確定している日程:理化学研究所と高輝度光科学研究センター(JASRI)は、蓄積リング交換のため2027年8月からSPring-8の運転を約1年間停止すると発表した。2027B期以降の課題公募は休止する。加速器とビームラインのコミッショニングは2029年初めに開始し、SPring-8-IIの共用運転は2029年度に始める計画だ。詳細な再開日は未発表であり、「約1年後に通常利用者が戻る」という保証ではない。

放射光施設の発見は、大きな爆発音では始まらない。厚いコンクリートの内側で、機械が低く唸る。

兵庫県西部の山あいにある円形トンネルでは、電子の塊が光速に限りなく近い速さで周回している。1周1,436メートル。磁石が電子の進路を曲げるたび、細く制御されたX線が外側のビームラインへ放たれる。そこで、充電中の電池、原子を並べたタンパク質、刃物を入れられない小惑星試料、金属内部に凍り付いたひずみが読み取られてきた。

2027年8月、その光が止まる。1997年の共用開始以来、電子を導いてきた磁石配列を撤去し、同じトンネルの中に別世代の機械を据える。コンクリートの身体を残し、循環器を入れ替える国家インフラの手術である。

代わりに得るものは、10キロ電子ボルト付近のアンジュレーターX線で現在のおよそ100倍に達する「輝度」だ。理研は、適切な実験で空間分解能を現在のおよそ50ナノメートルから1ナノメートル未満へ向上させ、電力使用量をほぼ半減できると説明する。

期待に値する数字である。同時に、翻訳を必要とする数字でもある。

2027年8月運転停止の開始予定
50 pm·rad水平エミッタンス目標。現在は約2,400
6 GeV・200 mA電子エネルギーを下げ、蓄積電流は2倍へ
2029年度SPring-8-II共用開始の計画

「約1年」の停止には、複数の時計がある

8月4日の発表は短い。工事の詳細工程がまだ確定していないからだ。ただし、四つの節目は明確である。2027年8月に運転を止める。蓄積リングの交換に約1年をかける。2029年初めに加速器とビームラインのコミッショニングを始める。そして2029年度、つまり2029年4月から2030年3月の間に共用運転を始める。

機械の据え付け完了から、利用者が論文にできるデータを得るまでには検証の連鎖がある。真空が保てるか。数千台の磁石が所定の磁場をつくるか。電子を入射し、捕捉し、安定して周回させられるか。軌道をマイクロメートル単位で補正できるか。遮蔽は安全か。新しい発光点から出たX線は、既存のフロントエンドと光学系の中心を通るか。分光器、ミラー、検出器、制御系、インターロックを一つずつ立ち上げなければならない。

そのため「初入射」「蓄積成功」「ファーストライト」「最初の利用者」「本格運転」は別の日付になる。欧州ESRFは2018年12月に旧リングを止め、約1年後に新リングで電子を蓄積し、利用運転を再開したのは2020年8月だった。米国APSは2023年4月に停止し、科学用ビームラインに最初のX線が届いたのは2024年6月、限定的な最初の利用運転は9月で、その後もビームラインごとの調整が続いた。

SPring-8の発表が慎重なのは、曖昧さというより工学的な誠実さである。研究者が直ちに必要とする「2027B期は使えない」という情報を示し、ビームを出してみなければ確定できない日を約束していない。

2027年8月 · 運転停止、交換工事を開始。

約1年間 · 旧リング機器を撤去し、新リングを据え付ける。

2029年初め · 加速器・ビームラインのコミッショニング開始予定。

2029年度 · 共用開始予定。正確な日付は未定。

「100倍明るい」は何を測った数字か

日常語の「明るさ」は、放射光科学では専門的な仕事をする。中心となる量は「輝度(brilliance)」である。一定時間、一定の光子エネルギー幅の中で、どれだけ多くの光子を小さな発光面積と狭い角度に詰め込めるかを表す。投光器はレーザーより多くの光を出しても、レーザーほど一点に集められない。SPring-8-IIが高めるのは、X線のこの集中度だ。

査読付き設計論文は、10 keV付近のアンジュレーター光で、毎秒・毎平方ミリメートル・毎平方ミリラジアン・0.1%バンド幅あたり1022光子を超える分光輝度を見込む。設計比較では現在のおよそ2桁上である。しかし、すべてのビームラインに光子が正確に100倍届く、すべての測定が100倍速く終わる、情報量が一律100倍になる、という意味ではない。

