埼玉県深谷市の試験圃場で、この夏にまかれたニンジンの種は、農業資材の性能だけでなく、ひとつの実証の設計そのものを試すことになる。土に加えられるのは、EF Polymer株式会社(沖縄県恩納村)が製造する高吸水性ポリマー「EFポリマー」。市と同社は8月28日、実証農場「EFポリマー深谷フィールド」の設立を発表した。
狙いは、高温・干ばつ環境で同資材を使った場合の効果を農業現場で検証し、分析することだ。実証は2026年夏の播種から秋の収穫までで、11月後半ごろまでを想定する。圃場は深谷市内とされているが、公開資料に詳しい所在地や面積はない。
「水を吸う」と「畑で効く」の間
EF Polymerと深谷市産業ブランド推進室の説明によると、EFポリマーはオレンジやバナナの皮などの作物残渣をアップサイクルした、100%自然由来の高吸水性ポリマーだ。同社は、自重のおよそ50倍の水を吸い、土中で水分や養分を根へ徐々に放出するとしている。
素材が水を吸うことと、露地のニンジン栽培で経営上意味のある効果を出すことは、同じ問いではない。畑では、土質、降雨、蒸発、気温、播種時の水分、灌水の方法、施用量、根の深さが重なる。収量が同じでも使用水量が減れば価値がある一方、水分が保たれても規格外率や作業費が増えれば、導入判断は変わる。
だから実証で重要なのは、「吸水したか」だけではない。処理区と比較区で、灌水量、土壌水分、発芽率、収量、規格別の品質、肥料使用量、作業時間、資材費を同じ条件で記録できるか。さらに、雨の多い年と少ない年、異なる土壌でも再現するかが問われる。
深谷が選ばれた理由
深谷市は、深谷ねぎをはじめとする野菜、畜産、米麦、花卉を抱える農業地域だ。市はアグリテック企業を集める構想を「DEEP VALLEY」と名付け、「儲かる農業都市ふかや」を掲げてきた。市の公式プロジェクトサイトは、対象をロボットやデータ活用に限らず、気候変動対策やバイオテクノロジーまで含むと説明する。
市の発表によれば、梅雨明け後の少雨や干ばつ傾向のもとで、夏場の水管理が地域の課題になっている。保水材はその課題へ直接触れる。ただし、地域全体の水不足を一つの資材で解決できるわけではない。灌水設備、作型、土づくり、品種、気象情報の使い方などを含む組み合わせの中で、資材がどこを補えるかを見る必要がある。
今回の接点は、深谷市が実施するビジネスコンテスト「DEEP VALLEY Agritech Award」にある。EF Polymerは2024年の同賞で最優秀賞に選ばれた。2025年4月には同社製品が「深谷市アグリテック導入支援事業補助金」の対象製品に加わり、2026年夏、試験圃場の設置へ進んだ。
2024年 EF Polymerが「DEEP VALLEY Agritech Award 2024」で最優秀賞。
2025年4月 EFポリマーが深谷市のアグリテック導入支援事業補助金の対象製品に追加。
2026年夏 深谷市内の試験圃場でニンジンを播種し、実証を開始。
2026年11月後半ごろ 収穫までの試験期間を終える想定。
試験場であり、展示拠点でもある
実証農場には二つの役割が与えられている。ひとつは効果を検証する試験場。もうひとつは、市内外や海外の農業関係者、自治体、企業が使い方や導入効果を確認する展示拠点だ。地域の農業従事者向け講習会と、住民やコミュニティ向けの収穫体験も予定される。
現場を開くことは、資材を手に取り、土や作物を見ながら議論できる強みになる。同時に、見学者へ見せる区画と、比較可能なデータを取る区画では目的が異なる。イベントの分かりやすさが、試験の厳密さより先に立たない設計が望ましい。
EF Polymerの代表取締役CEO、ナラヤン・ラル・ガルジャール氏は市の発表で、「自治体、生産者、企業が連携し、地域の課題を現場で共に解決していくことが、持続可能な農業の実現には欠かせません」とコメントした。今回の農場が日本全国、世界へ広がるモデルケースになることを期待するとしている。
公開されている実証の骨格
| 実証名称 | EFポリマー深谷フィールド |
|---|---|
| 実施主体・連携 | EF Polymer株式会社が設立し、深谷市と連携。市営農場や市所有地とは発表されていない。 |
| 場所 | 埼玉県深谷市内の試験圃場 |
| 期間 | 2026年夏の播種から秋の収穫まで。11月後半ごろまでを想定。 |
| 栽培品目 | ニンジン |
| 実施内容 | 高温・干ばつ環境下での利用効果の検証と分析、農業従事者向け講習会、地域向け収穫体験。 |
| 製品説明 | 作物残渣を原料とする100%自然由来の高吸水性ポリマー。吸水量や節水・肥料削減率は会社側の製品表示。 |
11月に見るべき数字
収穫時に求められるのは、よく育ったニンジンの写真だけではない。比較区に対して何立方メートルの水を減らせたのか。収量と規格内率はどう変わったのか。資材代と施用作業を含めても農家の負担は下がるのか。気温と降雨の記録を添え、どの条件で得た数字かを説明できることが重要だ。
会社が示す「最大」という表現は、到達し得る上限を示すが、平均や深谷での期待値を意味しない。今回の区画から良い結果が出ても、一作・一地点の結果は出発点である。第三者が検討できる方法と基礎データが公開されれば、展示農場は導入を促す場から、農家が導入しない判断も含めて材料を得られる場へ変わる。
結果発表で確認したい項目
- ポリマーを施用した区画と、施用しない比較区の条件
- 面積、施用量、土壌、播種日、灌水方法、降雨・気温
- 総灌水量、土壌水分、発芽率、収量、規格内率
- 肥料使用量、資材・施工費、作業時間を含む費用対効果
- データの公開範囲と、次年度・別圃場での再現試験
酷暑への備えは、単一の新素材を採用することでは完結しない。それでも、作物残渣を水管理へ戻す発想が、実際の畑でどこまで役立つかを測る意味はある。深谷フィールドが示すべきなのは、資材の物語より、農家が次の作付けを判断できる数字だ。答えが見え始めるのは、ニンジンを掘り上げる11月である。
- 深谷市産業ブランド推進室「『DEEP VALLEY Agritech Award 2024』最優秀賞受賞企業EF Polymer社が実証農場『EFポリマー深谷フィールド』を設立」(2026年8月28日)
- EF Polymer株式会社「EF Polymer、埼玉県深谷市に実証農場『EFポリマー深谷フィールド』を設立」(2026年8月28日)
- EF Polymer株式会社「製品情報」(製品の原料、吸水量、節水・肥料削減に関する会社説明)
- 深谷市「DEEP VALLEY」公式サイト(事業目的、農業・アグリテックの説明)
本稿は2026年8月29日午前までに公開された日本語の一次資料を照合した。名称、肩書、引用は深谷市産業ブランド推進室とEF Polymerの公表資料に基づく。製品の吸水量、最大節水率、肥料削減率は会社側の表示として扱い、深谷での実証結果とはしていない。記事中の検証項目は、発表済みの結果ではなく、実証を評価するための編集部の論点整理である。
