丘を一周しながら、人々は花の種をまいた。8月3日午前9時、岐阜県美濃市安毛の永昌院で開かれた法要には、地域内外から41人が集まった。僧侶が道場を清め、般若心経を唱え、参列者が焼香する。法要の後は、仏を供養するため花びらを散らす「散華」になぞらえ、コスモスとクローバーを土へ放った。
開かれたのは約900平方メートルの樹木葬墓地「美濃 清流の丘」。眼下には長良川が流れ、敷地にあったエノキと桜をシンボルとして残した。墓域には小さなプレート区画、花壇、竹垣、献花台、丸太のベンチがある。永昌院によれば、隣接地の整備を始めてから約4年。2026年春に第一期区画が完成し、見学を受け入れてきた。
その景色は穏やかだが、墓地が向き合う問いは重い。子どもがいない。いても遠くに住む。家名が変わる。高齢の家族に草取りや墓参りを任せられない。自分の死後、誰が寺や霊園と連絡し、費用を払い、石を洗い、墓じまいを決めるのか。「迷惑をかけたくない」という言葉の背後には、愛情と不安が同居する。
13回忌という「時間の設計」
清流の丘の特徴は、個別墓か共同墓かを二者択一にしない点にある。1~2人、3~4人、5人以上の区画を用意し、契約した最後の人が亡くなって13回忌を迎えるまで、焼骨をプレートのある個別区画に安置する。その後、寺が永代供養墓へ移し、ほかの人の焼骨と合祀する。二人用なら、後に亡くなった人の13回忌に二人を合祀するという。
「13回忌」は西暦の単純な13年後ではない。日本の仏事では亡くなった年を一回目と数えるため、一般に死後満12年で営む。そこまでの期間は、遺族が特定の場所で故人へ手を合わせられる。その後は、個別性を残す区画の維持を終え、寺が共同の供養へ引き受ける。
これは感情と管理を時間で橋渡しする設計だ。亡くなってすぐ「誰の骨か分からない共同空間」へ移すことへの抵抗を和らげながら、何十世代も続く承継義務は作らない。ただし合祀は大きな境界でもある。焼骨が他人のものと混ざれば、通常は個別に取り出せない。いつ、誰に知らせ、どのような儀礼で移すのかは、契約前に書面で確かめる必要がある。
| 段階 | 清流の丘の公開案内 | 契約前に確かめたいこと |
|---|---|---|
| 生前 | 宗旨宗派不問、檀家義務なし、生前申込可 | 使用権の範囲、解約・返金、法要の選択、追加人数 |
| 納骨 | プレート内容を決め、納骨式を行い、後日に記念樹を植える | 容器、土との接触、納骨料、植樹費、選べる樹種 |
| 個別期間 | 最後の利用者の13回忌まで個別区画 | 訪問・供花の規則、木の剪定・枯死、連絡先変更 |
| 合祀後 | 寺が永代供養墓で供養。合祀料は初期費用に含む | 移す前の通知、供養の頻度、名前の記録、取り出し可否 |
「先祖代々の墓」は、永遠の昔から同じではない
新しい墓を理解するには、古い墓も歴史の産物だと知る必要がある。日本の葬送は地域ごとの差が大きく、遺体を葬る場所と石塔を拝む場所を分ける「両墓制」、個人墓、夫婦墓、共同墓など、多様な形があった。国立歴史民俗博物館の研究者が墓標調査を整理したところ、庶民が石の墓標を立てることは17世紀に広がり、19世紀末から20世紀前半に累代墓が増え、1970年代には造墓が爆発的に増加した。
戦後、旧民法の戸主制度がなくなり、次男・三男の世帯も都市へ移って独自の墓を建てた。高度経済成長で石を買う余力が生まれ、郊外霊園が整備され、「○○家之墓」を核家族ごとに持つことが標準像になった。いま墓じまいの対象が多いのは、少子化だけでなく、この造墓ブームが膨大な石のストックを残したからだという研究上の指摘がある。
厚生労働省統計を用いた歴博の報告では、焼骨などを別の墓や納骨堂へ移す「改葬」は2023年度に15万1,076件と過去最多になった。ただし、行政統計の「改葬」は理由を問わない。遠い墓を近くへ移す例も、寺院改修も含み得るため、この全数を「墓じまい」と呼ぶのは正確ではない。それでも、死後の場所を組み替える手続きが大規模になっていることは確かだ。