実際の性能は光子エネルギー、挿入光源、ミラーや分光器、検出器、試料、測定法で変わる。得られた余裕を小さなスポットに使う実験もあれば、測定速度や統計精度、コヒーレンスに使う実験もある。強いX線は試料を壊し、光学素子を熱でゆがませることもある。高輝度は選択肢を増やすが、実験の限界を消す魔法ではない。

「100倍」を正確に読む四つの注意
  • 設計目標:建設、調整、実測を経て初めて達成が確認される。
  • 分光輝度:人間の目で見る明るさや総光量ではなく、位相空間とエネルギー幅に集中した光子数である。
  • エネルギー依存:「約100倍」は主に設計で重視する硬X線域の比較で、全エネルギーで一定ではない。
  • 試料までの道:最終的な増加率はビームライン光学系と検出器で決まる。

リングは、速さをどう顕微鏡に変えるのか

電子が一定速度で直進するだけなら放射しない。磁石で軌道を曲げると横向きに加速され、相対論的な電子は進行方向の狭い円錐へ放射する。蓄積リングはこの動作を何十億回も繰り返し、光として失ったエネルギーを高周波加速空洞で補う。

偏向電磁石は電子を円周上に保ち、それ自体もX線源になる。より強く、調整可能な光は直線部の「挿入光源」から得る。アンジュレーターはN極とS極を交互に並べ、電子を細かく蛇行させる。連続する蛇行からの放射が特定波長で強め合い、細く高輝度の光をつくる。

リングそのものが顕微鏡なのではない。およそ60本の専門装置へ光を供給する工場だ。結晶の回折を測るライン、特定元素の吸収端を調べるライン、三次元断層像をつくるライン、コヒーレント散乱から時間変化を追うライン。同じ電子ビームが、多数の異なる問いに変換される。

決定的なのは電子数だけではなく、電子の位置と進行角度のばらつきである。両者をまとめた量が「エミッタンス」だ。小さいほど発光源は小さく、発散も少なく、X線を細く集光し、コヒーレントに使える。SPring-8-IIは水平エミッタンスを約2,400ピコメートル・ラジアンから50へ、48分の1にすることを目指す。

中心となる発想は、電子をさらに速くすることではない。電子をはるかに乱れなく、そろって走らせることである。

邪魔な青い光から「夢の光」へ

放射光は当初、厄介者だった。1947年4月24日、米ゼネラル・エレクトリック社の研究所で70 MeV電子シンクロトロンを動かしていた技術者が、真空槽の透明部分から青白い光が弧を描くのを見た。加速する荷電粒子が放射することは理論的に知られていたが、実験室で直接目にした光景は鮮烈だった。

粒子物理学者にとって放射は電子ビームからエネルギーを奪う損失だった。ところが別分野の研究者は、その光を使いたいと考えた。高エネルギー物理用加速器に「相乗り」した第1世代、光を出すために専用設計した第2世代を経て、第3世代は長い直線部とアンジュレーターを中心に据えた。SPring-8、フランスのESRF、シカゴ近郊のAPSはその代表である。

「第4世代」は、SACLAのようなX線自由電子レーザーを指す場合と、回折限界に近い多重偏向アクロマット型蓄積リングを指す場合がある。時間構造は異なるが、いずれも従来を大きく超える輝度とコヒーレンスを求める。スウェーデンのMAX IVが多重偏向方式を先導し、ESRF-EBSとAPSの更新は大型硬X線リングを既存建屋の中で作り替えられると示した。

SPring-8-IIも世界的な転換の一部である。壊れた施設を直すのではない。科学的に現役の施設を止める。ほぼ同じ大きさのリング内で電子の広がりを2桁近く圧縮できる設計が現れたからだ。

播磨に巨大リングができるまで

SPring-8の歴史は、名称が決まる前に始まった。1988年、日本原子力研究所と理化学研究所が大型放射光施設の共同チームを発足。1989年6月に兵庫県の播磨科学公園都市が建設地に選ばれ、1990年12月にJASRIが設立された。1991年11月、建設工事が始まった。

立地も装置の一部だった。巨大リングには安定した地盤、放射状に伸びるビームラインの空間、都市振動からの距離が必要である。施設は利用する大学や企業の研究室から離れた佐用町に建ち、研究者は貴重な試料を携えてビームへ向かう。限られたシフトを使い切るため、夜通し測定する文化が生まれた。

1997年3月に放射光を発生し、同年10月に共用を開始した。SPring-8は「Super Photon ring-8 GeV」を縮めた名である。80億電子ボルトの蓄積リングは、厚い金属、高圧装置、密度の高い物質を透過する硬X線を強く意識して設計された。

