暗い空に、二つの飛翔体が現れる。一つは秋の夜に移動する小鳥。もう一つは羽毛ではなく、指の間に張った膜で飛ぶ哺乳類だ。後ろから線が重なり、方向が変わり、距離が縮む。ヤマコウモリが渡り鳥を追い詰め、空中でつかむ。2023年10月、研究者たちは、長く仮説でしかなかった夜空の捕食を目で見て、カメラへ残した。

東京大学大学院農学生命科学研究科の福井大准教授、同研究科農学特定支援員で同志社大学音響ナビゲーション研究センターの藤岡慧明嘱託研究員、同志社大学の飛龍志津子教授、コウモリと鳥類の地域研究者らによるチームは、論文「Bats attack birds in the air」を2026年7月19日付で米国生態学会誌『Ecology』に発表した。

観察は、秋の小鳥が夜間に集中して通る特定地点で8晩にわたった。サーチライト、デジタルカメラ、赤外線カメラ、サーモカメラを組み合わせ、上空約150メートル以下の範囲を探した。記録されたのは、ヤマコウモリが飛行中の鳥を追う56例、実際に捕獲を試みる22回、成功した6回だった。追跡56例のうち33例では、獲物の種まで判別できた。

最も多かったのはウグイス15例、次いでアオジ9例、クロジ4例。いずれもおおむね30グラム以下の小型鳥だ。より大型のマミチャジナイやアオバトを追う場面もあったが、攻撃へ進んだのはウグイスやアオジなど小型種だけだった。落とされたウグイスの死骸を回収し、傷口に付着したDNAを調べると、捕食者がヤマコウモリであることも分子レベルで確認できた。

8晩2023年10月に行われた集中的な夜間観察
56追跡ヤマコウモリが飛行中の鳥類を追った視覚記録
22攻撃追跡から実際の捕獲動作へ進んだ例
6捕獲映像上で鳥をつかむことに成功した例
33例追跡対象の鳥種を識別できた記録数
約150m以下今回の観察装置が捉えた上空範囲の目安

大きなヤマコウモリ、小さな渡り鳥

ヤマコウモリNyctalus aviatorは、日本の食虫性コウモリの中で大型だ。翼を広げると約40センチ、体重はおよそ40グラム。前腕長57~65ミリ、体重26~60グラムという地域資料もある。主に大木の樹洞をねぐらとし、巣箱や建物、鉄道高架橋の隙間を利用することもある。1911年、英国の動物学者オールドフィールド・トーマスが学名を記載した。

「ヤマコウモリ」という名から山奥だけの動物を想像しやすいが、開けた空間を高速で飛ぶ能力が重要である。長く細い翼、低い周波数の強いエコーロケーション音は、木の葉が密集した空間を細かく縫うより、遠くの標的を探しながら広い空を飛ぶ生活に向く。通常の主食は甲虫、蛾、ハエなどの飛翔昆虫だ。

鳥を食べるコウモリ自体は、世界で皆無ではない。熱帯には巣や枝、地面にいる鳥へ襲いかかる大型肉食種がいる。しかし、温帯の夜空で渡り中の小鳥を常習的に狙うと確認されているのは、欧州のオオヤマコウモリNyctalus lasiopterus、日本を含む東アジアのヤマコウモリ、南・東アジアのIa ioの3種に限られる。

この3種の本質は、鳥食専用の怪物ではなく、ふだんは昆虫を食べる「季節的な越境者」であることだ。秋と春、夜空に小鳥という大きな資源が流れる短い期間だけ、昆虫捕食の感覚と飛行技術を、より危険で高価値な獲物へ向け直す。

鳥の渡りは、地上から見えない川である

多くの小型スズメ目鳥類は夜に渡る。日中に採餌でき、冷涼で風が安定しやすい夜を移動に使い、昼行性猛禽を避けられる。地上の人間にとって、頭上を通る大群は声以外ほとんど存在しないように見える。だが季節の好条件が重なる夜、空には何百万、何億という小鳥の流れができる。

研究者は長い間、その見えない川を間接的に測ってきた。1941年、英国の防空レーダーに現れた「不要な」反射が鳥と確認され、デイヴィッド・ラックとG・C・ヴァーリーは1945年に鳥がレーダーで検出できる事実を公表した。軍事技術の雑音が、レーダー鳥類学の入口になった。

1951年、米国のジョージ・ローリーは望遠鏡を月へ向け、月面を横切る小さな影の数と方向から夜間渡りの密度を推定した。観察できるのは狭い円盤の前だけだったが、大陸規模の協力観察は「見えない移動」を数量へ変えた。後には気象レーダー、飛翔音録音、赤外線・熱画像、GPSが加わった。

