町を一度訪れる理由はつくりやすい。祭り、農作業、サーフィン、企業研修。難しいのは、帰った人がもう一度来る理由と、戻ってきたときの居場所を用意することだ。空いている部屋があっても、鍵を渡すだけでは関係は続かない。地域の誰と会い、何を手伝い、どんな仕事ができ、次はどこに住むのか。その間をつなぐ人と採算が要る。

北海道胆振地方の厚真町(あつまちょう)で8月25日に設立された株式会社つぎては、その「間」を会社にした。株主は、地域事業を手がける株式会社さとゆめ、厚真町、町内で福祉・交流・宿泊施設に関わる株式会社クーバル、農業と民泊を展開する株式会社のやすべ。所在地は上厚真18番地1、代表取締役はさとゆめの嶋田俊平(しまだ・しゅんぺい)氏、資本金は180万円である。

会社発表による主な仕事は三つ。町が整えるマルチハビテーション住宅などの管理と予約対応、来訪者を町民・事業者・地域活動・仕事へつなぐコンシェルジュ、そして住まい相談や空き家の活用を含む不動産活用・仲介である。順番にすれば「滞在する」「地域とつながる」「活動・居住を続ける」。さとゆめは、二地域居住を目的とする官民共同出資会社として道内初だとしているが、この「初」は同社の発表に基づく。

言葉の整理:二地域居住は、移住の言い換えではない。厚真町は「普段の生活拠点とは別の地域にも住まいや生活拠点を持つ暮らし」と説明し、三つ以上の地域を行き来する場合も含める。住民票を厚真へ移すことは前提ではない。

人口を「所有」せず、役割を分け合う

厚真町の人口は2026年7月末で4253人、2188世帯。町の特定居住促進計画によると、2015年国勢調査の4776人から2020年は4265人へ、5年間で511人、約11%減った。2020年の65歳以上の割合は約35%だった。人手不足は人数だけでなく、行政のデジタル化、企業のマーケティング、新規事業づくりに必要な専門性の不足として表れる。

そこで町が掲げた言葉が「活躍人口」だ。厚真に住んでいるかを問わず、労働、消費、投資を通じて町に貢献する人を数える。転入届だけを成果にすると、人口が減る自治体同士が同じ人を奪い合う。二地域居住なら、都市での仕事や家族生活を保ちながら、別の町でも役割を持てる。新千歳空港から車で約35分、札幌から約90分という距離は、毎日の通勤には遠くても、月に数日を重ねるには現実的だ。

4253人2026年7月末の厚真町人口。世帯数は2188。
180万円株式会社つぎての資本金。株主は町と民間3社。
30人 → 200人町が置く二地域居住者の累計目標。2026年度30人、2029年度200人。
3つの接続施設運営、コンシェルジュ、不動産活用・仲介。

ただし、計画上の「二地域居住者」は自己申告のファン全員ではない。町外に住民登録があり、ふるさと町民の認定を受け、関係人口アプリ「ATSUMA LOVERS」に登録し、年に複数回、町の施設を使うか地域活動へ参加する人だ。累計目標は2025年度20人、2026年度30人、27年度60人、28年度120人、29年度200人。200人は町人口の5%に相当すると計画は置く。

この定義には利点がある。SNSの「いいね」や資料請求ではなく、繰り返し行動した人を測れる。一方、登録制度に入らず継続して関わる人を見落とす。反対に、認定者数だけ伸びても、町内で生まれた仕事、売上、担い手、住民との信頼が増えなければ「活躍」の中身は薄い。

二地域居住の成果は、何人を町へ「取ったか」ではない。一人の時間、技能、支出を、地域とどう長く分け合えたかで決まる。

ベッド、仕事、仲間を同じ入口へ

二地域居住が途切れる場所は予測できる。宿の予約先は分かっても、長く滞在できる住宅がない。リモート会議はできても、町内で技能を使う相手が見つからない。地域活動へ参加したくても、誰に連絡すればよいか分からない。空き家は見えるのに、所有者、改修費、契約、管理の調整が進まない。

つぎての三事業は、これを一つの利用者動線にする設計だ。施設運営で最初の接点を持ち、コンシェルジュが人と仕事へつなぎ、不動産部門がより長い滞在を支える。町の2026年3月計画は、旧本郷かしわ団地A~C棟を2026~28年度に改修し、新町のマルチハビテーション住宅、上厚真シェアサテライトオフィス、2027年度完成予定の文化交流施設などを拠点に挙げる。つぎての本店住所は、同計画にある上厚真シェアサテライトオフィスと同じ上厚真18番地1だ。

