地震は一瞬で設備を止める。だが、保険金や補助金が入るまでの時間にも、賃金、家賃、仕入れ代、既存借入の返済日は来る。被災した小さな会社にとって、復旧の最初の問いは「いくら損をしたか」だけではない。「売上が戻る前に、現金が尽きないか」である。

政府が8月25日に閣議決定した追加措置は、その時間を買うための信用を厚くする。対象は熊本県の八代市(やつしろし)、宇城市(うきし)、上益城郡御船町(みふねまち)、同郡嘉島町(かしままち)、八代郡氷川町(ひかわちょう)の5市町。中小企業信用保険法による「災害関係保証」が、通常の保証とセーフティネット保証4号とはさらに別枠で設けられる。

ただし、日付と制度の言い方には注意が要る。令和8年熊本地震そのものは、公共土木施設や農地などの復旧を対象とする激甚災害として8月7日にすでに指定、公布・施行された。8月25日に決まったのは、その政令へ激甚法第12条の「中小企業に関する特別の助成」を追加する改正である。政令の公布・施行は8月28日の予定だ。

最重要の注意:「100%保証」は、国や信用保証協会が借入金をくれる制度ではない。金融機関に対する信用保証の割合であり、事業者には全額返済の義務が残る。保証承諾と融資は自動ではなく、自治体の証明、保証協会と金融機関の審査が必要になる。

7月28日午後4時27分、震度7が戻った

気象庁が「令和8年熊本地震」と命名した地震は7月28日午後4時27分に発生した。震源は熊本県熊本地方、深さ16キロ、マグニチュード7.1はいずれも暫定値。宇城市と氷川町で震度7、熊本市、八代市、宇土市、美里町、益城町、嘉島町で震度6強を観測した。

内閣府の8月21日午前10時時点の速報では、八代市20人、宇城市3人、嘉島町7人、甲佐町1人、氷川町5人の計36人が死亡した。これとは別に、災害による負傷の悪化や身体的負担による疾病で死亡した可能性がある人が1人、災害との関連を調査中の人が1人いる。数字は今後変わり得る。

5市町災害関係保証と日本公庫の特別金利措置の対象地域。
最大2億8000万円災害関係保証の上限。普通保証2億円、無担保保証8000万円。
21市町村災害救助法が適用され、セーフティネット保証4号の指定対象となる地域。
8月28日中小企業向け特例を追加する改正政令の公布・施行予定日。

同日時点で避難者は2943人、断水は約4300戸。最大約10万8100戸の断水、4万8530戸の停電が生じ、九州新幹線は熊本―新水俣間で構造物の変状が600カ所以上、軌道の変状が約300カ所報告された。店が倒壊しなくても、従業員が避難し、水が出ず、道路や鉄道が細り、客足が消えれば、売上は止まる。

「三つの別枠」は、三つの財布ではない

今回の追加で、適格な事業者には理論上、一般保証、セーフティネット保証4号、災害関係保証という三つの保証枠が並ぶ。災害関係保証は最大2億8000万円で、内訳は普通保証2億円、無担保保証8000万円。いずれも信用保証協会が金融機関からの借入れを100%保証する。

100%という数字は、金融機関が貸し倒れ時に保証協会から受ける保証割合を指す。事業者の自己負担がゼロになる割合ではない。金利、返済、保証料があり、金融機関と保証協会は、被害状況、事業再開の可能性、資金使途、返済力、既存債務を見て判断する。保証限度額を三つ足した金額が自動的に借りられるわけでもない。

政府資料にはもう一つ80%という数字が出る。これは信用保証協会が日本政策金融公庫の信用保険から損失の補塡を受ける割合で、事業者に対する100%保証とは階層が違う。二つを混ぜると、制度の説明が逆になる。

