東京・上野の東京藝術大学大学美術館で、「東京藝術大学日本画第一研究室研究発表展」が開かれている。研究室が毎年「一研展」として行う発表の場で、2026年度は学生と教員、招待作家の土屋禮一(つちや・れいいち)を合わせた20人が出品する。会期は9月6日まで、観覧無料。
展覧会の軸は、「日本画」を守るか壊すかという二者択一ではない。主催する日本画第一研究室は、新しい日本画表現を模索していると説明し、日本画そのものが時代ごとの影響を受けながら変化し、多様化してきたと位置づける。完成済みの様式を見せるのではなく、現在の感性から日本画を考え直す研究発表である。
展覧会をつくることも、研究になる
東京藝大が公表する大学院教育の説明を読むと、「研究発表展」の意味がはっきりする。第一研究室では、学生が自ら企画・運営する実践的な展覧会実習を行い、各自の制作を土台に「伝統の現代における新たな表現形態」を探る。古典的な表現と、多様化する現代の表現・展示形態の両方を学ぶことが教育課程に組み込まれている。
つまり、壁に掛ける作品だけが成果ではない。何を選び、どの順序で置き、異なる空間にどう配し、他者の作品とどのような関係をつくるか。その判断も制作研究の一部になる。一般の観覧者は、完成作を見ると同時に、若い作家が自作を公共空間へ出す訓練の場に立ち会うことになる。
2026年5月1日現在の大学教員一覧は、日本画第一研究室の教授として植田一穂(うえだ・かずほ)と海老洋(えび・よう)を記載する。大学が掲げる日本画教育の主軸は、現代絵画としての創造性を追求しながら、伝統技術と精神を継承し、発展させること。その命題を「伝統を基盤とした現代絵画の創造」と表現している。
材料の一覧だけでは、日本画を語れない
日本画はしばしば、和紙や絹、墨、顔料、膠、筆といった材料・用具から説明される。東京藝大の教育課程にも、古典模写、素描、技法・材料研究が置かれている。しかし、大学の公式説明は日本画を材料の組み合わせだけに閉じ込めてはいない。伝統的な素材や美意識がどう生まれたかを理解したうえで、現代的な絵画表現を研究することを使命に挙げる。
この考え方に立てば、「新しい日本画」とは伝統を捨てた絵ではない。伝統を固定された答えではなく、選び直し、組み直し、別の文脈へ置くことのできる方法として扱う絵である。ただし、2026年展の公式案内は個々の作品名、素材、寸法、制作意図を掲載していない。本稿は展覧会と教育制度の構造を報じるもので、未確認の作品内容を論評する展評ではない。
第一研究室が展覧会実習で扱うもの
- 各自の通常制作を基礎にした作品研究
- 学生自身による展覧会の企画と運営
- 古典的表現と現代の展示形態の両面
- 国際的な視野を持つ作家としての基盤づくり
土屋禮一という外部の視点
招待作家の土屋禮一は日本画家で、日本芸術院の第一部・第一分科(絵画・日本画)会員。日本芸術院の公式記録では、2006年度の日本芸術院賞を受け、2009年12月に会員となり、2025年に旭日中綬章を受章した。
研究室内部の学生と教員だけで完結せず、異なる世代と制度的経歴を持つ作家を一人招く構成は、比較の軸をつくる。土屋の出品作が何を題材とし、学生作品とどう配置されたかについて、公式ページは詳述していない。したがって、「伝統」と「若さ」の対決と決めつけることはできない。確認できるのは、同じ研究発表展に外部の作家を迎えたという設計そのものだ。
二つの建物が、作品の見え方を変える
展示は陳列館の1、2階と、正木記念館の2階に分かれる。陳列館は1929年竣工で、現在は卒業・修了作品展や研究室・教員による企画展に使われる自由度の高い展示空間。正木記念館は東京美術学校第5代校長・正木直彦の功績を記念して1935年に建てられた近代和風の鉄筋コンクリート建築で、2階には日本画を陳列するための書院造の和室がある。
同じ絵でも、自由度の高い展示空間と、日本画の陳列を目的につくられた書院造の和室では、距離、光、視線の高さ、周囲との関係が変わる。第一研究室が教育目標に掲げる「表現・展示形態」の研究を、二つの建物が具体的にする。とりわけ正木記念館は通常非公開で、研究室展などの機会に入館できる施設でもある。
| 正式名称 | 東京藝術大学日本画第一研究室研究発表展 |
|---|---|
| 会期 | 2026年8月26日(水)~9月6日(日) |
| 時間 | 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで) |
| 休館 | 月曜日 |
| 会場 | 東京藝術大学大学美術館 陳列館1・2階、正木記念館2階 |
| 観覧料 | 無料 |
一研展が示す「新しさ」は、ひと目で分かる奇抜さと同義ではない。材料を学び、古典を見つめ、展示を自分たちで組み立て、異なる世代の作品と同じ場所に置く。その過程から、伝統を現在形にする選択が現れる。日本画は完成した箱ではなく、何を受け継ぎ、何を変えるかを問い続ける場なのである。
- 東京藝術大学大学美術館「東京藝術大学日本画第一研究室研究発表展」(会期、時間、会場、料金、主催、20人、企画趣旨)
- 同展公式フライヤー(出品者表記、会期、会場。画像の転載には使用していない)
- 東京藝術大学「絵画科・絵画専攻」(日本画教育の理念、大学院第一研究室の展覧会実習)
- 東京藝術大学「教員一覧」(2026年5月1日現在、植田一穂教授、海老洋教授)
- 日本芸術院「土屋禮一」会員詳細(読み、所属分科、会員発令、日本芸術院賞、叙勲)
- 藝大アートプラザ「東京藝術大学大学美術館とは?」(陳列館と正木記念館の沿革、建築、利用形態)
本稿は2026年8月31日午前までに公開された東京藝術大学、同大学美術館、日本芸術院の日本語一次・機関資料を中心に作成した。展覧会の公式ページとフライヤーで確認できない個別作品の題名、素材、寸法、展示位置、作者の発言、来場者数は記載していない。「新しい日本画表現」は主催研究室が掲げる探究課題として帰属させ、その達成を外部評価として断定していない。掲載画像は実際の作品や展示を示す記録写真ではない。