人口が減る地域で、最後まで残りやすい仕事は、利益の出る仕事とは限らない。祭りの山車を出す。水路をさらう。草を刈る。豪雨の後に泥を運ぶ。商店のウェブサイトを更新する。地元を離れた子や孫、何度も訪れる旅行者、短期で働く人が加われば続けられるかもしれない。それでも、年に数日来る人を「住民」と呼んでよいのか。
その問いを国の制度へ変えようとしているのが、総務省の「ふるさと住民登録制度」である。住民票のある住所とは別の地域に継続的に関わる人を登録し、関係の規模と深さを見えるようにする。政府は「地方創生2.0基本構想」で、今後10年間に実人数1000万人、延べ1億人の関係人口を目標に掲げた。
8月4日、東京・御成門タワーで開かれた「首長サミット2026 LG30」は、その制度を自治体と企業の現場へ落とし込む場だった。観光業界誌トラベルビジョンによれば26自治体が参加し、内閣官房、総務省、国土交通省、農林水産省の関係者も出席した。北海道今金町の公式記録は、全国から選ばれた30人の市町村長を対象とする「LG30 ローカルガバメント首長サミット」で、モデル事例、企業5社のセッション、首長間の対話が行われたと伝える。LG30という枠と当日の参加数は同じ数字ではない。
26自治体の会合が決めたこと、決めていないこと
サミットを主催したのは「ふるさと住民応援コンソーシアム」である。楽天グループが2025年9月に設立し、事務局を務める。旅行、短期就労、地域体験、住まいなどを扱う企業が参加し、自治体と一緒に「登録後の活動」をつくろうとしている。
当日は自治体のモデル事例に加え、日本旅行、タイミー、楽天グループ、LIFULL、おてつたびの担当者が、地域での活動と再訪をどう結ぶかを話し合った。今金町の公式記録は、町長が人材確保と今後の構想に手掛かりを得たと記す。岸和田市の市長日程も、同日午後2時から御成門タワーで開かれた同サミットへの出席を確認している。
ただし、この場で全国共通の権利や義務が決まったわけではない。コンソーシアムは政府機関ではなく、参加自治体の総意を法令へ変える議決機関でもない。サミットの価値は、制度の運用を担う小さな自治体と、移動・仕事・データを扱う企業が、実装上の穴を早く見つけられることにある。一方、公共政策の目的と企業の新市場づくりが同じ場にある以上、誰のための制度かを明示し続ける必要がある。
ベーシックとプレミアム――登録の深さを二段階に
2026年3月に示されたガイドラインとモデル事業では、入口を広くする「ベーシック登録」と、活動実績を伴う「プレミアム登録」という二段階が軸になった。高知県の公式発表によれば、国はモデル事業に7道県と21市町村を選び、自治体と民間の伴走企業が運用を検証している。都道府県型では複数市町村が連携するため、代表主体の数と実際に関わる市町村数は一致しない。
報道された現行設計では、ベーシックは広く登録でき、地域から情報や活動の案内を受ける入口になる。プレミアムは原則としてその自治体に住民票を置かない人を対象に、自治体が定める「担い手活動」を年3回以上行うことを基本要件とし、登録先は最大3団体とされる。移動・宿泊費などを自治体が支援する構想もあるが、支援の有無と内容は全国一律ではない。
| 区分 | 現在示されている役割 | 同じ意味ではないもの |
|---|---|---|
| ベーシック登録 | 地域への関心を登録し、情報、催し、活動機会へつながる広い入口。 | 移住、転入届、第二の住民票、行政サービスの包括的受給資格。 |
| プレミアム登録 | 非居住者が原則年3回以上の「担い手活動」に参加。現行案では最大3団体。 | 公務員任用、無償労働の義務、地方選挙の投票資格、住民税の分割納付。 |
| 住民基本台帳の住民 | 生活の本拠に基づく住所を届け出、行政、税、選挙などの法制度につながる。 | 応援登録、ファンクラブ、観光会員。 |
| 二地域居住 | 二つの地域に生活拠点を持つ暮らし方。住まい、移動、仕事の実態を伴う。 | 短い訪問やオンラインだけの関与と常に同一ではない。 |
この表の線引きは重要だ。「第二の住民票」という表現は制度の狙いを直感的に伝えるが、法的な住民票と混同させる。2025年5月の閣僚会見でも、法的な住民票や選挙権まで含むかとの質問に対し、当時は名称と理念の段階で詳細を詰めると説明された。その後のモデルは、権利を二重化するより、関係を登録して活動へ結びつける方向に具体化した。
登録は関係の証明書ではない。地域が必要とする仕事と、外から関わりたい人の時間を、無理なく何度も結べるか。制度の成否は、その間にいる調整役で決まる。
「移住か観光か」の二択を崩した10年
この構想は突然生まれたわけではない。2008年に始まったふるさと納税は、住所を移さず別の自治体を財政的に応援する回路を広げた。2009年度に始まった地域おこし協力隊は、都市部などから住民票を移し、地域で暮らしながら協力活動をする。前者は寄付、後者は移住を伴う任期付きの活動であり、ふるさと住民登録とは別制度である。