制度主な対象規模・条件何が違うか
セーフティネット保証4号災害救助法適用の21市町村で、地震の影響による売上減少などについて市町村長の認定を受けた中小企業一般保証と別枠で最大2億8000万円、保証割合100%建物の直接損壊だけでなく、売上減少が中心。7月29日から始まった支援の一つ。
災害関係保証5市町に事業所があり、事業所または主要な事業用資産の被害について市町村長等の証明を受けた中小企業一般保証・4号保証とさらに別枠で最大2億8000万円、保証割合100%8月25日閣議決定、改正政令は28日施行予定。直接被害と地域が鍵。
日本政策金融公庫・災害復旧貸付地震で直接または間接の被害を受けた中小企業・小規模事業者国民生活事業は各制度に3000万円上乗せ、中小企業事業は別枠1億5000万円公庫による直接融資。5市町で所定の直接被害証明がある場合、1000万円まで融資後3年間0.9ポイント引下げ。
熊本県・金融円滑化特別資金県内で罹災・被災証明がある事業者、または売上高・売上総利益率・営業利益率の低下か低下見込みがある事業者1企業8000万円、10年以内・据置2年以内、保証料は県補助後0%8月24日申込開始。直接被害と間接被害の双方に入口を設ける県制度。
県・小規模事業者おうえん資金保証付き融資残高との合計が2000万円以下になる小規模企業者限度2000万円。設備7年以内、運転5年以内。保証料は県補助後0%小さな事業者の借入規模に合わせた設計。

21市町村の地図と、5市町の地図

制度選びを難しくするのは、同じ地震でも対象地域が同じではないことだ。災害救助法は熊本市、八代市、水俣市、山鹿市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、天草市、合志市の10市、美里町、大津町、菊陽町、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、氷川町、芦北町、津奈木町の10町、西原村の1村に適用された。セーフティネット保証4号はこの21市町村を対象とする。

一方、法第12条の災害関係保証は、被害額などの局地激甚災害の基準に達した5市町に限られる。震度6強だった熊本市や益城町でも、この追加保証の対象地域ではない。反対に、5市町の中でも、所在地だけで無条件に使えるわけではなく、事業所か主要な事業用資産の罹災証明が必要になる。

この線引きは、間接被害を軽視してよいという意味ではない。ホテルの建物が無事でも予約が消え、飲食店の厨房が使えても断水で営業できず、部品メーカーが再開しても道路が切れれば納品できない。直接損壊の証明が難しい事業者は、売上の落ち込みを要件とする4号保証や、熊本県の地震枠を検討する方が制度に合う場合がある。

制度名から選ぶのではなく、被害を二つに分ける。建物・機械の「直接被害」と、休業・客数減・供給網停止の「間接被害」。入口となる証明が違う。

借りる前に、返済を止められるかを聞く

新しい融資は目立つ。しかし、すでに毎月100万円を返済している会社に1000万円を追加で貸せば、現金は増える一方、将来の返済も増える。復旧期間が長引けば、新規融資だけでは再建を遠ざけることもある。

金融庁、財務省、厚生労働省、中小企業庁は7月31日、金融機関に対し、提出書類を必要最小限にし、審査を迅速化し、既存融資の返済猶予など貸付条件の変更へ柔軟に対応するよう要請した。手形・小切手の不渡り処分への配慮や、経営再建計画の策定支援も求めている。

事業者側は「追加でいくら借りられるか」を尋ねる前に、元金据置、返済期間の延長、短期借入の組み替えを含め、毎月の現金流出をどこまで下げられるかを取引金融機関へ相談したい。条件変更を申し出ることは、直ちに事業を諦めることではない。災害で失われた時間を資金繰り表へ正直に反映させる作業である。

相談前にそろえたい五つのもの
  1. 被害の記録:片付け前の写真・動画、修理見積書、在庫表、機械番号。安全確保を優先する。
  2. 公的証明:所在地の市町村に罹災証明・被災証明・セーフティネット保証4号認定のどれが必要か確認する。
  3. 13週間の資金繰り:週ごとの入金、賃金、家賃、仕入れ、税・社会保険、返済を並べる。
  4. 再開の段階:仮営業、部分稼働、本稼働の費用と時期を分ける。
  5. 相談の同時進行:取引銀行、熊本県信用保証協会、日本政策金融公庫、商工会・商工会議所に同じ数字を持ち込む。

県の三資金は「売上が落ちる見込み」も見る

熊本県は国の追加措置に先立ち、8月24日から三つの新資金の申込みを始めた。中心となる「金融円滑化特別資金(令和8年熊本地震枠)」は、罹災証明か被災証明を持つ事業者に加え、申込日から1年以内の連続3カ月の平均売上高、平均売上総利益率、平均営業利益率が前年同期より下がった、または下がる見込みの事業者を対象にする。

