一方は、名画を「まねる」ことが、なぜ学びになったのかを考える。もう一方は、水田やため池の生態系に生きる大型の水生昆虫を追う。佐賀県立博物館・佐賀県立美術館は9月2日と5日、美術館2階画廊で、模写とタガメをそれぞれ主題にした90分の「博物館・美術館セミナー」を開く。
二つを一つの異分野講座として組み合わせるわけではない。登壇者も日程も内容も別だ。共通するのは、県立の博物館と美術館が同じ運営基盤を持ち、学芸員が日常の調査、研究、収蔵活動で蓄えた知識を、同じ画廊から公開する点にある。
模写は、贋作ではなく学ぶ方法
2日の正式題名は「えがいて、まねぶ―『模写』の世界―」。講師は同館学芸課長の野中耕介(のなか・こうすけ)氏が務める。館の案内は、過去の名作を写し取り、技法や感覚を学ぶ方法が、かつて絵画学習で広く用いられたと説明する。
模写は、作者や来歴を偽って流通させる贋作とは目的が違う。観察し、手を動かし、構図や線、色の組み立てを身体で確かめる学習や研究の手段だ。案内文はフィンセント・ファン・ゴッホも名作から学んだ画家の一人として挙げ、模写の意味と価値が時代とともに変わったとする。講座は日本近代美術を中心に、その変化をたどる予定だ。
ただし、どの作家や作品を具体例として扱うかは、8月31日までの公式案内には示されていない。本稿は、模写の歴史的位置づけを講座の予告以上に決めつけず、開催後の内容や参加者の反応も記録していない。
県内初確認を入口に、タガメの現在を知る
5日の講座「水生昆虫の王様、タガメの生物学」は、学芸員の奥田恭介(おくだ・きょうすけ)氏が担当する。公式案内は、2026年4月に佐賀県内でタガメの生息が初めて確認されたことを出発点に、タガメの生態、減少した理由、新たに分かった生物学的知見、学芸員が進める保全活動を紹介するとしている。
「水生昆虫の王様」は講座名に用いられた親しみやすい表現で、分類学上の呼称ではない。環境省の国内希少野生動植物種一覧では、タガメはコオイムシ科の Kirkaldyia deyrolli とされる。国のレッドリストでは絶滅危惧II類。2020年には、販売や頒布を目的とする捕獲などを規制する「特定第二種国内希少野生動植物種」に指定された。
環境省は、タガメのように里地里山などの二次的自然に依存する種は、生息環境の改善によって回復できる可能性がある一方、商業目的の大量捕獲が脅威になると説明する。保全を語るとき、個体だけでなく、水辺と周囲の土地利用まで見る必要がある。
同じ画廊が、二つの教室になる
両講座は午後1時30分から3時まで。会場はいずれも佐賀市城内の美術館2階画廊で、定員は先着50人。参加は無料で事前申し込みは要らず、受け付けは開始30分前から会場で行う。主催者は日程や内容を変更、中止する場合があるとして、来場前に公式サイトやメール配信を確認するよう求めている。
2026年度後期の同シリーズには、肥前刀、岡田三郎助と台湾、化石の印象、佐賀の日本画、古文書の印章、博物館の標本づくりなども並ぶ。専門分野を一つのテーマに束ねる企画ではない。美術館と博物館が持つ複数の研究領域を、短い公開講座へ変換する年間プログラムである。
| 講座1 | えがいて、まねぶ―「模写」の世界― |
|---|---|
| 日時・講師 | 9月2日(水)午後1時30分~3時/野中耕介・学芸課長 |
| 講座2 | 水生昆虫の王様、タガメの生物学 |
| 日時・講師 | 9月5日(土)午後1時30分~3時/奥田恭介・学芸員 |
| 会場 | 佐賀県立美術館2階画廊(佐賀市城内1丁目15番23号) |
| 参加方法 | 各回先着50人、無料、事前申し込み不要。午後1時から会場で受け付け |
模写では、見ることを手の動きへ移す。自然史では、観察を記録へ移し、生息の証拠を積み上げる。対象も方法も同じではない。それでも、学芸員の仕事が展示室の奥だけで完結せず、市民が問いを共有できる場へ出てくるところに、この二講座を続けて見る意味がある。
- 佐賀県「令和8年度 博物館・美術館セミナー(後期)を開催します」(2026年8月27日、全日程、講師、会場、定員、参加方法)
- 佐賀県立博物館・佐賀県立美術館「えがいて、まねぶ―『模写』の世界―」(講座趣旨、日時、講師の所属・役職)
- 佐賀県立博物館・佐賀県立美術館「水生昆虫の王様、タガメの生物学」(県内初確認、講座内容、日時、講師の所属・役職)
- 佐賀県立博物館・佐賀県立美術館の企画展案内(野中耕介氏の読み)
- 佐賀県「第5回佐賀県文化財等研究成果発表会」(奥田恭介氏の読み、カメムシ研究)
- 佐賀県立博物館・佐賀県立美術館「佐賀県立博物館・美術館調査研究書」(奥田氏らのカメムシ亜目文献記録研究)
- 環境省「国内希少野生動植物種一覧」(分類、学名、特定第二種の指定)
- 環境省「環境省レッドリスト2018」(タガメの絶滅危惧II類評価)
- 環境省「令和2年版 環境白書」(特定第二種制度、里地里山、生息環境と商業捕獲)
本稿は2026年8月31日午前までに公開された佐賀県、同館、環境省の日本語一次・機関資料を中心に作成した。二つは同じシリーズ、同じ会場で行う別々の講座であり、一つの共同講座とは表現していない。「水生昆虫の王様」は主催者が用いる講座名として扱った。県内初確認の地点、個体数、確認手順、繁殖状況、具体的な保全場所と方法、模写講座で扱う全作品、開催後の出席者数と反応は未公表または未実施のため記載していない。掲載画像は記録写真ではない。