その中間を言葉にしたのが「関係人口」だった。国土交通省は2018年、人口減少期に自治体が定住者を奪い合うのではなく、人が複数の地域と関係を持つ発想を紹介した。2020年の調査では、移住でも観光でもなく、日常・通勤圏外の地域へ継続的かつ多様に関わる人と定義した。
2008年 ふるさと納税が始まり、非居住者が自治体へ寄付する回路が全国化。
2009年度 地域おこし協力隊が始まる。隊員は住民票を移し、地域で暮らして活動。
2014年 地方創生1.0が始動。移住・定住、雇用、出生などが政策の中心に。
2018年 国土交通省が「関係人口」を人口減少時代の新しい地域との関わりとして発信。
2020~21年 三大都市圏1080万人、全国の訪問系1827万人との推計が順次公表。
2025年6月 地方創生2.0基本構想が閣議決定。10年間で実人数1000万人を目標に。
2026年3月 総務省がガイドラインとモデル事業を具体化。
2026年8月 26自治体参加の首長サミットで、自治体と企業が実装を議論。
地方創生2.0は、人口を増やす競争だけでなく、人口が減る前提で地域経済と生活サービスを持続させる方向を打ち出した。ふるさと住民登録は、その転換を象徴する。人を一つの自治体だけに帰属させず、複数地域で役割を持てるようにするからだ。
すでに2263万人いるのに、なぜ1000万人を目指すのか
数字には注意が要る。国土交通省の2025年全国調査は、18歳以上の関係人口を2263万人、全体の22%と推計した。うち、現地を訪れる「訪問系」が1884万人、訪問しなくてもふるさと納税や情報発信などで関わる「非訪問系」が379万人だった。最多は趣味・消費型で、地域の仕事を直接担う人だけを数えた数字ではない。
一方、政府の1000万人目標は、ふるさと住民登録などを通じて「可視化」する実人数である。アンケートから全国へ推計した2263万人と、本人確認や自治体登録で重複を整理する1000万人は、母集団も測り方も違う。前者が既存の関係の広がりを示し、後者が制度につながった人を数えようとするなら、単純に「すでに目標の倍いる」とは言えない。
それでも、登録者数を成果そのものにすれば危うい。メールを受け取るだけの100万人と、年に三度、地域の人と一緒に作業する1万人では、地域に残る価値が違う。登録の取り消しや休眠、複数自治体への重複、活動の安全性、地域側の満足度まで追わなければ、数字は政策を照らすより飾る。
祭りも棚田も、マッチングだけでは続かない
地域の担い手不足は、人の頭数だけの問題ではない。祭りには作法と責任があり、農作業には技能と事故の危険がある。災害支援は指揮系統を乱せない。オンライン広報も、写真の権利や地域内の合意を扱う。初めて来た人に任せられる仕事と、信頼を重ねなければ任せられない仕事を分ける必要がある。
そこで必要になるのがコーディネーターだ。地域の要望を聞き、仕事を小さく切り、参加者の技能と日程を合わせ、宿と交通を整え、住民へ説明し、活動後の連絡を続ける。人口の少ない自治体ほど、この調整を担う職員も足りない。登録アプリが人を集めても、受け入れの事務が増えれば逆効果になり得る。
モデル事業が測るべきは、参加回数だけではない。受け入れ側の作業時間、事故と保険、交通費、支払われた報酬、地域事業者の売上、住民と参加者の再会率まで見たい。無償の「応援」が恒常的な仕事を置き換えれば、地域の雇用を弱くする。報酬を伴う短期就労なら、労働条件、労災、最低賃金、指揮命令の責任を曖昧にできない。
- 新規登録者より、6か月・12か月後も関わる人の割合。
- 活動回数だけでなく、地域側が「役に立った」と評価した成果。
- 自治体職員・住民コーディネーターの追加労働時間と費用。
- 有償・無償の区分、保険加入、事故・中止・苦情の件数。
- 交通費負担、年齢、障害、デジタル環境による参加格差。
- 登録情報の利用先、民間事業者への提供、削除請求への対応。
公的な登録と民間プラットフォームの距離
楽天グループは、2027年春に「楽天ふるさと住民」というポータルを開設する計画を発表した。自治体の活動情報、ベーシック・プレミアム登録、短期の仕事や体験、旅行クーポン、ふるさと納税の旅行券などを結ぶ構想だ。登録後に実際の移動と活動を生むうえで、既存の会員基盤と決済・旅行機能は強い。
ただし、企業のポータルと国の制度は同じものではない。自治体が公的目的で集める氏名、居住地、本人確認、関心、活動履歴を、旅行販売、求人、寄付、広告のデータとどこまで結びつけるのか。本人が用途ごとに同意を選べるか。別の事業者へ移れるか。退会した人の履歴をいつ消すか。自治体は企業が撤退しても関係を引き継げるか。制度が全国化する前に、データの最小化、目的限定、保存期間、監査、事故時の責任を共通化する必要がある。