運営の仕組みも重要だった。理研が施設を保有し加速器を運転し、JASRIが大型施設制度の下で共用と利用支援を担う。大学、国立研究機関、企業が、成果公開または非公開の仕組みを通じてビームタイムを使う。SPring-8は一研究所ではなく、全国の問いが集まる市場になった。

1988年 · 原研と理研が共同チームを発足。

1989年 · 播磨科学公園都市を建設地に選定。

1991年 · 建設開始。

1997年3月 · 放射光の発生に成功。

1997年10月 · 共用開始。

2020年 · SACLAからの時分割入射を始め、旧入射器系を停止。

物質を「読む」ことを覚えた機械

SPring-8の実績はリングの諸元より、ビームに置かれた物の多様さに表れる。構造生物学ではBL41XUを使い、光化学系IIの酸素発生中心を1.9オングストローム分解能で決定した。水を分解して酸素を生み出す反応の中心にあるマンガン・カルシウムの原子集団が姿を現し、教科書の「光合成」が検証可能な原子配置になった。

はやぶさ2が小惑星リュウグウから微粒子を持ち帰ると、SPring-8のマイクロCTは試料を壊さず三次元観察した。1ミリメートルより小さい粒子の鉱物、空隙、包有物を、別の分析に回す前に地図化できた。解像度と同じくらい重要だったのは、唯一無二の地球外試料を「見た後にも残す」能力である。

産業利用も周辺的ではない。タイヤ企業は荷重下でゴム、シリカ、内部空隙がどう変形するかを調べ、ナノ構造と転がり抵抗、耐摩耗性を結び付けた。半導体企業は埋もれた界面を観察し、電池研究者は動作中の酸化状態を追い、金属研究者は表面下の残留応力を測る。

考古学と美術史も同じリングに入る。透過力の高いX線なら、切断できない文化財の合金、腐食層、製作構造を識別できる。理研の2026年解説は古墳時代の銅鏡を例に挙げる。共通項は「見えない構造」だが、問いは太陽系最初期の固体から次世代工場まで広がる。

だから停止は、一大学の装置休止とは違う。締め切り、試料寿命、学生の学位、企業秘密、国際競争が異なる研究群を同時に中断する。

二つの曲がりを、五つに分ける

現在のリングは、反復する各セルに主要な偏向磁石を二つ置く「ダブルベンド・アクロマット」を使う。SPring-8-IIはこれを五つの偏向磁石を用いる「5ベンド・アクロマット」に替える。曲がりを多くの弱い偏向へ分散することで、量子的な揺らぎが生む電子ビームの広がりを抑える。

「五つの曲がり」という言葉だけでは、装置の密度は伝わらない。双極磁石が軌道を曲げ、四極磁石が水平または垂直に集束し、六極磁石がエネルギー差によるずれを補正する。補正磁石が軌道を整え、診断器が電子の位置を測る。強い集束はエミッタンスを下げる一方、入射電子が生き残れる範囲を狭くする。高性能化と扱いにくさが同時に増す。

長直線部にはダンピングウィグラーを置き、エミッタンスをさらに小さくする。高安定電源、高速軌道フィードバック、密に配置したビーム位置モニターも不可欠だ。発光源が小さくなるほど、地盤振動、温度変化、磁場誤差のような、以前は許容できた揺らぎがX線をぼかす。

トップアップ入射も難しくなる。電子は少しずつ失われるため、SACLAから小量を頻繁に補給する。目標は「透明な入射」だ。新しい電子が入る瞬間も利用者のデータに乱れが見えない状態をつくる。低エミッタンスは、毎シフト安定して使えて初めて価値になる。

項目現行SPring-8SPring-8-II設計意味
ラティスダブルベンド5ベンド偏向数を増やしエミッタンスを低減。
電子エネルギー8 GeV6 GeV放射損失と消費電力を削減。
蓄積電流100 mA200 mA蓄積電子を増やし光子束を支える。
水平エミッタンス約2,400 pm·rad50 pm·rad目標発光源を小さくし、集光性とコヒーレンスを向上。
アンジュレーター既存装置短周期IVU-II電子エネルギーを下げても硬X線域を維持。

なぜ8を6に下げても、硬X線を失わないのか

計画で最も直感に反する変更は、名称の中にある。SPring-8-IIの電子エネルギーは8 GeVではなく6 GeVになる。エネルギーだけが性能を決めるなら後退だ。しかし現代の光源は、電子ビームの質、電流、挿入光源の幾何学を組み合わせたシステムである。

