9月1日、山口県周防大島町の政策企画課に、民間企業の社員が一人加わった。株式会社さとゆめから派遣された山田朋子氏である。肩書は「地域活性化起業人」。任期は1年。役場の外から助言するだけでなく、庁内に入り、住民、中高生、町内外の企業や学校関係者をつなぐ官民共創コンソーシアムの立ち上げを支える。

一人の派遣で人口減少が止まるわけではない。重要なのは、町が子どもを単なる施策の受け手ではなく、地域課題と新しい事業を考える側へ近づけようとしている点だ。町議会の予算審査で町側は、この組織を総合計画に実効性を持たせ、住民と中高生を含む子どもの意見を取り込み、共通課題を解く場にしたいと説明していた。

周防大島町には、2026年度から2030年度までを対象とする総合計画後期基本計画と第3期総合戦略がすでにある。問題は、計画をもう一冊つくることではない。誰が課題を選び、誰が費用を負担し、子どもの提案をどのように予算、事業、評価へ運ぶのか。その経路をつくれるかが、今回の試みの本質である。

確認状況: 9月1日の協定締結、社員1人の1年間派遣、政策企画課への所属、官民共創組織の立ち上げ支援、住民・中高生との事業創出は、株式会社さとゆめの発表と町議会資料で確認した。一方、協定本文、コンソーシアムの規約、構成員、参加者の選定方法、初年度予算、意思決定権、子どもの安全・同意に関する手順、任期後の継承方法は、資料確認時点で公開を確認できなかった。本稿は成果を既成事実とせず、「始動する」「目指す」と表記する。
1年さとゆめ社員の派遣期間。2026年9月1日から政策企画課に所属
12,933人2026年7月1日の住民基本台帳人口。世帯数は7,751世帯
7,385人現状傾向が続く場合の2045年人口シミュレーション。確定予測ではない

「起業人」は、起業家を呼ぶ制度ではない

「地域活性化起業人」は、名称だけを見ると、島で新会社を興す人を招く制度のように聞こえる。実際には、都市部企業などの社員が在籍したまま地方自治体へ一定期間派遣され、企業で培った知識や実務経験を地域課題に使う人材派遣の仕組みである。周防大島町では、さとゆめの社員が政策企画課に入り、組織の立ち上げ、運営の企画・調整・助言、関係者間の連携を支援する。

協定が山田氏に町の意思決定を委ねたわけではない。予算を決めるのは町と議会であり、学校運営には教育委員会と学校の責任がある。派遣者に期待されるのは、行政、学校、自治会、事業者、若者の間にある言葉、時間軸、利害のずれを翻訳し、アイデアを実施可能な事業へ整える中間支援である。

その役割が必要とされる理由は、町の計画にも書かれている。行政だけでは、年度予算、公平性、制度手続きによって速度が落ちやすい。一方、民間だけでは、収益性が優先され、公共性や地域全体の利益が後景に退くおそれがある。町は公民連携の中核に「中間支援団体又は人材」を置き、町内の実施主体、町外の企業・個人、国や県を結ぶ設計を描いた。今回の派遣は、その空白を埋める試運転だ。

子どもを「対象」から「設計者」へ

地方創生の文書で、子どもはしばしば「守る対象」「増やす人口」「将来の担い手」として登場する。周防大島町の新しい構想は、そこから一歩進み、中高生を地域課題の議論と事業づくりへ参加させようとしている。

総合戦略の基本目標Ⅲは「帰ってきたくなる学びのまちづくり」である。小学生、中学生、高校生、高専生、大学生を縦につなぐ交流、学校間の横の交流、コミュニティ・スクール、地域企業での職場体験、インターンシップ、アフタースクール、卒業後の情報発信、学生アイデアの実現を並べる。リーディングプロジェクトは「教育の魅力化事業」で、町内外の企業と学校関係者による官民共創コンソーシアムを、その推進組織として位置づけた。

ここで避けるべきは、人口減少を子どもに背負わせることだ。若者に「島に残れ」「必ず戻れ」と迫る参加は、参画ではなく誘導になる。進学や就職で外へ出る選択を認めたうえで、故郷との関係を切らず、将来の転職、結婚、子育て、親の介護、起業などの局面で戻る選択肢を現実的にする。町の計画も、卒業時の転出を全面的に防ぐのではなく、人生の各段階でUターンを検討できる関係づくりを重視している。

