旅先で買った器を、毎日の食卓で使う。その器をつくった人が暮らす町に、自分も住むとしたらどうだろう。高岡市が10月に開く「大人の修学旅行 秋版」は、ものづくりへの関心を、町での暮らしを考える入口にしようという1泊2日の企画だ。
対象は富山県外に住む18歳以上の人。10月24、25日に、クラフトの催し「ツギノテ」、中心市街地のまち歩き、鋳物メーカー・株式会社能作での見学や体験などを組み合わせる。市は、地域の人との交流を通じ、高岡で暮らす魅力を感じてもらう機会と位置付けている。募集は9月25日までで、定員は5組10人程度。日程は仮の内容で、変更される場合がある。[1]
1泊で暮らしのすべてが分かるわけではない。だが、気になった場所を歩き、作り手に会い、次に何を確かめたいかを見つけることはできる。小規模な体験が移住の検討に役立つとすれば、魅力を知るだけでなく、生活について具体的に尋ねる相手を得られる点にあるだろう。
昼の工芸、夜の商店街、翌朝の町
市の仮日程では、初日は高岡駅に集まり、ツギノテで作り手と交流した後、高岡大仏周辺を歩く。宿泊先は中心市街地の大佛旅館。夜には商店街周辺のまち歩きと交流会を予定している。翌朝は希望者がたかおか朝市へ向かい、その後、能作での見学・ものづくり体験、IMONO KITCHENでの昼食を経て、午後3時ごろ高岡駅で解散する流れだ。[1][2]
昼に訪ねて帰る旅行では、店を閉めた後の通りや翌朝の様子を目にする機会は少ない。滞在を一晩延ばすことで、同じ町を違う時間帯に見る余地が生まれる。これは企画の組み立てから読み取れる特徴であり、参加者が実際にどのような印象を持つかは、これからのことだ。
また、今回歩くのは選ばれた場所である。市の全域を見て回るものでも、賃貸住宅で日常生活を試すものでもない。中心市街地で過ごす感覚を、住みたい地域の通勤や買い物の条件へどうつなげて考えるかが、参加者にとって次の課題になる。
ツギノテで出会う、いまの作り手
ツギノテ実行委員会の発表によると、今年の会期は修学旅行と同じ10月24、25日。高岡駅に直結する高岡市営高岡中央駐車場を会場に、128の出展者を予定する。技術の展示やクラフト、デザイン、食のマーケットなどを組み合わせ、作り手と来場者が出会う場をつくる。催し自体の入場は無料だが、ウェブ登録が必要と案内されている。[3]
ここで見る工芸は、歴史資料の中に閉じたものではない。何をつくり、誰に届け、どのような使い方を提案するかという、現在進行形の仕事である。移住を考える人にとっては、気に入った品を手に取ると同時に、その仕事が町の中でどう成り立っているかを聞く機会にもなり得る。
ただし、出展者との交流と、就職や弟子入りの機会は別だ。市の募集案内は、採用や職業訓練を約束していない。仕事として工芸に関わりたい人は、必要な技能や働き方を、体験後の相談でさらに確かめることになる。
城下町から、商人と職人の町へ
高岡でものづくりと暮らしを結び付ける発想には、歴史的な背景がある。市の日本遺産ストーリーによると、前田利長は1609年に高岡城を築き、町の基盤を整えた。さらに7人の鋳物師を招き、現在の金屋町につながる鋳物づくりの拠点を設けたという。[4]
ところが、城は開町から6年後、一国一城令によって廃城となった。市が伝える歴史では、前田利常が商工業を中心とする町への転換を進め、物資の集散や商取引の機能を育てた。城下町として生まれた高岡の存続を支えたのは、つくり、売り、暮らす町民の営みだった。[4][10]
この歴史は、2015年4月24日、「加賀前田家ゆかりの町民文化が花咲くまち高岡―人、技、心―」として日本遺産に認定された。認定されるのは、地域の文化財を結び付けて語る物語である。町並みや産業を、その背景にある暮らしと一緒に伝える仕組みでもある。[5]
