旅のタイトルは長い。「A Satoyama Discovery Journey:Becoming Part of a Satoyama Landscape 京都美山の里山で、持続可能な地域の未来を共創する探究型農泊プログラム」。主語は名所ではなく、里山の一部になる旅行者だ。

一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会が企画し、8月31日に東京都内で開かれた「地域の滞在プランコンテスト2026」の表彰式でグランプリを受賞した。会場では「学びのプラン部門」などで選ばれた6地域が提案を発表し、その中から美山が全体の最上位に選ばれた。

ただし、制度上の輪郭は正確に押さえたい。これは農林水産省が美山を新たな「日本一の農村」と認定した賞ではない。JTBが農水省の2026年度農山漁村振興交付金事業「農泊地域への来訪促進に向けた需要創出支援事業」の一環として運営した、滞在プランのコンテストである。表彰されたのは、地域全体の順位ではなく、物語性と地域資源を組み合わせた旅程の提案だ。

受賞の意味:美山は「地域の滞在プランコンテスト2026」で、6件の部門賞プランからグランプリに選ばれた。国の文化財指定や観光地認定とは別の、JTB運営の企画コンテストである。
2泊3日かやぶきの里や農家民宿を舞台にした探究型農泊プログラム
2017年から美山の3組織が連携して農泊地域づくりを推進
1993年美山町北が国の重要伝統的建造物群保存地区に選定

2泊3日、「見る」から「循環に入る」へ

協会の公表資料によると、宿泊地は「かやぶきの里」と農家民宿。参加者は農作業、食肉加工、しめ縄づくり、伝統食づくり、住民との交流を通じて、「森・水・農・食」のつながりと循環を探る。山林が水を蓄え、川が田畑を潤し、農と山の恵みが食になり、手仕事や年中行事が生活を形づくる。その関係を、展示室ではなく滞在の中で読み解く構想だ。

農水省がいう「農泊」は、農家に一晩泊まることだけを指さない。公式定義は、農山漁村に宿泊し、地域資源を使った食事や体験を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」。地域資源を観光コンテンツとして磨き、国内外の来訪、地域所得、地域と継続的に関わる「関係人口」につなげる政策である。

構成公表されている内容読み解く地域の関係
宿泊かやぶきの里、農家民宿景観を生活の時間帯まで含めて知る
生業農作業、食肉加工土地の利用、食料、野生動物との関係
手仕事・食しめ縄づくり、伝統食づくり資源、季節、信仰、技術の継承
対話地域住民との交流保存活動の担い手と地域課題を知る

ここで表にしたのは公表済みの要素であり、確定した日ごとの運行表ではない。協会と主催者の発表には、販売価格、募集人数、発売日、実施日、言語対応の範囲は示されていない。受賞は「完成して予約できる商品」の証明というより、伴走支援を受けながら磨く計画が評価された段階とみるのが妥当だ。

森・水・農・食を結ぶ旅

美山の提案が面白いのは、体験を単品で並べず、因果関係でつないだ点にある。農作業だけなら全国にある。郷土料理づくりも珍しくない。だが、森から流れ出る水、田畑、家畜や野生鳥獣、調理、祭礼の手仕事までを一つの問いにすれば、旅行者は「何をしたか」だけでなく、「なぜこの作業がここにあるのか」を考えることになる。

食肉加工を含めたことも、美しい農村像だけで終わらせない可能性を持つ。山間地の食は、田畑の収穫だけで完結しない。獣害対策、命の利用、衛生、流通、料理が連続する。ただし、公表資料は対象となる肉の種類や工程、参加者がどこまで作業するかを説明していない。体験内容を先回りして「ジビエ解体」などと書くことはできない。

主催者は、住民が行う保全活動を「体験」し、自然との共生を学ぶプランと説明する。一方、旅行者が屋根をふく、森林を整備する、用水路を修繕するといった直接作業までは公表していない。「参加型保全」は、現時点では保全の現場と知識に参加する設計を指し、作業量や自然への効果が実証されたという意味ではない。

