新品の紙おむつは軽い。ところが、役目を終えると重い。環境省の2026年版ガイドラインによると、日本で1年間に消費される紙おむつは乾燥状態で推計51万〜57万トン。尿などを吸収した使用後の排出量は204万〜228万トンに膨らむ。2023年度に処理された量は216万トンだった。いま自治体が焼却炉へ運んでいるのは、紙や樹脂だけではない。製品が抱えた大量の水分でもある。
8月24日、兵庫県は「使用済紙おむつのリサイクルモデル構築に係る検討」の第1回意見交換会を31日に神戸市内で開くと発表した。県の狙いは、単に一つの再生装置を導入することではない。排出する介護・保育施設、収集する市町や一部事務組合、運ぶ廃棄物処理業者、紙おむつ・専用車両のメーカー、再生材を製品にする企業、小売、金融機関、研究者をつなぎ、広域化・集約化を含む回収と再生の仕組みを描くことにある。
その出発点は、意外なほど基礎的だ。環境省が6月に採択した自治体伴走支援事業で、兵庫県は宍粟市(しそうし)と家庭から出る使用済紙おむつを調査する。住民に分別意思があるのか。臭いをどう抑えるのか。集積所へ持ち出せるのか。再生工場のカタログを比べる前に、毎日の排出と回収が成り立つかを確かめる。
「ひょうごモデル」は、工場より先に描く地図だ
県が掲げる「ひょうごモデル」の背景には、地域条件のばらつきがある。神戸・阪神間のような人口密集地では、短い経路で大量に集めやすい一方、道路混雑、保管場所、住民合意が難しい。播磨の工業地域には素材メーカーや需要家を結ぶ可能性がある。中山間地では排出源が分散し、少量の湿った廃棄物を長距離運ぶ費用と環境負荷が重くなる。
31日の会合は二部構成で、ラッセホールで午後2時から4時まで開く予定だ。前半は環境省環境再生・資源循環局資源循環課による説明などを公開し、後半のワークショップは非公開とされる。県が示した参加分野は、介護・保育、自治体、廃棄物処理、専用車両、紙おむつ製造・販売、金融、研究・市民活動まで広い。事務局は一般財団法人日本環境衛生センターが担う。
この構成は理にかなう。使用済紙おむつの循環は、処理装置を一台置けば完結する事業ではないからだ。専用袋を誰が配るか。施設職員と家庭がどこまで分けるか。回収車内で袋を破らない仕組みは何か。遠隔地の少量回収をどこで積み替えるか。再生パルプやプラスチックを誰が買うか。各工程の責任と費用を一枚の地図にしなければならない。
ただし、関係者を多く集めるだけではモデルにならない。誰が意思決定し、データを所有し、事故時の責任を負うのか。県は広域調整、市町は一般廃棄物処理、民間は収集・技術・販路と役割が異なる。宍粟市の家庭系調査は、山間部を含む現場からこの設計を逆算する最初の試金石になる。
増えるのは枚数だけではない――ごみの構成が変わる
紙おむつ市場は少子高齢化をそのまま映す。2024年の国内生産約176億枚のうち、子ども用は約80億枚で2014年の3分の2ほどに減った。大人用は約96億枚で、同じ10年間に約1.4倍となった。大人用の使用済紙おむつは2023年の約153万トンから2050年には約214万トンへ増える見通しで、子ども用は約63万トンから約50万トンへ減る。合計は差し引き約48万トン増える。
総人口が減れば、ごみ全体も減る。しかし、介護に欠かせない紙おむつの減り方は遅い。その結果、一般廃棄物に占める割合は2023年の5.5%から、2030年に6.6〜7.1%、2050年に7.7〜12.7%へ上がると環境省は推計する。他の資源物の分別が進めば、焼却炉へ残るごみの中での存在感はさらに大きくなり得る。
2025年9月時点の日本の65歳以上人口は3619万人、総人口の29.4%だった。だが、紙おむつを高齢者だけの問題として語るのは誤りである。乳幼児、障害のある人、治療中の人、家族介護者、保育・医療・福祉の職員に関わる生活基盤だ。使うことを恥と結びつければ、適切な排出や支援を遠ざける。政策の言葉は、廃棄物の量を数えながら利用者の尊厳を守らなければならない。
紙おむつは「高齢化ごみ」ではない。人生の異なる時期に排せつを支える衛生製品であり、その後始末までを社会のインフラとして設計する課題だ。
なぜ焼却が難しいのか――水分だけでは語れない
