しょうゆ、めんつゆ、食酢、冷凍食品、チーズ、バター、菓子、清涼飲料——9月の食品売り場では、日常的に手に取る商品の価格改定が一斉に重なる。帝国データバンクが主要食品メーカー195社の発表を集計したところ、家庭用を中心とする飲食料品の値上げは4,923品目。2026年の単月として最多で、前年9月の1,467品目の3倍を超える。

1回あたりの平均値上げ率は11%。4,000品目を超えるのは2025年4月以来1年5カ月ぶりで、調査が遡る2022年以降では4番目に多い。首位は2022年10月の7,864品目、次いで2023年2月の5,639品目、同年4月の5,404品目である。9月の波は異例に大きいが、ロシアによるウクライナ侵攻後に起きた最初の価格ショックの頂点には届かない。

4,923の意味: これは全国すべての食品、店舗、値札を数えた政府統計ではない。主要195社が公表した商品単位の改定計画で、同じ商品が年内に再値上げされれば別に数える。価格を据え置いて内容量を減らす「実質値上げ」も含む。実際の店頭価格と反映日は、小売店の判断、在庫、納品・出荷条件によって異なる。
4,923品目主要食品メーカー195社が9月に予定する値上げ。2026年の単月最多
平均11%1回あたりの平均値上げ率。各社が発表した時点の最大値を用いた集計
77%調味料1,959品目と加工食品1,848品目が9月全体に占める割合

食卓の「土台」に集中する値上げ

最も多いのは調味料の1,959品目で、全体の39.8%を占める。マヨネーズ、ドレッシング、しょうゆ、つゆ、食酢など、家庭で繰り返し使う基礎的な商品が広く含まれる。加工食品は1,848品目、37.5%。冷凍食品、チルド食品、すり身製品などが中心で、3カ月連続して1,000品目を超えた。

続くのは酒類・飲料466品目、乳製品278品目、菓子272品目、パン100品目。原材料カテゴリーは9月にはゼロだが、年間では小麦粉や精製糖など624品目の改定が判明している。日々の料理に少量ずつ使う調味料は、1回の購入額が大きくなくても、複数の商品が同時に上がると家計の基準線を静かに押し上げる。

分野9月の品目数全体に占める割合主な対象
調味料1,95939.8%しょうゆ、つゆ、食酢、マヨネーズ、ドレッシングなど
加工食品1,84837.5%冷凍食品、チルド食品、すり身製品など
酒類・飲料4669.5%清涼飲料水、焼酎など
乳製品2785.6%バター、チーズ、育児用ミルクなど
菓子2725.5%ポテトチップスなど
パン1002.0%家庭用パン製品
合計4,923100%端数処理により割合の合計は一致しない場合がある。

各社の発表に見る「幅」

同じ9月1日でも、改定の内容は会社ごとに違う。キッコーマンは、しょうゆ153アイテムを希望小売価格で5〜9%、つゆ類47アイテムを5〜22%、たれ類47アイテムを6〜11%引き上げる。デルモンテ飲料などを含め、この発表だけで291アイテムに及ぶ。キッコーマンソイフーズも豆乳など56アイテムを約6〜20%引き上げる。

株式会社Mizkanは、家庭用の食酢、つゆ、中華調味料の計67品を約7〜26%引き上げる。森永乳業はアイス15品、家庭用バター1品、家庭用チーズ20品、育児用ミルク17品など計61品を対象とした。カルビーは「ポテトチップス」の一部で店頭想定5〜10%程度の改定を示す。

ここで「希望小売価格」「納品分」「出荷分」「店頭想定」という言葉が重要になる。メーカーは小売店の販売価格を拘束できない。9月1日納品分から新しい卸条件になっても、旧在庫が残る店、特売を続ける店、価格ではなく販促頻度を調整する店がある。4,923という数は価格圧力の広がりを示すが、9月1日のレシートをそのまま予測する数字ではない。

値上げのニュースは「何品目」だけでは読めない。商品数、改定率、内容量、店頭への反映時期——四つを分けて初めて家計への影響が見える。

原料だけではない、六つのコスト

企業の発表で繰り返されるのは、原材料、包装資材、エネルギー、物流、人件費、為替である。キッコーマンは原材料費に加えて包装資材、エネルギー、物流費、人件費の上昇を挙げる。ミツカンも同じ費目を並べ、品質と安定供給を維持するためだと説明する。ヤマキは、原材料から商品を届けるまで「あらゆる工程」でコストが上がっているとしている。これらは各社の説明であり、個別商品の原価内訳を独立に監査した結果ではない。

帝国データバンクの2026年累計の要因集計では、原材料高が90.7%と最も多い。物流費65.7%、エネルギー65.1%、包装・資材63.1%、人件費51.3%と続く。要因は重複するため、合計は100%を超える。円安を明示したものは7.5%だったが、輸入原料や燃料を通じて為替が別の費目に織り込まれる場合もあり、この比率だけで円安の全効果を測ることはできない。

2026年に加わったのが、中東情勢の悪化に伴う原油・ナフサ高だ。石油は工場を動かす燃料だけでなく、食品フィルム、トレー、インク、輸送にもつながる。調査では中東情勢を要因に含む改定が累計の27.8%を占め、帝国データバンクはこれを「中東発インフレ」と表現した。国際情勢が直接食品の原料を変えなくても、容器と物流を通じて値札に届く。

