病院の中で、AIが触れる対象が増えている。CTの画素を補正し、手術映像から神経や臓器を見分け、薬の候補分子を設計し、看護師に代わって物品を運び、やがて細胞が薬へどう反応するかを予測する。2026年7月に東京で示された一連の計画は、これらを別々の実験ではなく、計算、ロボット、画像、分子、生物データをつなぐ一つの産業基盤として描いた。

中心にあるのは、エヌビディアが7月15日にまとめた日本の医療・ライフサイエンス企業との取り組みだ。川崎重工は手術支援、看護補助、院内搬送ロボットへのAI基盤の利用を計画する。Direavaは手術映像をリアルタイムで理解し、医師の質問へ自然言語で答える「Surgical VLM」を開発する。キヤノンメディカルシステムズは国産初のフォトンカウンティングCTを発売し、富士フイルムはBlackwell GPUと拡散モデルによる再構成を使う全身用CTを商品化したとされる。

病院の外では、Xeurekaが運営する製薬向けAIスーパーコンピューター「Tokyo-1」にエーザイが加わり、アステラス製薬、第一三共、小野薬品工業と計算資源を共有する。SyntheticGestaltは分子表現モデル「ZAO」と分子生成モデル「KOYA」を公開し、TakedaとBoltzは創薬モデルを現場へ入れようとしている。biomyは、がん研有明病院を擁するがん研究会の臨床組織データを使い、腫瘍微小環境を計算機上で学習する「Virtual Cell」を開発する。

これは「AI医師」の誕生ではない。人の判断を支える製品から、承認前の研究モデルまで、成熟度の違う技術が同じ波として押し寄せた物語である。

最初に分けるべき四つの成熟段階

発表を正しく理解するには、AIという一語を四段階に分ける必要がある。第一はすでに販売される画像診断装置。第二は医療機器として承認された支援ソフトやロボット。第三は病院内で評価中の搬送・看護・手術支援技術。第四は、まだ仮説を作る研究用の創薬・細胞モデルだ。

段階2026年の例できること/まだ証明していないこと
商用装置キヤノンのUltimion、富士フイルムのAI再構成CT画像を取得・再構成する。診断精度や患者転帰は用途・試験ごとの検証が必要。
承認済み支援hinotori、Direavaの「キノスラ」、EndoBRAIN系医師の操作・判断を支える。自律手術や自動診断を意味しない。
臨床・運用実証FORRO、Nurabot、Surgical VLM、次世代手術支援病院環境で有用性と安全性を評価中。単施設の成績は一般化できない。
研究基盤Tokyo-1、ZAO、KOYA、Boltz、Virtual Cell分子や標的の候補を絞る。薬の有効性や人への安全性は実験と治験で確認する。

この区別は慎重すぎる注意書きではない。医療では、モデルが正解率を上げることと、合併症を減らし、診療時間を短くし、患者の生活を改善することは別の問いだからだ。研究室のベンチマーク、規制当局の承認、保険償還、病院への導入、日常診療での成果は、一つずつ越える必要がある。

手術ロボットの歴史――「自律」より先に、人の手を拡張した

ロボット手術は、AIが手術を代行するところから始まったのではない。外科医の手の動きを細い器具へ伝え、震えを抑え、立体映像を見ながら狭い場所を操作できる遠隔操作型の装置として広がった。日本では2012年、前立腺がんのロボット支援手術が保険適用となり、2018年に消化器外科などへ対象が拡大した。

国産化の節目は2013年だった。川崎重工とシスメックスは神戸にメディカロイドを設立し、産業用ロボットの機構・制御と医療機器の知見を組み合わせた。手術支援ロボット「hinotori」は2020年8月に国内承認を受け、同年に初の臨床使用へ進んだ。2022年には消化器外科と婦人科、2024年には胸部外科へ適応を広げ、2026年には欧州展開へ足場を築いた。

ただしhinotoriも、広く使われるda Vinciも、基本は外科医がコンソールから操作する。ロボットは器具を動かすが、切る場所を独自に決めて手術を完遂するわけではない。今回の川崎重工の発表も、NVIDIA Holoscan IGX、Isaac for Healthcare、GR00T、Cosmosを利用する「手術支援」の開発計画であり、自律手術の臨床導入を発表したものではない。

7月16日には川崎重工と富士通が、電子カルテ、ロボット運用、AIをつなぐ病院向けソリューションの事業検討を始めた。ここで重要なのはロボットの腕だけではない。手術予定、検査、物品、病床、職員の権限を安全に接続し、AIが誤った患者や薬剤を参照しない運用設計である。

