東京のホテルは、長いあいだ「都市の上に立つ眺望装置」だった。窓の向こうに皇居の緑、東京タワー、霞が関の官庁街、六本木の灯り、湾岸へ伸びる都市の線を見せる。そこに、もう一つの問いが重なり始めている。豪華さとは、どれだけ大理石を使うことなのか。それとも、都市の真ん中で人の呼吸を整え、自然との距離を少し戻すことなのか。
1 Hotel Tokyoの開業は、その問いに対する一つの答えである。ホテルは赤坂トラストタワーの38階から43階に入り、211室、24のスイート、3つのペントハウスを備える。公式発表によれば、館内は1 Hotelsのバイオフィリックデザイン哲学と、日本の素材感、職人性、抑制の美を組み合わせて設計された。高層ホテルでありながら、ホテルが目指すのは「空の上の森」に近い。
1 Hotelsはなぜ東京に合うのか
1 Hotelsは2015年に米国で立ち上がった、自然を主題にしたラグジュアリー・ライフスタイルホテルのブランドである。創業者のバリー・スターンリヒトは、かつてW Hotelsでホテルの空気を変えた人物として知られる。Wが「ホテルを退屈な宿泊施設から夜の社交場へ変えた」ブランドだったとすれば、1 Hotelsはその次の時代の答えである。派手な音楽や照明よりも、木、植物、再生素材、水、空気、地域社会とのつながりを前面に出す。
だが、1 Hotelsが東京に入ることには、単なる外資ブランドの日本上陸以上の意味がある。日本は、世界でも早くから自然と建築を結びつけてきた国である。庭、露地、茶室、床の間、借景、苔、石、木の経年変化。日本の美意識には、すでに「建物の中に自然を取り込む」発想がある。1 Hotel Tokyoは、米国発のサステナブル・ラグジュアリーが、日本の古い感覚と出会う場所になった。
赤坂という舞台
赤坂は、東京の中でも独特の場所だ。皇居外縁、永田町、霞が関、六本木、虎ノ門、青山の間にあり、政治、外交、メディア、企業、料亭文化、老舗ホテルが重なる。公式観光情報でも、赤坂は高級レストラン、ホテル、企業本社が集まる成熟した街として紹介されている。そこには華やかさがあるが、新宿や渋谷のような若い喧騒とは違う。大人の東京、権力の東京、接待の東京、夜の坂道の東京である。
1 Hotel Tokyoが入る東京ワールドゲート赤坂は、オフィス、商業、緑地、ホテルを組み合わせた複合開発である。森トラストの伊達美和子社長は、東京ワールドゲート赤坂をビジネス、文化、緑地を結びつける地区として構想したと説明している。そこへ1 Hotel Tokyoが入ることで、赤坂は単に泊まる場所ではなく、都市の未来を見せるショーケースになる。
街路から樹冠へ上がるデザイン
ホテルの公式発表で印象的なのは、到着体験を「木を上る」ように描いていることだ。街路レベルでは緑の壁が都市の緊張をやわらげる。エレベーターで上階へ移動する体験は、幹を上がっていくように組み立てられ、38階のロビーに着くと、そこは樹冠のような空間になる。ホテルの入口から客室まで、単なる移動ではなく、都市から自然へ意識を切り替える儀式として設計されている。
内装を手がけたCRÈMEは、木の皮を思わせる天井、風の動きを感じさせる壁、皇居の濠の石積みを連想させる大谷石の壁などを取り入れた。苔や再生パレットを使ったアート、地域の職人による装飾、館内の豊かな植栽は、東京の高層階にいながら、地面の記憶を戻す。これは眺望を売るだけのホテルではなく、足元の素材を思い出させるホテルである。
サステナブル・ラグジュアリーの難しさ
「サステナブル」と「ラグジュアリー」は、ときに矛盾して見える。高級ホテルは大量の水、電気、リネン、空調、食材、輸送、廃棄物を伴う。旅行そのものにも移動の負荷がある。だからこそ、サステナブルな高級ホテルを名乗るなら、言葉だけでは足りない。建物の性能、運営の仕組み、素材の選び方、食材の調達、宿泊者の行動を変える小さな仕掛けまで必要になる。
