地域の困りごとは、最初から事業計画の形をしているわけではない。仕事の引き継ぎに時間がかかる、使える情報が別々の組織に眠っている、新しい仕組みを試したくても相談先が見つからない。そこに技術を持つ企業が現れても、すぐに解決へ進むとは限らない。誰と話し、何を確かめ、誰が使い続けるのか。その段取りが必要になる。

愛知県が9月10日に参加企業の募集を始めた「AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2026」のConnectコースは、こうした接点をつくる取り組みだ。県内の自治体や支援機関とスタートアップを結び、地域の課題を事業へと育てる道筋を探る。名古屋の拠点に企業が集まるだけでなく、県内各地で協働が動き出すかが問われる。[1]

募集が始まった段階で、地域経済への効果を判定することはできない。ただ、制度の設計からは、県がどこに足場を築こうとしているかが見える。新しい会社を増やすだけでなく、地域側にも、新しい会社と仕事を進める経験を蓄える。その両方を狙う事業である。

「初めて」を支えるのは、地域側でもある

県は今年度のプログラムをConnectとCreateの2コースに分けた。Connectは、主にスタートアップとの連携に初めて取り組む団体が、基礎知識と実践を通じて協働の進め方を学ぶ設計だ。一方のCreateは、複数団体の参加を前提に、地域に根づく事業づくりに取り組む。7月22日付の県の募集発表でも、この違いを説明している。[2]

ここでの「初めて」は、起業前の人なら誰でも参加できるという意味ではない。Connectに応募する企業には、自社のサービスや製品をすでに持つことなどの条件がある。地域の団体が連携の経験を積むことと、企業側に実際に試せるものがあることを組み合わせる考え方だ。[1]

この組み合わせには理由がある。課題を説明する側が、技術の限界や開発に必要な時間を知らないままでは、期待だけが膨らむ。企業側も、担当者の賛同を得たことと、現場で利用する体制が整ったことを同じに扱えば、試行の途中で立ち止まる。互いの事情を言葉にし、できることの範囲を決める作業そのものが、最初の成果になり得る。

35団体の顔ぶれが示す、連携の広がり

Connectの地域パートナーとして県が挙げるのは35団体。内訳は自治体18、商工会・商工会議所9、金融機関3、その他5であり、「35市町村」ではない。一宮市や小牧市、新城市、田原市、南知多町などの自治体に、信用金庫、大学、福祉や観光に関わる団体も加わる。募集テーマは農林水産業、地場産業、観光・商業、まちづくり、サステナビリティ、ウェルビーイングの6分野だ。[1]

顔ぶれの幅は、地域の課題に一つの窓口だけでは届きにくいことを示している。たとえば、商店の業務を変える提案では、使う事業者と話す必要がある。住民向けサービスなら、利用者に接する団体の知見が欠かせない。大学が関わる場合には、技術の評価方法を検討する余地も生まれる。これは参加団体に特定の役割を割り振った県の約束ではなく、連携を考える上での視点である。

地域パートナーの数を、そのまま顧客数と読むこともできない。支援する組織、試す場所を提供する組織、費用を払う組織は一致するとは限らないからだ。紹介を受けた後に、実際の利用者へ話が届くか。地域の名前が並ぶ名簿を、継続的な仕事の関係へ変える部分に、この事業の難しさがある。

織機から自動車へ。産業の歴史をどう読むか

愛知で新しい事業の可能性を考えるとき、製造業の蓄積は背景から外せない。ただし、その蓄積は、最初から現在の形だったわけではない。

トヨタ自動車の公式な歴史紹介によると、豊田喜一郎は1933年、豊田自動織機製作所に自動車部を設けた。1937年にはトヨタ自動車工業が設立され、翌1938年、愛知県の挙母町、現在の豊田市に工場ができた。織機に関わる企業の中から、別の産業へ進む動きが生まれたのである。[4]

この歴史を、地域の連携事業から次のトヨタが必ず生まれるという物語にすることはできない。時代も市場も資金の条件も違う。むしろ注目したいのは、既存の産業を守ることと、新しい事業へ踏み出すことが、必ずしも相反しないという点だ。すでにある技術、人材、取引の経験は、新分野を考える足場にもなる。

県の「Aichi-Startup戦略」2026年改定版も、自動車産業の構造転換やAIを含むデジタル技術の進展を背景に、変化への対応を課題としている。創業支援は、既存産業の外側に別の世界をつくる話だけではない。地域にある経済活動と新しい技術を、どう結び直すかという問いでもある。[5]

