孤独は、外から見えるとは限らない。一人で暮らしていても満ち足りている人がいる。家族、同僚、数百人のオンライン上の知人に囲まれながら、自分だけが取り残されたと感じる人もいる。だから、地域で孤独を「見つける」という言い方には危うさがある。善意が、監視や決めつけに変わり得るからだ。

群馬県が2026年8月21日に発表した「つながりサポーター養成講座」は、その難題に意図的に小さな答えを出す。参加者へ診断権限を与えず、専門職にも変えない。日常の何気ない変化を気にかけ、相手の話を聴き、自分だけで解決しようとせず、必要な支援や地域活動を知る。その一歩を90分で考える市民講座である。

今年の会場は二つ。9月16日午前10時30分から正午まで、藤岡市複合施設ふじまるの「ふじまるホール」で約80人。10月24日午前11時から午後0時30分まで、渋川市子持福祉会館で約100人を予定する。参加費は無料で、孤独・孤立に関心があれば誰でも参加でき、修了者には受講証が交付される。当日参加も可能だが、県は証明書発行のため事前申込を勧めている。

90分藤岡、渋川の両会場で予定される講座時間。
約180人2会場の予定定員の合計。修了者数ではない。
37.7%2025年全国調査で、程度を問わず孤独感があると答えた割合。
4.5%孤独を「しばしば・常に」感じるとした割合。
9.7%別居家族や友人と対面で話すことが「全くない」人。
48.4%悩む人が周囲にいたら積極的に声かけや手助けをしたい人。
資格ではない:内閣府は、この講座を専門家や支援人材の育成ではなく、日常の気づきと声かけを促す普及啓発と位置づける。受講証は臨床、相談援助、危機介入の資格ではなく、他人の生活を調査する権限も与えない。

二つの会場を、地域の入口に置く

藤岡会場は講座だけの空間ではない。午前10時から午後0時30分まで、地域の就労支援施設などが焼き菓子、野菜、ベーグル、植物や雑貨を販売し、活動紹介を行う。さらに「なんでも福祉相談」のブースを併設する。人は「孤独相談」と書かれた扉を開けにくくても、市場へ立ち寄り、物を買い、隣の相談員と話すことはできる。

渋川会場は、子持ふれあい公園一帯の「つながるフェスティバル」の中で開かれる。ここでも講義室を福祉の孤島にせず、普段の地域行事の動線へ置く。支援を特別な場所へ隔離しない設計は、講座内容そのものと同じくらい重要だ。

会場日時・規模地域との接点
ふじまるホール
藤岡市藤岡942-1
9月16日(水)10:30~12:00
定員約80人
講師はNPO法人Annakaひだまりマルシェ代表理事・神戸るみ氏。福祉事業所の販売・活動紹介と総合相談を併設。
子持福祉会館
渋川市吹屋658-20
10月24日(土)11:00~12:30
定員約100人
講師は障害者支援施設・誠光荘支援部長の藤井友和氏。「つながるフェスティバル」内で開催。

主催は、群馬県の官民連携プラットフォーム事務局を担う群馬県社会福祉協議会。県の発表は、申込期限を藤岡が9月4日、渋川が10月9日としている。発表された数字は会場定員であり、受講者や修了者の実績ではない。記事を書く時点で「180人のサポーターが誕生する」と断定することはできない。

孤独と孤立は、同じ言葉ではない

内閣府の標準テキストは、孤独を「ひとりぼっちと感じる」主観的な状態、孤立を社会とのつながりや助けが少ない客観的な状態として区別する。両者は重なるが、同じではない。自ら選んだ一人の時間は、保護すべき自由でもある。問題は一人でいること自体ではなく、介護、失業、病気、借金、子育て、暴力などの困りごとが生じた時、相談できずに複雑化することだ。

この区別は、サポーターの倫理を決める。一人暮らしだから寂しいと決めつけない。地域行事へ来ないことを異常と扱わない。SNS上のつながりを偽物とも、対面交流を万能とも考えない。本人が望む距離を尊重しながら、「もし困っているなら話を聴ける」「こういう窓口がある」と選択肢を渡す。

