5,153億円2026年9月期売上収益
515億円2026年9月期営業利益
8,310億円2029年9月期目標
海外年120店2027~29年の出店方針
本記事は2026年11月6日公表の同社決算短信・決算説明資料・中期経営計画と公式沿革に基づく文書取材。数値目標は会社計画であり、達成した実績ではない。独自インタビューは実施していない。

世界へ運ばれる一皿は、企業の未来も運ぶ

すし皿が一枚、客席へ運ばれる。魚の鮮度、米の炊き上がり、職人の技、食べる人の期待。その短い距離を成立させるために、国境を越えた調達、物流、教育、店舗運営が動く。「スシロー」を展開するFOOD & LIFE COMPANIES(F&LC)が11月6日に公表した中期経営計画は、その一皿を世界規模に広げようというものだ。

計画の名称は「F&LC MTP 27-29-うまいすしを世界へ-」。2029年9月期に売上収益8,310億円、営業利益880億円、店舗数1,570~1,580店を目指す。2026年9月期の売上収益は5,153億3,400万円、営業利益は515億600万円。目標はすでに達成した実績ではないが、事業の中心を海外のスシローに据える姿勢は明瞭だ。

史上最高益の先に何があるか

2026年9月期の連結業績は、売上収益が前期比26.9%増の5,153億3,400万円、営業利益が47.0%増の515億600万円、親会社所有者帰属当期利益が54.2%増の353億8,000万円だった。会社は過去最高水準の業績と説明する。9月期決算は国際会計基準(IFRS)による。

数字を見るときには「京樽」事業の区分に注意が要る。決算資料は京樽事業の外部譲渡に伴い、継続事業の売上収益・損益と非継続事業を区別して表示している。前年度の数値を別の事業範囲と単純に比較すれば、成長率を誤読しかねない。投資家向け資料の注記こそ、成長物語を読むための重要な手がかりになる。

1975年、大阪の「鯛すし」から

会社の公式沿革によれば、原点は1975年7月、大阪市阿倍野区に開いた「鯛すし」だった。1984年6月には大阪府豊中市に回転ずしの1号店を出店し、同年10月には「株式会社すし太郎」を設立。1996年には一皿100円均一の店舗を開き、2000年に「あきんどスシロー」へ商号を変更した。現在のスシローは、一度に世界市場を目指した企業ではない。日本国内で、値段と味の両立を追い続けた企業が、事業モデルを積み重ねて海外へ向かった。

会社史には2003年の東証二部上場、2004年の本社加工場の全面廃止、2011年の韓国子会社設立、2015年の持株会社化、2017年の東証一部上場と台湾子会社設立が記されている。2004年の加工場廃止は、加工の方法や品質管理への考え方が変化したことを示す歴史の一場面であり、現代のすしチェーンを単なる「工場化」の物語で捉えるだけでは不十分である。

海外340店舗から700店超へ

2026年9月期末に海外スシロー事業の店舗は340店となった。会社によると期中の海外出店は108店で、中国大陸の展開が成長をけん引した。新計画は海外で年120店程度の出店を続け、2029年9月期末に700~710店へ増やす構想だ。海外事業の売上収益も2,129億円から4,606億円へ、営業利益は275億円から558億円へ引き上げる計画である。

一方、国内スシローの店舗数は671店から740~750店へ、年25店程度の新規出店を想定する。伸び率が違うのは国内が軽視されているからではない。経営計画上、国内は既存店の売上向上を重視し、海外は新しい商圏を開拓する成長エンジンとして位置づけられた。両者を同じ出店ペースで評価することはできない。

中国大陸、東南アジア、そして北米

計画で最大の投資先として挙げられるのは中国大陸だ。台湾、香港、東南アジアなど既存の商圏で基盤を強めながら、北米市場の開拓も進めるという。米国については、2026年5月にニューヨークのタイムズスクエア地区へのスシロー初出店方針を公表した。ただし、出店予定は営業開始の証明ではない。11月6日時点の計画資料から、米国1号店がすでに開業したと断定することはできない。

海外で難しいのは看板を翻訳することではなく、「日本では当たり前」の体験を現地で再現することだ。冷蔵・冷凍物流、魚種の好み、店舗賃料、採用、食品衛生規則、為替。中国で成立する採算が米国の大都市でも成立するとは限らない。北米で「モデル確立」を掲げる表現は、新市場の収益性を今後検証するという意味でもある。

2029年の数字を分解する

2029年9月期の連結目標は売上収益8,310億円、営業利益880億円、営業利益率10.6%。会社は2026年9月期の実績から売上収益の年平均成長率17.3%、営業利益の同19.6%を想定する。2027年9月期の予想は売上収益6,100億円、営業利益613億円。さらに2028年9月期7,230億円、732億円を経て目標に至る工程表が示された。

重要なのは成長の質だ。海外スシローの2029年9月期営業利益率の計画は12.1%、国内スシローは7.1%。国や地域別の利益率を一律に示した数字ではなく、事業区分ごとの計画である。海外店舗が増えれば、それだけで利益率が上がるとは限らない。投資の回収、開店後の客数、物流費、現地での食材価格が結果を左右する。

