日本の国債を買っているのは誰か。日銀、銀行、保険会社、年金、海外投資家、そして個人。それぞれが思い浮かぶが、「誰が多く持っているか」と「いま誰が買い増しているか」は、同じ問いではない。金利が動く局面では、この違いが政府の資金調達の先行きを読む手掛かりになる。

9月10日付のロイターの論評は、海外勢が過去6カ月に日本の債券を17.9兆円購入したと伝えた。ただし、記事が示す日本の債券への投資額を、そのまま国債だけの買越額とみなすことはできない。本稿ではこの報道と、日銀が公表した保有構造を分けて読む。[9]

取材の基準日は2026年9月10日。保有比率には、同日までに日銀の一覧で確認できた2026年第1四半期の速報を使う。6月25日公表の統計が示すのは3月末の姿であり、9月現在の保有比率ではない。[2]

国内中心の市場で、海外勢はどの位置にいるか

2026年3月末の部門別保有比率(時価ベース)
保有部門短期証券を含む国債・財投債のみ
中央銀行(日銀)42.21%47.88%
預金取扱機関13.62%13.15%
保険・年金基金16.42%18.44%
公的年金6.39%7.24%
家計1.74%1.98%
海外13.72%8.09%
その他5.91%3.21%

資料:日本銀行「資金循環」参考図表6-2。左列は「国庫短期証券」と「国債・財投債」の合計、右列は「国債・財投債」のみ。「公的年金」は「保険・年金基金」と別区分。一般政府のほか、財政融資資金の発行分を含む。端数処理で合計が100%にならない場合がある。[1]

どちらの範囲でも、日銀が最大の保有主体で、国内部門が大半を占める。海外比率は短期証券を含めると高くなる。したがって、海外勢の存在感を語るときには、短期の資金運用と、長期の金利変動リスクを引き受ける投資を区別する必要がある。

また、時価で測った残高は売買以外にも動く。債券価格が下がれば、同じ額面を持っていても評価額は減る。満期償還や発行残高の変化も構成比に影響するため、保有比率の低下を、そのまま売却の証拠とはできない。

「買い手」には三つの意味がある

第一は、国債を資産として保有する主体。第二は、一定期間に取得を増やす主体。第三は、入札や日々の売買で注文を出し、価格形成にかかわる主体である。大きな残高を長く保有する機関と、比較的小さな残高で頻繁に取引する機関では、市場へのかかわり方が違う。

国債の発行時に買うことと、流通市場で既発債を買うことも別だ。流通市場の取引代金は、原則としてその債券を売った投資家に渡る。それでも、そこで形成される利回りは、次の発行条件や他の投資家の判断に影響する。

この区別に立てば、「海外勢が買っているから財政は安心」とも、「国内保有が多いから海外の動きは無関係」とも言い切れない。以下は、保有データと公表された運用方針を踏まえたJapan.co.jpの分析である。

日銀は買入れを減らすが、買い手でなくなるわけではない

日銀が6月16日に決めた計画では、月間の長期国債買入れ予定額は2026年7〜9月が2.5兆円程度、10〜12月が2.3兆円程度。2027年1〜3月は2.1兆円程度とし、4月以降は月間2兆円程度を買い入れる。長期金利が急上昇した場合の増額など、柔軟な対応も残している。[3]

これは月間の買入れ額の計画であり、保有残高の増加額ではない。償還額が買入れ額を上回れば、買い続けていても残高は減る。「日銀の買入れ減額」を、同じ金額の国債を毎月市場で売ることと混同してはいけない。

民間投資家の側には、政策目的の買い手が引き受けていた部分を、どの利回りなら持てるかという問いが生まれる。その答えは年限ごとに違う。短期証券を欲しい投資家が増えても、30年債を欲しい投資家が同じだけ増えるわけではない。

銀行、保険、年金は同じ理由で買わない

銀行は預金や貸出し、手元の流動性との関係で債券を保有する。利回りが上がれば新たな投資の収益性は改善し得るが、以前に買った債券の評価損が拡大することもある。買う余力は、将来の利息収入だけでなく、資本や金利リスクの管理にも左右される。

生命保険会社にとっては、将来の保険金など、長期の支払いに見合う資産を確保する視点が重要になる。一方、必要な年限の資産をすでに持っていれば、利回り上昇だけで購入額が決まるわけではない。「国内機関投資家」と一括りにすると、こうした需要の違いを見落とす。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2025年度から適用する基本ポートフォリオは、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式を各25%とする。これは資産構成の目標であって、国債だけに25%を振り向ける指示でも、個々の四半期の買付額でもない。[4]