「孤独をなくす」は、人を常に集団へ戻すことではない。一人でいる自由を守りながら、助けが必要な時には一人で抱えなくてよい状態をつくることである。

日本の4割が感じるものを、誰の問題と呼ぶのか

内閣府は2025年12月、全国の16歳以上2万人を無作為抽出し、第5回「人々のつながりに関する基礎調査」を行った。有効回答は11,873人。孤独感が「しばしばある・常にある」は4.5%、「時々ある」13.7%、「たまにある」19.5%で、合わせて37.7%だった。

強い孤独感は30代で6.1%、40代と50代で各5.7%となり、70代の2.5%、80歳以上の3.0%より高かった。男性全体では5.3%、女性は3.7%。高齢者だけの問題という古い像では捉えられない。退職前の働き盛り、非正規雇用、転職、育児、介護、離婚、死別など、人生の移行点で関係が切れる。

孤立の側から見ると、別居する家族や友人と直接会って話すことが全くない人は9.7%、社会活動に特に参加していない人は53.3%だった。一方、身近に悩む人がいれば積極的に声をかけたり助けたりしたい人は48.4%。群馬の講座は、この「助けたいが、どうすればよいか分からない」層へ、最初の言葉と接続先を渡そうとしている。

コロナで生まれた政策、コロナだけでは終わらない問題

日本政府が孤独・孤立を独立した政策名として掲げた転機は、新型コロナの最中だった。2021年2月、政府は孤独・孤立対策の閣僚級ポストを設け、同年12月に最初の重点計画を決定した。外出制限と対面活動の停止は、もともと存在した単身化、不安定雇用、地域組織の弱まり、ケア負担、ひきこもり、貧困を可視化した。

2022年2月には国の官民連携プラットフォームが発足。2023年5月に孤独・孤立対策推進法が成立し、2024年4月1日に施行された。法律は、孤独と孤立を個人の性格や自己責任に閉じ込めず、社会全体で対応し、当事者の立場に立ち、人とのつながりを実感できる施策を進めるという基本理念を置いた。

2026年7月に改定された重点計画は、若者、職場、地域の予防を強め、「社会的処方」も掲げる。医療機関だけで完結させず、図書館、食堂、運動、趣味、居場所、相談支援など日常の資源へつなぐ考え方だ。つながりサポーターは、その大きな政策の最も生活に近い層にいる。

1917年 — 岡山県の済世顧問制度が、現在の民生委員制度の起源となる。

1928年 — 地域住民を支える方面委員制度が全国へ普及。

1946年 — 名称を「民生委員」へ改める。

2021年2月 — 政府が孤独・孤立対策の閣僚級ポストを設置。

2021年12月 — 最初の重点計画と初の全国実態調査。

2023年 — 全国でつながりサポーター養成の取組が始まり、5月に推進法が成立。

2024年4月 — 推進法施行。群馬県は5月16日に官民連携プラットフォームを設立。

2026年 — 群馬県が藤岡と渋川で新たな市民講座を開く。

百年続く地域福祉と、もっと軽い入口

日本は、市民が隣人と行政の間をつなぐ仕組みを初めて試すわけではない。民生委員制度は1917年の岡山県「済世顧問制度」と1918年の大阪府「方面委員制度」を源流とし、貧困の把握、生活支援、行政との連絡を担ってきた。自殺対策では、悩みに気づき、声をかけ、話を聴き、必要な支援へつなぎ、見守る「ゲートキーパー」が養成されてきた。認知症サポーターも、病気への偏見を減らし、地域の理解者を増やした。

つながりサポーターは、これらと似た発想を持つが、同一ではない。民生委員は法律に基づく委嘱と職責を持ち、ゲートキーパーは自殺リスクへの気づきを含む。今回の講座は、さらに入口を低くし、誰でも受けられる普及啓発として設計される。低さは強みであり、限界でもある。

