8月21日、石川県七尾市で新しいコインランドリーが開く。ゲンキー万行町店の駐車場に建つブルースカイランドリーだ。洗濯機と乾燥機が並ぶ、ごく日常的な店に見える。だが建物の外側には、別の役割が組み込まれている。LPガスを約3日分ためる設備、ポータブル発電機、災害用の大釜、ガスコンロ。停電や断水、避難生活が長引く時、店は洗濯だけの場所ではなくなる。
同じ日に愛媛県西条市でも1店が開く。ジーアイビーが7月時点で公表していた災害対応型ランドリーは全国299店。21日の2店を加えると301店となり、300店の線を越える。さらに長野県で8月28日と31日に2店を予定し、月末には303店になる計画だ。ブルースカイランドリー全体では419店となる見込みで、災害対応型が約7割を占める。
数字だけなら、チェーンの出店ニュースで終わる。しかし、七尾という場所がこの節目を違うものにする。2024年1月1日の能登半島地震で、七尾市は震度6強に見舞われ、道路、建物、水道管が広く損傷した。最大避難者は少なくとも2,681人。市内全域の水道が飲用可能な状態へ戻ったのは4月4日だった。洗濯のような平凡な行為が、災害時には水、電気、燃料、移動手段のすべてを要求することを、地域は抽象論ではなく経験として知っている。
原点は「洗濯したい人が、電気のある場所へ移動した」ことだった
この仕組みの出発点は、2019年の台風災害だった。ジーアイビーの2026年の説明では、9月の台風15号、後に「令和元年房総半島台風」と命名された災害をきっかけとしている。千葉県を中心に長期停電が起き、家庭の洗濯機が使えない地域から、電気が残るブルースカイランドリーへ人が集まった。会社は当時の状況を「ランドリー渋滞」と表現する。
2019年の房総半島台風では、東京電力管内で最大約93万5,000軒が停電した。鉄塔2基が倒れ、1,996本の電柱が倒壊・損傷した。問題は「電気が消えた」ことだけではない。通信、給水、冷蔵、空調、給湯、洗濯など、家庭の多くの機能が一つの系統電力に依存していることが、長期停電によって一度に表面化した。
洗濯は命を守る最初の72時間では、飲料水や救命医療より優先度が低い。しかし避難生活が数日から数週間へ伸びると意味が変わる。衣類、下着、タオル、寝具を洗えない状態は、不快という言葉だけでは足りない。衛生、皮膚トラブル、プライバシー、子どもや高齢者の生活の質、避難所での尊厳へつながる。2026年版の防災白書は、避難所の生活環境について、温かい食事や入浴と並び「洗濯機会の確保」を明記している。
つまり、コインランドリーに人が殺到した2019年の光景は、災害時の小さな市場現象ではなかった。家庭の機能が止まった時、街の中でどの建物が代わりになれるかという、分散型インフラの問題だった。
2020年、宇都宮で最初の一店
答えの第一号は2020年1月31日、栃木県宇都宮市に現れた。カインズ宇都宮平出店の駐車場に開いたブルースカイランドリー宇都宮平出店である。ジーアイビーにとって初の災害対応型コインランドリーで、エア・ウォーターがフランチャイズオーナーとなり、LPガスの非常用発電技術を組み合わせた。
当初の設計は、災害への備えを段階的に考えていた。標準仕様では約3日分のLPガス、ポータブル発電機、蓄電池、外部発電機接続を備え、照明や携帯電話充電を確保する。外部の可搬型発電機や電源車を接続すれば、洗濯機・乾燥機へ電力を供給できる設計だった。中・長期災害仕様では9.8kWのLPガス発電機と空調を追加し、停電中でもランドリーを動かす。さらに災害拠点仕様では、貯水槽、組立てシャワー、炊き出し設備まで加える。
ここで重要なのは、コインランドリーを「巨大な避難所」にしようとしたわけではないことだ。66平方メートルの宇都宮店が学校体育館の代わりになるはずはない。発想は逆である。日常の商業施設に、電気、熱、給水、充電、調理という小さな冗長性を加え、地域の支援点を増やす。ひとつの巨大拠点に能力を集中させるのではなく、買い物動線の中に小さな拠点を散らす。
なぜLPガスなのか
災害対応型ランドリーの技術的な核は、洗濯機そのものよりLPガスである。日本の資源エネルギー庁は、LPガスを「自立稼働が可能な分散型エネルギー」と位置づける。都市ガスのように長い導管網の連続性に依存せず、容器やタンクとして使用場所の近くに燃料を置ける。品質劣化が少なく長期保管しやすく、停電時にもガス発電機や調理器具へ供給できる。
災害では「何が最も高効率か」だけでなく、「系統が切れた時に何が残るか」が重要になる。電力網が止まっても、店の敷地に燃料が残っていれば、少なくとも照明、通信端末の充電、温かい食事などに変換できる。2024年の能登半島地震でも、LPガスは避難所の炊き出しや洗濯ニーズ、仮設住宅で使われたと資源エネルギー庁は整理している。
もちろん無敵ではない。タンクや配管が損傷すれば点検が必要で、長期化すれば燃料補給の道路網も要る。発電機には保守と操作知識が必要で、水が止まれば洗濯は別の制約を受ける。分散型だから災害が消えるのではない。ひとつの系統が壊れた時、別の経路を残すことに価値がある。
