競技者として、世界の卓球台に立つ。日本選手の名も公式記録にある。
卓球台の向こうにいる、世界の仲間
神経難病のパーキンソン病とともに生きる人たちが、中国・上海の卓球台に集まった。10月20日に始まった「2026世界パーキンソン卓球選手権大会」は、21日から25日まで競技を行う。国際卓球連盟(ITTF)財団が主催する大会であり、同時開催のアルツハイマー病の大会、健康をめぐる会議とともに「World Table Tennis for Health Festival」を構成する。日本にとっても遠い海外ニュースではない。公式競技記録には日本の選手が実名で載っている。
日本選手の参加、公式記録で確認
ITTFの試合結果ページには、男子シングルス・クラス1のFUKE Yasuhiko、女子シングルス・クラス1のKANIE Mayumi、同クラス3のTOBITA Hirokoが国コードJPNで掲載されている。本稿では日本語表記を本人・所属団体の公表資料で確認できていないため、アルファベットの公式競技表記を使う。参加者の経歴、居住地、診断時期を推測しない。日本卓球協会の大会案内は、出場希望者が自らオンラインで申請する方式だったと説明している。国を代表する通常の強化選手団と同じ選考制度だと考えるのは適切ではない。
グループ戦で見えた確かな一歩
21日の男子シングルス・クラス1予選で、FUKE Yasuhikoは米国のLjubomir Medenicaに3―0で勝ち、中国のZhao Lipingにも3―0で勝利した。いずれも公式記録に得点が載る実際に行われた試合だ。一方、同組のスウェーデン選手に対する勝利記録は不戦勝(WO)表示であり、プレーによる勝利と数え分ける必要がある。試合記録が示すのは競技上の結果であって、個人の症状が改善したことではない。
出場者数が教える大会の広がり
主催財団は9月15日時点の登録状況として、パーキンソン病またはアルツハイマー病のある選手227人、24の国・地域からの参加を公表した。このうち中国から119人、その他の地域から108人という内訳だった。10月20日の開会式については、選手以外の参加者も含む33の国・地域と発表している。これは集計対象が違う数字であり、「24」と「33」を矛盾した選手国籍数として扱ってはならない。競技参加者の女性は103人、男性は124人とされた。
ニューヨークで生まれた世界大会
大会の出発点は2019年の米ニューヨーク州プレザントビルにある。音楽家のNenad Bachが関わった「Ping Pong Parkinson」の運動を土台に、ITTF財団はパーキンソン病のある人のための世界大会を開催した。財団によると第1回には12カ国から62人が参加した。日本との縁も当初からあり、ITTFは2019年の大会を前に、日本から男性4人、女性3人の計7人が参加する予定だと発表している。この歴史を踏まえると、上海での日本選手の出場は突然現れた現象ではなく、競技を通じた国際交流が積み重なった結果だ。
初めてアジアへ、上海を選んだ理由
2026年はITTF創立100周年に当たる。世界卓球の大きな競技市場である中国で開く今回のフェスティバルは、主催者によれば初のアジア開催となる。会場は上海交通大学の体育施設。開会式にはITTFと中国側の卓球・スポーツ関係者が出席した。試合だけでなく体験型の卓球コーナーや芸術展示も設け、卓球台を地域団体に寄贈する計画も発表した。「一度きりの大会」で終わるのか、日常的に参加できる環境につながるのかが重要な評価点になる。
クラス分けが意味すること
大会には男子・女子のシングルス、ダブルス、混合ダブルスがあり、パーキンソン病の選手は運動機能などに基づくクラスで競う。第1回大会の説明ではクラス1が症状による影響の比較的大きい層、クラス3が比較的小さい層とされていた。しかし分類は人の価値や努力を序列化するものではなく、競技上の公平性を高めるための枠組みである。分類だけで個人の病状や日常生活の能力を言い当てることはできない。
「卓球は治療になる」と言い切れない理由
卓球には視線の切り替え、ラケット操作、姿勢制御、相手とのやり取りが伴う。運動や交流を生活に取り入れる利点を語る当事者もいる。ただし、世界大会の開催自体が卓球の治療効果を証明する臨床試験ではない。世界保健機関(WHO)はパーキンソン病に対するリハビリテーションが生活機能や生活の質の改善に役立つと説明する。理学療法分野の診療指針にも、有酸素運動、筋力運動、バランス訓練を支持する研究がある。特定の卓球プログラムで病気の進行を止めたり、薬の代わりになったりするとの結論とは区別する必要がある。
勝ち負けと、病気を持つ暮らし
注目すべきは、選手を「感動を与える患者」という一面だけで扱わないことだ。対戦相手を研究し、得点を狙い、負ければ悔しがる。健康状態に合わせた準備や休息、移動中の服薬管理を考える選手もいるだろうが、個々の事情を取材せずに物語を作るべきではない。公式記録と主催団体が伝えるのは、国際舞台で競技する選手たちの存在だ。スポーツとしての技術と緊張をまず尊重したい。
競技の外に残るもの
上海では競技に先立ち、移動負担への対応を意識した事前キャンプが10月17~18日に開かれ、財団によると46人が参加した。23~24日には研究者や実務者らが集う健康会議も予定・開催されている。競技の経験を一部の熱心な参加者だけのものにせず、地域の練習場所、指導者の研修、交通や利用料の面で継続可能にできるか。日本の地域卓球クラブや医療・福祉関係者にとっても考える価値がある。
大会の最終日をどう報じるか
日本卓球協会の案内では競技日は10月21~25日、26日は出発日とされる。本稿の競技結果は10月24日までに確認できた公式掲載情報を基礎にしており、25日の全種目の優勝者や日本選手の最終順位を確定報道するものではない。大会が終わった後の結果を扱う場合は、ITTFの公式結果ページで種目・クラス・勝敗を再確認する必要がある。
小さな球がつくる国際交流
卓球の球は小さい。しかしその行き来には、技術、勝負、健康への関心、言葉を越えた交流が重なる。日本の選手が上海の記録に残した一球一球を、症状についての憶測でも、美談でもなく、競技の事実として読む。その姿勢が、パーキンソン病とともに生きる人たちを「支えられる側」に限定しない報道の出発点になる。
出典・確認資料
報道資料の確認基準日:2026年10月24日。女子の一部の試合は公開ページに得点未記入の欄があり、結果を補完していない。日本選手の漢字表記は未確認。
- ITTF Foundation — official Shanghai tournament
- ITTF — official 2026 match records
- 日本卓球協会 — 2026世界パーキンソン卓球選手権大会
- ITTF Foundation — 227 registered athletes, Sept. 15
- ITTF Foundation — opening ceremony, Oct. 20
- ITTF — Japan at the first championship, 2019
- ITTF Foundation — inaugural championship history
- World Health Organization — Parkinson disease
- American Physical Therapy Association — clinical guideline
- ITTF Foundation — training camp Oct. 17