1 Hotel Tokyoは、日本の建築環境性能評価であるCASBEEの最高ランクSを取得したと発表されている。発表資料では、省エネルギーと節水、雨水・中水の再利用、再生・再利用素材を使った家具や備品などが挙げられている。客室にはフィルター付きの給水設備や、ワインボトルを再生したグラスなども用意される。小さなディテールに見えるが、高級ホテルで「使い捨てない」ことを美しく見せるのは簡単ではない。
「自然」を売り物にしすぎないホテル
サステナブル系ホテルには一つの危険がある。緑を置きすぎ、木を見せすぎ、説明を貼りすぎると、ホテルは説教の場になる。1 Hotelsが世界で評価されてきた理由は、環境配慮を「我慢」ではなく「気持ちよさ」として見せる点にある。宿泊者はエコ活動をしにホテルへ来るわけではない。よく眠り、よく食べ、静かに過ごし、街を楽しむために来る。その結果として、使い捨てを減らし、地域とつながり、自然を尊重できるなら、ホテルの価値は上がる。
東京でそれを実現するのは簡単ではない。東京は自然の都市でもあるが、同時に過密で、速く、硬い都市でもある。高層階から見る東京は圧倒的だ。だからこそ、館内の緑、木の手触り、石の重み、光の落ち方は、単なる装飾以上の役割を持つ。都市の情報量を少し減らし、呼吸の速さを戻すための装置になる。
食は「二つの海岸」を渡る
ホテルの食の中心となるのが、38階ロビーからつながるNiNiである。公式発表では、ヘッドシェフのニッコ・ポリカルピオが、東京のミシュラン星付きレストランや、カナダ・トロントのMomofukuグループで経験を積んだ人物として紹介されている。NiNiは日本語の「二二」にも響く名で、フレンチ・リビエラの軽やかさと日本の季節感を合わせる。プロヴァンスのハーブ、オリーブオイル、魚介、柑橘を、日本の細やかな感覚で再構成するという。
ホテルの飲食は、宿泊客だけのものではなくなった。東京の高級ホテルにとって、レストランやバーは街との接点である。Akasakaで働く人、近隣に住む人、週末に東京へ来る人、海外からの旅行者が、ロビー、カフェ、バー、レストランを通じてホテルを使う。1 Hotel Tokyoの3つの飲食空間は、宿泊施設ではなく、赤坂の新しい居場所になることを狙っている。
ウェルネスは東京の新しい贅沢
ラグジュアリーの意味も変わった。かつて高級ホテルの贅沢は、広い部屋、厚い絨毯、重いカーテン、豪華なバスルームだった。いまは、よく眠れること、体を整えられること、光がきれいであること、空気が重すぎないこと、仕事と休息を切り替えられることが重要になっている。1 Hotel Tokyoの公式ページでは、ウェルネススパ、屋内プール、サウナ、明るいフィットネス、パーソナルトレーニングなどが打ち出されている。
東京は刺激の街である。朝から夜まで、移動、商談、買い物、美術館、食事、電車、人の波が続く。その中で、ホテルが単なる睡眠場所ではなく、体を再起動する場所になれば、都市滞在の質は変わる。1 Hotel Tokyoは、この点でも時代に合っている。旅の目的が「たくさん見る」から「よく整う」へ変わり始めているからだ。
高層階の眺望と、地面への敬意
1 Hotel Tokyoの矛盾は美しい。ホテルは高層階にある。東京タワー、皇居外苑、都心のビル群を見渡す。しかし、そのデザインは下へ向かう。石、木、苔、緑、再生素材、地域の職人性。空へ上がりながら、地面を忘れないようにする。この構造こそが、東京らしい。東京は、摩天楼と神社、地下鉄と庭、ガラスの塔と古い坂道が共存する都市だからである。
赤坂の周辺には、日枝神社、豊川稲荷東京別院、迎賓館、ホテルニューオータニ、紀尾井町、虎ノ門、六本木がある。政治と祈り、外交と食、ホテルと庭が近い。1 Hotel Tokyoの開業は、その文脈に「自然派ラグジュアリー」という新しい層を加える。
日本のホテル競争の中で