京樽の外部譲渡が示す「選択と集中」

同社は2026年度に京樽事業を外部へ譲渡し、スシローを中心とした経営に資源を集中すると説明した。これは海外店舗だけを増やすという意味ではない。投資する事業を選び、必要な技術者、仕入れ網、店長育成などを、中心となるブランドへ組み直す意思決定である。

ただしグループが一つの看板しか持たなくなるわけでもない。中期計画には国内の「鮨 酒 肴 杉玉」事業も掲げられ、収益性改善と継続的な成長を目指す。京樽の譲渡によって、連結決算の比較対象も変わる。計画書に書かれた「One Company」という言葉の価値は、複数の事業や地域を抱える会社を、どこまで実務で束ねられるかにかかっている。

デジローは「自動化」の別名ではない

国内の既存店売上高は2026年9月期に前年比107.9%と会社が報告した。販売促進、知的財産とのコラボレーション、そしてデジタル技術を使った新しい注文体験「デジロー」が貢献したという。新計画はDX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤を強化し、AIを高度活用するAXやデジタル人材の育成にも言及する。

「デジロー」は客の注文や食事体験を支える仕組みであり、調理や接客の仕事が人間を必要としなくなったことを意味しない。企業自身も「人がつくり、人が支える」と説明する。飲食店のデジタル投資を測るには、画面の新しさだけでなく、料理の品質、スタッフの負荷、待ち時間、再来店につながるかを見なければならない。

世界で売るには、世界から仕入れる

すしの海外展開は、日本文化の輸出というだけでは語れない。大量の魚を継続的に仕入れ、衛生基準を守り、価格を抑え、食材の供給が滞ったときに代替の仕組みを用意する国際的な調達事業でもある。計画は生産者・取引先との共創と、グローバル成長を支える本社機能の強化を課題に挙げた。

同社は10月に協立との合弁会社「FOOD&LIFE KYORITSU MARINE」の事業開始を公表し、11月5日には山口県などとシロアマダイの陸上養殖を目指す共同研究を発表した。こうした取り組みは資源調達への関心を示すが、将来の安定調達や持続可能性が達成されたという証拠ではない。水産資源の状態や食材原価を長期にわたり検証する必要がある。

投資額1700億円、その見返りは

2027~2029年度に想定する成長投資は合計1,700億円。うち海外に1,020億円、国内に680億円を充てる計画だ。店舗新設だけでなく改装なども含む。海外への資本配分は、成長の地理的重心が移りつつあることを数字で示している。

だが店を作るための現金支出と、開店後に顧客が払う代金の間には時間差がある。新店舗の工事費、賃料、設備投資、教育コストは先行する。2026年9月期の営業利益の高さが、新店舗すべての採算性を保証するものではない。経営が示す営業利益目標と、投資が現金をどれほど生み出すかは別々に確認する必要がある。

目標に潜むリスクをどう読むか

海外の店舗数が計画通り増えても、魚価、為替、港湾物流、人材確保、食品安全に問題が起きれば利益計画は変わる。現地のライバルとの競争、消費者の嗜好の違い、国際関係の変化も無視できない。海外店舗を増やす企業にとって、セキュリティやコンプライアンスは後回しにできないインフラとなる。

会社は経営基盤強化の対象に、リスク対応、情報セキュリティー、食事の安全・安心を明記した。これは成長企業が直面する課題を認めた記述だ。投資家も利用者も、店舗数だけでなく既存店の売上、海外事業の利益率、調達状況、店舗の人材定着などを継続して見る必要がある。

「SUSHIといえばSUSHIRO」は実現するか

会社は「SUSHIといえばSUSHIRO」と認識される世界的ブランドを掲げる。さらに2031~2032年ごろに売上収益1兆円超を目指す長期像も示した。宣言が大きいほど、それを支えるのは日々の小さな判断だ。

すしは日本の食文化であると同時に、地域ごとに味覚や価格感覚の異なる食事でもある。海外でも愛されるには、日本の味を守るだけでなく、現地のお客に耳を傾け、持続可能な調達と働く人への責任を果たさなければならない。大阪の一軒から始まった企業が世界でどこまで通用するのか。2029年の売上高だけでなく、一皿を支える人と仕組みの強さが、その答えを決める。

出典と取材方法

企業の日本語一次資料にある実績と将来計画、事業譲渡後の継続事業の区分を照合。予測は将来の見通しと明記した。

  1. FOOD & LIFE COMPANIES:中期経営計画「F&LC MTP 27-29-うまいすしを世界へ-」(2026年11月6日)
  2. FOOD & LIFE COMPANIES:2026年9月期 通期決算説明資料(2026年11月6日)
  3. FOOD & LIFE COMPANIES:2026年9月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
  4. FOOD & LIFE COMPANIES:公式沿革
  5. FOOD & LIFE COMPANIES:IRニュース
  6. FOOD & LIFE COMPANIES:海外300店舗達成(2026年7月14日)
  7. FOOD & LIFE COMPANIES:サステナビリティ・水産資源調達
  8. FOOD & LIFE COMPANIES:2026年11月5日シロアマダイ陸上養殖の共同研究など