湿った紙おむつは発熱量が低く、焼却条件によっては補助燃料が必要になる。吸収した尿に含まれる塩類やナトリウムは、設備の耐火物や部材の腐食に関わる要因になり得る。環境省のガイドラインは、高齢化率の高い地域では紙おむつがごみ全体のナトリウムの最大50%、化石由来二酸化炭素の最大23%を占める可能性を紹介する。
ただし、ここから「紙おむつがすべての焼却炉を傷める」と飛躍してはいけない。同じガイドラインは、一般的なごみ質や塩素濃度への影響が限定的な場合もあるとする。炉の形式、他のごみとの混合、水分、運転条件で結果は変わる。焼却発電が有効に働く施設もあり、再生利用の優位は地域ごとに測る必要がある。
分別には別の費用が生じる。専用袋、保管箱、回収便、洗浄・殺菌、排水処理、残さの処分が加わる。水を含んだまま遠くまで運べば、燃料と人件費が増え、再生による便益を相殺しかねない。将来の焼却施設更新時に紙おむつ約6%を外せれば炉を小さくできる可能性はあるが、既存炉の固定費が残る期間には単純な節約にならない。
環境省が示すライフサイクル評価も万能の答えではない。基準ケースは発電しない全量焼却を想定しており、水分率、輸送距離、電力構成、再生材が何を代替するかで結果は動く。したがって「リサイクルなら常に低炭素」とは言えない。兵庫県は都市部と山間部を同じ平均値で包まず、経路別の実測値を公開する必要がある。
四つの技術、四つの異なる出口
「紙おむつリサイクル」は一つの技術名ではない。紙おむつはパルプ、ポリオレフィンなどのプラスチック、高分子吸収材(Super Absorbent Polymer、SAP)から成る複合製品だ。環境省の2026年版ガイドラインは、実用化されている代表的な処理を四つに整理する。行政用語の「再生利用等」には、素材回収だけでなく、通常のごみ焼却発電とは区別される固形燃料化などの熱回収も含まれる。回収できる素材、必要な水とエネルギー、残さ、製品の出口がそれぞれ違う。
| 方式 | 主な工程 | 得られるもの・用途 | 兵庫県が確かめるべき点 |
|---|---|---|---|
| 水溶化・分離 | 水中でほぐし、パルプ、プラスチックなどを分ける。 | 再生パルプ、再生プラスチック。建材、紙製品、成形品など。 | 水使用量、排水・汚泥処理、異物混入、素材ごとの販売先。 |
| 水溶化・分離・オゾン処理 | 分離したパルプをオゾンで処理し、品質を高める。 | 品質確認を経た再生パルプ(紙おむつ用途を含む)、プラスチック、SAP。 | 水平リサイクルの品質保証、設備・電力費、継続的な原料量。 |
| 洗浄・分離 | 洗浄しながら構成素材を分離・回収する。 | 再生パルプ、プラスチックなど。 | 衛生管理、回収率、洗浄排水、残さの最終処理。 |
| 破砕・発酵・乾燥 | 破砕後、発酵熱などで乾燥し燃料化する。 | RPF・RDFなどの固形燃料。熱源として化石燃料を代替。 | 受入先の品質条件、輸送距離、燃焼時排出、素材循環との比較。 |
このほか、炭化・半炭化物、混合物からのSAF原料化、SAPの再生などが開発されている。再生パルプの用途には、紙おむつ、トイレットペーパー、段ボール、建材、名刺などがある。プラスチックは袋、箱、床材、遊具、擬木、パレットへ、SAPは紙おむつのほか猫砂や災害用トイレ吸収材への展開が検討される。
価値の高い用途ほど、品質と安定供給のハードルも高い。紙おむつから紙おむつへ戻す「水平リサイクル」は象徴性が強いが、全量が新品と同じ用途に戻るとは限らない。素材回収率だけでなく、最終的に何へ使われ、何年後に再び廃棄されるかまで追わなければ循環の質は分からない。
衛生と尊厳――袋の結び方から制度は始まる
家庭での分別は、古紙や缶より繊細だ。ガイドラインは、汚物を可能な範囲でトイレに流し、使用済紙おむつを袋に入れて口を結び、漏れと臭いを抑える方法を基本に置く。収集車、とりわけ圧縮式車両で袋が破れれば、作業員の曝露、汚水、臭気、設備清掃の負担が増す。専用容器、二重袋の要否、回収頻度は実証で決めるべきだ。
感染性廃棄物との境界も欠かせない。家庭から出る紙おむつは一般廃棄物だが、病院や施設のものは事業系一般廃棄物となり得て、指定感染症の患者に使用したものなどは通常の再生ルートから除く必要がある。排出者が診断名をさらす設計ではなく、医療機関と廃棄物処理法上の判断手順を整え、対象外品を安全に分ける仕組みが要る。