手術映像を「言葉」にするSurgical VLM

DireavaのSurgical VLMは、映像と言語を同時に扱うビジョン・ランゲージ・モデルを手術室へ持ち込む。内視鏡映像から解剖学的構造や術野の状況を読み、医師が「いま見えている組織は何か」「次の注意点は何か」と尋ねると対話形式で返す構想だ。将来は記録作成、教育、術中ナビゲーションを一つのモデルで支える可能性がある。

同社は2026年2月20日、慶應義塾大学病院の胃がん手術で実環境評価を実施した。会社発表では、解剖学的正確性84.7%、臨床的有用性82.9%、文章の流暢性97.4%だった。注目すべき初期結果だが、単施設、会社定義の評価であり、合併症や手術時間が改善した証拠ではない。病院、術式、カメラ、出血、煙、患者の体格が変わっても性能が保たれるかを外部検証する必要がある。

Direavaには、承認まで進んだ小さな先例がある。手術映像から反回神経を認識して強調する「キノスラ」は2025年12月、ロボット支援下の食道悪性腫瘍手術を対象とするプログラム医療機器として国内承認された。用途を明確に限定した支援AIから、広い質問に答える基盤モデルへ進むほど、誤答、根拠表示、更新管理、人が無視すべき時の設計は難しくなる。

手術室で最も危険なAIは、いつも間違うAIではない。普段はよく当たり、人が警戒を解いた瞬間に自信を持って間違うAIである。

病院ロボット――華やかな手術より、運ぶ仕事から

医療ロボットの短期的な効果は、メスではなく台車に現れる可能性がある。川崎重工の院内配送ロボットFORROは、薬剤、検体、物品などの搬送を想定し、東京医科大学病院で2023年度から事前検証、2025年2月から実証を進めた。エレベーターや自動ドアと連携し、人や障害物のある廊下を移動する。

Foxconnと共同開発するNurabotは、配膳、薬品配送、荷物運搬、来院者案内など看護周辺業務を支える。2025年4月から台湾の台中栄民総医院で試験し、2026年度の市場投入を目標にした。人型ロボットNyokkeyを含む構想も、看護師そのものを置き換えるというより、歩行距離と反復作業を減らし、人が観察、説明、ケアへ時間を戻すことに価値がある。

現場では、走行成功率だけでは足りない。感染管理、清掃、充電、夜間騒音、非常時の通行、エレベーター待ち、患者の転倒リスク、電子カルテとの権限分離まで評価する必要がある。ロボットが一台動くことと、病棟全体の勤務負担が下がることの間には、業務手順の作り直しという大きな仕事が残る。

CTの二つの革新――検出器の物理と、再構成のAI

医用画像では、異なる二種類の革新が同じ「AI CT」の見出しに収まっている。キヤノンメディカルが2026年4月17日に発売したUltimionは、日本で開発・製造された初のフォトンカウンティングCTだ。従来のCTがX線エネルギーをまとめて電気信号へ変えるのに対し、フォトンカウンティング検出器は個々のX線光子を数え、そのエネルギー情報も利用する。条件に応じて空間分解能、物質識別、線量効率の改善が期待される。

この進歩の核心は検出器の物理であり、AIだけではない。キヤノンは2021年にカナダの検出器企業Redlen Technologiesを買収し、2022年に国立がん研究センター東病院へ研究用全身CTを設置、2023年から臨床研究を重ねて商品化した。GPUは膨大なデータの再構成を加速するが、「フォトンカウンティング=AI」という理解は正確ではない。

一方、NVIDIAは富士フイルムがBlackwell GPUを搭載し、拡散モデルを使う画像再構成を備えた国内初の全身CTを商品化したとしている。拡散モデルはノイズのあるデータから画像を段階的に整える生成モデルの一種で、低線量や高速撮影と画質の両立を狙える。だが、生成的再構成では小さな病変を消したり、存在しない構造を作ったりしないことを、装置・部位・撮影条件ごとに確かめなければならない。

画像が美しく見えることと、診断が正しくなることは同義ではない。比較試験では、病変検出、偽陽性、再検査、読影時間、線量、患者転帰を分けて測る必要がある。

Tokyo-1――競合する製薬会社が計算基盤を共有する

医療AIのもう一つの主戦場は、患者に届く何年も前の創薬である。三井物産が2021年に設立したXeurekaは、2024年2月、NVIDIA DGX H100を基盤にするAIスーパーコンピューターTokyo-1を本格稼働した。アステラス製薬、第一三共、小野薬品工業が創設メンバーとなり、各社が計算資源と技術課題を持ち寄った。