防災の本質は、すべてを壊れなくすることではない。何かが壊れた時、次に使えるものを街の中に残しておくことだ。
300店のうち、何が「共通装備」なのか
2026年8月の会社説明では、災害対応型ランドリーに約3日分のLPガスを貯槽できる設備、ポータブル発電機、災害用煮釜、ガスコンロなどを備えるとしている。想定する主な役割は三つだ。炊き出し、簡易家電や携帯電話への電力供給、一時避難・地域支援である。
ブルースカイランドリーの災害対応ページでは、協定店舗の設備として簡易発電機や、約120人分の炊き出しに使える大釜などを挙げる。だが食材や食器を店が常備しているわけではない。2026年の発表は、炊き出しの食材・食器類は地域の有志などによる持ち寄りを前提とすると明記している。
この「足りなさ」は弱点であると同時に、仕組みの性格を正確に示す。店だけで避難生活を完成させるのではない。ガス、発電、空間、調理器具という基盤を提供し、自治体、町内会、消防団、商業施設、住民が人員や食材、情報を重ねる。設備を地域の能力へ変えるためには、関係が必要になる。
設備より難しいのは、「誰が使うか」を決めること
災害設備には典型的な失敗がある。買った。置いた。数年後、誰も接続方法を知らない。鍵の場所が分からない。燃料弁の操作に自信がない。自治体は設備の存在を知っているが、町内会は知らない。あるいはその逆だ。
ジーアイビーが300店というハードウェアの数と並行して強調しているのが、災害協定と訓練である。2026年8月時点で、全国63の自治体・地域団体と協定を結ぶ。2026年2月、名古屋市熱田区では地域住民約15人が簡易発電機の操作と炊き出し設備の設営・点火を確認した。この訓練は会社として全国17カ所目だった。5月には静岡県富士市で、2022年から協定を結ぶ茶の木平町内会が主体となり、設備操作を確認した。
これは地味だが、300という数字より重要かもしれない。災害時は、本社から専門社員が各店舗へ同時に到着する保証はない。道路が切れ、通信が不安定で、スタッフ自身も被災者になる。近所の人が設備を知っているほど、店舗は「所有者の防災設備」から「地域が扱える設備」へ近づく。
2019年9~10月 — 関東を相次いだ台風で千葉を中心に長期停電。会社は停電地域からコインランドリーへ利用者が集まった経験を原点とする。
2020年1月31日 — 宇都宮平出店で初の災害対応型コインランドリーを開設。
2022年 — ブルースカイランドリー全体が200店に到達。地域との災害協定・訓練も拡大。
2024年 — チェーン全体が300店へ。災害協定は全国50カ所を越える。
2026年2月 — 名古屋市熱田区で全国17カ所目の防災訓練。
2026年7月 — 災害対応型ランドリー299店。
2026年8月21日 — 七尾市と西条市の2店が開き、計算上301店となって300店を突破。
2026年8月末 — 長野県の2店を加え、災害対応型303店、全体419店を予定。
コインランドリーそのものが変わった
このモデルが成立する背景には、日本のコインランドリーが「自宅に洗濯機がない人のための設備」から変化した歴史がある。厚生労働省の調査では、コインオペレーションクリーニング営業施設は1996年度の1万228施設から2013年度には1万6,693施設へ増えた。民間推計では2025年度に約2万6,500店とされる。
増えたのは単身者だけが理由ではない。大型の布団や毛布、梅雨や花粉の時期の乾燥、共働き世帯の時間短縮、商業施設で買い物中に洗濯を終える使い方など、家庭に洗濯機がある人も利用者になった。ブルースカイランドリー自体、「ショッピング DE コインランドリー」を掲げ、スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの駐車場を中心に店舗を置いてきた。
その立地が防災と相性を持つ。駐車場がある。日常的に場所を知っている。幹線道路や商業施設の近くにある。LPガスを乾燥用に使う業態なので、災害用燃料との接続が自然である。普段は収益を生む設備だから、防災専用施設のように「使わないまま古くなる」問題も小さくできる。
洗濯は、避難生活の「後半戦」に効く
災害対応の時間軸には段階がある。発災直後は救命、火災、倒壊、津波、飲料水、医薬品が中心になる。その後、避難生活が伸びるほど、食事の温度、睡眠、トイレ、入浴、洗濯、プライバシーのような生活条件が健康を左右する。
能登半島地震は、この「後半戦」の難しさを日本にもう一度突きつけた。道路や上下水道の被害が広域で、避難生活が長期化した。内閣府はその経験を踏まえた避難所環境の改善で、洗濯機会を確保すべき項目として扱っている。2026年3月には、能登半島地震での入浴・洗濯支援の好事例集もまとめた。
