愛知・名古屋アジア競技大会の観戦案内には、球技場やプールと並んで、ゲームのタイトルが記されている。eスポーツの会場は、名古屋市中心部ではなく、常滑市のAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)展示ホールD。競技期間は9月23日から10月2日までの10日間だ。画面の向こうで何を競い、どこに勝負の分かれ目があるのか。開催地の観客にも、競技を知る入口が求められる。[1]
速くボタンを押せるかどうか、という説明だけでは足りない。サッカー、レース、対戦格闘、パズル、チームでの戦略的な対戦。採用された作品は、勝利の条件も、選手の役割も異なる。愛知に集まるのは、一つの遊び方を共有する選手たちではなく、それぞれのルールを深く理解し、判断を重ねてきた競技者たちである。
「11種目13タイトル」が意味するもの
日本eスポーツ協会(JESU)が公表した大会プログラムは、11種目13タイトル。この二つの数字の差は、対戦格闘団体戦にある。「Street Fighter 6」「鉄拳8」「THE KING OF FIGHTERS XV」の3作品を、一つの団体戦として実施する。作品ごとに別々のメダル種目になるわけではない。[2]
ほかの10種目は、ポケモンユナイト、Honor of Kings、League of Legends、PUBG MOBILEのアジア大会版、Mobile Legends: Bang Bang、Identity V 第五人格のアジア大会版、Naraka: Bladepoint、グランツーリスモ7、eFootball、ぷよぷよeスポーツだ。「eスポーツ」という総称の中に、異なる競技が並ぶ構成になっている。[2]
代表チームの単位にも注意したい。対戦格闘団体戦は3人がそれぞれの作品を担当する。一方、eFootballはPCとモバイルを担当する2人で組む。普段、自分が遊んでいる機種やタイトルだけを知っていても、大会の団体戦の仕組みまで同じとは限らない。観戦前に確かめたいのは、作品名に加えて、その大会で採用される競技方式である。[4]
公開競技から正式なメダル種目へ
国際総合競技大会とeスポーツの関係は、今回突然始まったものではない。JESUの歴史資料は、2007年にマカオで開かれたアジアインドアゲームズでの採用を節目に挙げる。アーケードの対戦文化や、インターネットを通じた対戦の広がりを背景に、ゲームの勝敗を大会として組織する営みが育ってきた。[5]
アジア競技大会では、2018年のジャカルタ・パレンバン大会で公開競技として実施され、日本はウイニングイレブンで金メダルを獲得した。ただし、この実績と、正式種目のメダルは区別する必要がある。正式なメダル種目となったのは、2023年に開催された杭州大会だ。大会名称には「2022」が残るため、開催年と混同しやすい。愛知・名古屋大会での採用は、2023年7月のアジア・オリンピック評議会(OCA)総会で承認された。[6][7]
この経緯から見れば、今回の焦点は、ゲームが会場に初登場するという珍しさだけにはない。前回までに築いた競技の枠組みを、開催地の日常からどう理解できるものにするか。メダルを争う舞台が国内に来ることで、観客と競技の距離が変わる。
愛知は代表選考の舞台でもあった
本大会に先立つ3月21、22日、Aichi Sky Expoでは日本代表候補選手を決める最終選考競技会が開かれた。対象は対戦格闘団体戦、eFootball、ぷよぷよeスポーツ、グランツーリスモ7。秋の開催地は、春には国内の代表選考を担っていた。[8]
その後、JOCの認定手続きを経て、7月15日に日本代表25人とコーチ4人が正式発表された。出場するのは7種目9タイトル。日本が全11種目に出場するわけではない。選考段階の「候補」と、正式に認定された代表を分けて伝えることも、大会を理解するうえで欠かせない。[3]
地域との接点は、所属チームにも見える。eFootballのモバイル担当は、名古屋NTPOJA所属として発表されたlemon-pop、茶谷優我(ちゃたに・ゆうが)選手だ。JESUの紹介によると出身地は石川県。名古屋のチームに属することと、愛知県出身であることは同義ではない。開催地の応援は、生まれた場所だけでなく、活動を支えるつながりにも向けられる。[3][4]
8月19日にはeスポーツの代表選手もTEAM JAPANの結団式に参加した。ゲームごとの競技活動が、国際総合競技大会の日本代表という枠組みに合流していく。[9]
初めて見るなら、勝利条件から
観戦の第一歩は、画面上の情報をすべて追うことではない。まず「何を達成すれば勝ちなのか」を一つつかむ。そのうえで、残り時間、得点、選手の位置や役割を見れば、派手な場面の前後にある判断が見えやすくなる。
例えばポケモンユナイトは、5対5で対戦し、制限時間内のスコアを競うゲームだ。同じようにチームで戦う作品があっても、「相手の拠点を壊す競技」と一括りにはできない。得点を狙うのか、味方を支えるのか。目の前の動きがチームの目的にどう結びつくかを考えると、観戦の手掛かりになる。[10]
サッカーやレースを題材にした作品なら、既に知っている競技の見方が入口になるだろう。対戦格闘やパズルでは、攻める局面と待つ局面の変化に注目してもよい。ただし、一般向けのゲーム説明と大会の競技規則は別物だ。とくに「Asian Games Version」と明示されたタイトルについて、通常版とまったく同じ内容だと決めつけるべきではない。
画面を支える制度
国内の競技団体にも変化があった。2018年に発足した日本eスポーツ連合は、2025年8月に日本eスポーツ協会へ名称を変更した。英語名称はJapan Esports Unionのままで、現在の略称はJESU。2024年6月にはJOCの準加盟団体となっている。[7]
JESUは2020年にアンチ・ドーピング委員会を設け、2021年に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)へ加盟した。画面上で競う種目にも、選手を支える教育や競技の公正さを扱う制度がある。[11]
同時に、競技の土台となるソフトウェアには権利者がいる。採用タイトルの発表でも、JESUはIPホルダーとの連携を説明している。競技団体とゲームの権利者が関わる構造は、ルールや大会運営を考える際の重要な特徴だ。観客にとっても、ゲームへの親しみだけでなく、誰がどの条件で競技を運営しているかを知る意味がある。[2]
観戦計画に使う主な日程
公表済みの日程から、日本代表の出場種目について主なセッションを抜き出した。全予選の一覧ではない。購入・来場前には、公式案内で対象セッションと最新の日程を確認したい。[1]
| 日付 | 種目・段階 |
|---|---|
| 9月23日 | グランツーリスモ7:グループステージ〜決勝/eFootball:準決勝〜決勝 |
| 9月25・26日 | 対戦格闘団体戦:25日に決勝トーナメント〜準決勝、26日に決勝 |
| 9月26日 | ぷよぷよeスポーツ:決勝トーナメント〜決勝 |
| 9月27日 | ポケモンユナイト:決勝トーナメント〜決勝 |
| 9月29日 | PUBG MOBILE(アジア大会版):決勝 |
| 9月30日 | Identity V 第五人格(アジア大会版):決勝トーナメント〜決勝 |
大会後に地域へ何が残るかは、来場者数だけでは測れない。初めて見た競技を説明できる人が増えること。地元とつながる選手の活動を、メダルの有無だけで終わらせず追うこと。学校、家庭、競技の現場が、同じ言葉で話せる部分を増やすこと。いずれも、大会が自動的にもたらす成果ではなく、開催地が育てていく課題だ。
常滑の展示ホールで争われるのは、ゲームに詳しい人だけの内輪の勝負ではない。異なるルールを持つ競技を、初めての観客にどう開いていくか。その試みもまた、愛知が迎えるアジア大会の一場面になる。