強みは、福祉の専門窓口に来ない人と日常で接点を持てること。限界は、90分で複雑な家庭問題、精神疾患、虐待、債務、DV、依存症を扱える人にはならないことだ。受講証を「相談員の免許」のように見せれば、制度の安全性を損なう。

90分で学ぶのは、答えより「抱え込まない」こと

2026年4月版の内閣府標準テキストは43ページある。孤独と孤立の違い、社会構造の変化、全国調査、自分自身のつながり、困った時の行動、相談窓口、地域活動を扱う。介護、失業、住まい、子育て、「つらい、死にたい、消えてしまいたい」といった状況について、どこへ相談できるかを考える。

大切なのは、周囲の人を救う技術だけではない。自分が困った時に誰へ相談するかを平時から考え、自分のつながりも点検する。支える側が万能だという構図を崩し、誰でも支えられる側になり得ると認める。

日常でできること、越えてはいけない線
  1. 気にかける:変化に気づいても、原因を決めつけない。
  2. 声をかける:答えを強要せず、「話したければ聴く」と入口をつくる。
  3. 聴く:すぐ解決策を押しつけず、相手が何を望むかを確かめる。
  4. つなぐ:本人の同意と選択を尊重し、適切な窓口や居場所を一緒に探す。
  5. 抱え込まない:危機や専門課題を一人で処理せず、専門機関へ渡す。自分の限界も守る。

内閣府の教材は、「最近連絡がない」「元気がなさそう」と感じた時の連絡や、介護で疲れた人を地域包括支援センターへつなぐ例を示す。同時に、相手の悩みを自分だけで解決しようとせず、支援する側もつらくならない範囲で行うよう求める。善意の持続には、境界線が必要である。

「気づく」が監視にならないために

地域の見守りには権力がある。誰が一人暮らしか、誰が行事へ来ないか、誰の家に郵便がたまっているか。情報を集めすぎれば、人を支える仕組みが、人を分類する仕組みに変わる。特に外国人、性的少数者、障害者、ひきこもり経験者、生活困窮者は、善意の詮索そのものを負担に感じることがある。

サポーターに必要なのは「孤独な人を発見する名簿」ではない。本人の尊厳、選択、秘密を守る原則と、危機時に専門機関へ相談する手順だ。相手が話さない選択も尊重する。支援先を紹介する時も、一方的に通報するのではなく、何が起き、どの情報が共有されるかを可能な限り説明する。

ただし、生命に差し迫った危険がある場合は別である。自殺、暴力、虐待、急病などの危機を、近所の善意だけで抱えてはいけない。緊急通報や専門窓口へ速やかにつなぐ。その判断と連絡経路を講座で具体化できるかが、安全性を左右する。

群馬が先に作ったのは、サポーターではなく接続先

「相談してください」と言っても、紹介先が分からなければ橋は途中で切れる。群馬県は推進法施行後の2024年4月12日に市町村と情報交換し、4月22日に準備会、5月16日に官民連携プラットフォームを設立した。県社会福祉協議会へ運営を委託し、行政、福祉団体、NPOなどをつなぎ、相談窓口と地域資源を検索できる専用ポータルも開設した。

2024年の県社会福祉審議会資料では、プラットフォームの幹事17団体、一般会員48団体と報告された。当時、県内市町村の整備は始まったばかりで、個別事例を扱う地域協議会の設置も限定的だった。県が広域のネットワークをつくっても、住民の具体的な困りごとを扱う市町村側の体制が必要だという課題は残る。

群馬県は2025年1月、前橋で定員300人の講座を企画し、同年6~7月には沼田、高崎、中之条、太田、前橋の5会場、合計定員395人で講座を募集した。今回の二会場は単発の思いつきではなく、県内へ場所を移しながら接点を増やす継続事業である。ただし、公表された定員を累計して「養成済み人数」とすることはできない。実際の受講、修了、その後の行動は別に測る必要がある。

