使い終えた食用油が、航空燃料の原料になる。そのつながりを、愛知の空で目に見えるものにしようという取り組みが進んでいる。9月19日に予定される航空自衛隊ブルーインパルスの展示飛行で、愛知県と名古屋市が調達する国産の持続可能な航空燃料「SAF(サフ)」が、使用燃料の一部となる。

県が9月11日に発表した。第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)と第5回アジアパラ競技大会(2026/愛知・名古屋)の開催を記念する飛行で、県内上空を飛ぶ全体の予定時間は、19日午前9時10分から9時55分まで。SAFの原料には、愛知を含む国内で回収された廃食用油が使われる。[1]

名古屋市も同日、市が回収する廃食用油の一部が、今回調達するSAFの製造工程で使われていると明らかにした。家庭の資源回収と航空分野を結ぶ、具体的な接点である。[2]

愛知で集め、堺で製造し、セントレアを経由する

今回の燃料は、愛知県内だけで製造から供給までが完結するわけではない。日揮ホールディングスの発表によると、合同会社SAFFAIRE SKY ENERGYが製造し、コスモエネルギーグループを通じて供給する。工場から海上出荷した後、中部国際空港セントレアを経由する計画だ。製造設備は、大阪府堺市のコスモ石油堺製油所構内にある。[3]

県内で回収された油が原料に含まれることと、特定の家庭が出した油を特定の機体まで追跡できることは違う。今回の発表が示すのは、地域の回収が国内の製造・供給網につながっているという事実だ。愛知の役割は、原料の回収、空港を通じた流通、そして利用への参加にある。

この供給網には数年の準備がある。NEDOは2025年3月、廃食用油を原料とする大規模生産実証設備が堺製油所で完成し、原料調達から製造、品質管理、空港への供給までをつなぐ実証に入ったと発表した。年間約3万キロリットルのSAF供給を目指す事業であり、この数字は展示飛行に使う量ではない。[4]

セントレアでは2025年5月23日、同社が製造する国産SAFがDHL Expressの貨物便に初めて供給されたと、日揮側が発表している。今回の展示飛行は、展示飛行だけのために突然現れた仕組みではなく、空港での利用へ進んできた供給網の上に位置する。[5]

食用油を、そのまま燃やすのではない

廃食用油は原料であり、そのまま航空機に給油する燃料ではない。コスモは、堺の事業で廃食用油などを使うHEFA技術を採用する一方、将来の供給拡大に向けて別の原料を使う技術も検討していると説明している。[14]

米国エネルギー省の解説では、HEFAは油脂を水素化処理し、さらに異性化や分解を行って航空燃料に適した成分へ変える製造経路だ。SAFは製造経路ごとに定められた条件で従来燃料と混合して使われる。回収できた油の量を、そのまま同じ量の航空燃料と見なすこともできない。[8]

必要なのは、回収箱を置くことから先の仕事である。原料として扱える状態を保ち、一定量を集め、工場で加工し、品質を管理し、空港まで届ける。NEDOも、廃食用油の安定調達を課題に挙げ、原料の特性を装置設計に反映したことを説明している。[4]

回収の仕組みを、日常に根付かせる

名古屋市では2026年4月、日揮ホールディングス、レボインターナショナル、SAFFAIRE SKY ENERGY、中部国際空港との廃食用油の資源化に関する協定が発表された。企業側の資料によると、市の店頭回収は15年以上前から続き、発表時点で71店舗に広がっていた。SAFへの利用は、既存の資源回収に新しい用途を加える動きでもある。[6]

県は2025年8月8日、「あいち地産地消SAFサプライチェーン推進協議会」を設立した。原料回収の仕組みと、CO2削減効果に関する認証制度の検討を進め、2026年2月には家庭からの廃食用油回収に関するガイドブックをまとめた。県の説明する地域構想には、田原市の製造拠点やトレーサビリティシステムを活用する別のプロジェクトも含まれる。今回の堺製造の燃料と、地域全体の将来構想を混同しないことが大切だ。[7]

展示飛行によって回収への関心が高まれば、その後に問われるのは継続性だ。一度のイベントで集まった量だけでなく、翌月も回収が続くか。参加者が迷わず利用できるか。輸送や保管を含め、無理なく運営できるか。こうした地上の仕組みが、航空燃料として使い続けるための条件になる。

「排出削減」は、どの範囲で測るのか

SAFを使っても、燃焼時のCO2排出がなくなるわけではない。国際民間航空機関(ICAO)のライフサイクル評価は、原料の回収や加工、輸送、燃料製造、供給、航空機エンジンでの燃焼などを含めて排出量を扱う。削減効果を考える際は、燃料ができて使われるまでの範囲をそろえる必要がある。[9]

日揮は廃食用油由来SAFについて、従来のジェット燃料に比べ温室効果ガスを84%削減する効果を説明している。ただし、これは同社が説明する燃料のライフサイクル上の値であって、今回の展示飛行全体で84%削減されるという意味ではない。[10]

今回の発表で分かること、別に確かめるべきこと
確認できる内容そこからは決まらない内容
SAFを使用燃料の一部に採用給油する燃料の具体的な混合率
地域の回収油を原料の一部に活用家庭や自治体ごとの原料寄与率
国産の製造・供給網を利用展示飛行全体の排出削減量や調達費用

飛行全体の効果を評価するには、SAFの利用量、従来燃料との関係、認証上の環境価値の割り当て、比較対象を確認する必要がある。調達したという発表と、効果を数量で検証することは別の段階だ。

大きな行事を彩ってきた機体が、燃料を伝える

ブルーインパルスの歴史は1960年にさかのぼる。航空自衛隊の年表には、1964年の東京オリンピック開会式、1970年の大阪万博開会式などでの展示飛行が記されている。国民的な行事と結び付いた知名度が、今回のSAF普及にも生かされる。[12]

現在の正式名称は、松島基地の第4航空団に所属する第11飛行隊。T-4を使うチームは1995年12月に編成された。愛知で飛ぶから愛知の部隊というわけではない。[13]

SAFとの接点も今回が初めてではない。コスモは2025年4月10日、関西国際空港でブルーインパルスに、国産SAF由来の環境価値を付与した航空燃料を供給したと発表している。発表はマスバランス方式による環境価値の割り当てを明記しており、燃料の流れと認証上の記録を区別して読む必要がある。[11]

愛知の取り組みを評価する軸は、空の演技だけにはない。家庭の油が回収され、原料として使われ、燃料の品質と環境価値が説明され、利用が続くか。その連鎖を市民に伝えられることが、今回の展示飛行の意味になる。9月19日の空が注目を集めた後にも、回収と供給の仕事は地上で続いていく。