子ども参画の価値は、子どもが大人の正解を言うことではない。大人が見落としていた不便、魅力、矛盾を、政策の入口へ持ち込めることにある。

「意見を聴いた」で終わらせない五つの条件

こども基本法は2022年6月に成立し、2023年4月に施行された。国と地方公共団体は、こども施策の策定、実施、評価にあたり、対象となるこども・若者の意見を反映するために必要な措置を講じるとされる。周防大島町の地方創生施策すべてが同法第11条の直接対象になると断定することはできないが、子どもの声を政策へ運ぶという方向は、国の制度転換と重なる。

こども家庭庁のガイドラインは、意見聴取を一回のアンケートやワークショップではなく、準備、分かりやすい情報提供、安全な場づくり、多様な方法による意見表明、政策への反映、結果のフィードバックまでを含む過程として扱う。周防大島町の取り組みを評価する際も、次の五点が基準になる。

Japan.co.jpの検証基準:子ども参画を実質化する五つの問い

  1. 誰が参加できるか:学校推薦の一部生徒だけでなく、年齢、地区、学校、障害、家庭環境の違う声へ届くか。
  2. 議題を選べるか:大人が用意した観光案だけでなく、交通、居場所、学び、仕事、住宅などを子ども側から提起できるか。
  3. 決定へつながるか:提案を担当課、事業主体、予算、期限へ結びつける明確な経路があるか。
  4. 返事が返るか:採用した案だけでなく、採用しなかった案にも理由を示し、次の検討機会をつくるか。
  5. 安全と継続性があるか:同意、個人情報、撮影、移動、発言への圧力を管理し、担当者の任期後も仕組みを残せるか。

現在公表されているのは、立ち上げの目的と大まかな業務範囲までである。参加する中高生をどう募るのか、学校外の若者やすでに島を離れた若者をどう含めるのか、子どもに議決権や予算提案権を持たせるのかは明らかでない。最初の成果は、派手な事業案より、こうした運営ルールを公開することかもしれない。

人口4万9,739人から1万2,933人へ

周防大島の人口減少は、近年始まったものではない。国勢調査では1960年の4万9,739人から2020年の1万4,798人へ、60年間で3万4,941人、約70%減った。2026年7月1日の住民基本台帳人口は1万2,933人である。1960年代以降の産業構造の変化、進学・就職による若年流出、少子化、高齢化が長く重なってきた。

町の第3期人口ビジョンは、現状の傾向が続く場合、人口が2025年の1万2,987人から2030年に1万1,383人、2040年に8,564人、2045年に7,385人へ減ると試算する。これは国立社会保障・人口問題研究所の地域別推計を基礎にしたシナリオであり、確定した未来ではない。

町は2045年の目標人口を8,000人に置いた。国土交通省資料を参照し、8,000人を下回ると一般病院、通所・短期入所介護、訪問介護などの存在確率が50%を下回るという全国的なモデルを政策判断の材料にしたためだ。ただし、8,000人はサービスが突然消える崖ではない。島の地理、利用圏、経営主体、交通、近隣自治体との連携によって存続条件は変わる。目標は危険を示す目安であり、保証線ではない。

15~19歳は厚い。20~24歳で細くなる

人口ピラミッドには、周防大島の可能性と弱点が同時に表れる。山口県立大学附属周防大島高等学校と大島商船高等専門学校があるため、15~19歳の層は周辺の若年層より厚い。ところが20~24歳になると細くなる。卒業後、大学進学や就職で島外へ出るためである。

この移動を失敗とみなすべきではない。島内だけで全ての進学先と職種を用意することはできない。政策の問いは「出さない方法」ではなく、「出た後も関係を持ち、戻りたい時に仕事、住宅、交通、子育て、医療が選択可能か」である。

町は「ふるさと回帰1%戦略」を掲げる。データが得られる周防大島高校と大島商船高専の卒業生を基礎に、各年の卒業生の1%が戻ると仮定すれば、2050年までの累積は639人になるという試算だ。これは予測でも、コンソーシアムの成果目標でもない。わずかな割合でも、長期間積み重なれば人口と担い手に影響し得ることを示す思考実験である。