電子エネルギーを下げると、1周ごとに放射として失う電力が大幅に減る。設計は蓄積電流を100 mAから200 mAへ倍増し、短周期の真空封止アンジュレーターを導入する。磁極を電子へ近づけ、短い間隔で繰り返すことで、6 GeV電子でも高い高調波を得る。過剰に高い軌道エネルギーを維持する代わりに、使えるX線へ性能を集中させる。

日本はこの技術に長い経験がある。SPring-8は、磁石と電子の間に厚い真空槽を挟まず、磁石列を真空中に置くアンジュレーターを発展させた。新しいIVU-IIはさらに短周期で効率的だ。設計論文は30台超が必要と見込み、停止前から製造計画を進めている。

ダンピングウィグラーは100 keVを超える超高エネルギー放射も供給でき、厚い試料や超高圧研究に役立つ。「6が魔法で8と同じ」なのではない。低エネルギー、低エミッタンス、高電流のリングと新型磁石を組み合わせ、より少ない運転費でより有用な硬X線を出すという設計だ。

高輝度化の内側にある「グリーン更新」

蓄積リングは、発電所を逆向きにした装置でもある。電力を制御された粒子ビームに変え、さらに光へ変える。磁石、高周波空洞、冷却水、真空ポンプ、データ系、建物設備を年間数千時間動かす。国家施設では効率は付記ではなく、数十年にわたりどれだけの科学を維持できるかを左右する。

SPring-8-IIは複数の場所で電力需要を下げる。6 GeV化で放射損失を減らし、多くの電磁石をコイル電力と冷却が不要な永久磁石に替える。高周波系は簡素化し、設計比較では空洞数を半分にする。入射器系はすでに更新済みで、2020年から隣接するX線自由電子レーザーSACLAの線形加速器を、レーザー運転の合間にSPring-8入射へ使っている。

この時分割入射により、従来の専用1 GeV線形加速器と8 GeVシンクロトロンを停止でき、設計論文によれば約5 MWを削減した。これらを合わせ、蓄積電流を2倍にしながら、SPring-8-II全体の電力を従来構成のほぼ半分にする。

永久磁石にも代償がある。電流を回せば磁場を調整できる電磁石と違い、磁場の微調整は簡単ではなく、磁化は温度でも変わる。磁石材料を選別し、磁極形状を加工し、機械的調整機構を設け、トンネル温度を管理する必要がある。「電源ケーブルがない」は「精密さが不要」という意味ではない。日々の電力を、設計・製造・熱管理の高度さへ置き換える。

より少ない電力で、より整った電子ビームをつくる。その「整い」を、より高輝度のX線へ変える。

1.4キロの機械を、約1年で入れ替える

文部科学省の委員会議事録は、2028年度までの事業規模を499億円としている。新しいリングを隣に建てて瞬時に切り替える計画ではない。既存トンネル、遮蔽、実験ホール、大部分のビームラインを再利用する。費用を抑え、成熟した研究設備を残せる一方、旧装置を撤去しなければ新装置を完成できない「暗い期間」が必ず生じる。

光軸を維持する設計は、目立たないが重要である。多数のビームラインが発光点から外側へ伸び、長いものは数十から数百メートルに達する。新リングの発光点が大きく動けば、すべての光学系を作り直さなければならない。新ラティスは既存の幾何をできるだけ保ち、積み上げた設備を生かす。

それでも工事は産業規模の段取りを要する。機器の接続を外し、放射線を測定し、狭いトンネルから搬出し、同じ通路で入ってくる新モジュールと干渉させない。新しい架台を順番通りに据え、真空槽、磁石、ケーブル、冷却、支持台、診断器を厳しい公差で接続する。測量班がリングを合わせ、電気班が何千もの回路を試験し、真空班がベーキングと調整を行う。

ESRFとAPSの更新は、停止前のモジュール製作・事前試験、模擬据え付け、デジタル測量、並行作業の有効性を示した。同時に、工程表どおり組み上がっても、ビームを回して初めて小さな誤差が姿を現すことも示した。コミッショニングは楽観論では短縮できない。

科学の空白と、日本の「リレー網」

最初の影響はすでに公募に表れた。2027B期の通常公募は行われず、それ以降も新日程が整うまで休止する。実験は前倒し、延期、手法変更、他施設への移動のいずれかを迫られる。

国内に代替はある。文科省とJASRIは仙台のNanoTerasu、つくばの高エネルギー加速器研究機構Photon FactoryとPF-AR、SPring-8に隣接するSACLA、あいちSR、九州シンクロトロン光研究センターなどの連携を検討している。2026年3月の会合では、企業利用の多いイメージング、XAFS、硬X線光電子分光、回折、タンパク質結晶解析、小角散乱を候補ビームラインへ対応付けた。

