合するが、研究は仲間のいない対照刺激を置いた別試験や、通常時の遊泳量を独立に測る試験を行っていない。

そのため、単独飼育群が仲間を避けたのか、全般にあまり泳がなかったのか、探索の仕方が変わったのかを完全には分けられない。論文自身もこの限界を明記し、非社会的な対照条件を加える必要を挙げる。神経回路、ホルモン、遺伝子発現、微生物叢を測定したわけでもなく、それらは将来の機序研究の候補である。

読み違えないための4点
  • 対象:アズマヒキガエル1種、4卵塊由来の90個体。
  • 測定:同種個体に近い区画か中立域かという位置。感情や「孤独感」ではない。
  • 因果:飼育条件を操作した実験なので初期環境の効果を検討できる。ただし運動量との切り分けは未完。
  • 範囲:幼生期の試験結果。変態後や他種、人間へ直接一般化できない。

保全現場にどうつながるか

両生類の保全では、卵や幼生を一時的に飼育して生存率を高め、元の水域へ戻すことがある。今回の研究だけで飼育基準を変更する根拠にはならないが、個体数、水量、水質、密度だけでなく、幼い段階で同種個体と接する機会も、放流後の行動に影響し得る変数として検討する理由になる。

次に必要なのは、通常の遊泳量を測る非社会的対照、単独飼育後に集団へ戻す回復試験、発生段階ごとの反復、野外に近い捕食・採餌条件での検証、そして変態後までの追跡である。効果が可逆的なら「敏感な時期」の幅が見え、持続するなら飼育履歴を管理する重要性が増す。

長谷氏は京都大学の発表で、研究の核心を「社会性は経験によって育まれる」と表現した。ただし、人間の孤立をオタマジャクシで説明したわけではない。むしろ価値は、社会的な行動を哺乳類だけの複雑な属性とみなさず、小さな脊椎動物の短い幼生期にも、経験による変化を実験的に切り出せると示した点にある。

1979年 — ヒキガエル幼生が兄弟姉妹と選択的に群れるとする研究が『Nature』に掲載。

1980年代 — 水中の化学的手がかりによる親族識別の研究が進む。

2021年4月 — 今回の4卵紐を栃木県内で採集し、飼育実験を実施。

2026年8月6日 — 原著論文が『Animal Cognition』にオンライン掲載。

2026年9月7日 — 京都大学が日本語で研究成果を発表。

取材・主要資料

編集注:研究者の氏名・読み・所属、アズマヒキガエルの和名・学名、論文名、掲載誌、専門用語は京都大学の日本語一次資料と原著論文で照合した。「関心」は接近行動の平易な表現であり、感情の測定ではない。運動量、持続性、神経機序、他種への一般化は未解決として本文で区別した。