回収拠点にはプライバシーの配慮も必要だ。中身が見えない袋、住民の目にさらされにくい投入方法、袋代の負担軽減は、育児・介護世帯が参加しやすい条件になる。一方、保育士や介護職員へ細かい分別を追加すれば、既に逼迫する現場へ時間コストを移す。混入率だけでなく、1人分を処理する時間と職員の受け止め方を測らなければならない。
再生材の衛生は「洗ったから安全」では証明できない。2024年に制定されたJIS S 0261「尿吸収製品用リサイクルパルプ」は、外観・臭気、pH、ヒ素・重金属、一般細菌、大腸菌などの品質項目を定める。2025年のエコマーク認定基準も、選別、洗浄、殺菌と再生材含有率の表示を求める。回収現場と製品工場の双方で、試験結果と不適合時の処置を追跡できることが信頼の土台になる。
循環の難所は、湿った資源を運ぶ「逆物流」
使用済紙おむつは、工場から全国へ均一に流れる新品と逆向きに動く。家庭、保育所、介護施設、病院という無数の小さな排出点から、臭いを出さず、長く保管せず、一定量を処理施設へ集める。物流業界でいう逆物流の中でも、重さ、衛生、時間制約が重なる難しい荷物だ。
施設系は排出量を予測しやすく、職員研修もまとめて行えるため、初期事業に向く。家庭系は広く分散し、育児や在宅介護の状況も違う。だからこそ宍粟市の調査には意味がある。参加意思だけを尋ねるのでは足りない。排出頻度、集積所までの距離、車を使えない世帯、夏季の臭気、雪や豪雨、袋の価格、誤投入を地域別に見なければならない。
兵庫県が広域モデルを組むなら、少なくとも三つの配置を比較できる。排出量の多い都市部から大型施設へ直送する集中型。複数市町の中継拠点で水分低減や圧縮をして運ぶ集約型。山間部で小規模処理または燃料化し、長距離輸送を避ける分散型である。技術の優劣ではなく、人口密度と道路、既存焼却炉、再生材需要の組み合わせで決める。
採算の最後を決めるのは、再生材の買い手だ。自治体が回収費を払い、工場が素材を作っても、品質の揃わないパルプやプラスチックが倉庫に残れば再生利用とは呼びにくい。メーカーとの長期購入契約、品質規格、価格変動時の分担、売れない残さの処理先まで、公募や協定の段階で示す必要がある。
伯耆町から姫路へ――実証が標準へ変わるまで
日本の使用済紙おむつ再生は2026年に突然始まったわけではない。福岡県大牟田市などは素材回収を先行してきた。鳥取県伯耆町(ほうきちょう)は2011年に燃料化方式を導入した。各地の経験を受け、環境省は2020年3月に初の自治体向けガイドラインを公表し、2023年度から情報整理、自治体支援、事業者支援の三本柱で普及策を進めた。
2011年 鳥取県伯耆町が、使用済紙おむつを乾燥・燃料化する方式を導入。
2020年3月 環境省が自治体向けの初版ガイドラインを公表。
2023年度 環境省が普及に向けた自治体・事業者支援事業を開始。
2024年1月 兵庫県が「兵庫県資源循環推進計画」を策定。
2024年 尿吸収製品用リサイクルパルプの品質規格JIS S 0261が制定。
2025年5月 使用済紙おむつ由来再生材を使う製品のエコマーク基準が制定。
2026年4月 環境省が技術、衛生、費用、LCAを拡充した改訂ガイドラインを公表。
2026年6月 兵庫県を含む8事業が国の自治体伴走支援に採択。
2026年8月 兵庫県が「ひょうごモデル」の第1回意見交換会を発表。
民間の技術開発も次の段階へ進む。ユニ・チャームは、オゾン処理を使った水平リサイクル由来の再生パルプを「RefF(リーフ)」として展開している。同社が「世界初」とする表現は同社調査に基づく企業主張であり、公的な認定ではない。住友精化は2026年6月、姫路工場に使用済紙おむつからSAPをケミカルリサイクルするパイロット設備を設置したと発表した。これも兵庫県のモデルに採用されたと確認された技術ではなく、県内に存在する別の企業実証である。
実証を産業へ変えるのは、発明より標準かもしれない。買い手が成分、細菌、臭気、トレーサビリティを比較できれば、再生材は「廃棄物由来だから安い」商品から、仕様で取引される原料へ変わる。逆に自治体ごとに袋、回収対象、検査、表示が違えば、メーカーは広域調達できない。兵庫県の広さはその弱点を見つける場にもなる。