2026年4月にはエーザイが加わった。7月の共同発表によると、参加企業はこれまで60回を超えるワーキンググループ会合を開き、五つの技術検証テーマを完了した。競合企業が新薬候補そのものを共有するのではなく、分子シミュレーション、生成AI、データ処理など、共通の計算インフラと方法論を共同で検証する仕組みである。

アステラスは抗体の性質を予測する言語モデルastABpLMなどにDGXとBioNeMoを利用する。第一三共は超大規模なバーチャルスクリーニング、小野薬品はタンパク質とリガンドの相互作用を予測するBoltz-2、Xeurekaは創薬ワークフローの自動化に取り組む。共有基盤の意味は、GPUを共同購入するだけでなく、各社で重複する基盤作業を減らし、研究者が実験可能な仮説へ早く到達することにある。

分子を作るAI――「候補を速く出す」と「薬を作る」は違う

SyntheticGestaltのZAOは、分子が取り得る複数の三次元配座を含む「4D」表現を学ぶ基盤モデルだ。同社は約100億件の化合物レコードで事前学習し、公開ベンチマークで高い成績を得たと説明する。KOYAは、標的への結合だけでなく、合成しやすさや医薬化学上の制約を与えながら候補分子を生成する。どちらもBioNeMo Agent Toolkitから呼び出せる。

TakedaとBoltzが進めるBoltzMol-1、BoltzProt-1も、低分子設計とタンパク質設計へ生成モデルを使う。エージェント型AIは、データベース検索、構造予測、候補生成、採点、次の計算を一連の流れとして実行できる。しかし、モデルが「良い」と評価した分子が、細胞へ入り、毒性を避け、体内で適切に分布し、人で有効に働く保証はない。

創薬AIが短縮しやすいのは、探索空間を絞る計算段階だ。合成、実験、動物代替法を含む前臨床評価、製造、治験、規制審査という物理世界のボトルネックは残る。ベンチマーク順位より、AIが提案した分子の何%が合成可能だったか、実験で再現したか、従来法より何サイクル減ったかを追う方が重要である。

仮想細胞とは何か――患者の「デジタル分身」ではない

今回、最も未来的に響くのがbiomyのVirtual Cellだ。同社はがん研究会から得る臨床組織の遺伝子発現、タンパク質発現、病理画像を統合し、腫瘍細胞、免疫細胞、間質細胞が空間の中でどう関係するかを学習する。10x Genomicsとも連携し、Xeniumによる空間トランスクリプトミクスデータをモデルへ入れる。

「仮想細胞」は、特定患者の全身や意識まで複製するデジタル人間ではない。観測した細胞・組織の状態を数値表現にし、遺伝子を抑えた時、薬を加えた時、免疫環境が変わった時に、別の遺伝子や細胞集団がどう反応するかを予測する研究モデルである。成功すれば、標的の妥当性、反応する患者群、耐性の仕組みについて、実験前に優先順位を付けられる。

biomyは、NVIDIAのsingle-cell RAPIDSを使った社内の空間マルチオミクス解析で、CPU処理に比べ最大90%の処理時間短縮を確認したと発表した。この数字は「新薬開発が90%速くなる」という意味ではない。特定データ、条件、ハードウェアでの一つの前処理・解析ワークフローの高速化であり、モデルの生物学的正確性とは別の尺度だ。

仮想細胞が難しい理由は、生物学に因果が埋もれているからだ。患者組織は採取部位、治療歴、年齢、保存方法で変わる。空間データは詳細だが高価で疎らであり、同じ腫瘍の全細胞、全時点を観測できない。モデルは未観測部分を推測するため、その予測は新しい組織、細胞実験、前臨床試験、最終的には臨床試験で反証可能にしなければならない。

2003年から2026年へ――ゲノム、iPS、単一細胞、仮想細胞

仮想細胞は突然現れた概念ではない。2003年、日米欧などの国際共同によるヒトゲノム計画が完了し、約30億塩基からなる参照配列が研究の共通地図になった。配列は生命の部品表を示したが、どの遺伝子がどの細胞で、どの時間に、どの環境で働くかまでは説明しなかった。

