アジアの頂点に立った男子日本代表は、ロサンゼルスへ向かう時間も手にした。9月13日、北九州市立総合体育館で行われたアジア男子バレーボール選手権決勝で、日本はイランを3―0で破った。日本バレーボール協会(JVA)は、この優勝によって2028年ロサンゼルス五輪の出場権を獲得したと発表した。[1]
セットは25―21、26―24、25―23。第2、第3セットはともに2点差だった。ストレート勝ちという結果の内側には、競った終盤を取り切る仕事があった。出場権が決まった今、問われるのは、この勝ち方を世界の強豪相手にも再現できるかだ。[3]
競り合いの最後に、攻撃をもう一度
JVAの戦評によると、第2セットを締めたのは石川祐希のサービスエースだった。第3セットの最後は、山本智大がブロックされたボールをつなぎ、石川が相手ブロックを利用する攻撃で得点した。決定打の前に、失点にさせないプレーがあった。[1]
この最後の形は、日本の強さを考える手掛かりになる。スパイクが止められても、周囲がカバーすれば攻撃をやり直せる。守備は相手の攻撃を拾う場面だけの仕事ではなく、味方が打つ瞬間にも続いている。得点者だけを見ていては、一本を奪うまでの連携を見落とす。
Volleyball Worldの決勝報告では、西田有志が18得点、髙橋藍が17得点。西田はブロック3本とサービスエース2本、髙橋はサービスエース3本を記録した。二人の得点は、スパイクだけでなくサーブやブロックからも生まれていた。[2]
サーブで直接得点できれば、相手に攻撃を組み立てる機会を与えずに済む。ただし、エースにならなかったサーブの効果は、受け手の返球位置やその後の攻撃まで見なければ判断できない。今回の個人成績だけから、すべての得点を特定の戦術の成果と決めつけることはできない。
髙橋は大会MVPとベストアウトサイドヒッター、深津英臣はベストセッター、小野寺太志はベストミドルブロッカーに選ばれた。攻撃の両翼に加え、トスを上げる役割とネット中央の働きにも評価が集まった。[1]
「五輪切符」の意味が変わった
今回の出場権は、世界ランキングが上がったから得られたものではない。FIVBが2025年12月に公表した承認済みの方式では、2026年の五つの大陸選手権に、男女それぞれ1枠ずつを配分している。アジアの優勝には、五輪への直接の道が組み込まれていた。[5]
男子の出場枠は計12。開催国の米国が1枠、大陸選手権が5枠、2027年の世界大会が未出場権獲得チームに3枠、2028年VNL予選ラウンド終了時の世界ランキングが残る3枠という構成だ。日本は、後の二つの経路で出場権を争う必要がなくなった。[5]
一方、2027年のワールドカップへの出場権は別の話である。大陸選手権からは、出場資格を満たす上位3チームが進む。日本とイランは準決勝に勝った時点でその条件を満たしていた。決勝が持っていた追加の重みは、アジアのタイトルと五輪出場権だった。[6][13]
名称にも注意が必要だ。FIVBは2026年3月、世界選手権の名称を2027年大会から「ワールドカップ」に変更すると発表した。ここでいう2027年大会は、その世界選手権を引き継ぐ大会である。以前、日本で行われていた五輪予選としてのワールドカップの記憶だけでは、現在の仕組みを読み違える。[7]
勝ち上がる大会で、終盤を取り切った
福岡大会は12チームが出場し、まず4チームずつの3組で予選を戦った。各組上位2チームと、3位のうち成績上位2チームが8強入りし、そこからは負ければ優勝への道が閉ざされるトーナメントとなった。[14]
日本は準々決勝でインド、準決勝で韓国にいずれも3―0で勝利した。韓国戦のセットは25―13、25―11、25―14。これに対し、イランとの決勝では最後の2セットが2点差だった。前日の大差の勝利から、接戦を終わらせる勝負へと状況が変わった。[3]
点差の広い試合では交代や修正に使える余裕がある。終盤の同点では、一度のサーブミス、ブロックの判断、つなぎの乱れがそのままセットの行方を左右する。今回の結果は、その局面を取り切った実績として評価できる。ただし、それを恒久的な精神力の証明にまで広げる必要はない。強さを確かなものにするのは、異なる相手との試合で同じ仕事を重ねることだ。
1964年から続く、男子の系譜