計画には、会社の前身にあたる「まちづくり会社準備室」が地域プロデューサーとして、アプリの運用、相談、サービス開発、人材マッチング、不動産情報、施設管理、体験ツアー、企業研修をつなぐ姿が描かれている。8月の会社発表は、その広い構想から施設、コンシェルジュ、不動産の三本を前面に出した。空き家活用は「需要や事業性を検証しながら段階的に事業化を検討する」とされ、すぐ仲介物件が並ぶという発表ではない。

事業会社発表の役割成功を測る指標実行上の注意
施設の管理運営マルチハビテーション住宅等の案内、予約、滞在支援稼働率、再訪率、平均滞在日数、維持費を含む収支公的施設の利用条件と料金が、住民と来訪者の双方に公平か
コンシェルジュ町民、事業者、活動、仕事、研修・視察とのマッチング成立した仕事、継続案件、地域側の収入、双方の満足度無償ボランティアへの依存や、受け入れ側の見えない負担を避ける
不動産活用・仲介住まい相談、物件情報、空き家活用の段階的な事業化市場に戻した住宅、改修費、契約期間、空室率所有権、改修責任、免許、管理、地元住民の住宅需要を先に整理する

2016年の起業家募集、2018年の地震

つぎては、突然現れた「地方創生」の器ではない。厚真町は2016年からローカルベンチャースクールを通じ、地域おこし協力隊制度を使う起業家候補を受け入れてきた。2026年4月27日時点の町資料では、2017年度以降に起業型隊員29人を委嘱し、19人が町内で起業、21人が定住している。馬搬、製材、食品加工、パン、森林コンサルティング、映像、飲食、コーヒー焙煎まで分野は広い。

その途中の2018年9月6日、北海道胆振東部地震が起きた。内閣府の2019年1月28日時点集計によると、死者42人のうち36人が厚真町で亡くなり、町内の住宅222棟が全壊、308棟が半壊、1045棟が一部損壊した。山腹崩壊の風景だけでなく、人口と暮らしの選択を変えた災害だった。

震災から4カ月後の町広報は、町民、働く人、買い物をした人、ボランティア、ふるさと納税者、町を気にかける人までを「ATSUMA LOVERS」と呼んだ。被災地を「支援する人」と「支援される住民」に分けず、関わる全員を同じ言葉で包む試みだった。現在のアプリと認定制度は、災害直後に生まれたその関係の言葉を、継続的な制度へ組み替えている。

2016年 ローカルベンチャースクールが始まり、外から来る起業家の受け入れを本格化。

2018年9月6日 北海道胆振東部地震。厚真町で36人が死亡。

2019年1月 町広報が「ATSUMA LOVERS」を、厚真に関わる全ての人の合言葉として紹介。

2024年11月1日 二地域居住を初めて法律上定義した改正法が施行。

2025年7月 厚真町が「ふるさと町民認定制度」を施行。

2026年3月31日 厚真町特定居住促進計画を改定。

2026年8月25日 町と民間3社が株式会社つぎてを設立。

国の制度が「住まい・なりわい・コミュニティ」を束ねた

二つの地域で暮らす人は以前からいた。変わったのは、国がそれを政策の周辺ではなく、法律の中に置いたことだ。2024年5月22日に公布された改正広域的地域活性化基盤整備法は、同年11月1日に施行された。国土交通省によると、法律で二地域居住の概念を定義したのは初めてである。

制度の要点は三つある。市町村が特定居住促進計画を作る仕組み、住まい・なりわい・地域交流を支える法人を市町村長が指定する仕組み、行政、住民、事業者らが協議する仕組みだ。厚真町は法律第22条第5項に基づいて計画を改定し、さとゆめを含む6社を「特定居住支援法人」に指定している。

ここで行政の役割が消えるわけではない。民間会社に入口を任せても、土地利用、公有施設、補助、住民の意見、個人データ、公平な契約は町の責任に残る。むしろ、住民票も選挙権も町内にない人を政策対象にするほど、誰に便益が届き、誰が費用を負担するかの説明は重要になる。

官民会社は「便利な委託先」では足りない

厚真町が6月24日の全員協議会に示した資料は、会社を「かじ取り役」と位置づけた。行政だけではノウハウと職員の確保に限界があるため、町と企業が共同出資するという説明だ。条例案の構成には、会社が毎事業年度後に事業報告書と決算書を町長へ提出し、経営に重大な事案があれば直ちに報告する仕組みも含まれていた。

