950,200 t主食用米の予想収穫量
−20,100 t前年産との差
208,500 ha水稲全体の作付面積
183,000 ha主食用の作付面積

水田は増えた。それでも食卓向けの米は減る

黄金色の稲穂が頭を垂れる北陸の秋。広がる水田の面積だけを見れば、米づくりは前年より盛んになったように見える。ところが、北陸農政局が10月13日に発表した2026年産の見通しでは、家庭や飲食店が日々食べる主食用米の収穫量は前年を下回る。その差を生んだのは、単純な不作ではなく、田んぼの使われ方の変化である。

同局管内の新潟、富山、石川、福井の4県で、水稲の作付面積は青刈り面積を含め20万8,500ヘクタールと前年より2,600ヘクタール増える見込みだ。一方、主食用の作付面積は18万3,000ヘクタールで4,700ヘクタール少ない。9月25日現在の調査に基づく主食用米の予想収穫量は95万200トン。前年産を2万100トン下回る。田んぼが増えても、そこで育てる米の用途が変われば、食卓に届く数量は増えるとは限らない。

三つの数字を混同しない

今回の発表で重要なのは、①水稲全体の作付面積、②主食用の作付面積、③主食用米の予想収穫量を区別することだ。水稲全体には、主食用以外の用途に向けた作付けや青刈り対象の面積も含まれる。水稲全体の面積を、そのまま家庭用の供給量と見なすことはできない。

予想収量は10アール当たり520キログラムで、前年より3キログラム多い。これは主食用の生産者ふるい目幅ベースの数値であり、全地域を一様に豊作と断定する指標ではない。収量がわずかに改善しても、主食用に振り向ける面積の減少が上回れば、総生産量は減る。この掛け算こそが今回の数字を読む鍵になる。

玄米を選別する「ふるい」が示すもの

農林水産統計には「生産者ふるい目幅ベース」という一見専門的な注記がある。収穫した玄米を一定の網目のふるいで選別し、その目幅以上の粒を基準に量を見積もるという考え方だ。米粒の大きさ、登熟、品質が統計の見え方に関わるため、この条件は欠かせない。

今回、北陸農政局は新潟県の生産者ふるい目幅を1.85ミリ、富山・石川・福井の3県を1.90ミリとしている。したがって95万200トンは、精米後にそのまま店舗に並ぶ白米の重さではない。製粉や精米歩留まり、在庫、流通、需給のすべてを一つの収穫統計で説明することはできない。

越後、越中、加賀、越前――水と米の歴史

日本海に面した北陸で水稲が発展した背景には、山と川がつくる地形がある。新潟の広い平野、富山の扇状地、石川の手取川流域、福井の九頭竜川流域。雪解け水を使うだけでなく、洪水を抑え、排水と灌漑の施設を維持してきた長い歴史が田園を支える。

北陸農政局の地域資料には、ほ場整備と用排水対策が農業の生産基盤を変えてきた記録が残る。水は豊かであればよいのではない。必要な時期に必要な量を届け、不要な水を排出できるかどうかが収穫と作業の効率に関わる。今後は施設更新の費用と人手も、米の安定供給を左右する。

コシヒカリが生まれた地域

北陸の米の歴史を語るうえで、コシヒカリは欠かせない。福井県農業試験場で育成された系統「越南17号」が1956年にコシヒカリとして命名登録され、新潟を含む各地で広がった。炊飯したときの食味のよさが支持された一方、病気や倒伏への弱さという栽培上の課題もあった。

1970年代以降、食味と産地銘柄を重視する消費者の選択が生産を変え、1979年にはコシヒカリが全国の作付面積割合で首位に立ったと北陸農政局の歴史資料は記す。一つの品種が成功する物語の裏には、育種、農家の工夫、流通と食生活の変化がある。今日の作付けもまた、需要と制度に応じて姿を変え続けている。

品種の多様化と暑さへの備え

北陸の4県はコシヒカリだけを生産しているわけではない。新潟の「新之助」、富山の「富富富」、石川の「ひゃくまん穀」、福井の「いちほまれ」など、それぞれの地域が食味や栽培特性の改善を追求してきた。高温への対応も重要な育種・栽培上の課題となっている。

北陸農政局は2023年の高温・少雨が水稲に及ぼした影響と対策を整理している。ただし今回の2026年予想量の減少を、特定の気象災害だけが原因だったと断定する根拠はない。面積、用途、気温、降水、品種構成を分けて検討することが必要だ。

主食用以外の水田をどう評価するか

水田は白米だけを生み出す場所ではない。加工用、飼料用など用途別の米、麦、大豆などの作物への転換も地域農業の選択肢になる。北陸農政局は10月13日、地域農業再生協議会別に9月15日時点の作付状況も公表した。地域単位の資料を併せて読めば、同じ県内でも水田利用が一様ではないことが分かる。

何を作るかは、契約先、価格、作業機械、圃場の排水条件、補助制度、労働力に左右される。主食用の面積が減ったという数字だけで農家の意図を決めつけることはできない。複数の用途を持つことが経営安定につながる場合もあれば、需要の読み違いがリスクになる場合もある。

農家の利益と家庭の米価は別の問題

主食用米の予想収穫量が減れば、価格が必ず上がるというほど市場は単純ではない。前年から持ち越す在庫、全国の他産地の収穫、政府備蓄米、取引契約、精米・卸売・小売の各段階が価格に影響する。北陸の95万200トンという予測だけから、10月15日の店頭価格を予言することはできない。

農家にとっては価格の高さだけでなく、肥料、燃料、機械更新、用水管理、雇用と借地の負担が残る。高い店頭価格がそのまま高い農家所得になるわけでもない。地域の経済を考えるには、収穫量と流通価格に加え、費用と収益の数字を追わなければならない。

次の確報までに、何が変わり得るか

10月13日に公表されたのは9月25日時点の予想であり、最終確報ではない。北陸農政局の予定では11月に10月25日時点の予想、12月に収穫量、翌年1月に市町村別収穫量が順次公表される見通しだ。調査時点と公表日を区別して比較すべきである。

田んぼの総面積が増えたのに主食用米は減る。数字のねじれは、農業の衰えを一言で語るための材料ではなく、用途、需要、気候、歴史が重なり合う現在の食料生産を理解する入り口だ。北陸の次の作柄資料を読むとき、問うべきは単に何トン採れたかではなく、誰がどの田を使い、何のための米を育て、地域で農業を続けられるかということである。

出典・参考資料

  1. 北陸農政局:令和8年産水稲、9月25日現在の予想収穫量(10月13日公表)
  2. 北陸農政局:地域農業再生協議会別作付状況(10月13日)
  3. 農林水産省:水稲作況調査公表一覧
  4. 北陸農政局:北陸の米
  5. 北陸農政局:北陸の米・麦・大豆
  6. 北陸農政局:作付意向及び作付状況
  7. 北陸農政局:北陸農業50年のあゆみ
  8. 北陸農政局:北陸農林水産統計データ集
  9. 北陸農政局:西北陸地域の地形と農業用水

資料確認:2026年10月13日。2026年産の予想収穫量は9月25日時点の調査に基づく。