日本男子には、東京1964の銅、メキシコシティー1968の銀、ミュンヘン1972の金という五輪の歴史がある。JOCの記録が示すこの歩みは、女子の「東洋の魔女」とは別に、男子にも世界の頂点まで登った系譜があることを伝える。[8]
近年の上昇も、今回突然始まったものではない。2023年VNLではイタリアとの3位決定戦に3―2で勝って銅メダル。2024年VNLでは決勝に進み、フランスに1―3で敗れたものの銀メダルを得た。異なる強豪と繰り返し対戦する大会で、表彰台に届く力を示していた。[9][10]
しかし、同じ2024年のパリ五輪では、準々決勝でイタリアに2―3で敗れた。2セットを先取しながら、その後は25―27、24―26、15―17で落とした。大会を通して力があることと、敗退のかかる一本を奪うことは、重なりながらも別の課題として残った。[11]
さらに2026年VNLは4位。準決勝で米国に2―3、3位決定戦でスロベニアに1―3で敗れた。アジア制覇を語る際にも、この直近の世界大会での結果は重要だ。日本は世界の上位と競える一方、勝ち切れなかった試合も抱えて、今大会に臨んでいた。[12]
選手層を広げながら、連携を深める
今大会のJVA登録名簿では、ロラン・ティリ監督の下、セッターは深津英臣と河東祐大、オポジットは西田有志と宮浦健人。リベロには小川智大と山本智大が名を連ねる。役割ごとに複数の選択肢を持つ構成だが、登録人数だけで実戦の厚みが完成するわけではない。[4]
セッターが替われば、打ち手が踏み切るタイミングやトスの高さを合わせる必要がある。サーブレシーブが乱れたとき、誰が二本目を上げるか。ブロックされたボールをどこで待つか。そうした判断を控え選手も共有して初めて、交代がチームの選択肢になる。
JVAの大会名簿には国内クラブに加え、トルコ、ポーランド、イタリアのクラブに所属する選手も載る。日常の競技環境が複数にまたがることは、異なるサーブやブロック、練習方法に触れる機会になりうる。ただし、海外所属そのものが代表の勝利を保証するわけではない。代表では、持ち帰った経験を共通のプレーにする作業が要る。[4]
早期の出場権獲得によって、その作業を長期的に組み立てやすくなる。選手を試す試合と、主力の連携を磨く試合をどう配分するか。疲労や状態を踏まえて、いつ休養と準備の時間を確保するか。これらは今後の強化を考える論点であり、代表がすでに発表した具体的な計画ではない。
手にした時間を、次の一本に変える
チームの出場権が決まっても、2028年にコートに立つ選手まで決まったわけではない。実戦の内容、競争、コンディションを通じて、選考はこれから積み重なる。若い選手にとっても、今回の優勝は入り込む余地がなくなったという知らせではなく、目指す基準が具体的になった節目と捉えられる。
北九州で確かになったのは、アジアの決勝を勝ち抜き、五輪に進む資格を得たことだ。そこから先の価値は、獲得した時間の使い方で変わる。相手のブロックで一度は止まった攻撃を、もう一度得点にした最後のラリー。その連携を、より速く、より強い相手にも出せる形へ育てていくことが、ロサンゼルスへの仕事となる。
出典・参考資料
- 日本バレーボール協会:イランに勝利し五輪出場権獲得(9月13日)
- Volleyball World:アジア制覇、決勝の個人成績・個人賞(9月13日)
- 日本バレーボール協会:2026年アジア男子選手権・試合結果
- 日本バレーボール協会:2026年アジア男子選手権・日本代表メンバー
- FIVB:LA28出場権獲得方式の承認(2025年12月11日)
- FIVB:大陸選手権と五輪・W杯出場権(2026年8月8日)
- FIVB:世界選手権の名称を2027年からワールドカップへ(3月5日)
- JOC:北京2008・バレーボールの歴史と見どころ
- 日本バレーボール協会:VNL2023・最終順位と試合結果
- 日本バレーボール協会:VNL2024・最終順位と試合結果
- 日本バレーボール協会:パリ2024・試合結果
- 日本バレーボール協会:VNL2026・最終順位と試合結果
- Volleyball World:日本とイランが決勝進出、W杯出場権獲得(9月12日)
- 日本バレーボール協会:アジア男子選手権2026・大会概要
資料確認:2026年9月14日(日本時間)。9月13日の決勝結果と五輪出場権はJVAおよび国際競技団体の資料で確認。解釈は特記のない限りJapan.co.jpによる。