デジタルだけでは届かない人もいる。高齢者、スマートフォンを持たない人、移動に支援が要る人、家族のケアで何度も遠出できない人にも、地域を支える知識や意欲はある。回数条件が「遠くまで移動できる健康で時間のある人」を選別するなら、制度は新しい関係を広げるより、既存の格差を登録することになる。
外からの声と、そこで暮らす人の決定権
「住民」と呼ぶ以上、自治の問題は避けられない。非居住者は新しい知識、販路、資金、異なる視点を持ち込める。出身者や元住民は、地域の記憶と外の経験を併せ持つ。しかし、日々のごみ、学校、医療、除雪、災害、税負担を引き受けるのは、原則としてそこに暮らす住民である。
ふるさと住民の意見を聞くことと、法的な決定権を与えることは別だ。提案会議、事業評価、オンライン対話など、参加の場は広げられる。一方、予算配分や公共施設の存廃で、登録者の声が居住者を数で上回る設計は慎重でなければならない。プレミアムの回数を満たすための「お客様向け行事」が、住民の必要より優先されることも避けたい。
全国の自治体が同じ人を奪い合う危険もある。国土交通省が関係人口を紹介した原点には、人を一地域へ囲い込まず、複数地域で分かち合う発想があった。最大3団体という上限が本人確認と重複計上には役立っても、人の関係を行政区画へ合わせて切ることにならないか。隣接市町村で一つの流域、文化圏、交通圏を支える登録も考えられる。
登録を成功と呼ぶ前に、三つの問いを置く
第一は、登録がなければ生まれなかった関係かという問いだ。既存のふるさと納税者や旅行会員を一括して登録へ移すだけなら、数字は増えても地域の力は変わらない。新しい出会いが継続的な役割へ深まった割合を測る必要がある。
第二は、地域に純利益が残ったかという問いである。参加者の消費や作業価値から、自治体の調整費、補助した交通・宿泊費、民間手数料、住民の受け入れ時間を引く。そのうえで、技能移転、信頼、災害時の連絡網など金額にしにくい成果も記録する。
第三は、関係を終える自由が守られたか。仕事や家族の事情で年3回行けなくなる人はいる。プレミアムからベーシックへ戻り、休み、退会し、データを削除できなければ、愛着は義務に変わる。地域側にも、合わない活動を止め、受け入れ人数を絞る権利が要る。
ふるさと住民登録制度の魅力は、「住むか、観光するか」という二択の間に、長く広い道をつくることにある。8月のサミットは、その道を自治体と企業が一緒に設計し始めたことを示した。だが、登録証は水路をさらわず、アプリは祭りの段取りを覚えない。人が戻り、名前を覚えられ、任される仕事が少しずつ増える。その時間を支える制度になったとき、住所を移さない「住民」は、看板ではなく地域の一員に近づく。
- 確認済み:8月4日の首長サミットには26自治体が参加し、関係省庁の関係者も出席した。
- 確認済み:2026年度モデル事業は7道県と21市町村を代表実施主体として選定した。
- 確認済み:政府の正式目標は今後10年間で実人数1000万人、延べ1億人。
- 確認済み:現行設計はベーシックとプレミアムの二段階を軸にする。
- 未確定:全国本格運用時の共通給付、費用負担、データ連携、監査、労働・保険の細則。
- 含まれない:住民票の二重化、地方選挙権、住民税の分割、法定行政サービスの自動付与。
- トラベルビジョン — 「ふるさと住民」は旅行会社の新市場になるか(2026年8月18日)
- 北海道今金町 — 「LG30 ローカルガバメント首長サミットに参加」(2026年8月4日)
- 岸和田市 — 市長日程(2026年8月)
- 高知県 — 「ふるさと住民登録制度」説明会、モデル事業選定概要(2026年5月)
- 長野県 — 「ふるさと住民登録制度」に関する市町村説明会(2026年5月)
- 内閣官房 — 地方創生2.0基本構想・関連資料
- 消費者庁 — 伊東内閣府特命担当大臣記者会見要旨(2025年5月23日)
- 国土交通省 — 関係人口を紹介する漫画冊子の公表(2018年)
- 国土交通省 — 「地域との関わりについてのアンケート」全国調査(2025年)
- 楽天グループ — 「楽天ふるさと住民」2027年春開設計画(2026年8月4日)
- 甲州市 — 3自治体とコンソーシアムの関係人口創出モデル(2026年4月)
- 磐梯町 — ふるさと住民登録を見据えたデジタル住民票の取組(2026年1月)
編集注:イベント名、制度名、自治体名、政策用語は日本語の自治体・政府資料で確認した。「LG30」は対象枠を示す名称で、当日の参加数は報道で確認できる26自治体と区別した。本稿は参加者を一律に「市長」とせず、市長・町長・村長を含む「首長」「市町村長」と表記した。ベーシック・プレミアムの要件と支援はモデル段階であり、全国運用時に変更され得る。画像は編集用イラストで、会合や実在人物の記録ではない。為替レートの原時刻「2026年8月24日午後7時47分(UTC)」は、日本時間の8月25日午前4時47分に換算した。参考レートは本記事の政策数値には使用していない。