だが、8月25日時点で公表された会社概要には、4株主の出資比率、役員全体、初年度予算、町からの委託契約、施設管理料、利用開始日、料金表、売上目標は見当たらない。資本金180万円は設立時の資本を示すだけで、年間の事業規模ではない。小さな資本金それ自体が問題なのではなく、公共目的の事業が何で稼ぎ、どこまで税金で支えられ、赤字時に誰が責任を負うかがまだ見えないことが課題だ。

6月資料は旅行・マーケティング、ツアー、宿泊運営も主な事業に置いたが、設立発表の会社概要は三事業を列挙し、旅行事業を主な事業として明記していない。計画が段階化されたのか、発表上の整理なのかは説明されていない。官民連携の強みは意思決定の速さにある。弱みは、行政の資料と会社の発表の間で責任範囲がぼやけやすいことにある。

公開すべき「つぎて」の経営ダッシュボード
  • 入口:問い合わせ数、施設稼働率、初回来訪者の構成。
  • 継続:6カ月・12カ月の再訪率、平均滞在日数、認定者数。
  • 地域への価値:成立した仕事、町内事業者の売上、支払われた報酬、空き家の再利用。
  • 住民側の負担:受け入れ時間、無償労働、苦情、住宅や公共施設への影響。
  • 経営:委託料、利用料、民間売上、補助金、部門別収支、役員報酬と関連当事者取引。

「第二のふるさと」を、安い労働力にしない

町のサイトは来訪者を「お客様」ではなく「仲間」として迎える。魅力的な言葉だが、仲間という呼び名は契約の代わりにならない。地域イベントや農作業を手伝う人が、学びや友情を得ることはある。それでも、反復的で事業価値を生む仕事なら、誰の労働で誰が収益を得るのかを明確にし、報酬を検討すべきだ。

逆方向の配慮も要る。都市の専門家を招けば、地域の課題が自動的に解けるわけではない。町民が何度も説明し、日程を合わせ、人間関係の摩擦を引き受ければ、受け入れそのものが新しい仕事になる。コンシェルジュの価値は来訪者の満足だけでなく、地域側の調整コストを減らすことにある。

住宅では、空き家と「すぐ住める家」は同じではない。相続登記、家財、断熱、水回り、耐震、冬季管理、所有者の意向を解く必要がある。二地域居住者向けに改修した住宅が、地元の若者や子育て世帯の選択肢を狭めれば支持は続かない。町内需要と町外需要を別々に公開し、短期滞在、中期賃貸、定住用の配分を検証する必要がある。

成功は「200人」の先にある

つぎての名前は、材と材をつなぐ「継ぎ手」を思わせる。会社は人と住まい、町内と町外、一泊と長い関係を接続しようとしている。代表の嶋田氏は、2022年から厚真へ通って感じたのは「挑戦を応援する土壌」だとコメントした。宮坂尚市朗(みやさか・しょういちろう)町長は、震災復興の中で「人が人を呼ぶ」循環を育ててきたと述べた。いずれも会社設立時の当事者コメントであり、成果の証明はこれからだ。

測るべきは登録者200人を達成したかだけではない。町内の誰かが新しい顧客を得たか。人手の足りない事業に適切な技能が届いたか。使われなかった建物が、維持費を賄える住まいへ戻ったか。住民の負担が増えすぎていないか。会社が公費だけでなく、利用者と事業者が価値を認めて払う収入を育てられたか。

厚真はすでに、外から来る起業家を受け入れ、災害のあとに町を気にかける人を「LOVERS」と呼び、移住だけではない関係を言葉にしてきた。つぎてはその歴史を、予約表、契約、収支、仕事の紹介という日常業務へ落とす会社である。橋は架けた瞬間ではなく、何年も安全に渡られたときに価値が分かる。二地域居住も同じだ。

取材・一次資料

編集注:「道内初」は株式会社さとゆめの発表に基づき、独立した全道調査で確認できていないため、本文でも発表主体を明記した。会社・役職・事業名は設立発表、町計画、各社公式情報と照合し、嶋田俊平氏の読みは、さとゆめ公式人物紹介のローマ字表記から確認した。株式会社クーバルについて、設立発表本文の会社代表者表記と式典写真説明の出席者肩書に相違があるため、個人名を用いた同社代表者の特定は本文で避けた。人口は町公式サイトの2026年7月末値、2015・2020年は国勢調査を引用する町計画の値で、異なる時点・統計系列を混同していない。引用符内の日本語は設立発表の原文、それ以外は要約。表示為替の2026年8月25日午後7時48分UTCは、日本時間の8月26日午前4時48分に換算した。為替は読者向け参考で、本文の円額換算には用いていない。