日本の高級ホテル市場は、近年大きく変わっている。外資ラグジュアリー、温泉リゾート、古民家ホテル、ライフスタイルホテル、長期滞在型、空港ホテル、地方の食を前面に出す宿。訪日旅行者の増加だけでなく、日本人のホテル利用も変化した。ホテルは結婚式と出張の場だけではなく、食事、記念日、ワーケーション、週末の気分転換、アート、ウェルネスの場になっている。
その競争の中で、1 Hotel Tokyoが面白いのは、価格や眺望だけでなく「思想」を持ち込んでいる点である。サステナビリティ、自然、ウェルネス、地域性、デザイン。その言葉は流行語にもなりやすい。だが、東京で本当に選ばれるには、言葉が空間に落ちていなければならない。宿泊客が部屋に入った瞬間、ロビーに座った瞬間、朝食を食べた瞬間に、それを感じられるかどうかで決まる。
| 見どころ | 読み方 |
|---|---|
| 赤坂トラストタワー上層階 | 高層眺望と静かな都市リゾート感を両立する舞台。 |
| バイオフィリックデザイン | 植物、木、石、光を使い、都市の中に自然の感覚を戻す。 |
| CASBEE Sランク | 日本基準での環境性能を打ち出す重要な差別化。 |
| NiNi | フレンチ・リビエラと日本の季節感をつなぐ食の中心。 |
| ウェルネス | 東京旅行を「見る旅」から「整う旅」へ広げる。 |
Japan.co.jpの見方
1 Hotel Tokyoは、単なる新ホテルではない。東京の高級ホテルが、次にどこへ向かうのかを示すサインである。かつてのホテルは、都市の権威を見せた。今のホテルは、都市の疲れを癒す必要がある。東京ほど速く、豊かで、緊張感のある都市では、ラグジュアリーは「もっと多く」ではなく「少し静かに」へ向かっている。
もちろん、サステナブル・ラグジュアリーは矛盾を抱える。高級旅行そのものが環境負荷を持つ。だが、その矛盾を無視するより、ホテルという日常に近い空間で、素材、エネルギー、水、廃棄、食、地域との関係を見直す方が前に進む。1 Hotel Tokyoの価値は、完璧な答えではなく、東京の真ん中で問いを見せることにある。
赤坂の高層階に森の感覚を持ち込む。東京の眺望に、地面の記憶を重ねる。ホテルを泊まる箱ではなく、都市と自然の翻訳装置にする。1 Hotel Tokyoが面白いのは、その野心が見えるからである。日本のホテルの未来は、より豪華になるだけでは足りない。よりよく眠れ、よりよく呼吸でき、よりよく街を理解できる場所にならなければならない。
その意味で、1 Hotel Tokyoは「ベストホテル」特集の先頭に置くにふさわしい。東京の新しい高級ホテルでありながら、ただの高級ホテルではない。都市の中に自然をつくり、自然を通じて都市を読み直すホテルだからである。
Sources and references
この記事は、1 Hotels、Starwood Hotels、PR Newswire、GO TOKYOの公開情報を参考にしました。施設情報、営業内容、価格、イベントは変更される可能性があるため、予約前に公式サイトで最新情報を確認してください。
- Starwood Hotels: Now Open: 1 Hotel Tokyo — A Nature-Infused Urban Sanctuary.
- 1 Hotels: 1 Hotel Tokyo official hotel page, sustainability, wellness and guest experience details.
- PR Newswire / SH Hotels & Resorts: 1 Hotels to debut in Japan with 1 Hotel Tokyo.
- PR Newswire / Starwood Capital Group: Barry Sternlicht presents Hospitality With A Purpose; launches 1 Hotels brand.
- GO TOKYO: Akasaka area guide and neighborhood context.
