約3万2千年前西台後藤田遺跡の石器
1951年茂呂遺跡発見と発掘
10/17–11/28文化財ふれあいウィーク
第21回2026年の開催回数

三万年を語るには、まず場所と時代を正確に分けて考える必要がある。

三万年という数字の正体

地下の歴史は、現在の住所表示に従って整然と並んではいない。東京都板橋区の旧石器時代を物語る資料の一つが、西台後藤田遺跡から出土した約3万2千年前の石器である。区立郷土資料館は武蔵野台地上でも最古級の資料と位置付ける。一方、今回の「いたばし文化財ふれあいウィーク2026」が主に歩くのは上板橋の一帯だ。「上板橋の一つの遺跡に三万年間、人が住み続けた」という話ではない。区内の長い考古学的時間と、上板橋の地域史を重ねて読む企画なのである。

住宅街の切り通しから始まった発見

企画の核となる茂呂遺跡(もろいせき)の発見は1951年3月。区の記録によると、当時中学生だった瀧澤浩氏が、現在の小茂根五丁目の道路の切り通しに露出した関東ローム層から黒曜石の石器などを見つけた。同年7月、明治大学考古学研究室と武蔵野郷土館の関係者が発掘を実施。縄文時代より古い旧石器時代の活動を裏付ける資料が確認された。きっかけは著名な探検家の遠征ではない。地元の中学生が見慣れた道端を観察したことだった。

茂呂型ナイフ形石器が残したもの

茂呂遺跡で確認された特徴的な石器は、「茂呂型ナイフ形石器」の名称でも知られる。石器の形、作り方、出土した地層は、過去の人々の技術や行動を考える手掛かりとなる。発見の重要性は、単に古い物が見つかったことではない。関東ローム層中で旧石器文化の痕跡を確認し、南関東の先史研究に大きな影響を与えたことにある。石器の年代や広い地域との比較には考古学的な検討が必要で、特定個人の物語をそのまま復元できるわけではない。

今年は「そう、層 これぞカミイタ」

10月17日から11月28日まで開かれる第21回の文化財ふれあいウィーク。板橋区の正式なテーマは「そう、層 これぞカミイタ~今に息づく時の重なりに触れる~」だ。上板橋、常盤台、南常盤台、小茂根など、石神井川、川越街道、東上鉄道が交差して発展した地域を対象に、史跡だけでなく寺社、祭り囃子、染色の技術へ視線を広げる。単一の遺物を展示室で眺めるのではなく、生活が続く街そのものを歴史資料として読むのが特色だ。

普段は入れない遺跡へ

茂呂遺跡の内部公開は10月31日、11月1日、3日の各日午前10時から午後3時まで。所在地は小茂根五丁目17番で、石神井川側から入る。一般の散策ガイドでは樹林保護のため通常は立ち入りできないと説明されている場所だ。今回の公開は期間限定で、悪天候などにより変更される場合もある。石器や発掘現場がいつでも常設展示されているわけではない。現地を訪れる場合は最新の区発表を確かめたい。

寺の建物にも土地の記憶

茂呂遺跡と同じ特別公開日には、東新町の安養院でも庫裡、釈迦四面像、紅頗梨色阿彌陀如来坐像などが公開予定だ。区の散策案内によれば、現在の庫裡は旧前橋藩松平家本邸の建物を1929年に移築したもの。境内の銅鐘は戦時下の金属供出を免れた歴史を持つ。先史時代の石器、移築された近世の建物、戦争を経た文化財。それぞれが別の時代を刻み、街の歴史を一つの年表に収めきれないことを教える。

狼の姿をした狛犬、祭礼の響き

桜川御嶽神社の狛犬も10月31日、11月1日、3日に特別公開される。区の案内は山の神の眷属である狼(山犬)型の造形だと説明している。11月7日には神田流弥生囃子保存会の公開稽古、7~8日にはときわ台天祖神社の所蔵資料の公開が予定される。区教育委員会の資料では、祭り囃子が上板橋に伝わったのは約150年前とされる。石の文化財とは違い、音や身体の所作を継ぐ人々の存在も保存の条件になる。

筆で伝える技術、都市の文化財

11月7~8日には、ときわ台天祖神社「杜のまちや」で手描友禅の展示と体験が行われる。区登録無形文化財の技術保持者として紹介される寺澤森秋(てらさわ・もりあき)氏の作品が取り上げられ、ハンカチ作りの体験は参加料3000円、各回先着6人とされる。考古遺物や古建築だけを文化財と思いがちだが、都市の職人が手で守り続けている知識も地域の遺産だ。

「板橋」の歴史を一つにしない

江戸期には川越街道が人と物を運び、近代には鉄道が住宅地の姿を変えた。現在の上板橋周辺は都市交通と住宅の密集する場所だが、その地表には古い道筋や寺社の境内が残る。だからといって、旧石器時代から現代まで同じ集団や同じ信仰が連綿と続いたと考えるべきではない。時代ごとに断絶も移動もあった。その変化を確かめることが、街の物語を豊かにする。

発見した人と守る人

1951年の茂呂遺跡の発見は、身近な場所を見る好奇心が研究の起点になり得ることを示した。現代の公開事業も、地域で文化財を守る人、学芸員、ボランティアガイドの積み重ねで成立する。今回の各会場は公開日が異なり、予約不要とされるが、体験講座には料金や定員がある。区の公式日程を確認し、見学可能な場所だけを訪れるのが適切だ。

街が歴史の教室になる

東京の歴史を語るとき、中心部の大きな博物館や城跡ばかりに目が向く。しかし、旧石器の出土層を見つけた中学生、村から都市へ姿を変えた道、祭り囃子を練習する人々も、東京を理解するうえで欠かせない。上板橋の秋の公開が問うのは、三万年という数字の迫力以上に、足元をどれだけ注意深く見ているかということだ。

訪問前に知っておきたいこと

見学可能日は会場ごとに異なる。茂呂遺跡の内部公開は10月31日、11月1日、3日で、雨天などによって変更の可能性がある。予約は原則不要だが、手描友禅の体験には定員と参加料がある。必ず区の公式案内で確認したい。

出典・参考資料

本稿は板橋区の公式発表、郷土資料館、教育委員会の公開資料による。現地取材・独自インタビューは行っていない。時代の異なる複数の遺跡を、単一地点での連続居住と混同しない。

  1. いたばし文化財ふれあいウィーク2026/Itabashi Cultural Heritage Week
  2. 時代を紡ぐ「茂呂遺跡発掘調査から60周年」/Moro excavation history
  3. 板橋区立郷土資料館:西台後藤田遺跡出土石器/Nishidai Gotōda stone tools
  4. 板橋区公式:常盤台散策コース/Tokiwadai heritage walk
  5. 板橋区教育広報:上板橋の文化財/Board of Education cultural heritage overview
  6. 板橋区立郷土資料館:再発見!いたばしの遺跡/Museum archaeology catalogue
  7. 広報いたばし 2026年10月10日号/Official October 10 bulletin
  8. 板橋区:2026年10月16日発表/Ward October 16 release