金色の名前が二つ、銀色の名前が二つ並んだ。灘高等学校2年の川上嘉久(かわかみ・よしひさ)さんと奥村太紀(おくむら・たいき)さんが金メダル。東京都立桜修館中等教育学校6年の中山柚佳(なかやま・ゆずか)さんと神戸女学院高等学部3年の堤くらら(つつみ・くらら)さんが銀メダルを獲得した。
文部科学省が8月31日に公表した。第19回国際地学オリンピック(IESO)は8月20日から27日までイタリア北部のトリノで開かれ、39か国・地域から151人が参加した。日本代表4人は全員、成績を受けて文部科学大臣表彰の対象となった。
「4人全員メダル」は、国別対抗戦で日本が表彰台を独占したという意味ではない。メダルは個人成績に応じて授与され、文科省によれば金は参加者のおよそ10%、銀は次の20%、銅は次の約30%が目安だ。日本の順位や4人の得点は、同省と地学オリンピック日本委員会の発表には記されていない。
金2、銀2は「国別順位」ではない
受賞者のうち、川上さんと奥村さんは同じ灘高の2年生だ。国内本選では奥村さんが総合1位の茨城県知事賞と岩石・化石鑑定の特別賞、川上さんが総合2位のつくば市長賞を受けていた。堤さんは女性総合1位の日本地球惑星科学連合賞を受賞。中山さんを含む4人はいずれも本選成績上位10人の金賞に入り、その後の代表選抜を通過した。
| 氏名(読み) | 学校・学年 | 国際大会 | 2026年国内本選 |
|---|---|---|---|
| 川上 嘉久 かわかみ・よしひさ | 灘高等学校 2年 | 金メダル | 総合2位・つくば市長賞 |
| 奥村 太紀 おくむら・たいき | 灘高等学校 2年 | 金メダル | 総合1位・茨城県知事賞、岩石・化石鑑定特別賞 |
| 中山 柚佳 なかやま・ゆずか | 東京都立桜修館中等教育学校 6年 | 銀メダル | 金賞・代表選抜出場 |
| 堤 くらら つつみ・くらら | 神戸女学院高等学部 3年 | 銀メダル | 女性総合1位・日本地球惑星科学連合賞 |
学年は大会時点。代表決定が発表された2026年3月には、それぞれ一つ下の学年で記録されている。氏名の読みと学校名は、日本委員会の代表選抜ページと文科省発表を照合した。本人や学校による談話は確認できなかったため、記事中に感想や発言を補っていない。
理論と実技、協働は成績対象外
大会日程の芯は二つの個人試験だった。文科省が公表した日本代表団の日程は、8月24日に筆記の理論試験、25日に実技試験を置く。日本委員会が掲げる国際大会の領域は、地質・固体地球科学だけではない。気象、海洋、天文、環境を含み、観察したデータを地球規模の循環や相互作用へ結び直す力を試す。
一方、会期には国籍を混ぜたチーム活動も組み込まれた。地球システムプロジェクト(ESP)は国際チームで地球システムを調査し、ポスターで発表する。国際協力野外調査(ITFI)は現地で調べた結果をまとめ、発表する。文科省は2026年大会について、いずれも個人メダルの成績対象外と明記している。
成績に入らないから、付け足しというわけではない。IESOの目的には、優れた生徒の発掘と学習促進に加え、地学と地学教育の国際交流・協力が置かれている。答えを一人で出す試験と、言葉や学習背景の異なる仲間と調査を組み立てる活動を同じ会期に置くことが、この大会の設計思想である。
文科省が公表した日本代表団の8日間
- 8月20~21日:到着、交流、開会式、ESP準備。
- 22~23日:ITFI現地調査と、二つの国際チーム課題の準備。
- 24日:理論試験とESP発表。
- 25日:実技試験。
- 26~27日:ITFI発表、閉会式。
214人の予選通過者から4人へ
トリノへの道は、前年9月に始まっていた。第18回日本地学オリンピックは2025年9月1日から11月15日まで募集し、12月21日に自宅から受ける択一式オンラインの一次予選を実施した。214人が二次予選の対象となり、翌1月、全国の指定会場で90分のマークシート試験に臨んだ。
二次予選後、63人と中学1、2年生のチャレンジ受験3人が3月15~17日の本選へ進んだ。本選はつくば市で記述試験と標本鑑定を行う。上位10人の金賞受賞者が、最終日の代表選抜で英語による集団討論や面接を受け、4人に絞られた。
代表決定後も試験勉強だけでは終わらない。日本委員会の標準日程では4~8月に通信研修、5月に日本・台湾・韓国の合同研修「アースサイエンス・フェスティバル」、7月につくば研修を行う。知識、標本を見分ける目、英語で議論する力、国際チームで働く準備を別々の段階で重ねる仕組みだ。
地学は「石の名前」だけではない