四つの柱は、別々の事業ではない

さとゆめの発表は四つの重点プロジェクトを挙げた。正式な総合戦略では、第四の名称に「互助」が含まれる。以下は町の公式計画に沿った整理である。

基本目標主な対象・狙い子ども・若者との接点落とし穴
若者に選ばれるまちづくり子育て世代、20~44歳の転入促進・転出抑制、所得と働く場将来の生活像、交通、住居、仕事、子育て環境を当事者目線で考える移住者数だけを追い、既存住民の暮らしや若者の多様な進路を軽視すること
第2のふるさとづくり一度きりの観光ではなく、繰り返し訪れ関わる「関係人口」を増やす交流、地域行事、学び、卒業後のネットワークを町外との継続的な関係へ変えるイベント参加者やSNS閲覧数を、深い関係や地域への貢献と同一視すること
帰ってきたくなる学びのまちづくり児童・生徒・学生・転出者の地域への愛着とUターンの選択肢を育てる地域学習、キャリア教育、学生アイデア、企業・学校連携、卒業後の情報発信郷土愛を「残る義務」に変え、若者へ人口維持の責任を負わせること
自助・互助・共助・公助のまちづくり自治会・地域団体、多世代の支え合い、移動と生活機能の維持子ども、高齢者、保護者が使える交通や居場所を世代横断で設計する公的責任を家族や地域の善意へ過度に移すこと

四つは連動している。学びが地域との接点をつくり、町外へ出た卒業生との関係を保ち、仕事や住居の条件が整った時に帰る選択を可能にする。交通、医療、買い物、介護が維持されなければ、愛着だけで定住は続かない。子どものアイデアを観光イベントへ狭めず、生活基盤の設計にまでつなげられるかが問われる。

ハワイ移民と大島大橋——「外へ出る島」の歴史

周防大島は屋代島を中心に、5つの有人島と25の無人島からなる。明治期の官約移民では3,913人がハワイへ渡り、1963年にはカウアイ島と姉妹島縁組を結んだ。「瀬戸内のハワイ」という現在の呼び名は、温暖な景観だけでなく、海を越えた移民の歴史に根を持つ。

1976年に大島大橋が開通し、島は本州と陸路でつながった。1987年に県公社へ移管され、1996年に無料化された。2004年には久賀町、大島町、東和町、橘町が合併し、現在の周防大島町が誕生した。橋は移動を容易にしたが、人口流出そのものを止めることはできなかった。

この歴史を、単純な「島民は昔から外に開かれていた」という美談にしてはいけない。移民や転出の背景には、島内で得られる仕事と生活機会の限界があった。それでも、外へ出た人との縁が文化、送金、知識、人の往来を生んできたのも事実である。現在の政策用語である「関係人口」は、居住者か観光客かの二択ではなく、島外に暮らしながら関わり続ける人を地域の力として捉える。周防大島では新しい言葉であっても、現象そのものには長い前史がある。

8,000人を目指す二つの人口シナリオ

町の人口ビジョンは、目標人口8,000人へ到達する政策強度を二つのシナリオで示した。第一は、毎年、子育て世代15世帯分の転入促進または転出抑制を積み重ねる案で、2045年は8,025人となるが、その後は減少が続く。第二は、それに加え、合計特殊出生率が2045年に2.07へ上がると仮定し、2045年を8,531人、2100年を5,688人とする。

この数字は政策効果の保証ではない。毎年15世帯の純増・流出抑制も、出生率2.07も、住宅、雇用、所得、保育、医療、結婚や出産の希望など多数の条件に左右される。特に出生率を行政の成績表として扱えば、女性や家庭に責任を押しつける危険がある。シミュレーションは必要な規模を逆算する道具であって、個人の人生を政策目標へ従わせる根拠ではない。

だからこそ、子どもや若者の参加が必要になる。大人が設定した「戻ってほしい」という目的だけでなく、戻ることを難しくしている条件、戻らなくても関われる方法、島に住み続けたい人の不便を、当事者の言葉で確かめるためである。

計画をつくった会社が、実装にも入る

さとゆめは2025年度から、町の後期基本計画と総合戦略の策定を支援してきた。今度は同社の社員が役場に入り、その計画の実装を支える。計画の背景と関係者を理解した人材が継続して関わることは、立ち上がりを速くする利点がある。

同時に、計画支援者が実装支援者にもなる以上、役割と成果の公開は一段と重要になる。これは不正や利益相反があったという意味ではない。どこまでを派遣者が担い、何を町職員が決め、どの事業を誰が受注・運営し、どの指標で外部支援の価値を測るのかを明らかにすれば、継続性と信頼を高められるということだ。

町の総合戦略は、補助金、寄付・投資、金融機関からの融資、PPP・PFIなど複数の資金経路を想定する。しかし、官民共創コンソーシアムの初年度予算や、個別事業の資金調達方法はまだ確認できない。アイデア会議から事業へ進む段階では、採択基準、契約、利益配分、地域企業の参画、撤退時の責任を公開する必要がある。