2006年、京都大学の山中伸弥らはマウスの成熟細胞を初期化し、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作製した。2007年にはヒトiPS細胞を報告し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。患者由来細胞から病気を皿の上で再現し、薬を試すという発想は、計算モデルと実験モデルを往復する現在の創薬へつながった。

2010年代には単一細胞RNA解析が細胞集団を平均値ではなく一細胞ずつ読み、空間トランスクリプトミクスが「どの遺伝子が働くか」に「組織のどこで」を加えた。2026年の仮想細胞は、ゲノムの地図、iPSの実験モデル、単一細胞と空間データを、基盤モデルでつなごうとする段階にある。

節目現在への意味
2003ヒトゲノム計画完了生命科学の共通参照配列を整備。
2006–07マウス、続いてヒトiPS細胞患者由来の細胞モデルと再生医療の道を開く。
2012ロボット支援手術の保険適用開始手術ロボットが研究から標準診療へ進む。
2014薬機法で診断・治療ソフトを医療機器として規制医療AIを審査する法的な入口を明確化。
2018EndoBRAIN承認国内初の内視鏡AI支援ソフト。
2020hinotori承認、DASH for SaMD開始国産手術ロボットとソフト審査改革が並行。
2024Tokyo-1稼働製薬各社の共同AI計算基盤。
2026Surgical VLM、次世代CT、Virtual Cell画像、言語、分子、細胞、ロボットが接続し始める。

日本の医療AI史――EndoBRAINが示した「狭く、支援する」道

日本でAI医療機器の代表的な前史は、内視鏡画像を解析するEndoBRAINである。昭和大学、名古屋大学、サイバネットシステムなどが開発し、2018年12月に承認された。約6万枚の内視鏡画像で学習し、大腸病変が腫瘍性か非腫瘍性かを医師へ提示する、国内初の内視鏡AI支援ソフトだった。2019年にオリンパスが販売を始め、2020年には約395万枚の画像を学習した病変検出支援EndoBRAIN-EYEが承認された。

初期のEndoBRAINは、販売後に勝手に学習して変化するシステムではなく、固定したアルゴリズムとして審査された。対象臓器、入力画像、出力、使用者を限定することで、性能とリスクを測りやすくした。この「狭い用途で、人を支援する」設計は、現在の手術映像AIにも続く。

一方、基盤モデルは一つのモデルが多くの質問や作業を扱い、更新も速い。用途が広がるほど、どの変更を再審査するか、病院ごとのデータずれをどう監視するか、説明文の誤りをどう記録するかが難しくなる。技術は汎用化へ進むが、医療安全は用途を具体化することを求める。この緊張が2026年以降の制度課題になる。

規制、償還、サイバーセキュリティ――承認はゴールではない

2014年11月施行の医薬品医療機器等法(薬機法)は、診断・治療を目的とする単体ソフトウェアを医療機器として規制対象にした。厚生労働省は2020年にDASH for SaMDを始め、2021年から相談・審査体制を強化した。PMDAは2022年に優先審査の試行を開始し、2026年度から継続制度へ移した。

承認審査では、意図した用途、学習・評価データ、性能、安全性、人との役割分担が問われる。しかし導入には、保険償還、病院の調達、既存システムとの接続、職員教育、保守費用も必要だ。EndoBRAINの経験が示すように、承認されたAIが病院の収入や作業時間にどう反映されるかが曖昧なら、優れたソフトでも広がりにくい。

接続が増えるほどサイバーリスクも増える。日本は医療機器の基本要件基準にサイバーセキュリティを組み込み、移行期間後の2024年4月から適合を求めている。手術ロボット、CT、電子カルテ、クラウド、搬送ロボットが同じネットワークへ近づけば、更新、認証、ログ、部品表、脆弱性対応、通信断時の安全状態を製品単位ではなく病院全体で設計する必要がある。

なぜ日本か――高齢化と働き手不足が作る切迫感

総務省統計局によると、2024年10月時点で65歳以上は3,624万3,000人、人口の29.3%を占めた。75歳以上は今後も増え、厚生労働省は入院需要が2040年ごろ、在宅医療需要はそれ以降にピークを迎える地域があると見込む。一方、働く世代は急速に減る。

2024年4月には医師の時間外労働上限規制が始まり、一般的な上限は年960時間、地域医療や研修などの指定例外は年1,860時間とされた。AIとロボットが注目される背景には、この需要と人員の挟み撃ちがある。

29.3%2024年の日本人口に占める65歳以上の割合
3,624万人65歳以上人口(2024年10月)
年960時間医師の一般的な時間外・休日労働上限
最大90%biomyが報告した特定解析工程の処理時間短縮。創薬全体の短縮率ではない