2006年には、鉛直レーダーとサーマルカメラを同じ視野へ向け、個体数を熱画像で、高度をレーダーで測る方法が報告された。一つの装置は高さに強く、別の装置は姿に強い。2026年の日本研究も同じ思想に立つ。闇を一種類のセンサーで征服するのではなく、可視光、近赤外、熱、専門家の種識別を重ねた。

1793年から始まった「見えない感覚」の謎

コウモリの側にも、二世紀を超える観察史がある。1793年、イタリアの博物学者ラッザロ・スパランツァーニは、眼を覆われたコウモリが暗室で障害物を避けることに驚いた。ジュネーブのルイ・ジュリンは耳を塞ぐと衝突することを示し、聴覚が視覚の代わりをするとの結論へ近づいた。しかし、人に聞こえない音を測る装置がなければ、仕組みは確定できなかった。

1938年、ジョージ・ピアースとドナルド・グリフィンは超音波検出器でコウモリの高周波音を記録した。1941年、グリフィンとロバート・ガランボスは、発声、聴覚、障害物回避を結びつける実験を発表。グリフィンは1944年、「エコーロケーション」という言葉を用いた。自ら音を送り、反射が戻るまでの時間、方向、強さ、周波数変化から空間を読む生物ソナーである。

昆虫を追うとき、コウモリは接近に伴ってパルス間隔を短くし、最後は「フィーディング・バズ」と呼ばれる高速列を出す。だが鳥は昆虫よりはるかに大きく、速く、翼で回避し、捕獲後も重い。見つけやすい反射体であっても、追いつき、つかみ、致命傷を与え、落とさず処理するには別の能力が要る。

鳥が通常聞きにくい超音波を使えば、コウモリは自分だけが利用する「私的な感覚チャンネル」を持てる可能性がある。獲物は捕食者の探索信号を察知しにくい。一方、ヤマコウモリが野外で鳥を見つける際、エコーロケーションだけを使うのか、飛翔音、鳥の声、月明かりも補助するのかは、今回の視覚記録からは決まらない。

2000年、糞の羽根が常識を破った

現代の鳥食研究は、華麗な映像ではなく、糞の中の羽根から動き出した。2000年、イタリアの研究者はオオヤマコウモリの糞59個を調べ、ヨーロッパコマドリやアオガラの羽根を複数年にわたり確認した。昆虫しか食べないという像は崩れたが、反論は残った。落ちた羽根を昆虫と一緒に誤飲したのではないか。ねぐらにいる鳥を襲ったのではないか。

2001年、カルロス・イバニェスらはスペインで1万4,000個の糞を解析し、羽根が春と秋の渡り期に集中し、夏にはほとんど消えることを示した。鳥の夜間渡りと食性の季節性が一致し、翼形とエコーロケーションの特徴から、空中捕獲説を提案した。

2007年の安定同位体研究は、別の時間窓を開いた。羽根は「最近何を食べたか」を示すが、血液や組織の炭素・窒素同位体は一定期間に体へ組み込まれた餌の特徴を残す。分析は、夏の昆虫食から春・秋の鳥食へ大きく切り替わることを支持し、渡り鳥が一時的な副食ではなく、季節によって主要資源となり得ると示した。

それでも、証拠は食べた後に残る痕跡だった。捕獲場所も方法も映らない。糞の中の羽根は強い手掛かりだが、狩りの映画から最後の場面だけを拾ったようなものだった。

日本の証拠──羽根、季節、そしてDNA

日本では福井氏らが2013年、ヤマコウモリの糞を季節ごとに調べ、春、秋、初冬に鳥の痕跡を確認し、夏には見つけなかった。欧州と同じ季節パターンが東アジアでも現れた。夜間渡りを狙う行動が一地域の偶然ではなく、離れた系統・地域で成立した可能性が高まった。

2019年、北海道で採取した糞のDNAバーコーディングにより、妊娠中のヤマコウモリがシマセンニュウを食べたことが分子で確認された。陽性は一試料であり、頻度を推定するには小さすぎたが、「羽根らしいもの」から「特定の鳥種のDNA」へ証拠の解像度が上がった。

2021年の研究は羽根残渣から鳥DNAを増幅し、日本のヤマコウモリの獲物14種を明らかにした。多くは体重5~25グラムの夜間移動性スズメ目だった。樹洞内で偶然捕らえた鳥だけでは説明しにくい多様性と渡り性が、高空の空中捕獲という推論を強めた。