2018年の戦略から、県内各地の現場へ

県が最初のAichi-Startup戦略を策定したのは2018年10月。2024年10月には中核拠点のSTATION Aiがグランドオープンし、戦略は2026年3月に改定された。県の6月23日付発表では、同拠点にスタートアップ約720社、事業会社や大学などのパートナー約370社が会員として集まるとしている。これは同発表時点の会員規模であり、県内に所在するスタートアップの総数ではない。[3]

拠点に多様な企業や人が集まれば、出会いの機会はつくりやすくなる。しかし、会員が増えたという数字だけでは、県内のどの場所で、誰の仕事が変わったかまでは分からない。県が掲げるのは、STATION Aiと県内各地域の「STATION Aiパートナー拠点」が連携する仕組みだ。ConnectとCreateは、地域ネットワークと企業の提案を結び、仮説を確かめる取り組みとして、その方向に沿っている。[2]

都市の拠点と地域の現場は、どちらかを選ぶ関係ではない。集まる場所で技術や事業の可能性を知り、使う場所で必要な条件を確かめる。その往復が成り立つなら、名古屋への集積が県内各地の事業につながる。逆に、交流が交流のままで終われば、地理的な広がりは名簿の上にとどまる。

課題の名前を、確かめられる問いに変える

地域課題という言葉は大きい。人手不足、販路開拓、暮らしの利便性といったテーマを掲げるだけでは、何をもって前進とするか決まらない。実際に事業を組むには、困っている人、困る場面、現在の対応、改善に使える時間と費用を具体化する必要がある。

比較の手がかりになるのが、別コースのCreateで県が公表した募集テーマだ。犬山エリアは中小企業のDXへの入口となる業務の可視化・診断、岡崎エリアは後継者の挑戦を起点にした新規事業、東三河エリアは地域ブランドの発信と販路拡大を掲げる。これらはCreateの募集課題であり、Connectの採択案件や成果を示すものではない。[2]

課題の表現を一段具体的にすると、話すべき相手も見えてくる。業務改善なら、経営者の判断に加え、毎日の作業を担う人の説明が必要になる。販路なら、情報を発信した回数よりも、問い合わせや取引につながったかを確かめたい。技術の紹介を始める前に、何を変えたいのかを共有することが重要だ。

仮に予約管理のサービスを試すなら、導入前後の処理時間だけでなく、入力の手間が誰かに移っていないかも見る必要がある。環境負荷の低減を目指すなら、比較する期間や活動量をそろえなければ、数字を読み違える。いずれも本稿が挙げる評価の例であり、公表済みのConnect案件ではない。

実証の次に、誰が使い続けるのか

試せることと、事業として続くことの間には距離がある。利用者が便利だと感じても、支払う主体が決まらなければ継続は難しい。費用を払う組織があっても、現場に運用の時間がなければ定着しない。利用者、受益者、負担者を分けて考えることが、連携を現実の計画にする。

企業側には、地域に合わせてどこまでつくり変えるかという判断もある。一つの現場に丁寧に対応することは大切だが、そのたびに別の製品をつくる形になれば、次の地域へ広げにくい。共通して使える部分と、地域ごとに調整する部分を見極める必要がある。地域側にも、従来のやり方のどこを変えられるかを検討する仕事が残る。

成果を見るなら、面談数や発表会の件数に加え、試行後も利用が続いたか、負担が減ったか、費用を担う仕組みができたかを追いたい。計画を途中で見直した場合も、その理由が分かれば次の連携に役立つ。単に成功例を並べるより、続いた条件と続かなかった条件を明らかにする方が、地域に経験を残せる。

応募する企業が確認したい日程と条件

Connectは、国内に住所を持ち、日本の法律に基づいて設立された法人で、県の定める中小企業の要件を満たす企業(みなし大企業を除く)が対象となる。自社のMVP、すなわち利用者に価値を提供できる必要最小限の機能を備えたサービス・製品が求められ、地域と主体的に取り組むこと、マッチング会に参加できることも条件に含まれる。参加は無料だが、交通費・通信費などは各自負担となる。[1]

Connectコースの募集・実施予定(2026年、時刻はJST)
項目県の案内
応募期間9月10日(木)〜10月19日(月)
選定規模最大10社程度
結果通知11月上旬予定
マッチング会11月18日(水)14:00〜17:00、STATION Ai
その後12月以降、プロジェクトを具体化する予定

出典:愛知県のConnect募集発表。応募方法や対象企業の詳細は、県の募集案内から確認したい。採択の案内を、受注や補助金、事業の成功が約束されたものと受け取るべきではない。

愛知が今回広げようとしているのは、起業家が集まる場所の数だけではない。地域が課題を説明し、企業が提案を修正し、双方が結果を確かめられる関係である。名古屋で生まれた出会いが、離れた現場の日々の仕事にどう届くか。Connectの価値は、その先で使い続けられる仕組みが生まれるかに表れる。