東京・恵比寿の小さなバーが、京都へ向かった。Bar TRENCH Kyotoの開業は、単なる支店展開ではない。東京で磨かれたアブサン、薬草酒、ビターズ、クラシックの再解釈が、京都の町家、観光、寺社、路地、夜の沈黙と出会う出来事である。カクテルはグラスの中だけで完結しない。都市の速度、客の歩き方、会話の間、扉を開ける緊張まで含めて、一つの文化になる。

Bar Trenchは2010年にBar Tramの2号店として恵比寿の路地に開いた。小さな店でありながら、国際的なバーランキングに登場し、世界のバーテンダーが訪れる東京の“巡礼地”の一つになった。特徴はアブサンと薬草系リキュール、ビターズ、そして物語性のあるカクテルだ。共同オーナーであるロジェリオ五十嵐ヴァズ氏は、ブラジル生まれ、カナダを経て日本へ来た日系ブラジル人であり、Bar Trenchを東京の国際的なカクテル地図に押し上げた人物として知られる。

なぜ京都なのか

京都は長く、酒場の街であると同時に、昼の観光都市でもあった。祇園、先斗町、木屋町、河原町、清水周辺には古い飲食文化があり、近年はホテルバー、スピークイージー、クラフトジン、ウイスキー、モダンカクテルが混じり合っている。東京のバーが“技術と速度”で語られがちなのに対し、京都のバーは“空間と余韻”で記憶されることが多い。

だからBar Trench Kyotoの意味は、東京式をそのまま持ち込むことではない。京都の夜に合う速度へ翻訳することだ。観光客は一日の終わりに山や寺を背負って来る。地元客は混雑から少し離れた席を求める。海外客は日本のカクテル文化を、言葉よりも所作で理解する。そこにTrenchの薬草的な香り、古典の再解釈、スタッフの会話が入る。

東京のカクテルは技術で始まり、京都のカクテルは空間で終わる。Bar Trench Kyotoは、その二つを一杯の中でつなごうとしている。

日本のカクテル文化の背景

日本のバー文化は、戦後の洋酒文化、ホテルバー、銀座のクラシック、そして職人技としてのバーテンディングから発展した。氷を削る、シェーカーを振る、グラスを冷やす、客の好みを読む。日本のバーは長く、声高な演出よりも静かな精度を重んじてきた。1990年代から2000年代にかけて、銀座のBar High Five、Star Bar、Little Smithなどが国際的に知られるようになり、東京は“世界が学びに来るバーの街”になった。

その後、2010年代に入ると、東京のバー文化はさらに多様化する。Bar BenFiddichのように薬草と農の感覚を持つバー、The SG Clubのように世界のカクテル文脈を東京で再構成するバー、Bar Trenchのようにアブサンとビターズを軸にした路地裏の名店が現れた。京都はその流れを、歴史都市の文脈で受け止めている。

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本当に使えるバーリスト

以下は、この記事で参照した実在のバー/パブのリストである。営業時間、定休日、予約方法は変更されるため、訪問前に必ず公式サイトまたは予約ページで確認したい。

Bar TRENCH Tokyo

住所: 1-5-8 Ebisunishi, Shibuya-ku, Tokyo, DIS Building 102

電話: +81-3-3780-5291

公式サイト: https://small-axe.net/bar-trench/

Ebisu original known for absinthe, herbal liqueurs and story-rich cocktails.

Bar TRENCH Kyoto

住所: 235 Chamaya-cho, Shimogyo-ku, Kyoto 600-8045

電話: +81-75-335-9955

公式サイト: https://www.instagram.com/bar_trench/

The first non-Tokyo Trench outpost, opened in 2026 near Kyoto Kawaramachi.

Bar K6

住所: 2F Vals Building, Kiyamachi Nijo Higashi-iru, Nakagyo-ku, Kyoto

電話: +81-75-255-5009

公式サイト: https://www.ksix.jp/

A Kyoto institution founded in 1994, known for cocktails, whisky and long service hours.

Bee’s Knees Kyoto

住所: 364 Kamiyacho, Nakagyo-ku, Kyoto 604-8024

電話: +81-75-585-5595

公式サイト: https://bees-knees-kyoto.jp/

A modern Kyoto speakeasy, often recognized on international cocktail lists.

Bar Rocking Chair

住所: 434-2 Tachibana-cho, Gokomachi-dori Bukkoji-sagaru, Shimogyo-ku, Kyoto

電話: +81-75-496-8679

公式サイト: https://bar-rockingchair.jp/

A fireplace-and-rocking-chair Kyoto classic, opened in 2009.

K36 The Bar & Rooftop

住所: 2-204-2 Kiyomizu, Higashiyama-ku, Kyoto-city, Kyoto

電話: +81-75-532-1111

公式サイト: https://www.princehotels.com/seiryu-kiyomizu/restaurant/k36-the-bar-rooftoppartner-restaurant/

A rooftop bar at The Hotel Seiryu Kyoto Kiyomizu overlooking Higashiyama.

Bar BenFiddich

住所: 9F Yamatoya Building, 1-13-7 Nishishinjuku, Shinjuku-ku, Tokyo

電話: +81-3-6258-0309

公式サイト: https://benfiddich.tokyo/

Hiroyasu Kayama’s herb, absinthe and farm-driven Tokyo bar.

Bar High Five

住所: Efflore Ginza5 Building BF, 5-4-15 Ginza, Chuo-ku, Tokyo

電話: +81-3-3571-5815

公式サイト: https://www.barhighfive.com/

Hidetsugu Ueno’s bespoke Ginza cocktail landmark.

The SG Club

住所: 1-7-8 Jinnan, Shibuya-ku, Tokyo

電話: +81-50-3138-2618

公式サイト: https://sg-management.jp/en/establishments/sgclub/

Shingo Gokan’s two-level Shibuya cocktail house, Guzzle and Sip.

L’Escamoteur

住所: 138-9 Saitocho, Shimogyo Ward, Kyoto 600-8012

電話: +81-75-708-8511

公式サイト: https://www.instagram.com/escamoteurbar/

A theatrical Kyoto cocktail bar with a magician’s-door personality.

観光から“夜の文化”へ

京都の訪日観光は、寺社、庭、食、宿の体験で語られることが多い。しかし夜の時間は、都市理解のもう一つの入口である。良いバーは、観光客を一時的な消費者ではなく、その街のリズムに触れる客へ変える。カウンターで隣り合う地元客、英語と日本語の間を行き来する会話、季節の素材、器、氷、照明。そこに京都の夜の教育がある。

Bar Trench Kyotoは、東京の成功を京都で再現するだけなら面白くない。面白いのは、東京の鋭さが京都の柔らかさで変化することだ。バーテンダーが同じレシピを作っても、街が変われば一杯の意味は変わる。恵比寿の路地で飲む一杯と、鴨川や清水の気配を背負って飲む一杯は、同じではない。

西へ渡るカクテル文化

東京から京都へ、カクテル文化が西へ渡る。だがそれは、中心が移るという話ではない。日本のバー文化が、都市ごとに違う文体を持ちはじめたということだ。東京は密度、速度、実験性。京都は余白、記憶、場所性。Bar Trench Kyotoは、その違いを見える形にした。日本の夜は、もう一つの観光資源ではなく、都市文化そのものとして読まれる段階に入っている。

出典・参考

店舗情報は公式サイト、予約ページ、店側掲載情報を優先し、公開時点で確認した。