器の形を削り出す人がいる。その上に貝を置き、塗りを重ねる人がいる。完成品の美しさに目を奪われると、そこへ至る仕事は見えにくい。9月11日から日本橋とやま館で開かれる「第29回 富山県伝統工芸士展 ~継承される技術・技法~」は、物を見る目を、作る人の手元へ向ける機会だ。

会場に集まるのは、高岡銅器、高岡漆器、井波彫刻、庄川挽物木地、越中和紙の5分野。伝統工芸士が手掛けた品の展示・販売に加え、制作体験を行う。会期は9月24日までで、最終日は18時に終了する。[1]

「伝統工芸士」という、人に付く称号

展覧会名の「士」は、作り手に焦点を当てる。伝統工芸士は、経済産業大臣指定の伝統的工芸品に関する技術・技法を持つ人を、一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会が認定する称号だ。同協会の案内では、産地で満12年以上の製造実務経験を積み、実技、知識、面接の試験に合格することが必要となる。[12]

品目の指定と、個人の技量の認定は別の仕組みである。さらに庄川挽物木地は、協会資料が明記する「伝統的工芸材料」に当たる。完成した器だけでなく、器の基礎となる木地を作る仕事そのものが、今回の見どころに含まれている。[11]

こうした区別を知ると、伝統という言葉を単に古さの証明として使わずに済む。誰が、どの工程を受け持ち、何を次へ伝えているのか。展示の副題は、その具体的な問いへとつながる。

高岡銅器――鋳込む技と、表面を仕上げる技

高岡銅器(たかおかどうき)の歴史を、協会は江戸時代初め、加賀前田藩が7人の鋳物職人を招いたことにさかのぼって説明する。銅合金を型に流して形を作る鋳造に、彫金や着色などの工程が重なる。原型から仕上げまで、複数の専門的な仕事が連携する産地である。[9]

9月20日の体験は、その全工程を小型化したものではない。使う素材は錫の板で、鏨(たがね)を使って模様を入れ、コースターにする。銅器の産地の技に接する企画だが、銅を溶かして鋳込む体験とは異なる。[4]

見る際には、輪郭だけでなく表面にも目を向けたい。形を生む仕事と、模様や色を与える仕事を分けて考えると、一つの金属製品の中にある判断の多さが見えてくる。

高岡漆器――光る貝の下に、重なる工程

高岡漆器(たかおかしっき)も、城下町が形成された江戸時代初めの仕事に起源を持つとされる。協会の解説は、武具や箪笥、膳などの製作から発達した歴史を紹介している。代表的な技法には、彫刻塗、勇助塗、青貝塗がある。[7]

青貝塗は、貝の輝きを図柄に生かす表現だ。木地を作り、下地を整え、貝を配し、上塗りと研磨へ進む。目に入る華やかさは、表面だけの出来事ではなく、その下にある準備と仕上げに支えられている。[7]

9月22日は、切り分けたアワビ貝をミニパネルに貼る体験を行う。所要時間は約20分だが、作品は当日の持ち帰りではない。主催者は仕上げ塗装のため3週間後に郵送すると案内しており、送料は体験料に含まれる。[6]

短い体験時間と、品物が完成するまでの時間は違う。この待ち時間も、制作を理解する手掛かりになる。

井波彫刻――建物を飾る木彫から、手元の一枚へ

井波彫刻(いなみちょうこく)の始まりについて、協会は18世紀中頃に焼失した寺院本堂の再建時、京都から来た彫刻師が地元の大工へ技術を伝えたと説明する。初めは寺院の仕事が中心で、明治時代に彫刻専業化が進み、住宅の欄間などへ広がったという。[8]

欄間のような作品では、木を残す部分と取り去る部分の関係が、奥行きや光の通り道を生む。素材を削る行為は、同時に空間を設計する行為でもある。

9月19日の体験では、あらかじめコースターの形に切り、鉋がけした白木に模様を彫る。丸刀や三角刀などを使う約40分の制作だ。大きな寺院彫刻を作るわけではないが、刃物の選択と、残す形を考える入口になる。[3]

庄川挽物木地――川が運んだ木を、丸い形へ

庄川挽物木地(しょうがわひきものきじ)は、川を使った木材輸送と集積の歴史を背景に持つ。協会は、豊富な木材を求めて19世紀後半に職人がろくろ木地を商い始めたのが起源と伝える。木地は、塗装前の木の形を担う仕事であり、乾燥や荒挽き、仕上げを重ねて作られる。[11]

9月12日のピンクッション作りでは、木地師がすでにろくろで挽いた丸台に、好きな布を選んで縫い合わせる。参加者がろくろを操作するという案内ではない。木の土台と布を組み合わせ、日々使う小さな道具にする体験だ。[2]

完成品の中で目立ちにくい土台にも、専門の技がある。庄川の仕事が独立した分野として並ぶことで、そのことを確かめられる。

越中和紙――古い記録と、暮らしの用途

越中和紙(えっちゅうわし)には、八尾、五箇山、蛭谷の地域ごとの歩みがある。協会は奈良時代の正倉院文書などに越中国の紙の記載があることを挙げ、江戸時代には八尾の紙が薬用などに、五箇山の紙が加賀藩の用紙に使われた歴史を紹介する。古代の記録は長い地域史の手掛かりだが、現在の全製品が当時と同一の製法で作られることを意味しない。[10]

9月21日の体験は紙漉きではなく、和紙のハガキに型を当て、選んだ色の染料で染めるもの。2枚を制作する。紙そのものを作る仕事と、その紙に色や図柄を加える仕事を、区別しながら楽しめる。[5]

制作体験は日付を選んで

制作体験の日程と料金(2026年、税込・現金のみ)
日付体験料金・目安
9月12日(土)庄川挽物木地:ピンクッション1個[2]2,000円/約30分
9月19日(土)井波彫刻:木製コースター1枚[3]1,100円/約40分
9月20日(日)高岡銅器:錫板コースター1個[4]4,000円/約50分
9月21日(月)越中和紙:ハガキ染色2枚[5]1,100円/約40分
9月22日(火)高岡漆器:貝加飾ミニパネル1枚[6]3,500円/約20分

各回4人。井波彫刻は園児の場合に保護者同伴、錫板は10歳以上、和紙は小学生以上が対象となる。ピンクッションと貝加飾は年齢制限を設けていない。各公式ページの申込フォームで時間と条件を確認したい。貝加飾は11時〜17時30分の受付で、席が空き次第参加できるとの案内もある。[2][3][4][5][6]

会場は東京都中央区日本橋室町1-2-6、日本橋大栄ビル1階の日本橋とやま館・交流スペース。施設のショップフロア営業時間は10時30分〜19時で、展覧会最終日は18時まで。三越前駅B5出口から徒歩1分という案内がある。イベントの問い合わせは03-6262-2723。[1][13]

Japan.co.jpの視点:継承を、使う側から考える

短時間のワークショップだけで、長年の修業を理解し尽くすことはできない。それでも、作業の一部分に触れた後では、完成品に向ける質問が変わる。どこに時間がかかるのか。誰が仕上げるのか。買った後はどう手入れすればよいのか。

本誌は、そうした問いを持ち帰れることに、この展示と体験を組み合わせた企画の価値を見る。技を継ぐのは作り手だが、その仕事を理解して選び、使い続ける人も、産地との関係をつくる。日本橋での出会いを、富山の仕事を知る次の一歩にできるか。それが、記念品の数とは別の成果になる。