10月6日(日本時間7日)、アトランタのトゥルイスト・パーク。ナ・リーグ地区シリーズ第3戦で、山本由伸は7回98球を投げ、4安打1失点、10奪三振。ロサンゼルス・ドジャースはアトランタ・ブレーブスを3―1で下し、シリーズ成績を2勝1敗としてリーグ優勝決定シリーズ進出へ王手をかけた。[1]
相手先発はクリス・セール。8月27日の対戦では、山本が好投しながら、ドジャース打線がセールに完封されて0―1で敗れていた。山本自身も「前回は僕が先制点を取られて、そのまま抑え込まれて負けてしまった」と振り返り、この日は先制点を与えないことを強く意識したと話した。[2]
初回から「エース対決」の温度だった
山本は初回、ドレイク・ボールドウィンをカーブで空振り三振、ロナルド・アクーニャJr.を約156キロのフォーシームで見逃し三振。マット・オルソンを二ゴロに打ち取り、三者凡退で立ち上がった。[3]
序盤から速球、スプリット、カーブを混ぜ、打者に一つの軌道へ照準を合わせさせなかった。山本の投球は、球速だけで押すタイプではない。同じ腕の振りから異なる軌道を重ねることで、打者の判断時間を削る。
五回、唯一の危機
最大のピンチは五回だった。1死満塁からボールドウィンの一ゴロで1点を失った。しかし、大崩れはしなかった。
ここで重要なのは、失点を防げなかったことではなく、失点後に流れを渡さなかったことだ。ポストシーズンでは一つの四球、一つの失策、一つの長打が試合全体を変える。山本はその回を最少失点で切り抜け、七回までマウンドを守った。
セールとの再戦
この試合は単なる地区シリーズの一戦ではなく、山本にとって個人的な再戦でもあった。
8月のアトランタ戦では、セールがドジャースを完封。山本は好投しながら敗戦投手になった。10月の再戦では、ドジャース打線が四回にエンリケ・ヘルナンデスとフレディ・フリーマンの本塁打で3点を奪い、山本にリードを与えた。[4]
この3点を、山本は守り切った。
ロバーツ監督の「任せる」という信頼
デーブ・ロバーツ監督は試合前、「山本には揺るぎない信頼を寄せている」と語り、できる限り本人に任せる考えを示していた。[1]
短期決戦では、監督は早めの継投を選びやすい。相手打線が3巡目へ入れば、先発投手へのリスクは上がる。それでも七回まで山本を引っ張ったのは、球威だけでなく、試合の中で修正できる能力への信頼だった。
2025年ワールドシリーズMVPという前歴
今回の登板が特別だった理由は、山本にとって2025年ワールドシリーズ第7戦以来のポストシーズン登板だったことにもある。
2025年ワールドシリーズで山本は3勝を挙げ、17回2/3で15奪三振。第6戦に先発した翌日、第7戦にも中0日で救援登板し、最後の2回2/3を無失点で締めた。ドジャースは球団史上初のワールドシリーズ連覇を達成し、山本はウィリー・メイズ・ワールドシリーズ最優秀選手賞を受賞した。[5]
日本投手のワールドシリーズMVPは史上初。日本選手全体でも2009年の松井秀喜以来2人目だった。[6]
「ポストシーズン男」は突然生まれたわけではない
山本の大舞台での強さは、MLBに来て突然現れたものではない。
オリックス・バファローズ時代、山本は2021年から2023年まで3年連続で投手四冠を達成し、沢村栄治賞とパ・リーグMVPも3年連続で受賞した。先発投手として、勝利、防御率、奪三振、勝率のすべてでリーグを支配した期間だった。
NPBで完成したのは、150キロ台後半の速球だけではない。スプリット、カーブ、カット系、制球、投球フォームの再現性を一つにまとめる能力だった。
大柄ではない右腕が、なぜこれほど強いのか
MLBの先発投手として、山本は決して大柄ではない。だが、投球フォームの連動性と再現性が高く、球速以上に打者へ速く見せる。
特にスプリットは、フォーシームと同じ軌道から最後に落ちることで空振りを生む。カーブは縦の大きな変化で目線を変え、速球の体感速度をさらに上げる。
打者から見れば、球種ごとに違うフォームを読むことが難しい。それが山本の投球の根幹にある。
MLB移籍時の「3億2500万ドル」
2023年オフ、山本はポスティングシステムでMLB移籍を目指し、ドジャースと12年総額3億2500万ドルで契約した。当時、MLBでまだ1球も投げていない投手としては異例の規模で、投手契約として史上最大級だった。[7]
契約当時は、NPBでの実績がMLBでどこまで通用するのか、登板間隔の違いに対応できるか、身体への負担に耐えられるかという疑問もあった。
2024年は「完成」ではなく適応の年だった
MLB1年目の2024年、山本は右肩の故障で長期離脱した。それでも復帰後はポストシーズンで先発し、ドジャースのワールドシリーズ制覇に貢献した。
日本の6人ローテーションに近い登板間隔から、MLBの5日周期へ適応すること、長距離移動、ボール、マウンド、打者のパワー。課題は多かった。
