尾が短い。それだけで、そのヤマネコを保護の対象から外してよいのか。長崎県対馬で見つかった一頭は、希少な野生動物を守るとき、人が何を根拠に判断するのかという問いを突きつけた。

アニコム先進医療研究所、環境省対馬野生生物保護センター、京都大学野生動物研究センターなどの共同研究チームが、短尾のツシマヤマネコを全ゲノム解析した。イエネコとの近年の交雑を示す証拠は認められなかった。比較した別のツシマヤマネコ15頭でも、同様の結果だった。京都大学が9月1日に日本語で発表した研究は、国際誌「Global Ecology and Conservation」に掲載されている。[1][2]

ただし、なぜ尾が短くなったのかは分かっていない。交雑の疑いを検証することと、体の形が変わった原因を突き止めることは別の仕事である。今回の成果は、この二つを混同しないところに意味がある。[3]

104ミリの尾が投げかけた問い

論文によると、2024~2025年の島内調査で、尾に異常があるように見える個体が少なくとも3頭確認された。そのうち、捕獲して臨床検査と遺伝解析ができたのは1頭。尾の長さは104ミリで、論文が比較に用いたオスの一般的な尾長約245ミリの半分に満たなかった。[3]

エックス線画像では、第9~10尾椎付近より先の骨がはっきり確認できず、過去の骨折の可能性も示唆された。明らかな外傷は外見上認められなかったものの、放獣を予定していたため毛を刈らず、皮膚の詳しい検査は行っていない。診察だけで、生まれつきなのか、発生過程の異常なのか、けがの結果なのかを決めることはできなかった。[3]

検査後、この個体は放獣された。他の短尾らしい個体はカメラ画像で確認されたが、捕獲には至っていない。撮影角度や姿勢、画質によって見え方は変わる。複数の写真に似た特徴が写っていても、同じ原因による同じ形質だとはまだ言えない。[3][4]

見た目の類似を、遺伝的な証拠と取り違えない

イエネコには短い尾や曲がった尾をもつものがいる。ベンガルヤマネコとイエネコの交雑を起源とする飼いネコの品種も存在するため、交雑の可能性を調べること自体には生物学的な理由がある。しかし、似た形が、必ず同じ由来を意味するわけではない。[3]

ここで問題になる「遺伝子浸透」は、異なる集団の交雑によって、片方に由来する遺伝子がもう片方の集団に取り込まれ、世代を越えて残ることをいう。小さく孤立した野生個体群では、その集団が受け継いできた遺伝的特徴をどう維持するかが、保全上の課題になる。[3][4]

だからこそ、疑いを持った段階と、証拠を得た段階を区別しなければならない。外見だけで交雑個体と決めつければ、野生へ戻すか、繁殖計画に組み入れるかといった判断に影響しかねない。逆に、外見が普通なら遺伝的な検証は不要、と言い切れるわけでもない。[3]

25個体を比べ、集団の中に位置付ける

解析対象は短尾の1頭と、比較用のツシマヤマネコ15頭、対馬のイエネコ5頭、大陸産アムールヤマネコ4頭の計25個体。研究チームは、品質管理後に残った約388万か所の一塩基多型(SNP)を用いた。DNAの配列が個体間で一文字ずつ異なる場所を、多数まとめて比較する方法だ。[3]

遺伝的な近さを示す主成分分析では、短尾個体はツシマヤマネコのまとまりの中に入った。イエネコとの中間には位置しなかった。祖先集団に由来する成分を推定するADMIXTURE解析や、遺伝的な共有の傾向を調べる統計解析でも、近年のイエネコ由来の遺伝子浸透を支持する結果は得られなかった。[3]

母系の由来を調べるミトコンドリアDNAでも、他のツシマヤマネコと同じ型を共有していた。母系の情報だけでは父親側からの交雑を十分に評価できないため、核ゲノムの解析と組み合わせて判断することが重要になる。今回の結論は、一つの写真や一つの検査項目に頼ったものではない。[3]

ただし、これは島の全個体を調べた結果ではない。比較用の試料は保護や救護などの活動で得られたもので、無作為抽出による全島調査でもない。古い時代の交雑や、ごくわずかな遺伝的寄与が検出限界を下回る可能性は、論文も認めている。「検出されなかった」を「過去にも将来にも起こり得ない」に広げることはできない。[3]