今回の2026年研究は、再びDNAを使った。ただし役割が逆である。以前は糞のDNAから行動を推定した。今回は先に映像で捕獲を見て、落下したウグイスの傷に残るDNAで攻撃者の種を確かめた。視覚証拠と分子証拠が同じ事件で結びついた。

闇を見るための四つの目

サーチライトは空間の一部を可視化し、羽色や形をデジタルカメラへ渡す。赤外線カメラは人の目に見えにくい光で飛翔体を追い、サーモカメラは鳥とコウモリが放つ熱を背景の空から分ける。どれか一つでは、遠い黒点、虫、鳥、コウモリを取り違えやすい。複数の像と軌跡、飛び方、種識別を重ねることで、追跡から接触までを読める。

観察手段得意な情報主な限界
サーチライト+可視カメラ形、羽色、相対位置、捕獲瞬間照射範囲が狭く、光が行動へ影響する可能性
赤外線カメラ暗所での連続軌跡距離と条件により細部・種識別が難しい
サーモカメラ暖かい動物を夜空背景から検出雲・湿度・高度・対象サイズで検出性能が変わる
DNA傷口や残渣から捕食者・獲物を同定単独では追跡経路や捕獲方法を示さない

この設計の強さは、「映った黒い影がコウモリに見える」という印象だけに頼らない点にある。33例で鳥種を識別し、追跡、攻撃、捕獲を段階分けし、回収個体ではDNAを照合した。鳥類観察者とコウモリ研究者の協力が、装置の組み合わせと同じほど重要だった。

一方、サーチライトは自然の夜にない刺激である。強い人工光が渡り鳥の進路や密度を変えることは他研究で知られる。今回の公開資料だけでは照射が個々の追跡へ与えた効果は定量できない。今後は無照明の熱画像や受動音響との比較を入れれば、観察者効果をさらに切り分けられる。

56回の追跡が描いた選択

追うことと、攻撃することは同じではなかった。ヤマコウモリは大型のマミチャジナイやアオバトにも接近したが、実際に攻撃したのは小型のウグイス、アオジなどだった。標的を見つけた後、追跡中に大きさ、速度、回避能力、捕獲後の扱いやすさを評価している可能性がある。

ヤマコウモリ約40グラムにとって、30グラム近い鳥は巨大な獲物だ。昆虫とはエネルギー収支が違う。成功すれば大きな栄養を得るが、長い追跡は燃料を使い、衝突や損傷、獲物を落とす危険がある。「追うが攻撃しない」という記録は、空中捕食が無差別な衝突ではなく、途中に選択段階を持つことを示唆する。

22回の攻撃から6回の捕獲が記録されたため、観察された攻撃の単純比は約27%になる。ただし、これを種全体の狩猟成功率とは呼べない。観察範囲へ入った事例だけで、上空150メートルより高い追跡は見えず、見失った事例や装置の方向外の出来事もある。8晩という短期、特定地点、特定の天候と渡り密度に限られる。

日ごとの差は極端だった。全く見えない夜もあれば、50回近い捕食関連行動が観察された夜もあった。鳥が少なかったのか、風や雲の条件が悪かったのか、コウモリが高い層へ移ったのかは分からない。「ゼロ」は行動がなかったことと、装置に見えなかったことの両方を含み得る。

2025年の「直接証拠」と2026年の「初の視覚証拠」

ここには、二つの「世界初」を丁寧に分ける必要がある。2025年、欧州のオオヤマコウモリへ小型バイオロガーを付けた研究は、高度、三次元加速度、エコーロケーション、周囲音を同時記録し、渡り鳥を空中で追い、捕らえ、食べた直接証拠を得た。

14個体へ装着したタグの中で、詳細な鳥追跡が2例記録された。一方は失敗し、もう一方は長い下降追跡の末にヨーロッパコマドリを捕らえた。鳥の苦鳴に続き、23分間の咀嚼音が飛行中に続いた。音と運動は、コウモリ自身の背中から見えない狩りを描いたが、外部カメラで姿を撮ったわけではない。

2026年の日本研究が初めて達成したのは、コウモリと鳥の二者を外から視覚的に捉え、飛翔追跡から捕獲までを目視・映像記録したことだ。前者は初の直接的バイオロギング証拠、後者は初の視覚記録。互いに競合せず、異なる感覚窓から同じ行動を確定した。

研究対象・方法直接得たもの残った空白
欧州・2025年オオヤマコウモリの背中に音・高度・加速度タグ高空追跡、捕獲時の鳥の声、飛行中23分の咀嚼音追跡する二者の外観映像はない
日本・2026年サーチライト、可視・赤外線・熱カメラ、DNA56追跡、22攻撃、6捕獲の外部視覚記録捕獲後の摂食法とエコーロケーション詳細は未記録

