9月のアジア競技大会に目を向けるとき、愛知のスポーツの秋には、もう一つの開幕が待っている。10月18日から24日までの7日間、愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会が開かれる。9月13日の日曜版から開会式までは、ちょうど5週間。日本パラリンピック委員会(JPC)が7月時点で示した実施規模は、18競技502種目だ。[1]

会場で注目したいのは、一球の置き方、コート上の位置取り、レースの勝負どころである。そして開催地には、選手が力を発揮し、観客がその勝負に立ち会える環境を整える仕事がある。競技を楽しむことと、参加を支える仕組みを考えること。その両方が、10月の大会を迎える手掛かりになる。

初めての国内開催、その源流は日本にある

アジアパラ競技大会の日本開催は今回が初めてだが、その歴史は日本と深くつながっている。前身のフェスピック競技大会は、1975年に大分・別府で始まった。極東・南太平洋地域の障害のある人々にスポーツの機会を広げ、社会参加を促すことが重要な目的だった。1989年には神戸でも開催されている。[2]

この歩みに関わった医師が中村裕(なかむら・ゆたか)だ。太陽ミュージアムの紹介によれば、英国でスポーツを取り入れたリハビリテーションを学び、1964年東京パラリンピックでは日本選手団団長を務め、翌年に太陽の家を創設した。中村が取り組んだスポーツと仕事を通じた社会参加は、大会を競技場の中だけで捉えない視点につながる。[3]

フェスピックは2006年まで9回続き、組織の統合を経てアジアパラ競技大会へ引き継がれた。第1回は2010年の広州。2014年の仁川、2018年のジャカルタ、2023年に開催された杭州を経て、愛知・名古屋が第5回となる。「国内初」とは、この大会系列での初開催を指す。日本でパラスポーツの国際大会が初めて行われる、という意味ではない。[2]

18競技を、県内各地の会場で

名古屋市の案内では、全体の会場数は19、市内では10競技を10会場で実施する。メイン会場の名古屋市瑞穂公園陸上競技場ではパラ陸上競技、愛知国際アリーナでは車いすバスケットボール、名古屋市東山公園テニスセンターでは車いすテニスが予定されている。観戦したい競技を決めると、訪れる街や施設も変わる。[4]

県内に視野を広げれば、一宮でパラバドミントン、豊橋でゴールボール、豊田でパラ卓球、刈谷で車いすラグビー、岡崎でパラアーチェリーと座位バレーボールが行われる。なお、パラ自転車競技の会場は静岡県の伊豆ベロドロームとサイクルスポーツセンター5キロサーキット。大会名に愛知・名古屋とあっても、すべての競技が愛知県内で行われるわけではない。[5]

名古屋市外にも広がる主な競技会場
競技会場
パラバドミントン一宮市総合体育館
ゴールボール豊橋市総合体育館
パラ卓球スカイホール豊田
車いすラグビーウィングアリーナ刈谷
座位バレーボール岡崎中央総合公園総合体育館

身近な体育館が国際大会の舞台になることには、テレビ観戦とは違う意味がある。普段使う施設のどこが競技に適し、どこに案内や移動の工夫が必要なのか。大会を見る経験が、地域の施設を見る目にもつながるだろう。

日本代表は8月21日時点で267人

JPCの第3次発表では、日本代表の選手は267人。競技パートナー15人、競技団体スタッフ124人、本部スタッフ22人を合わせた選手団は428人となった。これは8月21日時点の公表値であり、428人全員が選手ということではない。代表選考は段階的に発表されており、7月の第1次発表だけでは現在の規模を捉えられない。[6]

愛知との接点も具体的だ。統合名簿には、車いすテニスの小田凱人(おだ・ときと、東海理化)が名を連ねる。陸上競技では石田駆(いしだ・かける、トヨタ自動車)も選ばれている。名簿の現住所はそれぞれ名古屋市、長久手市。生活や所属先を通じて地域とつながる選手の競技を、開催地で見られる機会となる。[7]

選手の名前を知ることは観戦の入口になる。その先では、対戦相手や競技方式、どの局面で得点や記録が動いたかにも目を向けたい。地元選手への応援が、初めて見る競技そのものへの関心に育つ余地がある。

クラス分けを知ると、勝負が見えやすくなる

18競技に対して502種目という数字を理解するうえで、知っておきたい仕組みの一つがクラス分けだ。JPCは、競技に必要な動作への障害の影響を踏まえて競技者を分類し、参加資格を定めるとともに、競技結果に及ぼす障害の影響をできるだけ小さくするための仕組みと説明している。技術や戦術、鍛えた力が勝敗に反映されるようにするためだ。[8]

クラスは、その人の能力全体や日常生活を評価する順位ではない。評価の方法も競技ごとに異なる。観客は、出場種目とクラスを一緒に確認することで、同じ距離のレースや似た動きの種目が別々に行われる理由を理解しやすくなる。数字だけを見比べて優劣を判断する前に、何を競う枠組みなのかを知ることが大切になる。

ボッチャの一球にある判断

競技の面白さをつかむ例として、ボッチャがある。日本ボッチャ協会の説明では、白いジャックボール(目標球)に赤・青のボールをいかに近づけるかを競う。自分の球を寄せるだけでなく、ほかの球に当てて配置を変えることもできる。一球の結果が、その次に狙える場所を変える。[9]

投球が困難な選手が競うBC3クラスでは、ランプ(勾配具)とランプオペレーターが使われる。選手自身の意思を伝えてプレーする仕組みだ。用具の存在だけに注目すると、どこを狙い、どの球を選ぶかという選手の判断を見落としてしまう。[9]

観戦では、成功した一投だけでなく、直前の配置を覚えておくとよい。寄せるか、動かすか、別の経路を選ぶか。得点表示を追うだけでは見えにくい駆け引きがある。競技について短い説明を読んでから会場へ行くだけでも、見るべきものは増える。

アクセスは、会場ごとの具体策へ

愛知県が9月10日に更新した観客向け案内は、公共交通機関の利用を基本とし、一部会場でシャトルバスやアクセシブルシャトルを運行するとしている。アクセシブルシャトルはユニバーサルデザインタクシーによるサービスで、車いす利用者や障害のある人などが対象。無料で、原則予約制だ。すべての会場に同じサービスがあるわけではない。[10]

県の案内は、開閉会式と競技実施時ではアクセスルートが異なることにも注意を促している。列車の乗降支援についても、鉄道会社や駅によって手続きが異なる。競技日、会場、入場するセッションを決めたうえで、その会場の案内を確認することが必要だ。[10]

こうした準備の評価は、設備の数だけでは済まない。駅を出てから席に着くまで案内が途切れないか。必要な情報を事前に探せるか。困ったとき、どこに尋ねればよいか分かるか。これは大会当日の利用体験で確かめられるべき点であり、計画の公表だけで達成したと判断することはできない。

10月24日の先にも続く機会

大会の歴史をたどると、競技力の向上と参加機会の拡大が繰り返し現れる。愛知で問われるのも、観戦の熱気を、その後のスポーツ環境へどうつなげるかだ。身近に練習場所があるか、用具や指導者に出会えるか、見学や体験の情報にたどり着けるか。国際大会に出る選手だけでなく、これから始めたい人にとっても関わりのある問いである。

9月の大会を迎える今、10月の観戦予定も一つ入れてみる。知っている選手を応援する日でも、初めての競技を見に行く日でもよい。愛知の長いスポーツの秋は、競技を見る機会を広げる。その機会を地域の日常に残せるかどうかは、閉会式の後まで続く仕事になる。