近親交配で説明できるのか

研究チームは、イエネコの短尾などに関係することが知られるTBXTとHES7という二つの遺伝子も調べた。しかし、この個体では、タンパク質の機能に影響すると予測される原因候補の変異は見つからなかった。二つの遺伝子に既知の説明が見当たらないことは、遺伝的な原因全般を否定するものではない。[3]

もう一つ調べたのが、両親から受け継いだDNAが長い区間にわたって同じ型になる「連続ホモ接合領域」に基づく近交度だ。短尾個体の指標値は0.587で、比較用ツシマヤマネコの平均0.585とほぼ同じだった。集団全体では大陸の比較群などより高いが、短尾個体だけが特に高い値を示したわけではない。[3]

この数値は病気の確率でも、両親が特定の続柄である確率でもない。集団の遺伝的背景を調べる指標である。今回の結果から「近親交配がこの尾を生んだ」と断定することも、「遺伝的な問題はない」と安心することもできない。短尾が子に伝わるという直接の証拠も、まだ得られていない。[3]

海で隔てられた集団の長い歴史

対馬のヤマネコは、大陸のアムールヤマネコとつながる系統の島嶼個体群である。2025年の別の全ゲノム研究は、ツシマヤマネコ4頭などのデータを使い、韓国の集団との遺伝的分岐を約3万~2万年前と推定した。世代時間や突然変異率を仮定したモデルの結果であり、海峡が形成された正確な年代を直接測ったものではない。[7]

同研究は、遺伝的多様性の低さと、長期的な個体群の縮小も示した。ただし、ゲノムから復元する「有効集団サイズ」は、ある時点で島に暮らした動物を数えた総数とは違う。遠い過去の推定と現在の生息数を、そのまま一本の増減グラフにつなぐことはできない。短尾の原因を特定した研究でもない。[7]

現代の保護も、積み重ねの上にある。環境省の記録では、1994年1月に国内希少野生動植物種に指定。1996年から野生個体の確保が進められ、1999年に福岡市動物園の協力で飼育下繁殖を開始し、2000年に初めて成功した。今のゲノム解析は、こうした現場の保護、飼育、記録を置き換えるのではなく、それらの判断を支える新たな情報を加えている。[6]

「何頭いるか」にも、数え方がある

環境省の第六次生息状況調査は、2020~2024年度の調査をまとめたものだ。上島では、方法によって約90頭または約100頭の定住個体がいると推定された。下島では個体識別により少なくとも17頭が確認されている。定住個体の推定と、確認できた個体の最低数は異なる数字であり、単純に足して島全体の確定総数にはできない。[5]

この慎重さは、短尾の調査にも通じる。写真で分かること、診察で分かること、ゲノムで分かることは重なりつつも同じではない。新しい情報が増えるほど、結論を急ぐより、どの問いに答えられたのかを明確にする必要がある。

島の暮らしの中で守る

ツシマヤマネコが利用するのは、森だけで完結した空間ではない。森林、田畑、沢などが混在する環境で暮らす。生息地の分断、交通事故、イエネコからの感染症は、環境省が挙げる保全上の課題だ。今回、交雑の証拠が得られなかったことは、これらの問題が解消したという知らせではない。[6]

対馬野生生物保護センターは、島内での保全、島外の動物園での取り組み、野生復帰に向けた技術開発に加え、保護と地域振興の両立を目指す地域社会づくりを掲げる。遺伝情報を読む人だけでなく、動物を救護し、記録を残し、日々の環境を維持する人の仕事が保全を支えている。[8]

研究チームは、さらに多くの尾に異常のある個体を調べ、糞などのDNAを使う非侵襲的な遺伝的モニタリングの確立を進めたいとしている。目指すのは、一頭の珍しさを強調することより、個体群の状態を継続して確かめることだ。[4]

短い尾は、今も説明を待っている。それでも、今回の研究は一つの判断を前に進めた。この個体をイエネコとの近年の交雑に結び付けるゲノム上の証拠は得られなかった。少数の動物を守る現場では、分からないことを残したままでも、見た目による思い込みを一つ取り除くことに価値がある。[3]