1年後、人口ではなく「意思決定の質」を測る

派遣期間は1年である。2027年9月に人口が目に見えて増えていなかったとしても、それだけで失敗とは言えない。Uターン、出生、事業承継、教育効果は長い時間を要する。初年度に測るべきは、人口という遅い結果ではなく、実装能力という早い変化だ。

評価項目1年後に公開すべき内容不十分な代替指標
参加の広がり年代、地区、学校、参加経路、参加できなかった人への対応会議の延べ人数だけ
子どもの影響提案の一覧、採用・修正・不採用の判断、理由、担当課「活発な意見が出た」という感想
事業化責任主体、予算、工程、利用者、リスク、終了条件を持つ案件数アイデア数、イベント数、SNS投稿数だけ
地域への移管町職員、学校、地域団体が継続運営できる手順、人材、財源派遣者個人の人脈と労力への依存
中間成果地域への愛着、卒業後の連絡網、インターン、交通・居場所等の改善1年で人口増を要求すること

町の総合戦略は、毎年度の評価と、全体を見直す「大きなPDCA」と個別事業を素早く直す「小さなPDCA」を組み合わせるとしている。コンソーシアムも、その外側に置かず、議事、提案、予算、成果、修正を同じ評価系統へ載せる必要がある。

帰ることを約束させず、帰れる条件をつくる

周防大島町が子どもに求めるべきなのは、将来必ず島へ戻るという約束ではない。島を離れて学び、働き、別の土地で暮らす自由を守りながら、戻りたい時に戻れる仕事と住居、移動、医療、子育てを整えること。戻らなくても、知識、仕事、寄付、訪問、交流で関われる回路を残すことである。

官民共創コンソーシアムが成功したかどうかは、子どもたちの笑顔の写真では測れない。子どもが提起した課題が町の選択を変えたか。採用できない時、大人が理由を説明したか。提案が予算と担当者を持つ事業になったか。派遣者が去った後も、地域側に運営する力が残ったか。そこまで到達して初めて、「こども×官民共創」は標語から制度になる。

周防大島は、外へ出る人によって形づくられてきた島である。次の1年が試すのは、出ていく流れを力ずくで逆転できるかではない。島を離れることと、島の未来から消えることを、別のものにできるかである。

資料・出典

  1. 株式会社さとゆめ「『瀬戸内のハワイ』で、こどもたちと島の未来をもっと面白く。周防大島町へ地域活性化起業人を派遣」(2026年9月1日)
  2. 株式会社さとゆめ プレスリリース(協定の目的、業務範囲、派遣者・町長コメント)
  3. 周防大島町「第2次周防大島町総合計画(後期基本計画)、第3期総合戦略及び第3期人口ビジョンの策定について」(2026年5月27日)
  4. 周防大島町「第2次周防大島町総合計画後期基本計画・第3期周防大島町まち・ひと・しごと創生総合戦略」(公民連携、四つの基本目標、教育の魅力化、官民共創コンソーシアム、進捗管理)
  5. 周防大島町「第3期周防大島町人口ビジョン」(人口動向、2045年シナリオ、8,000人目標、ふるさと回帰1%戦略)
  6. 周防大島町議会「令和8年第1回定例会 委員長報告」(住民・中高生を含む官民コンソーシアムに関する町の説明)
  7. 周防大島町議会「令和8年第1回定例会 会議録」(地域活性化起業人制度、総合計画・総合戦略をめぐる質疑)
  8. 周防大島町公式ホームページ(2026年7月1日の人口・世帯数)
  9. 周防大島町「過疎地域持続的発展計画」(1960年以降の人口推移、大島大橋、町の沿革)
  10. 周防大島観光協会(島の構成、ハワイ官約移民3,913人、カウアイ島との姉妹島関係)
  11. こども家庭庁「こども基本法」(成立・施行、こどもの意見反映)
  12. こども家庭庁「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」第2版(2026年5月29日改定)
  13. 山口県「令和9年度国の予算編成及び政策決定等に関する要望について」(藤本淨孝町長の氏名・読みの確認)

日本語版は英語版の翻訳ではなく、周防大島町の日本語一次資料を中心に独自に構成した。2026年7月の12,933人は住民基本台帳、2020年の14,798人と将来シミュレーションは国勢調査等を基礎にしており、統計の基準は同一ではない。2045年の7,385人、8,025人、8,531人、2050年までの639人は政策検討用のシナリオで、予測・公約・派遣事業の成果ではない。8,000人は全国モデルを参考に町が置いた目標で、サービス存続を保証する境界ではない。株式会社さとゆめの発表で省かれた第四の基本目標の「互助」は、町の公式計画に従って補った。

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