埼玉県深谷市の試験圃場で、この夏にまかれたニンジンの種は、農業資材の性能だけでなく、ひとつの実証の設計そのものを試すことになる。土に加えられるのは、EF Polymer株式会社(沖縄県恩納村)が製造する高吸水性ポリマー「EFポリマー」。市と同社は8月28日、実証農場「EFポリマー深谷フィールド」の設立を発表した。

狙いは、高温・干ばつ環境で同資材を使った場合の効果を農業現場で検証し、分析することだ。実証は2026年夏の播種から秋の収穫までで、11月後半ごろまでを想定する。圃場は深谷市内とされているが、公開資料に詳しい所在地や面積はない。

最初に区別したいこと: 発表されたのは実証農場の設立と試験計画であり、深谷のニンジン畑で節水や収量改善が確認されたという結果ではない。「最大40%の節水」「肥料使用量20%削減」などの数字は、EF Polymerが製品一般について示す性能・導入効果の説明で、今回の実証値ではない。
ニンジン今回、公表された栽培品目。深谷ねぎの試験ではない。
11月後半収穫終了の想定時期。発表時点では結果未公表。
沖縄県外初同社が沖縄県外の自治体と連携して設ける初の実証農場。

「水を吸う」と「畑で効く」の間

EF Polymerと深谷市産業ブランド推進室の説明によると、EFポリマーはオレンジやバナナの皮などの作物残渣をアップサイクルした、100%自然由来の高吸水性ポリマーだ。同社は、自重のおよそ50倍の水を吸い、土中で水分や養分を根へ徐々に放出するとしている。

素材が水を吸うことと、露地のニンジン栽培で経営上意味のある効果を出すことは、同じ問いではない。畑では、土質、降雨、蒸発、気温、播種時の水分、灌水の方法、施用量、根の深さが重なる。収量が同じでも使用水量が減れば価値がある一方、水分が保たれても規格外率や作業費が増えれば、導入判断は変わる。

だから実証で重要なのは、「吸水したか」だけではない。処理区と比較区で、灌水量、土壌水分、発芽率、収量、規格別の品質、肥料使用量、作業時間、資材費を同じ条件で記録できるか。さらに、雨の多い年と少ない年、異なる土壌でも再現するかが問われる。

実証農場の価値は、成功を見せることではなく、どの条件で、どの程度、再現するかを測れることにある。

深谷が選ばれた理由

深谷市は、深谷ねぎをはじめとする野菜、畜産、米麦、花卉を抱える農業地域だ。市はアグリテック企業を集める構想を「DEEP VALLEY」と名付け、「儲かる農業都市ふかや」を掲げてきた。市の公式プロジェクトサイトは、対象をロボットやデータ活用に限らず、気候変動対策やバイオテクノロジーまで含むと説明する。

市の発表によれば、梅雨明け後の少雨や干ばつ傾向のもとで、夏場の水管理が地域の課題になっている。保水材はその課題へ直接触れる。ただし、地域全体の水不足を一つの資材で解決できるわけではない。灌水設備、作型、土づくり、品種、気象情報の使い方などを含む組み合わせの中で、資材がどこを補えるかを見る必要がある。

今回の接点は、深谷市が実施するビジネスコンテスト「DEEP VALLEY Agritech Award」にある。EF Polymerは2024年の同賞で最優秀賞に選ばれた。2025年4月には同社製品が「深谷市アグリテック導入支援事業補助金」の対象製品に加わり、2026年夏、試験圃場の設置へ進んだ。

2024年 EF Polymerが「DEEP VALLEY Agritech Award 2024」で最優秀賞。

2025年4月 EFポリマーが深谷市のアグリテック導入支援事業補助金の対象製品に追加。

2026年夏 深谷市内の試験圃場でニンジンを播種し、実証を開始。

2026年11月後半ごろ 収穫までの試験期間を終える想定。

試験場であり、展示拠点でもある

実証農場には二つの役割が与えられている。ひとつは効果を検証する試験場。もうひとつは、市内外や海外の農業関係者、自治体、企業が使い方や導入効果を確認する展示拠点だ。地域の農業従事者向け講習会と、住民やコミュニティ向けの収穫体験も予定される。

