焼いた真鯛が見える。米飯がある。味付けは洋風で、鯛の風味を消さない。この三本の線を越えなければ、皿はリゾットにもドリアにも、石焼きにもパエリアにもなれる。「東予・洋風焼き鯛めし」は、統一レシピではなく、料理人が違いを出すための共通規格として設計されている。
愛媛県は8月28日、西条市、新居浜市、四国中央市の提供店が21店になったと発表した。前日の27日に新たな7店での販売開始が発表され、従来の14店から増えた。県が2026年度の当初予算資料で掲げた20店の目標を、1店上回ったことになる。
ただし、「東予全域の21店」と受け取るのは正確ではない。県が東予(とうよ)に分類するのは今治市、新居浜市、西条市、四国中央市、上島町の5市町。現在の公式一覧に載るのは、そのうち西条、新居浜、四国中央の3市だけである。
7店が加わり、21店になった
新たに加わったのは西条市3店、新居浜市2店、四国中央市2店。居酒屋、サービスエリア、フェリー、予約制レストラン、鉄板フレンチ、バルまで業態が異なる。観光客だけを想定した同じ形式のご当地定食ではなく、日常の外食から移動中の食事、夜のコースまで接点を増やした。
| 市 | 新規提供店 | 公式掲載メニュー名 |
|---|---|---|
| 西条市 | 居酒屋えんや | 真っ赤に染まるトマたま鯛雑炊 |
| 西条市 | 石鎚山SAグルメコーナー | 瀬戸内産真鯛の洋風焼き鯛めし |
| 西条市 | オレンジフェリー船内レストラン | 東予焼き鯛めし |
| 新居浜市 | 欧風レストランShinohara | 巻き鯛めし |
| 新居浜市 | 創作鉄板フレンチBenkei | 洋風焼き鯛めしBenkeiスタイル ひめの凛とワイルドライスのクロケット レモングラス香るタイ王国風ビスク |
| 四国中央市 | Amalfi(アマルフィー) | 真鯛のポルチーニクリームリゾット |
| 四国中央市 | 三島バルevoevo | 炙り真鯛のStaubパエリア |
21という数は、同じ一皿を出す支店網ではない。県の一覧では、西条市9店、新居浜市8店、四国中央市4店となる。Cafeダイニングつじ丸と酒ダイニングつじ丸は同じ「石焼鯛めし」を昼と夜の別店舗で提供するため、二つの提供店として数えられる。
「焼き鯛めし」を名乗る三つの条件
東予・洋風焼き鯛めし普及協議会が公表する定義は、材料と見た目、主食、味付けの三層から成る。第一に愛媛県産の真鯛を使い、焼いた鯛が形として見えること。養殖か天然かは問わないが、ほぐした状態では出さない。第二に米飯を使うこと。リゾットやドリアも認める。第三に洋風の味付けとしながら、鯛の風味を損なわないことだ。
重要なのは、ソースや米の炊き方を統一していない点にある。焦がしバター醤油、クリーム、ココナッツスープ、グリーンカレー、みかんソース。店舗は同じ料理を再現するのではなく、三条件の内側で自店の技術と客層に合わせる。
この方式は、食べ手に「本物は一つ」という安心感を与えるものではない。代わりに、どの店でも県産真鯛と米飯を核にしながら、店ごとの差を食べ比べる理由をつくる。ブランドの一貫性を味ではなく、材料と調理の境界で保つ考え方である。
七つの新しい皿は、同じ型に収まらない
新メニューの名前だけでも幅が分かる。トマトと卵の雑炊、海苔で巻く鯛めし、ポルチーニのクリームリゾット、厚手鍋を使うパエリア。Benkeiは県産米「ひめの凛」とワイルドライスのクロケットに、レモングラスを使うタイ王国風ビスクを組み合わせる。
石鎚山サービスエリアでは、伊予鉄商事が上下線のグルメコーナーで「瀬戸内産真鯛の洋風焼き鯛めし」を販売する。同社資料によると、真鯛にガーリックバターとニラ醤油のソースを重ね、レモンと揚げ野菜を添える。通常価格は税込み1,750円で、8月27日午後3時に販売を始めた。
オレンジフェリーは夜の船内レストランで提供する。欧風レストランShinoharaと創作鉄板フレンチBenkeiは完全予約制だ。料理の違いだけでなく、いつ、どこで食べられるかがブランドの広がり方を決める。
南予の「活き」、中予の「炊き」、東予の「焼き」
県の公式観光サイトは、愛媛の鯛めしを「活き・炊き・焼き」で整理する。南予の「活き」鯛めしは、鯛の刺身をたれや薬味と合わせ、ご飯にかける。中予の「炊き」鯛めしは、鯛を土鍋や釜で米と炊き込む。新しい東予の「焼き」は、焼いた真鯛と洋風の調理を前に出す。
これは厳密な食文化史の分類というより、地域差を覚えやすくする現在の観光・食ブランド表現である。炊き込み型の鯛めしは今治市など東予にも根付くため、「東予には従来の鯛めしがなかった」という意味ではない。