空の格闘──見つけ、追いつき、持ち去る

鳥を空中で捕るには、三つの壁がある。第一は発見。闇の開放空間には地面や葉の反射が少なく、鳥は大きな音響標的になる可能性がある。低周波で強いパルスは遠くへ届きやすい。第二は追跡。渡り鳥は直線的に進めても、襲われれば急旋回し、コウモリはより急な方向転換と加速を要する。

第三は処理だ。ヤマコウモリに近い重さの鳥をつかめば、翼の空気抵抗と暴れる力が加わる。脚で持つのか、尾膜で受けるのか、口で首や胴を押さえるのか。今回の映像は捕獲を示したが、その後どこで、どの姿勢で、どの部位から食べるかを決めていない。回収されたウグイスは、つかんでも保持に失敗することがある証拠でもある。

欧州の研究では、落下した鳥翼の噛み跡と捕食者DNAから、翼を外して重量と空気抵抗を減らす可能性が示された。日本のヤマコウモリが同じ処理をするかは未確認だ。近縁だから同じと仮定せず、口元を撮れる高解像度熱・近赤外映像、コウモリ搭載マイク、地上で回収した残骸を組み合わせる必要がある。

見えたのは「鳥を空中で捕る」まで。どう殺し、どう運び、どこで食べるかは、次の夜に残された。

昆虫食から鳥食へ──進化は既存の道具を転用した

鳥食はゼロから設計された行動ではない可能性が高い。温帯の上空では昆虫も季節的・夜間に移動する。広い空を高速飛翔し、低周波ソナーで大きな昆虫を探し、尾膜や口で空中捕獲する能力が先にあれば、渡り鳥は難しいが栄養価の高い「次のサイズ」の標的になる。

中国のIa io研究は、この段階的転用を支持する。DNAメタバーコーディングでは6~19グラムの鳥22種を確認。2022年のGPS・行動・ゲノム研究では、秋の個体が高高度と高速飛行を示し、暗室の鳥標本へフィーディング・バズを発して攻撃した。視覚や鳥の声より能動的エコーロケーションが中心という実験結果だった。

同研究は、低酸素、DNA損傷修復、噛む・咀嚼する能力、消化代謝に関連する遺伝子の適応進化も報告した。ただし、これは別種Ia ioの比較ゲノム結果であり、日本のヤマコウモリへそのまま移せない。ヤマコウモリについては2024年に1.77ギガ塩基、21本の疑似染色体へ99.8%を配置した参照ゲノムが公開され、今後の比較基盤が整った。

進化の問いは「鳥を食べる遺伝子があるか」ではなく、翼、ソナー、顎、代謝、免疫、学習がどの順に組み合わさったかである。季節限定の資源に依存するなら、渡りの時期を予測し、ねぐらから狩場へ移動し、昆虫と鳥で攻撃を切り替える柔軟性も重要になる。

獲物の側から見た夜空

夜に渡ることは、昼のタカを避け、涼しい空気で水分消費を抑え、日中に餌を補給できる有利な戦略だと考えられてきた。しかし捕食者が不在なのではなく、種類が違った。超音波を聞きにくい小鳥にとって、ヤマコウモリは暗闇から自分だけに見えるソナーで接近する。

それでも鳥は無力ではない。羽ばたき音や空気の乱れを感じ、急旋回し、降下・上昇し、仲間の飛翔声で危険を共有する可能性がある。2026年の記録で攻撃22回のうち捕獲6回だったことは、多くが逃げたことも意味する。捕食者の技術と同じだけ、被食者の回避が研究対象になる。

渡りの高度、月相、風向、雲、群れ密度は、遭遇と勝敗を変えるだろう。向かい風で鳥が低く飛ぶ夜、地形で流れが絞られる場所、悪天候で高度が下がる時は、コウモリの狩場になり得る。一方、強い追い風で鳥が速く高く流れる夜は、手が届きにくいかもしれない。今回の8晩は、こうした環境条件を因果的に分ける規模ではない。

小鳥側の適応も長期的には変わり得る。超音波は聞こえなくても、捕食圧が強い場所で高度や時間を変える、密な群れを作る、襲撃時の回避パターンを発達させる可能性がある。夜間渡りは天候とエネルギーだけでなく、見えない捕食者との共進化として読み直せる。