優しい言葉だけでは埋まらない孤独

孤独・孤立は、会話の不足だけから生まれない。低賃金、失業、長時間労働、住宅不安、移動手段の欠如、介護、障害、病気、学校での排除、家族内暴力が、人との関係を細くする。サポーターが丁寧に聴いても、家賃は下がらず、バスは増えず、介護職員も自動では増えない。

世界保健機関は2025年、世界の約6人に1人が孤独を経験すると推計し、社会的つながりを身体と精神の健康に並ぶ重要な要素として扱うよう求めた。同時に、解決策は個人への声かけだけでなく、交通、デジタルアクセス、差別への対応、地域空間、雇用、医療などへ広がるとする。

だから、市民講座を安価な福祉労働の代替にしてはいけない。住民が困りごとに気づいた後、専門職が受け止める余力、窓口間でたらい回しにしない連携、利用できる制度、夜間やオンラインの相談経路が要る。橋の入口だけ増やし、向こう岸の支援を細くすれば、サポーターも当事者も疲弊する。

成功を「何人見つけたか」で測らない

この事業の成果指標を、孤独な人を何人発見したかにすれば危険である。孤独には本人しか語れない部分があり、発見数を競うと過剰な介入を促す。受講証の発行枚数だけでも足りない。講座に来た人が、半年後に相談先を覚え、押しつけずに話を聴き、自分の限界を理解しているかを測る方がよい。

群馬県が追うべき五つの結果
  • 申込者、当日参加者、修了者を区別した実人数と、年齢・地域の偏り。
  • 受講前後と数か月後の、知識、声かけへの自信、相談先の認知。
  • 本人の同意と匿名性を守った上で、地域活動や専門窓口への接続が機能したか。
  • 紹介先の待ち時間、受入能力、途中離脱、別機関への再紹介。
  • サポーター自身の負担、迷い、相談できる相手、継続研修の必要性。

さらに、受講者がもともと福祉に関心の高い人へ偏れば、孤立しやすい現役世代や男性へ届かない。2026年の国の資料では、政府の孤独・孤立対策を「よく知る・ある程度知る」人は14.4%にとどまり、20代は8.1%、30代は9.8%だった。平日昼間の講座だけでなく、職場、学校、商店、スポーツ団体、オンラインへ届ける工夫が必要になる。

危機の手前に、名前のない小さな接点を置く

制度は、多くの場合、問題に名前がついた後に動く。要介護、失業、虐待、生活困窮、うつ、ひきこもり。だが、本人の生活では、それらは最初から申請書の欄に分かれて現れない。眠れない。郵便を開けられない。職場へ行くのが怖い。親の介護で友人に会えない。誰に話してよいか分からない。小さな困りごとが重なり、ある日危機になる。

つながりサポーターの価値があるとすれば、その名前のつく前の時間にいることだ。専門家ではないからこそ、食堂、職場、学校、祭り、商店、隣家という日常の場所にいられる。そして専門家ではないからこそ、そこで止まり、必要な時には橋を渡す役割に徹しなければならない。

地域の安全網は、最初から大きな救助をする人だけでできていない。「最近どうですか」と聞ける人と、その先に本当に開いている窓口が、切れずにつながってできている。

群馬の二つの90分講座は、孤独を消すには小さい。だが、困りごとを抱えた人が自分で大声を上げられるまで待つ社会から、誰かが静かに気づき、選択肢を渡せる社会へ動く入口にはなる。

受講証より重要なのは、その後の一言である。急がせず、決めつけず、背負い込まず、「一緒に相談先を探しましょうか」と言えること。その一言を受け止める制度が背後にある時、普通の住民の普通の関心は、危機の手前で働く社会インフラになる。

調査・出典

編集注:本稿は2026年8月21日までに公開された群馬県、群馬県社会福祉協議会、内閣府、厚生労働省、WHOの資料に基づく。Japan.co.jpは講師、主催者、参加予定者へ独自取材を行っていない。定員は予定規模で、実際の受講・修了人数ではない。講座は専門資格を付与せず、個別の危機対応は専門機関へつなぐことが前提となる。主画像は実在の相談場面を記録した写真ではない。