それでも、真鯛を核に三地域を結ぶ発想には供給面の裏付けがある。愛媛県によると、県は1990年以降、養殖マダイの生産量で国内1位を続け、2006年以降は全国生産の半分以上を占める。新しい料理は、すでに大きい生産基盤へ県内での新しい需要を重ねる政策でもある。
発祥はマルブンのまかない
県公式観光サイトが発祥として紹介するのは、西条市小松のマルブン小松本店だ。同店のまかない料理を5代目店主が現代風に整えた「焦がしバター醤油 五代目鯛めし」が、テレビ企画「FNSご当地うま撮グランプリ」でグランプリを受賞した。
その一皿をそのまま地域標準にしたのではない。2025年8月、9事業者10店舗がそれぞれの洋風焼き鯛めしを販売し始めた。マルブンの料理は起点であり、他店が同じソースを使うフランチャイズの原型ではない。
この距離の取り方は重要だ。発祥店の物語をブランドの入口にしながら、地域の料理人が自店の技術で参加できる余地を残す。起源と所有を一店に閉じず、複数店のネットワークへ変換した。
行政がつくるのは、料理より連携
愛媛県は2026年5月25日、提供店、関係市、県などでつくる「東予・洋風焼き鯛めし普及協議会」を設立した。目的は認知度向上、誘客、提供店の拡大、店舗間の連携、県産真鯛の消費拡大。活動方針は「未来の郷土料理」としての定着を掲げる。
県の2026年度事業資料では、提供店を10店から20店へ増やす目標のほか、スタンプラリー、料理を集めるグランプリ、情報発信、店舗向け勉強会などを計画する。21店への拡大は、店数という最初の指標では目標を超えた。
しかし、店舗数は食文化の定着そのものではない。継続的に注文され、仕入れと調理の負担に見合い、地域住民が自分たちの料理として選ぶかは別の検証を要する。販売食数、再注文、観光客の回遊といった成果は、現時点の公式発表では示されていない。
21店を食べ歩く前に
県の一覧は21店をまとめているが、販売日は統一されていない。週末だけ、平日だけ、昼だけ、夜だけという店があり、完全予約制の店もある。県も販売日と販売時間を事前に各店へ問い合わせるよう呼びかけている。
| 市 | 店数 | 公式一覧の提供店 |
|---|---|---|
| 西条市 | 9 | マルブン小松本店、アルバトロス、居酒屋えんや、石鎚山SAグルメコーナー、うしろのしょうめんだ~れ、オレンジフェリー船内レストラン、カフェアルル、Cafeダイニングつじ丸、酒ダイニングつじ丸 |
| 新居浜市 | 8 | 欧風レストランShinohara、オーベルジュゆらぎ、がすやのごはん、創作鉄板フレンチBenkei、リーガロイヤルホテル新居浜 日本料理夕桐、レストランAdam&Eve、レストランもりの風、若宮食堂 |
| 四国中央市 | 4 | Amalfi(アマルフィー)、三島バルevoevo、Riisa café、Restaurant&café Riina |
- 県の公式一覧から、提供曜日、時間、定休日、予約条件を確認する。
- メニュー名、価格、数量制限は店ごとに異なるため、直接問い合わせる。
- 「東予」でも、現時点の提供店は西条、新居浜、四国中央の3市に限られる。
- 画像は編集イラストであり、注文時の実物を示すものではない。
21という数字は、料理が完成したことを示す終点ではない。三つの条件を守りながら各店が客の反応を受け、皿を続けられるか。行政発のカテゴリーが郷土料理になるかどうかは、次の一店より、同じ店で次の一皿が注文されるかにかかっている。
2025年8月 9事業者10店舗で販売開始。
2026年5月25日 東予・洋風焼き鯛めし普及協議会を設立。
2026年8月27日 西条、新居浜、四国中央の7店が新メニューを発表。
2026年8月28日 愛媛県が提供店21店の一覧を更新。
- 愛媛県東予地方局 — 21提供店、7新規店、メニュー、営業時間の公式一覧
- 愛媛県東予地方局 — 東予・洋風焼き鯛めし普及協議会/公式定義
- 愛媛県 — 2026年度普及推進事業費、目標、事業計画
- 愛媛県 — 東予・中予・南予の区域と市町の公式読み
- 愛媛県公式観光サイト — 発祥と東予・洋風焼き鯛めしの解説
- 愛媛県「水産王国えひめ」 — マダイの生産と養殖/伊予鉄商事 — 石鎚山サービスエリア販売資料
本稿は2026年8月29日までに確認できた愛媛県、同県公式観光サイト、県関係企業の日本語資料を基に執筆した。店舗名とメニュー名は県の最新一覧に合わせ、営業時間や価格は変わり得る情報として扱った。現地での実食記事ではなく、制度、地域ブランド、提供網を検証する報告である。