里山を守る物語は、旅行者の善意だけでは成立しない。誰が教え、誰が安全を担い、誰に収益が届き、住民の負担を増やさず手入れが続くか――旅程の価値はその設計で決まる。

里山は「手つかずの自然」ではない

「里山」は、観光広告ではしばしば静かな原風景の同義語になる。環境省の説明はもっと動的だ。里地里山とは、集落を中心に、二次林、農地、ため池、草原などが組み合わさった、原生的な自然と都市の中間にある地域。農林業をはじめとする人の働きかけによって形成され、維持されてきた。

つまり、人が入らなければ元の姿のまま守られる自然ではない。薪や落ち葉を使い、田を耕し、水を管理し、草を刈る循環が景観と生物のすみかをつくった。過疎化、高齢化、産業構造の変化で利用が減れば、資源の循環も管理の知識も細る。美山のプランが「森・水・農・食」を学習の軸に置くのは、この本質に沿っている。

ただし、学んだことと、守れたことは別である。旅行者が地域の仕組みを理解すれば、再訪、商品の購入、寄付、担い手との関係づくりに進む可能性はある。そこから先を「保全効果」と呼ぶには、参加人数、地域に残る収入、保全活動へ回った資金や時間、住民側の評価を追う必要がある。これは公表事実ではなく、Japan.co.jpが受賞後の検証項目として示す分析だ。

かやぶきの景観は、暮らしと手入れの結果

舞台の一つ、美山かやぶきの里は、京都府中部の南丹市美山町北(なんたんし・みやまちょう・きた)にある。文化庁によれば、由良川上流の河岸段丘に北山型のかやぶき民家と石垣、田畑がまとまり、周囲の山々と歴史的風致をつくる。1993年12月8日、「南丹市美山町北」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。

現在の地元観光資料は、50戸のうち39棟がかやぶき屋根の民家だとする。ここは屋外博物館ではない。家々には生活があり、道は住民の日常動線で、撮影や立ち入りには保存とプライバシーを守るルールがある。屋根は自然に残ったのではなく、材料、職人、費用、火災への備えを継続して初めて景観になる。

文化庁の保存事例は、1993年度から7年をかけて防災設備を整えた経緯と、2000年5月に美山民俗資料館の建物が焼失した火災を記録する。建物はその後再建された。保存会の活動や、地域内外で育ったかやぶき職人も景観を支える。美山の眺めは「昔のまま」なのではない。災害を経験し、制度と技術を更新しながら残している。

「保存された村」を読む三つの視点

  • 文化財:1993年、集落と周辺環境を一体で守る重要伝統的建造物群保存地区に選定。
  • 生活:北地区は現役の居住地。訪問者の自由より、暮らしと防災が優先される。
  • 技術:かや、屋根ふき職人、防火設備、住民組織がなければ、写真の景観は続かない。

1970年代の過疎対策から「泊まる観光」へ

美山の観光は、完成した名所に客を呼び込むところから始まったのではない。観光まちづくり協会の沿革は、1970年代の過疎化と耕作放棄地の問題を出発点に置く。旧美山町は1989年に「村おこし課」を設け、都市農村交流、農村景観、農産物販売、特産品づくりを組み合わせた。

2016年には、地域の観光事業を担う現在の一般社団法人が発足。翌2017年から、美山の3組織が連携して農泊地域づくりを進めた。2021年には国連世界観光機関(現・国連観光機関)の「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」に、北海道ニセコ町とともに日本から初めて選ばれた。2024年には農水省事業の「持続可能な農泊モデル地域」に選定され、外部専門家とプログラムを磨いた。