国内金利が上がったという理由だけで、年金資金が海外から一斉に戻ると考えるのは早い。配分目標、他の資産の値動き、為替、運用上の制約を合わせて見る必要がある。基本配分を維持するための売買と、日本経済への強気判断による売買は、外から見れば似た数字になる場合もある。

海外投資家が見るのは、円の利回りだけではない

海外の買い手にも、長期運用の年金や政府系ファンド、債券ファンド、銀行、短期的な価格差を狙う投資家など、異なる戦略がある。海外という統計区分だけから、どの国のどの機関が、何年保有するつもりで買ったかは分からない。

外貨で成績を測る投資家は、円建ての利回りに加え、為替変動とその回避方法を見る。為替予約や通貨スワップを使うと、外貨へ戻す条件が収益を左右する。国際決済銀行(BIS)の研究は、こうした取引条件が金利差だけでなく、ヘッジ需要や金融機関の仲介能力にも影響されると説明している。[8]

例えば、円建て資産で1年間に3%の収益を得ても、同じ間に為替が1ドル150円から165円へ円安になれば、ドル換算の収益率は約マイナス6.36%になる。Japan.co.jpの仮定計算で、税・手数料を含まない。現在の相場や運用実績を示すものではない。

反対に、為替をあらかじめ固定する投資では、結果は予約した交換条件による。ヘッジが常に費用になるとは限らず、円資産と外貨資産を比べる際の利回りの見え方を変える。ただし、為替をヘッジしても、国債価格の下落まで防げるわけではない。短期のヘッジを更新する戦略には、更新時の条件が変わる問題も残る。

政府系ファンドの「提案」と「購入」を分ける

ロイターは9月4日、ノルウェーの政府系ファンドを運用するノルウェー銀行インベストメント・マネジメント(NBIM)が、債券運用の見直しを検討し、日本国債への配分を増やす方向を示したと報じた。これは報道された見直し案であり、購入済みの額を示すものではない。[10]

指標の構成比が変わっても、実際の売買は承認、実施時期、市場価格などに左右される。「海外の大口投資家が関心を持つ」という情報には意味があるが、そのまま発行予定額を吸収する確定需要として数えることはできない。

国債市場を変えた金融緩和の歴史

国内の買い手を考えるうえで、日銀の役割の変化は欠かせない。2001年の量的緩和、2013年の量的・質的金融緩和、2016年のマイナス金利と長短金利操作を通じて、国債は金融政策の中心的な手段になった。とくに長短金利操作は、短期金利だけでなく長期金利の形成にも直接働きかける枠組みだった。[6]

2024年3月には、日銀がその枠組みを見直し、短期金利の操作を主な政策手段へ戻した。ただし、その時点でも長期国債の買入れは続けるとした。政策の転換は、巨大な保有残高が一日で民間へ移ることを意味しない。[7]

現在の調整は、この長い過程の続きにある。投資家は、政策による支えの変化、物価の先行き、自分の負債や運用目標を比べ直す。発行体にとっては、幅広い買い手と対話しながら、どの年限に需要があるかを見極める重要性が増す。財務省も、確実で円滑な発行と中長期的な調達コストの抑制を基本目標に掲げ、保有者層の多様化に取り組んでいる。[5]

買い手がいることと、安く借りられることは違う

利回りが上がる局面では、売りが目立つ一方、新たに買う投資家には条件がよくなる。債券市場の取引には買い手と売り手がいる。「買われている」という事実だけでは、価格が安定しているのか、価格を下げてようやく取引が成立しているのかは分からない。

国にとって重要なのは、必要な量を、どの条件で、どの年限にわたって借りられるかだ。既発の固定利付国債は市場利回りが上がっても利払い条件が直ちに変わらないが、新発債や借換えにはその後の金利環境が効いてくる。現在の市場金利を債務残高全体に一度に掛ける計算は、予算への波及を正しく表さない。

国内保有が多いことは、円での貯蓄や支払いとの結び付きが強いことを示す。しかし、物価上昇による実質価値の低下や、利払い費の増加がなくなるわけではない。海外からの需要が広がれば買い手の層は厚くなるが、その需要も価格や為替の条件次第で変わる。

次の統計で確かめること

保有統計では対象日と証券の範囲、売買統計では取得と処分の差額、入札では年限と発行額をそろえて比較したい。取引を取り次ぐ拠点や銀行の所在が、最終的にリスクを負う投資家の国籍と一致するとも限らない。総額の見出しから個々の投資家の意思まで読み込まないことが重要だ。

本誌は、日本の国債市場の変化を、海外勢が国内勢に取って代わる物語だけで捉えるべきではないと考える。国内の大きな保有基盤に、条件を見ながら動く多様な需要が重なっている。問うべきは、誰が日本を信じているかだけではない。誰が、どの期間のリスクを、どの利回りで引き受けるのかである。