日本の学校で「地学」と呼ばれる領域は、足元の岩石から大気、海、太陽系までを横断する。地震や火山を扱う固体地球科学、化石と地球史、天気をつくる大気、海洋循環、天体の運動は、教科書では章に分かれていても、現実の地球では結び付いている。
豪雨は大気の問題であると同時に、地形、河川、斜面、堆積物、土地利用の問題でもある。火山噴火は地下のマグマだけでなく、大気や航空、海洋、長期の気候へ影響し得る。IESOが「Earth System」を掲げるのは、個別分野の知識を相互作用の説明へ変えるためだ。
ただし、メダルをそのまま日本の地学教育全体の強さと読むことはできない。代表は多段階の選抜と専門研修を経た4人であり、全国の履修率、教員配置、実験・野外学習の機会を測る標本ではない。今回の成果が示すのは、育成経路を通った4人が国際水準の個人試験で高い得点帯に入ったことまでである。
2008年初参加、2016年三重、そしてトリノ
IESOは国際地学教育機構(IGEO)の主要活動として創設され、2007年に韓国で第1回大会が開かれた。日本は翌2008年のフィリピン大会から選手を送り、2026年が18回目の参加となる。2020年は新型コロナウイルス禍で中止され、2021~23年はオンライン開催が続いた。
日本は2016年、第10回大会を三重県で開催した。日本委員会の記録では26か国・地域から100人が参加し、日本代表は金3、銀1。2019年の韓国大会では4人全員が金、2024年の北京大会では金2、銀2、2025年の中国・済寧大会では銀4だった。トリノの金2、銀2は、対面大会復帰後の2024年と同じ内訳である。
2007年 第1回大会を韓国で開催。日本地学オリンピックも始動。
2008年 日本が国際大会へ初参加。銀3、銅1。
2016年 第10回大会を三重県で開催。日本は金3、銀1。
2020年 新型コロナウイルス禍で国際大会中止。
2024年 北京で対面大会へ復帰。日本は金2、銀2。
2026年 トリノで金2、銀2。日本の参加は18回目。
2027年 第20回大会を島根県松江市で開催予定。
次は松江――メダルの先を問う
次の舞台は日本だ。第20回国際地学オリンピック日本島根大会は、2027年8月23~28日に松江市で開かれる予定。日本での開催は2016年の三重大会以来11年ぶりとなる。代表選考を兼ねる第19回日本地学オリンピックは、9月1日に募集を始めた。
開催国には、問題を作り、野外調査を安全に運営し、多言語の参加者を受け入れる仕事がある。島根には地質、沿岸、地形、地球史を現地で考える題材があるが、2027年大会でどの場所や課題を使うかは、確認した公式資料の範囲では確定していない。開催地の特徴から出題内容を先回りして断定すべきではない。
トリノの4枚は明快な成果だ。それでも大会が残す価値は、色と枚数だけでは測れない。全国から挑戦できる入口、標本に触れる場、英語で科学を議論する訓練、卒業後も続く国際的なつながり。松江大会が問われるのは、表彰式の翌日にもそうした基盤が残るかどうかである。
出典・資料
- 文部科学省「国際地学オリンピックに参加した生徒が金メダル等を獲得しました」、2026年8月31日(受賞者の氏名・読み、学校・学年、メダル、参加規模、日程、試験・国際協働、表彰)
- 第19回国際地学オリンピック・トリノ大会公式サイト(開催都市、回次、大会趣旨)
- NPO法人地学オリンピック日本委員会「2026年 国際地学オリンピック 日本代表」(代表4人の正式表記、読み、2026年3月時点の学年、選抜)
- 同「第18回 日本地学オリンピック」(一次・二次予選、本選、国内受賞歴、214人・63人・チャレンジ3人、代表選抜)
- 同「国際地学オリンピックとは」(IGEO、開催史、国内選抜と代表研修の標準的な流れ)
- 同「国際地学オリンピック・大会データ」(2008~2025年の参加規模と日本代表のメダル記録、2016年三重大会、オンライン大会)
取材・検証は2026年9月1日午後11時15分(日本時間)までに確認できた資料に基づく。4人の氏名、読み、学校名、学年、表彰名、専門用語は文部科学省とNPO法人地学オリンピック日本委員会の日本語一次資料で照合した。本人談話は確認できず、引用は掲載していない。個人得点・総合順位、国別順位、2026年の詳細な試験問題は公表資料で確認できないため記述していない。ESPとITFIは文科省の明記に従い、個人メダルの成績対象外として区別した。
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