17世紀 庶民の墓標造立が各地で一般化。地域ごとの多様な墓制は続く
1670年 安毛坂の傍らに永昌院が開創
19世紀末~20世紀前半 累代墓が増加し、家と墓の結び付きが強まる
1948年 墓地、埋葬等に関する法律が行政的な枠組みを定める
1970年代 高度成長と核家族化を背景に家墓の造立が急増
1999年 岩手県一関の知勝院で日本初の樹木葬墓地が始まる
2019年 民間消費者調査で樹木葬の購入が初めて一般墓を上回る
2026年8月3日 「美濃 清流の丘」が正式開園
1999年、樹木葬は森を戻す構想だった
日本初の樹木葬は、美濃ではない。1999年、岩手県一関市の知勝院の前身である祥雲寺で、千坂げんぽう住職が始めた。人の手が入らなくなった里山を墓地として整え、地域在来の木を石の代わりに植え、墓地の収入と人の作業で森を再生する構想だった。知勝院は、光が入るようになった林床で山野草が戻り、昆虫や野鳥の生息環境が維持されたと説明する。
ところが「樹木葬」は法律上の単一分類でも、設計上の統一規格でもない。ランドスケープ研究者の上田裕文氏がインターネットで確認できた905か所を分析した2022年の研究では、既存林を使う里山型、墓ごとに木を植える樹林型、一本の木を共有するシンボルツリー型、花壇や小さなプレートを並べるガーデン型などが混在していた。調査対象の42.9%は当初から土に還す方式、50.9%は一定期間後に合祀する方式だった。
つまり、木があることと、焼骨がすぐ土へ還ることは同じではない。個別プレート、植樹、一定期間後の合祀を組み合わせる清流の丘は、初期の自然再生型をそのまま再現したものではなく、里山の景観と現代の期限付き個別墓を接続したハイブリッドである。そこに優劣が自動的に生まれるわけではない。利用者が求める個別性、アクセス、価格、自然性、運営の持続性の配分が違う。
墓地は自然そのものではなく、管理される土地である
清流の丘になる前、寺に隣接する土地は手入れが難しく、一部は雑木林化していた。永昌院は地域と相談して土地を譲り受け、エノキと桜を残しながら木や笹を整理し、古い資材と根を除き、法面を整えた。近隣の竹藪から切った竹は、表面を加熱して油抜きし、境界の竹垣へ再利用した。旧境内の門柱は献花台になり、月例坐禅会の参加者は丸太を割ってベンチを作った。
この作業は「自然を放っておく」ことではない。里山は、人が薪や落ち葉、竹、農地を利用してきた二次的自然であり、手入れの縮小が生物多様性を脅かす「第2の危機」になると環境省は位置付ける。人口が減る地域では、刈り払い、竹の制御、道と斜面の点検を誰が続けるかが、墓の管理と同じ問題になる。
永昌院は供養料を可能な限り里山整備と景観維持へ充てる「循環型」の運営を掲げる。墓地の収入が土地の手入れを支え、手入れされた景観が墓地の価値を支えるという輪だ。ただし、環境効果は名称や理念だけでは証明できない。植生調査、生物種の基準値、農薬や除草の方針、斜面・排水の長期監視、収支の内訳は公開資料に示されていない。今後、その輪が本当に回るかを測る指標が必要になる。
人口は減り、世帯は小さくなる
全国では2025年時点で65歳以上が3,619万人、総人口の29.4%を占めた。国立社会保障・人口問題研究所の2024年推計では、単独世帯の割合は2020年の38.0%から2050年に44.3%へ上がる。予測は確定した未来ではないが、墓を「子どものいる世帯が次の世代へ渡す資産」と考える前提が、薄くなる方向を示す。
美濃市の公式統計では、2026年6月末の人口は1万8,583人、世帯数は8,332。前年6月の1万8,758人、8,220世帯と比べると、人口は175人減った一方、世帯は112増えた。この一年の変化だけで単身化や墓需要の原因を断定することはできない。それでも「人口が減っても、生活単位は必ずしも同じ速度で減らない」という地方行政の現実を映す。