成功を名乗る前に公開すべき七つの数字
政府は2030年度までに、使用済紙おむつの再生利用等に取り組む、または検討する自治体を150に増やす目標を掲げる。「検討中」も含むため、自治体数だけでは処理実績を表さない。兵庫県も会議開催や参加者数を成果にせず、物質、費用、労働、環境を同じ台帳で示すべきだ。
- 物質収支:回収重量、含水率、異物率、パルプ・プラスチック・SAPの回収量、残さ量。
- 参加:対象世帯・施設、参加率、継続率、地域別・季節別の変化。
- 物流:1トン当たり走行距離、積載率、回収頻度、袋破損・臭気苦情。
- 総費用:袋、保管、収集、中継、処理、排水、残さ処分、県・市町・事業者の負担。
- 労働と安全:分別時間、研修、事故、曝露、職員・家庭の負担感。
- 製品の出口:再生材の品質試験、販売量、用途、買い手、在庫、不適合品。
- 環境:焼却発電を含む地域の現状と比較した温室効果ガス、エネルギー、水、排水。
発生抑制も評価から外せない。環境省の例示では、テープ式紙おむつを1日5枚使う場合と、テープ式1枚と尿取りパッド5枚を組み合わせる場合を比べると、廃棄物量を4割超減らせるケースがある。利用者の皮膚状態、排せつ量、介護方法によって適否は違い、削減のために交換回数や衛生を犠牲にしてはならない。それでも、軽量化、適切な製品選択、再使用可能品を選べる環境は、再生処理より上流の対策である。
兵庫県の取り組みが価値を持つのは、一つの「正解技術」を選ぶからではない。密集市街地、工業地域、中山間地で違う答えを比べ、それでも共通に使える衛生基準、契約、データ形式、費用分担をつくれたときだ。紙おむつは使用後も人の生活に極めて近い。だから循環の設計は、炭素やトン数だけでなく、介護する人、される人、子を育てる人、集める人の時間と尊厳から始めなければならない。
- 確認済み:兵庫県は環境省の2026年度自治体伴走支援に採択され、宍粟市と家庭系使用済紙おむつの調査を行う。
- 確認済み:県は8月31日に、官民学の関係者による第1回意見交換会を開く予定である。
- 確認済み:県は都市、工業地域、中山間地を含む広域回収・再生利用のモデル構築を目指す。
- 未決定・未公表:採用技術、処理施設、運営事業者、具体的な対象市町、処理量、事業費、稼働時期、削減効果。
- 別事業:姫路市内の民間SAPパイロット設備は、県モデルへの採用が発表されたものではない。
- 兵庫県 — 「使用済紙おむつのリサイクルモデル構築に係る検討」第1回意見交換会(2026年8月24日)
- 環境省 — 2026年度使用済紙おむつの再生利用等に関する自治体伴走支援事業の採択結果(2026年6月4日)
- 環境省 — 使用済紙おむつの再生利用等ガイドライン(2026年版)と関連資料
- 環境省 — 使用済紙おむつの再生利用等ガイドライン改訂の公表(2026年4月)
- 環境省 — 使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン初版(2020年3月31日)
- 環境省 — 使用済紙おむつの再生利用等に関する2023年度事業
- 総務省統計局 — 統計からみた我が国の高齢者(2025年9月)
- ユニ・チャーム — 使用済紙おむつ由来再生パルプ「RefF」に関する発表(2026年5月19日)
- 住友精化 — 姫路工場のSAPケミカルリサイクル・パイロット設備(2026年6月15日)
- 花王 — 上勝町での使用済紙おむつ炭素化リサイクル実証(2025年10月1日)
編集注:「使用済紙おむつ」「再生利用等」「高分子吸収材(SAP)」「水平リサイクル」、兵庫県、宍粟市(しそうし)、伯耆町(ほうきちょう)、一般財団法人日本環境衛生センター、各省庁・部局・会議の正式名称は、日本語の国・自治体・企業一次資料で確認した。第1回意見交換会は公開日の5日後に予定されているため、結果を先取りしていない。企業による「世界初」等の表現は企業自身の主張としてのみ扱った。画像は報道写真ではなく編集用アートである。為替レートの原時刻2026年8月24日午後7時47分(UTC)は、日本時間の8月25日午前4時47分に換算した。為替レートは本記事の政策数値の換算には使っていない。