積み上げは前年の受賞にも表れた。2025年度の同系統のコンテストでは、南丹市美山エコツーリズム推進協議会の「米がつなぐ暮らし~美山から伏見、米文化をめぐる旅」が企業賞のBooking.com賞を受賞した。2026年のグランプリは観光まちづくり協会の別プランであり、受賞団体も企画内容も同一ではない。

1970年代 過疎化と耕作放棄地が地域課題になる。

1989年 旧美山町が村おこし課を設置。

1993年 美山町北が重要伝統的建造物群保存地区に選定。

2016年 南丹市美山観光まちづくり協会が発足。

2017年 3組織の連携による農泊地域づくりが始まる。

2021年 国連世界観光機関のベスト・ツーリズム・ビレッジに選定。

2024年 持続可能な農泊モデル地域に選定。

2025年 米文化をめぐる別プランが企業賞を受賞。

2026年 2泊3日の探究型農泊プログラムがグランプリ。

グランプリの次に問われる数字

受賞プランには、主催事業によるPRと伴走支援、連携企業による磨き上げ支援が予定されている。グランプリの特典には、英国ロンドンで開かれる旅行商談会「World Travel Market(WTM)」への招待も含まれる。美山が国内の教育旅行だけでなく、海外市場を見据える機会になる。

一方、協会自身は、観光の歩みを紹介する公式ページで、年間約90万人が訪れる地域になっても、観光だけで地域課題が解決したわけではないと記す。人口は2026年3月時点で約3100人。来訪者数が増えるほど成功、という単純な式では、住民の担い手不足、交通、生活環境、保存費用を見落とす。

次に必要なのは、受賞歴ではなく運営の数字だ。何人が泊まり、地域内でいくら使い、宿、農家、講師、職人へどう分配されたか。住民の準備時間と負担は適切か。旅行者が再訪し、購入や支援を続けたか。保全に資金や人手が届いたか。これらを公開できれば、「景色を消費する観光」から「景色を支える関係」へ進んだかを測れる。

美山は、かやぶき屋根を発見したのではない。失われかけた暮らしの基盤を、文化財保護、地域組織、農泊、学習旅行へ組み替えてきた。グランプリはその長い仕事への注目である。同時に、旅行者が里山の一部になるという約束を、誰の利益とどんな保全に結び付けるのか。その答えは、受賞式の後に地域で書かれる。

出典・資料

  1. 「地域の滞在プランコンテスト2026」事務局発表、2026年8月31日(運営主体、農水省交付金事業、6件の部門賞、グランプリ、受賞団体、企画概要)
  2. 一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会「2026年度 地域の滞在プランコンテスト グランプリ受賞!!」(正式な企画名、2泊3日、宿泊地、農作業・食肉加工・しめ縄・伝統食・住民交流、受賞後の支援)
  3. 農林水産省「農泊の推進について」(農泊の公式定義、地域資源、地域所得、関係人口、支援政策)
  4. 南丹市美山観光まちづくり協会「法人概要」「持続可能な農泊モデル地域」2025年度コンテスト受賞資料(1970年代以降の沿革、協会設立、2017年からの連携、2024~25年の事業)
  5. 文化庁「南丹市美山町北」保存活用事例美山観光メディア向け基本情報観光庁のベスト・ツーリズム・ビレッジ発表(地名の読み、保存地区、景観・防災、現在の地域情報、2021年の国際選定)
  6. 環境省「里地里山とは」(里地里山の構成、人の働きかけ、資源循環、生物多様性、過疎化・高齢化による課題)

取材・検証は2026年9月1日午後11時30分(日本時間)までに確認できた日本語一次資料に基づく。南丹市(なんたんし)、美山町(みやまちょう)、美山町北(みやまちょうきた)、受賞団体名、企画名、制度名と農泊・里地里山の専門用語を公式資料で照合した。主催者、受賞団体、住民、審査員の直接談話は確認できず、引用は掲載していない。主催者や協会が説明する事業目的と、Japan.co.jpによる成果検証の提案は明確に区別した。

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