墓の承継者は、戸籍上の子どもがいれば自動的に確保されるわけではない。子も高齢になり、海外や都市に住み、複数の親族の墓を抱える。娘しかいないことを問題視する古い家名観を見直しても、距離、身体、費用、連絡の仕事は残る。樹木葬の需要は「子がいない人」だけでなく、子を墓の管理者に固定したくない人からも生まれる。
1670年から続く寺が、次の100年を売る
永昌院は1670年に開かれた曹洞宗寺院で、美濃の町と紙漉きの里を結んだ安毛坂の傍らに立つ。寺の説明では、かつて美濃和紙の職人が道すがら手を合わせ、戦中・戦後には名古屋から疎開した子どもたちを学び舎として受け入れた。現在は法要だけでなく、坐禅、ヨガ、ご詠歌、桜のライトアップなどで人を迎える。
その歴史は、新しい墓地に二つの意味を与える。一つは信用である。永代供養を買う人は、商品を一度受け取るのではなく、自分が確認できなくなった後の管理を託す。創建から350年以上続く寺という時間は、目に見えない履行能力の物語になる。
もう一つは責任である。長く続いたことは、今後も自動的に続く保証ではない。人口減少は檀家、僧侶、寄付、地域の作業者を同時に細らせる。厚生労働省の墓地経営指針が重視するのも、墓地の「永続性」、すなわち安定した経営と管理だ。「永代」は無限の時間を法的に保証する魔法の語ではなく、誰が、どの財源で、どの頻度の供養と管理を引き受けるかという運営約束として読むべきである。
木の下なら自由、ではない――墓地埋葬法の線
日本で一般に「樹木葬」と呼ばれるものは、ほぼすべて火葬後の焼骨を扱う。「遺体を木の下へ埋める」という意味ではない。1948年制定の墓地、埋葬等に関する法律は、死体の土葬を「埋葬」、焼骨を墓へ納めることを「埋蔵」と区別する。第4条は埋葬または焼骨の埋蔵を墓地以外で行うことを禁じ、第10条は墓地経営に行政の許可を求める。
したがって、樹木葬は「自然葬だから好きな山に埋められる」という例外ではない。許可された墓地の中で、管理者が許可証と台帳を扱い、自治体の条例や条件に従う。木や花は墓標と景観を変えるが、焼骨を長期に預かる公共的責任は消えない。
この点は、粉末化した焼骨を海や山へまく「散骨」とも違う。清流の丘は長良川を望むが、川へ散骨する計画ではない。場所の詩情と、遺骨の法的な扱いを混同してはならない。
価格表の外側にある、長い契約
公式価格は1~2人用30万円から、3~4人用55万円から、5人以上80万円から。維持費と管理費は不要で、合祀料は初回費用に含まれると案内する。一方、納骨式の後には別途「納骨料」を納める流れが掲載されている。プレート刻字、植樹、法要、追加の彫刻、証明書、将来の改葬に何が含まれるかは、総額で確認したい。
費用の安さだけで選ぶと、もっと重要な違いを見落とす。アクセスしやすいか。車を運転できなくなっても行けるか。花や線香を供えられるか。宗派不問でも、合祀後の供養はどの宗教形式か。記念樹は一区画一本なのか、家族が所有するのか、寺の景観樹になるのか。台風や病害で枯れたら植え替えるのか。13回忌後も名前を見つけられるのか。
何より、家族全員で合祀の意味を共有しておく必要がある。契約した本人は自然に還るイメージを好んでも、遺族は個別の焼骨を取り戻せないことに後で気づくかもしれない。生前契約の長所は、自分で決められることだ。弱点は、実際に手続きをするのが別の人だということにある。
- 表示価格と納骨料、刻字、植樹、法要を合わせた総額はいくらか。
- 焼骨は骨壺、袋、カプセル、直接埋蔵のどれで、土に触れるのはいつか。
- 13回忌の起算日と合祀予定日を、家族へいつ、どう通知するか。
- 合祀前・合祀後に焼骨を取り出すことはできるか。
- 記念樹の樹種、位置、所有、剪定、枯死時の植え替えは誰が決めるか。