今回の修学旅行を400年前の政策と同一視する必要はない。時代も、住む場所を選ぶ自由も異なる。それでも、産業と人の暮らしを切り離さずに町を考えるという視点は、歴史を知ったうえで現在の高岡を歩く手がかりになる。
能作で見る、受け継ぐ技と変わる製品
能作の会社沿革によると、創業は1916年。仏具などの鋳物製造から歩みを始め、2003年には錫100%の製品づくりに取り組み始めた。現在のテーブルウェアや生活用品は、受け継いだ鋳造技術を、新しい使い方に結び付けた展開といえる。[6]
同社が一般向けに実施するNOUSAKU LABでは、生型鋳造法(なまがたちゅうぞうほう)を用い、砂を押し固めて鋳型をつくる。案内では、参加者が型をつくり、スタッフが鋳込みを行う工程が示されている。市のツアーで製作する品や詳しい工程は募集ページに明記されていないため、通常の体験メニューがそのまま組み込まれるとは限らない。[7]
ものづくりを体験すると、完成品だけを見ていたときとは違う質問が生まれる。形を整えるにはどんな工夫がいるのか。素材の性質が使い方をどう変えるのか。手を動かして得た疑問は、作り手と話すきっかけになる。短い体験が職人の熟練を再現するわけではないが、仕事を見る入口にはなり得る。
秋の2日間から、通年の暮らしへ
移住先を考えるなら、催しのある週末と、普段の平日を分けて見たい。通勤先までの移動、買い物、医療、住まいの費用、家族それぞれの都合は、気に入った町並みだけでは判断できない。本誌としては、この旅行で知り合った人に、そうした日常の条件を尋ねることを提案したい。
季節の違いもある。市の移住促進サイトは、冬用タイヤへの交換や、気温が下がったときの路面凍結への注意を案内している。10月の滞在だけでは冬の移動や住まいの管理までは体験できない。雪の時期に必要となる準備や役割分担も、暮らす場所ごとに聞いておきたい。[8]
相談を続ける窓口はある。高岡市の移住コンシェルジュは、住宅、仕事、子育て、交通、買い物、地域との関わりなどを相談対象に挙げている。情報収集段階の利用も受け付け、必要に応じたオンライン相談や、事前予約による現地案内を用意する。これはツアーとは別の相談サービスだ。[9]
参加を検討する人へ
| 実施日 | 2026年10月24日(土)〜25日(日)、1泊2日 |
|---|---|
| 対象・定員 | 富山県外在住の18歳以上。5組10人程度。応募多数の場合は抽選または選考。 |
| 募集期間 | 9月7日(月)〜25日(金) |
| 参加費 | 公表額は1万円。高岡までの交通費は自己負担。費用の内訳などは市に確認を。 |
| 集合・解散 | 高岡駅。25日は午後3時ごろ解散予定。日程は変更の場合あり。 |
| 申込み・問合せ | 高岡市の募集ページから。チェンジ推進課:0766-20-1101。 |
歩きやすい服装や靴、雨具などを持参するよう市は案内している。参加に必要な配慮や費用条件は、申込み前に主催者へ確認したい。[1][2]
Japan.co.jpの視点:持ち帰るのは、次の問い
この企画の成果は、2日間で移住を決める人が何人出るかだけでは測れない。暮らしの条件を具体的に考えられるようになったか。再訪や仕事の相談につながる相手ができたか。自分に合わない点も含めて、判断材料を持ち帰れたか。そうした変化にも目を向けたい。
高岡の工芸が入口になるのは、品物の向こうに、技術と商いと暮らしを続けてきた人がいるからだ。その人たちの話を聞き、自分の日常を重ねて考えてみる。大人の修学旅行に期待できるのは、町を好きになるきっかけに加え、そこで生きるために何を知るべきかを見つける時間である。