2024年は山本が「通用するか」を証明した年ではなく、MLBで自分の投球を再構築した年だった。
2025年に「エース」へ
2025年、山本は173回2/3を投げ、201奪三振。ナ・リーグのサイ・ヤング賞投票で3位に入り、オールMLBファーストチームにも選出された。[8]
そしてポストシーズンでは、評価をさらに一段階上げた。ワールドシリーズMVPは、単に優勝チームの好投手という評価ではない。「最も重要な試合で最も重要なアウトを取った投手」という記憶を残した。
2026年も、レギュラーシーズンで14勝
Reutersによると、山本は2026年レギュラーシーズンを28先発、14勝9敗、防御率2.53で終えた。[9]
MLB公式データでは179回を投げ、178奪三振。2025年のブレークスルーを一過性にせず、先発ローテーションを年間通して守った。[10]
大谷翔平がいるチームで「別の日本人スター」になった
ドジャースは大谷翔平という世界的スターを抱える。日本の野球報道でも、どうしても大谷が中心になる。
しかし短期決戦では、打者1人より先発投手1人が試合全体へ与える影響が大きい日がある。10月6日は、その日だった。
大谷は無安打。それでもドジャースは勝った。山本が七回までゲームを支配し、打線の3点を守ったからだ。
日本人投手のポストシーズン史の中で
MLB公式によると、日本生まれの投手がポストシーズンで2桁奪三振を記録したのは、黒田博樹、大谷翔平に続き山本が3人目。[1]
黒田は2012年、ヤンキースでア・リーグ優勝決定シリーズ第2戦に登板し、11奪三振。大谷は2025年NLCS第4戦で2桁奪三振を記録した。
山本の10奪三振は、日本人投手のMLB成功が「先発ローテーションに定着する」段階から、ポストシーズンでシリーズの流れを変える段階へ進んだことを示す記録でもある。
Game 3が持つ意味
5試合制の地区シリーズでは、1勝1敗から第3戦を取る意味は大きい。MLB公式によると、過去に1勝1敗から第3戦を制したチームは67例中48例、約72%がシリーズを勝ち抜いている。[1]
数字は未来を保証しない。しかし、ドジャースはこの勝利で「あと1勝」の立場に立った。
「大事なところで投げ切る術」
試合後、ロバーツ監督は山本について「大事なところで投げ切る術を持っている」と評価した。[11]
それは球種や球速とは別の能力だ。大量リードではなく、3―1。相手はブレーブス。敵地。シリーズは1勝1敗。セールとの投げ合い。一本の長打で同点になり得る状況。
こうした場面で七回まで投げ切ることは、先発投手の価値を最も分かりやすく示す。
「ポストシーズンの山本」が、また始まった
山本は2025年ワールドシリーズで、すでに伝説的な短期決戦を経験した。だから2026年10月の10奪三振は、突然現れたヒーローの物語ではない。
むしろこれは、NPBで3年連続投手四冠を取った投手が、MLBの環境へ適応し、故障を乗り越え、ワールドシリーズMVPとなり、翌年のポストシーズンでも同じ精度を持ち込んだという連続した物語だ。
ドジャースはまだ地区シリーズを突破していない。それでもGame 3で示されたものは明確だった。山本由伸は、もう「日本から来た高額契約の投手」ではない。シリーズの流れを預けられる、メジャーリーグのエースになっている。
出典・参考資料
- MLB日本語公式「山本、10奪三振でエース対決制す ドジャース突破に王手」2026年10月7日。
- テレ東スポーツ「7回10Kの快投・山本由伸 セールとの再戦で意識した先制点」2026年10月7日。
- テレ東スポーツ「山本由伸 7回10奪三振1失点の快投」2026年10月7日。
- Reuters「Yoshinobu Yamamoto, Dodgers take NLDS lead over Braves」2026年10月7日。
- MLB日本語公式「中0日登板の山本、2025年ワールドシリーズMVP」2025年11月2日。
- MLB日本語公式「山本由伸、日本投手初ワールドシリーズMVP」2025年11月2日。
- MLB日本語公式「山本由伸がサイ・ヤング賞投票で3位に入る」2025年11月13日。
- Los Angeles Dodgers「Award Winners」。
- Reuters、2026年地区シリーズ先発ローテーション記事。
- MLB「山本由伸 選手情報・成績」。
- テレ東スポーツ「山本由伸 敵地で圧巻10奪三振」2026年10月7日。
取材・確認期限:2026年10月7日。地区シリーズは記事作成時点で2勝1敗であり、ドジャースのNLCS進出はまだ確定していません。投球内容とシリーズ状況は10月6日(日本時間7日)のGame 3終了時点に基づきます。