- 宗旨宗派不問と、寺が行う供養の宗教形式はどう両立するか。
- 供花、線香、食べ物、ペット同伴、開門時間の規則は何か。
- 住所や連絡先が変わった場合、後継連絡人をどう更新するか。
- 寺の住職交代、法人の解散、災害時に契約と台帳を誰が引き継ぐか。
- 解約、返金、別墓地への改葬、人数追加の条件は何か。
負担をなくすのではなく、共同化する
清流の丘の約束を「墓参りをしなくてよい」と読むのは狭すぎる。寺が構想するのは、家族だけに閉じた区画ではなく、坐禅会の人がベンチを作り、地域の竹が垣根になり、桜の夜に人が訪れ、供養料が丘の手入れへ戻る場所だ。血縁による無期限の義務を、寺と利用者と地域が支える期限付きの個別性、そして共同管理へ変えようとしている。
そのモデルには美しさがある。同時に、厳しい会計がある。草は毎年伸び、木は枯れ、斜面は雨を受け、台帳は世代を越え、僧侶にも後継者が要る。契約者が増える時期の収入を、何十年後の管理へどう残すか。里山整備へ「可能な限り」充てるという理念を、積立、会計開示、生態監視、承継計画へ翻訳できるかが問われる。
8月3日にまかれたコスモスは、一年草だ。花が咲き、種を落としても、次の年の景色は天候と手入れに左右される。墓も同じで、永続性は石の硬さから生まれない。人が約束を記録し、費用を備え、次の人へ仕事を渡すことでしか続かない。
家族に墓を継がせない選択は、記憶を捨てることではない。何を継ぐかを選び直すことだ。姓を刻んだ一基の石ではなく、13回忌までの個別の場所。合祀後も続く読経。エノキと桜、竹垣、長良川を望む道。美濃の丘が未来へ渡そうとしているのは、管理義務ではなく、手入れされる風景の中で故人を思い出す機会なのである。
- 永昌院「『美濃 清流の丘』が開園」(2026年8月12日、開園日、整備経緯、41人の式典、将来像)
- 永昌院「樹木葬」公式案内(料金、13回忌後の合祀、維持管理費、申込・納骨・植樹の流れ)
- 永昌院公式サイト(1670年創建、安毛坂、寺の活動、開園報告)
- 岐阜新聞「永昌院の樹木葬墓地開園」(2026年8月5日、約900平方メートル)
- 知勝院「日本初の樹木葬墓地」(1999年、在来樹木と里山再生)
- 上田裕文「樹木葬墓地の利用実態と地域にもたらす経済効果」(2021年、里山型樹木葬の利用研究)
- 上田裕文「樹木葬墓地の近年の動向と形態変化に関する研究」(2022年、905か所の形態・埋蔵方法分析)
- 国立歴史民俗博物館「超高齢社会における葬墓制の再構築をめざして」(2024年、家墓、火葬、改葬、死後の共同性)
- 厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律」(墓地外への埋蔵禁止、許可と管理)
- 厚生労働省「墓地経営・管理の指針等について」(墓地の永続性、利用者保護、周辺環境)
- 総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者」(2025年、65歳以上3,619万人・29.4%)
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」(2024年推計、2050年の単独世帯44.3%)
- 美濃市「美濃市の人口(毎月末)」(2025・26年6月の人口と世帯)
- 環境省「里地里山保全活用行動計画」(管理縮小と生物多様性、持続的な手入れ)
編集注:本稿は永昌院の公式発表・公式サイト、法令、政府統計、学術研究、地方紙の公開範囲を照合して執筆した。寺、契約者、地域住民への独自インタビューは行っていない。開園後の申込数、総区画数、契約書全文、許認可文書、焼骨の具体的な埋蔵仕様、独立した生態調査は公開資料で確認できなかったため、推測を避けた。「改葬」統計を「墓じまい」と同一視していない。