地図は穴も示した。40 keVから100 keV超の高分解能イメージングは、国内だけで完全に置き換えるのが難しい。超小角散乱や一部の特殊な硬X線実験はESRFなど海外施設が候補になる。ドイツのPETRA IIIも同時期に更新を控え、国際的な日程調整は簡単ではない。経済安全保障や輸出管理上、企業の機密試料を国外へ出せない場合もある。

技術だけでなく収容力が問題だ。XAFSを測れるビームラインが複数あっても、SPring-8利用者を吸収する運転時間、人員、課題制度がなければ代替にならない。一施設に習熟した研究者も別施設では現地支援が必要だ。文科省の議論が、共通窓口、旅費、成果非公開利用、職員派遣、運転時間延長という地味だが決定的な制度へ向かうのはそのためである。

SACLAは停止中も動くが、蓄積リングの単純なコピーではない。極端に短く強いパルスはSPring-8にできない実験を可能にする一方、試料を一発で壊すことがあり、検出器、タイミング、解析も違う。リレー網は損失を減らせるが、空白を消すことはできない。

停止中に想定される主な受け皿
  • NanoTerasu:軟X線・テンダーX線を中心に運用し、硬X線の共用ラインも整備中。
  • Photon Factory/PF-AR:回折、分光、構造生物学の幅広い国内実績。
  • SACLA:運転を継続し、実現可能性試験を経て一部イメージング・分光を補完。
  • 地域光源:あいちSR、SAGA-LSなどがエネルギー域と収容力の範囲で受け入れ。
  • 海外施設:国内で完全代替できない高エネルギー手法にはESRFなどを検討。

停止後、本当の試験が始まる

設計目標に届けば、SPring-8-IIは既知の画像を鮮明にするだけではない。コヒーレントX線なら通常のレンズを使わず物体を再構成できる。ナノメートルビームは次世代トランジスタ内の化学状態とひずみを地図化できる。高速測定は触媒や電池を動作前後ではなく、働いている最中に追える。理研は三次元半導体構造や稼働中の燃料電池反応を原子スケールで観察する未来を描く。

光が増えればデータも増える。細かい画像を高速で撮る検出器は、1シフトでテラバイト以上を生み得る。ネットワーク、保存、校正、画像再構成、機械学習の基盤も加速器と同時に進歩しなければ、ボトルネックは光子からファイルへ移る。将来は測定中の解析が次の条件を自動で選び、仮説、試料、計算が閉ループをつくるだろう。

成功は層ごとに測る必要がある。50 pm·radを達成したか。200 mAを安定して蓄積できるか。入射は利用者から見て透明か。発光点はナノ集光に十分安定か。代表的なアンジュレーターラインは予測輝度に達したか。比較可能な条件で電力はほぼ半減したか。何本のビームラインが、どれだけ早く戻るか。そして加速器専門家だけでなく一般利用者が、再現性のある科学へ変換できるか。

暗い期間の前後にもリスクがある。停止前の最後の公募へ課題が集中し、停止中には学位研究の核となる実験を失う学生が出る。企業は急ぐ研究を海外へ移すかもしれない。再開後は強い光が光学素子、検出器、試料の弱点を露呈する。最後の磁石のボルトを締めた時点で、事業効果が確定するわけではない。

それでも放射光の歴史は、「不都合」を道具へ変えた歴史である。粒子物理の邪魔だった放射が分析光になり、播磨の遠いリングは酸素、小惑星、タイヤ、古代鏡を読む研究所になった。今度は施設名に刻まれた「8 GeV」を捨て、名前より大きな目的を守ろうとしている。

2027年8月のある夕刻、最後の予定電子バンチが消え、30年にわたり物質を照らしたリングは工事現場になる。次の重要な光は、最も派手な一閃ではない。新しい発光点から旧来の道を通って待機中の装置へ届く、最初の安定した光だ。そしてその数カ月後、利用者が十分に信頼し、これまでのSPring-8には問えなかった問題を置ける光である。

取材メモ・主要資料

本稿は2026年8月16日午前6時(日本時間)までに公開された情報を検討した。日程、性能、事業費は公式計画または設計目標であり、達成保証ではない。「約100倍」は主に設計上の硬X線域におけるアンジュレーター分光輝度を指し、実際の増加率はビームラインと実験で異なる。海外更新との比較および技術的な意味付けはJapan.co.jpによる分析である。