現場を開くことは、資材を手に取り、土や作物を見ながら議論できる強みになる。同時に、見学者へ見せる区画と、比較可能なデータを取る区画では目的が異なる。イベントの分かりやすさが、試験の厳密さより先に立たない設計が望ましい。

EF Polymerの代表取締役CEO、ナラヤン・ラル・ガルジャール氏は市の発表で、「自治体、生産者、企業が連携し、地域の課題を現場で共に解決していくことが、持続可能な農業の実現には欠かせません」とコメントした。今回の農場が日本全国、世界へ広がるモデルケースになることを期待するとしている。

公開されている実証の骨格

実証名称EFポリマー深谷フィールド
実施主体・連携EF Polymer株式会社が設立し、深谷市と連携。市営農場や市所有地とは発表されていない。
場所埼玉県深谷市内の試験圃場
期間2026年夏の播種から秋の収穫まで。11月後半ごろまでを想定。
栽培品目ニンジン
実施内容高温・干ばつ環境下での利用効果の検証と分析、農業従事者向け講習会、地域向け収穫体験。
製品説明作物残渣を原料とする100%自然由来の高吸水性ポリマー。吸水量や節水・肥料削減率は会社側の製品表示。

11月に見るべき数字

収穫時に求められるのは、よく育ったニンジンの写真だけではない。比較区に対して何立方メートルの水を減らせたのか。収量と規格内率はどう変わったのか。資材代と施用作業を含めても農家の負担は下がるのか。気温と降雨の記録を添え、どの条件で得た数字かを説明できることが重要だ。

会社が示す「最大」という表現は、到達し得る上限を示すが、平均や深谷での期待値を意味しない。今回の区画から良い結果が出ても、一作・一地点の結果は出発点である。第三者が検討できる方法と基礎データが公開されれば、展示農場は導入を促す場から、農家が導入しない判断も含めて材料を得られる場へ変わる。

結果発表で確認したい項目

  • ポリマーを施用した区画と、施用しない比較区の条件
  • 面積、施用量、土壌、播種日、灌水方法、降雨・気温
  • 総灌水量、土壌水分、発芽率、収量、規格内率
  • 肥料使用量、資材・施工費、作業時間を含む費用対効果
  • データの公開範囲と、次年度・別圃場での再現試験

酷暑への備えは、単一の新素材を採用することでは完結しない。それでも、作物残渣を水管理へ戻す発想が、実際の畑でどこまで役立つかを測る意味はある。深谷フィールドが示すべきなのは、資材の物語より、農家が次の作付けを判断できる数字だ。答えが見え始めるのは、ニンジンを掘り上げる11月である。

取材注記と主要資料
  1. 深谷市産業ブランド推進室「『DEEP VALLEY Agritech Award 2024』最優秀賞受賞企業EF Polymer社が実証農場『EFポリマー深谷フィールド』を設立」(2026年8月28日)
  2. EF Polymer株式会社「EF Polymer、埼玉県深谷市に実証農場『EFポリマー深谷フィールド』を設立」(2026年8月28日)
  3. EF Polymer株式会社「製品情報」(製品の原料、吸水量、節水・肥料削減に関する会社説明)
  4. 深谷市「DEEP VALLEY」公式サイト(事業目的、農業・アグリテックの説明)

本稿は2026年8月29日午前までに公開された日本語の一次資料を照合した。名称、肩書、引用は深谷市産業ブランド推進室とEF Polymerの公表資料に基づく。製品の吸水量、最大節水率、肥料削減率は会社側の表示として扱い、深谷での実証結果とはしていない。記事中の検証項目は、発表済みの結果ではなく、実証を評価するための編集部の論点整理である。