2022年から続く、四つの波

日本の食品価格は長く、値上げを避け、容量や販促で調整する傾向が強かった。農林水産省の資料は、長期のデフレ下で食料の消費者物価が低位に推移した後、2014年ごろから上昇に転じ、2020年以降に急騰したと整理する。メーカーにとって公定の希望小売価格を変えることは、例外から定例へ変わった。

帝国データバンクの系列では、2022年に2万5,768品目、2023年に3万2,396品目が値上げされた。ウクライナ侵攻後の穀物・油脂・エネルギー高と急速な円安が重なった時期である。2024年は1万2,520品目へ減ったが、圧力は消えず、2025年には2万609品目へ再び増えた。

2026年は8月末時点で、1〜11月に予定または実施された1万9,083品目が判明している。加工食品は6,775品目で前年通年より約4割多く、菓子1,336品目、原材料624品目もすでに前年を上回る。一方、年間平均の改定率は13%で、2025年の15%より低い。大幅改定が少数に集中する局面というより、中程度の改定が広い商品群へ波及している姿に近い。

2022年・25,768品目:ウクライナ侵攻後の穀物、油脂、エネルギー高と円安が波及。

2023年・32,396品目:調査開始後の年間最多。2月、4月などに月5,000品目前後の山。

2024年・12,520品目:改定品目は減少したが、価格水準が元に戻ったわけではない。

2025年・20,609品目:調味料、飲料、乳製品、パンを中心に再加速。

2026年・19,083品目:8月末までに判明した1〜11月分。9月4,923品目、10月3,033品目の予定。

4,923品目と物価指数は別のもの

品目数が3倍になったから、食品全体の価格が3倍の速度で上がるわけではない。品目数の集計では、販売額の大きい商品も小さい商品も1品と数える。同じ商品の再値上げは重複し、内容量減も入る。対して総務省の消費者物価指数は、家計が購入する品目に支出ウェイトを付け、実際の小売価格の変化を測る。

最新の全国CPIである2026年7月分では、総合指数が前年同月比1.9%上昇したのに対し、食料は3.5%、生鮮食品を除く食料は3.0%上昇した。菓子類は6.1%、飲料は5.5%で、緑茶は29.2%、ポテトチップスは13.3%上がっていた。これは7月の実績であり、9月の改定をまだ含まない。

家計調査では、6月の二人以上世帯の消費支出が実質で前年同月比3.3%減った。一方、勤労者世帯の実収入は総合CPIで実質化すると2.2%増えた。1カ月の数字から因果は断定できないが、所得が持ち直しても、食品の上昇率が総合物価を上回れば、購入頻度の高い品目で負担感が残りやすい。

Japan.co.jpの分析:家計負担を見る五つの指標

  1. 単価:本体価格ではなく、100グラム・100ミリリットル当たりで比較する。
  2. 容量:価格据え置きでも内容量が減れば、実質的な単価は上がる。
  3. 頻度:調味料のような常備品と、購入頻度の低い商品では年間負担が違う。
  4. 販促:通常価格を据え置いても、特売やポイント還元の減少で実質負担は増える。
  5. 代替:プライベートブランドや容量違いへの移行は、メーカー別の品目数だけでは捉えられない。

次の山は10月、年間2万品目超へ

9月で終わりではない。8月末までに判明した10月の改定は3,033品目、11月は659品目。7〜10月が4カ月連続で2,000品目を超える見通しで、これは2022年6〜10月以来4年ぶりとなる。年間では2年連続の2万品目超えが確実と帝国データバンクはみており、2025年の2万609品目も上回ると予測する。

ただし、1万9,083品目は8月31日時点で判明している1〜11月分であり、2026年の確定値ではない。12月分、新たな発表、計画変更、集計修正によって動く。中東情勢、原油、為替、天候が好転すれば圧力が和らぐ可能性はある一方、人件費と物流費は下がりにくい。外部ショックが弱まっても、国内コストが価格を下支えする構造が残る。

9月の4,923品目は、ひと月だけの騒ぎではない。2022年から積み重なった価格改定が、食卓の土台である調味料と加工食品へ再び集中した節目である。次に見るべきは品目数の記録ではなく、9月のCPI、実際の単価と容量、販売数量、そして賃金がこの新しい価格水準に追いつくかどうかだ。

資料・出典

  1. 帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査―2026年9月」(2026年8月31日。品目数、分野別、要因別、過去比較の主資料)
  2. 同調査の報告書PDF(集計方法、月別・年別一覧)
  3. 総務省統計局「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年7月分」(2026年8月21日)
  4. 総務省統計局「家計調査 2026年6月分」(2026年8月7日)
  5. 農林水産省「合理的な価格形成」資料(長期的な食料価格の推移)
  6. キッコーマン「商品の価格改定について」(2026年6月1日)
  7. キッコーマンソイフーズ「豆乳の価格改定について」(2026年4月16日)
  8. 株式会社Mizkan「家庭用商品(食酢・つゆ・中華)および業務用商品の価格改定のお知らせ」(2026年7月17日)
  9. 森永乳業「一部商品価格改定のお知らせ」(2026年7月30日)
  10. カルビー「価格改定及び内容量変更に関するお知らせ」(2026年5月14日)
  11. ヤマキ「家庭用・業務用製品 価格改定のお知らせ」(2026年6月16日)

本稿は2026年9月1日午前5時30分(日本時間)までに公開された資料を照合した。企業名、商品区分、改定時期、価格改定率は日本語の一次資料で確認し、企業が示した理由は企業側の説明として扱った。4,923品目と平均11%は帝国データバンクの調査値で、政府統計や全国の全商品集計ではない。割合は公表品目数からJapan.co.jpが計算し、四捨五入した。

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