限度額は1企業8000万円、1組合1億円。期間は10年以内、据置は2年以内で、固定金利は期間に応じ年1.50%から2.20%以内。信用保証料は県の補助後0%になる。4号認定を受ける事業者向けには別枠8000万円の「セーフティネット保証対応枠」があり、小規模事業者向けには限度2000万円の「おうえん資金」がある。

保証料0%は、金利0%を意味しない。県の制度融資は取扱金融機関を通じて申し込み、審査を受ける。金利、据置期間、担保、経営者保証、繰上返済条件を横に並べ、日本公庫の直接融資や民間融資と比べなければ、表面上の「別枠」だけでは最適解は決まらない。

2016年、融資の先にあった「生業の再建」

熊本で震度7を経験するのは、今回が初めてではない。平成28年(2016年)熊本地震では、4月14日と16日の二度、最大震度7を観測した。内閣府の5年後の総括では、災害関連死を含む死者は273人、住家被害は19万8000棟を超えた。

当時も、一般保証とは別枠のセーフティネット保証と災害関係保証、政府系金融機関の災害復旧貸付が資金繰りを支えた。その後は、複数の中小企業が復興事業計画を作る「中小企業等グループ補助金」によって、被災した施設・設備の復旧費も支援された。内閣府の5年特集は、こうした施策を通じ、2021年9月末時点で企業の事業再建が99.7%完了したと報告している。

この歴史は、融資が不要だったことを示さない。復旧の初動で必要な運転資金と、後に設備損失を埋める補助は、時間も用途も違う。同時に、今回の災害関係保証だけで設備費が補助されるわけではないことも示す。信用は橋であり、損失の最終的な負担を消すものではない。

2016年4月14・16日 平成28年熊本地震で二度の震度7。資金繰り支援とグループ補助金が段階的に導入された。

2026年7月28日 令和8年熊本地震。宇城市と氷川町で震度7。

7月29日 国が特別相談窓口、災害復旧貸付、セーフティネット保証4号など五つの初動措置を公表。

8月7日 公共土木、農地、共同利用施設などを対象に激甚災害指定の政令を公布・施行。

8月24日 熊本県の三つの新資金が申込開始。

8月25日 5市町への災害関係保証追加を閣議決定。日本公庫は金利引下げ措置を開始。

8月28日 改正政令の公布・施行予定。

保証件数より、再開までの日数を追う

政策の速さは評価できる。発災翌日に初動の五施策が示され、1カ月以内に県融資と局地的な追加保証まで重なった。だが、制度を発表したことと、事業が戻ったことは同じではない。

今後公表すべきなのは、相談窓口の設置数だけではない。罹災証明の申請から交付までの日数、保証申込から承諾までの日数、融資実行額、据置・条件変更の件数、業種別・市町村別の利用状況、不承諾や申請取り下げの理由が要る。6カ月後、一年後には、営業再開、雇用、売上、廃業を追う必要がある。

保証が厚いほど金融機関のリスクは軽くなる。その分、被災前から返済余力が弱かった企業へ、再建可能性を十分に見ずに債務だけを重ねる危険もある。金融庁が単なる資金繰りにとどまらず、経営課題の解決と再建計画の支援を求めたのは、このためだ。撤退、事業譲渡、共同店舗、設備の共有まで含め、借りること以外の選択肢を示す支援も必要になる。

被災した経営者が最初に持つべきものは、完璧な申請書ではない。被害を残す写真と、向こう数週間の現金の見通し、そして「返済をいったん止めたい」と言える相談先だ。8月28日に増える三つ目の別枠が真に効くかどうかは、保証額の大きさではなく、その橋を渡った先で店、工場、宿がもう一度収入を生むかで決まる。

調査・出典

編集注:8月25日の政府発表を、地震全体の新規「激甚災害指定」とは表現せず、8月7日に施行済みの政令へ中小企業向け措置を追加する改正として整理した。改正政令は本稿公開翌日の8月28日に公布・施行予定であり、本稿は施行済みとは記していない。人的・住家・ライフライン被害は8月21日午前10時現在の速報で、今後修正され得る。市町村名の読み、制度名、対象範囲、保証限度額、金利引下げ幅は上記の日本語一次資料で照合した。表示為替の2026年8月25日午後7時48分UTCは、日本時間の8月26日午前4時48分に換算した。為替は読者向け参考情報で、本文の数値計算には使用していない。