だから七尾に301店目にあたる災害対応型店舗が置かれることには、偶然以上の象徴性がある。ただし、その店舗が次の災害でどの役割を果たすかは、設備の存在だけでは決まらない。水はあるか。道路は通れるか。誰が店を開けるか。発電機を誰が扱うか。食材は届くか。自治体や近隣住民が場所を知っているか。防災は常に、ハードウェアと運用の掛け算である。
「地域の避難所」と「指定避難所」は同じではない
会社は災害対応型ランドリーを「一時避難所」「地域の支援拠点」と表現する。これは有用な概念だが、自治体が法令や地域防災計画に基づき指定する避難所と同義ではない。収容人数、建物安全性、備蓄、運営責任、開設判断などは場所ごとに異なる。災害協定がある店舗でも、具体的な協力内容を確認する必要がある。
また、「300店ある」ことと「全国どこでも近所にある」ことも違う。303店は大きなネットワークだが、日本には1,700を超える市区町村がある。店舗分布にも偏りがある。63の協定先は成長を示す一方、303店すべてが自治体・地域団体と個別協定を結んでいるわけではない。
それでも、モデルの価値は残る。災害専用の巨大施設を新築するのではなく、日常の商業ネットワークへ小さな防災能力を足すという考え方は、コンビニ、ガソリンスタンド、道の駅、物流拠点、電気自動車など、日本が進めてきた「民間の日常設備を非常時にも使う」流れの一部だからだ。
| 主張 | 確認できること | そこからは言えないこと |
|---|---|---|
| 「300店を突破した」 | 7月299店。8月21日に2店が開き、月末4店すべてを含めると303店の予定。 | 8月22日時点で303店すべてが営業済みであること。後半2店は8月28日・31日の予定。 |
| 「停電時に役立つ」 | LPガス、ポータブル発電機、炊き出し器具などを備え、充電・調理・地域支援を想定。 | 全303店で、停電中も通常どおり全洗濯機・乾燥機を運転できること。 |
| 「避難所になる」 | 会社と一部協定では一時避難・地域支援拠点としての利用を想定。 | すべての店舗が自治体の正式な指定避難所であること。 |
| 「LPガスは災害に強い」 | 燃料を現地に分散貯蔵でき、系統電力や都市ガス導管から独立して使える。 | 道路寸断、設備損傷、燃料枯渇、断水など他の制約を受けないこと。 |
店が二つの仕事を持つということ
コインランドリーは、防災施設として見ると不思議な場所だ。床は排水を前提にし、大型機器が並び、ガスや電気を大量に使う。通常なら「資源を消費する店」である。その設備構成を少し変えると、停電時には逆に、電気と熱を分ける場所になり得る。
2019年、人々が電気のあるランドリーを探して移動した。2020年、宇都宮で一店がその行動を設計へ変えた。2026年、その設計は300店を越えた。数の増加だけなら企業の成長である。より面白いのは、役割の増加だ。
平時には、洗濯物を乾かす。災害時には、電話を充電する。大釜で湯気を上げる。人が一時的に集まる。場合によっては洗濯そのものを再開する。そのどれも、消防車や救急車ほど劇的ではない。しかし大災害の後、社会が「生き延びる」段階から「生活を取り戻す」段階へ進む時、劇的ではない機能ほど必要になる。
七尾で開く店の洗濯機は、ほとんどの日にはただ回転するだけだ。それでいい。防災設備の成功は、毎日使われることではなく、毎日の商売の中で維持され、必要な日に別の仕事へ切り替えられることにある。
- 株式会社ジーアイビー、2026年8月20日「災害対応型ランドリー」が全国300店舗を突破
- ブルースカイランドリー「災害対応型ランドリー」
- 株式会社ジーアイビー企業情報・沿革
- 2020年1月31日 宇都宮平出店開店資料
- エア・ウォーター「災害対応型コインランドリーの開発秘話」
- 資源エネルギー庁「災害に強い分散型エネルギー、LPガスの利活用」
- 資源エネルギー庁「エネルギー白書2020」
- 内閣府「令和8年版 防災白書」
- 七尾市「令和6年能登半島地震―未曽有の大災害から4カ月―」
- 七尾市、能登半島地震による断水と復旧状況
- ジーアイビー、2026年2月 名古屋市熱田区合同防災訓練
- ジーアイビー、2026年5月 富士市茶の木平町内会防災訓練
- 厚生労働省「コインオペレーションクリーニング営業施設数の推移」
- FNNプライムオンライン、2026年7月 コインランドリー店舗数
編集注:ジーアイビーの2026年8月発表は、災害対応型ランドリー誕生の契機を2019年の台風15号としている。一方、2020年の初号店開業時の広報には台風19号への言及もある。本稿では2019年秋に千葉県などで相次いだ台風と長期停電を背景とし、現在の会社説明に従って台風15号を中心に記述した。「301店」は、同社が7月に公表した299店へ8月21日開店の2店を加えた編集部計算であり、同社が8月末予定として公表する正式な数字は303店である。為替欄は記事内容と無関係の編集部参考値。