ただしAIは人手不足を自動的に解消しない。誤警報の確認、データ入力、システム障害対応、患者への説明が増えれば、仕事は減らず形を変えるだけだ。導入評価は「何件処理したか」ではなく、職員の歩数、残業、記録時間、離職、患者待ち時間、事故を含めて測る必要がある。

最大のリスクは、精度の数字から見えない

第一はデータの偏りである。大病院の高品質画像で学習したモデルが、地域病院の古い装置や異なる患者集団でも同じ性能を出すとは限らない。まれな病気、小児、高齢者、妊婦、併存疾患の多い患者が十分含まれているかを確認する必要がある。

第二は自動化バイアスだ。AIの強調表示や文章が滑らかであるほど、人は過信しやすい。医師が最終責任を持つという規定だけでは足りず、AIを見ない比較、誤りを発見する訓練、確信度と根拠の表示、異議を唱えやすい画面設計が要る。

第三はプライバシーとデータ統治である。病理画像、ゲノム、臨床記録を組み合わせるほど個人の再識別可能性は高まる。どの目的に使い、国外クラウドへ送るか、モデルがデータを記憶しないか、研究撤回をどう扱うかを患者へ説明しなければならない。

第四はプラットフォーム依存だ。今回の多くはNVIDIAのGPU、CUDA、BioNeMo、Holoscan、Isaacへ接続する。統一基盤は開発を速める一方、価格、供給、互換性、データ移行、輸出管理の影響を受ける。病院と研究機関には、モデルとデータを別環境へ移せる標準と契約が必要になる。

2026年から2030年――成功を測る十の問い

発表数やGPU数では、医療の進歩を測れない。今後四年間は、次の問いに公開データで答えられるかが分岐点になる。

領域問うべき指標
手術支援外部施設での感度・特異度、合併症、手術時間、誤案内、医師が訂正した割合。
病院ロボット搬送成功率だけでなく、看護師の歩行・残業・中断、転倒や衝突、稼働費。
CT線量、病変検出、偽陽性、再検査、読影時間を従来再構成と比較。
創薬AI候補の合成率、実験再現率、設計サイクル、標的から治験までの時間と費用。
仮想細胞未使用患者・施設での予測、摂動実験による反証、失敗例と不確実性の公開。
公平性年齢、性別、地域、装置、疾患群ごとの性能差。
人の監督責任者、停止権限、更新後の再評価、インシデント報告の仕組み。
サイバー安全脆弱性対応時間、オフライン時の安全動作、アクセス監査、復旧演習。
経済性承認後の償還、病院の総保有費用、中小病院への普及。
患者の利益生存、合併症、待ち時間、生活の質、説明への納得を最終指標にする。

結論――日本が作ろうとしているのは「医師の代わり」ではない

日本のヘルスケアAIは、一本の発明で加速しているのではない。2020年の国産手術ロボット、2018年からの内視鏡AI、2024年のTokyo-1、2026年の次世代CT、手術VLM、病院ロボット、仮想細胞が、同じ計算基盤の上で接続し始めた。画像を読むAIと、手を動かすロボットと、分子を設計するAIが近づいている。

最大の可能性は、病気を見つけてから治療する一方向の医療を、観察、予測、介入、学習の循環へ変えることだ。手術映像の知見が教育へ戻り、臨床組織のデータが仮想細胞へ入り、候補薬の実験結果がモデルを改善する。その循環が安全に回れば、希少な専門知識をより多くの病院と研究者へ広げられる。

しかし医療は、最も説得力のあるデモではなく、最も弱い患者を守れるかで評価される。ロボットは外科医の手を拡張しても責任を引き受けない。仮想細胞は実験を選べても患者を治療しない。AIが速く作る仮説を、人が厳しく疑い、規制、臨床試験、日常診療で検証する仕組みこそが本当の基盤である。

2026年のニュースは、日本が医療AIの部品を持ち始めたことを示す。次に問われるのは、部品を患者利益へ結ぶ制度、相互運用性、エビデンスを作れるかだ。手術ロボットから仮想細胞までをつなぐ最後の回路は、GPUではない。信頼である。

出典・参考資料

注:企業が公表した性能値と計画は、2026年7月時点の発表に基づく。本稿はベンダーのベンチマークを臨床転帰の証明とは扱わず、承認済み用途、実証、研究段階を区別した。