保全上の逆説──希少な捕食者を知る

ヤマコウモリは日本の環境省レッドリスト2020で絶滅危惧II類とされる。大木の樹洞の消失、ねぐらの攪乱、建造物の改修などが脅威になる。地域資料は、森林伐採や土地造成に加え、ねぐら場所が確認できない県もあると記す。恐ろしい狩りの映像は、普通に多い動物の記録ではない。

研究費の一部は、風力発電施設におけるコウモリ衝突リスク低減のための基盤形成から出ている。高速で開放空間を飛び、季節的に上空を使う種の時刻、高度、気象条件を知ることは、タービンの立地、稼働制御、モニタリングを改善する可能性がある。ただし今回の研究は風車衝突を測ったものではなく、捕食地点から一般的リスクを直接計算できない。

鳥を食べるから鳥類保全の敵とみなすのも誤りだ。ヤマコウモリは希少で、捕食は自然の食物網の一部である。6捕獲から渡り鳥個体群への影響量は推定できない。新しい行動を知る価値は、排除の根拠ではなく、生態系がどのように時間と空間を分け合っているかを正確に理解することにある。

むしろ、古木の樹洞と夜空の渡りルートが一つの生活史でつながることが重要だ。昼の森林管理、建物改修、夜の照明、風力発電の運用は別々の政策に見えるが、一匹のヤマコウモリにとっては、ねぐらから狩場まで連続した環境である。

この研究が示したこと、示していないこと

直接示したのは、ヤマコウモリが飛行中の渡り鳥を追跡し、攻撃し、空中で捕獲することだ。観察数を段階別に記録し、複数の鳥種を識別し、落下したウグイスの傷口DNAで捕食者を確認した。飛行中捕獲説に、初めて外部からの視覚証拠を与えた。

まだ示していないことも多い。捕獲後に飛びながら食べるのか、着地するのか。どの部位をどうつかみ、致命傷を与えるのか。エコーロケーションの周波数とパルス列を、発見、追跡、攻撃でどう変えるのか。個体ごとに鳥食へ特化するのか、多くの個体が機会的に行うのか。

公開資料は観察地点を「多くの渡り鳥が通過する特定の場所」としており、詳細地点を示していない。希少種やねぐらを守るうえで位置非公開は合理的だが、地形の一般化には追加情報が要る。8晩、秋1季、約150メートル以下という窓から、年間の食性、全国分布、成功率を推定することもできない。

次に必要な観察
  • 熱画像、受動音響、レーダーを同期し、無照明時とサーチライト照射時を比較する。
  • 三次元軌跡と超音波を同時記録し、発見距離、追跡速度、フィーディング・バズを測る。
  • 上空150メートルを超える層を監視し、「見えない夜」と「狩りがない夜」を分ける。
  • 捕獲後の運搬・摂食、翼処理、獲物の回避動作を高解像度で追う。
  • 複数年・春秋・複数地点で、気象、月相、鳥密度、コウモリ個体を照合する。

証拠のリレーが、闇を行動へ変えた

この発見は、一台の新型カメラが突然すべてを解決した物語ではない。1793年の耳の謎、1941年の超音波実験、戦時レーダーに映った鳥、1951年の月面観察、2000年の糞の羽根、2007年の同位体、2013年からの日本の季節食、2019年と2021年のDNA、2025年の背中のセンサーが、2026年の視覚記録へ手渡された。

証拠はそれぞれ別の問いへ答えた。羽根は「食べた」。季節性は「渡り期に食べる」。DNAは「どの鳥か」。翼とソナーは「空中で捕れそうだ」。バイオロガーは「追い、捕らえ、飛びながら噛んだ」。外部カメラはついに「二者が夜空でどう重なったか」を示した。

科学の強さは、最初の推理を一度で信じることでも、古い証拠を新しい映像で捨てることでもない。異なる方法が、互いの盲点を埋めることにある。糞とDNAは広い期間と多くの獲物を語るが動きを見せない。映像は動きを示すが、狭い時間と空間しか見ない。音と加速度は個体の内部視点を与えるが姿を映さない。

夜空は空白ではなかった。小鳥の渡りという川があり、その流れを待つ哺乳類の捕食者がいた。人間が見ていなかっただけだ。2026年の映像が変えたのは、ヤマコウモリの行動そのものではない。長く見えなかった生態系を、初めて私たちの視覚へ入れたことである。

主要資料・参考文献

本稿は2026年の原著・大学発表を中心に、欧州と日本の糞・羽根・安定同位体・DNA研究、2025年のバイオロギング、鳥類夜間渡り観測、エコーロケーション史、食鳥性コウモリの比較ゲノムと保全資料を照合した。「初の直接証拠」と「初の視覚記録」は区別した。