2026.9.4原著論文の公表日
UV接着界面の性質を光で制御
2異なる波長による機能切替
CRESTJSTの研究支援

接着を強くする。その次は「きれいに剥がす」技術だ

スマートフォン、車、半導体、建材。現代のものづくりでは、異なる材料を固く結びつける接着剤が欠かせない。ねじを減らし、軽く、薄く、複雑な製品を組み立てられる一方、故障した部品を交換するときや製品を資源に戻すときには、接着の強さが障害になる。基板を壊さずに分解することは、接着することと同じくらい難しい。

大阪大学大学院理学研究科の髙島義徳教授らの研究グループは、その矛盾に「光」で答えようとしている。2026年9月4日に公表された研究では、紫外線によって接着剤と基板の境目の性質を切り替え、必要な場所だけを剥がす仕組みを示した。10月13日に科学技術振興機構の英語ニュースサイトScience Japanが紹介したが、発見そのものは9月に論文が公開されている。

どこを弱くするかが違う

従来の刺激応答型接着剤には、熱や光などで材料全体の接着力を低下させる方式がある。しかし、接着剤が変形・破断して基板側に残ることがある。修理の現場では、この残留物を除去する手間がかかり、精密部品なら表面を傷つける危険もある。

今回の着眼点は、接着剤全体を壊すのではなく、接着面のごく近くにある材料の力学特性を変えることだ。研究グループはこの考え方を「界面スイッチング」と呼ぶ。照らした場所だけを選択的に剥離できれば、貼り付ける場所と取り外す場所を製品設計に組み込める可能性が生まれる。

可逆的な架橋を持つ高分子

研究で用いたのは、可逆的な架橋構造を備えた光応答性エラストマーだ。高分子の鎖をつなぐ架橋は、材料の弾性や強度に影響する。光でその状態を動かすと、照射された表面近くの弾性率が変化する。研究チームは以前から蓄積してきた光応答性アクチュエータの設計を、接着という用途へ展開した。

重要なのは、「紫外線を当てれば何でも自然に落ちる」という意味ではないことだ。光の波長、照射条件、接着する相手の材質、接合部への光の届き方、必要な剥離力が結果を左右する。大学が発表したのは特定の材料系と実験条件で得られた成果で、すべての市販接着剤に共通する機能ではない。

外して、もう一度使う

接着剤を剥がせても、使用済み材料を廃棄するなら資源循環の効果は限られる。この研究の特徴は、接着剤と基板の双方を再利用する道筋も示した点だ。大阪大学の説明では、異なる波長の紫外線を照射することで接着性能を回復でき、加熱を伴う再接合も試された。

研究成果を紹介する大学の英語記事は、可逆的な界面切り替えと再結合を強調する。外した後に表面を完全に新品同様にできる、あるいは何千回でも使えると証明したわけではない。繰り返し回数、接着力の保持、長期耐久性は実用化判断の核心となる。

電子機器・自動車・半導体で何が変わるか

薄い電子部品やセンサーを支える接着層は、小さな損傷でも部品の交換費用を押し上げる。自動車には、軽量化や異素材接合のための接着が数多く使われる。半導体の製造・実装工程でも、仮固定と取り外しを高度に制御する需要がある。狙った界面だけを剥離できれば、修理、部品回収、分別、再使用の選択肢が広がる。

ただし、可能性と採用実績は別だ。自動車では耐熱、振動、湿度、疲労、事故時の安全性が問われる。電子機器では微細な接合部の寸法安定性や他の材料への影響、半導体では汚染や工程との整合性を確かめなければならない。今回の発表だけでは製品認証や量産採用は確認できない。

日本の高分子研究の積み重ね

髙島研究室は、超分子材料や動く架橋を利用して、強く接合しながら必要な時に解体しやすい材料を研究してきた。研究室が公開する過去の研究には、光によって架橋の状態を変え、材料の力学特性と接着力を調節する仕組みが示されている。2026年の成果は、突然現れた魔法の接着剤ではなく、光応答性高分子の設計を接着界面の制御に発展させた仕事である。

研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業CREST「デュアル分解制御技術を駆使した精密材料科学」の支援を受けた。大阪大学の髙島義徳教授、三重大学の藤井義久准教授、山形大学の松葉豪教授、大阪工業大学の上辻靖智教授らが参加した。材料の化学だけでなく、その力学的挙動を理解する分野横断的な研究だ。

「分解を前提に設計する」という発想

20世紀の大量生産は、完成品を長く、強く、一体に保つことを重視してきた。近年は修理可能性、部品交換、再製造、材料回収までを考える「分解を前提にした設計」が重みを増している。接着剤も完成品の寿命だけでなく、使用後の工程を左右する部材だ。

日本の製造業にとって、こうした材料は単なる環境技術ではない。高価な部品を破損せず取り外せれば、歩留まり、補修費、回収可能な資産価値にも影響する。ただし、環境負荷が下がるかを判断するには、紫外線照射に使うエネルギー、接着剤の製造工程、耐用年数、回収率までを含めて比べる必要がある。

まだ解かなければならない問題

最初の壁は光の通り道だ。不透明な金属同士の接合では、内部の界面まで紫外線を届ける方法が要る。厚い部品や複雑な構造、屋外で長く使われる製品では、光以外の刺激や照射経路を工夫する必要があるかもしれない。

さらに、剥離した材料の回収方法、貼り直し時の精度、長期保管中の安定性、紫外線への作業者の曝露、材料コスト、既存製造設備との適合性など、実用上の問いは多い。研究発表には汎用製品の発売日、商業価格、工場での実証規模は示されていない。

強い接着剤の未来に、外す自由を

「一度貼ったら離れない」ことは、従来の接着技術の長所だった。しかし、部品が希少になり、資源を循環させる必要が高まる時代には、きちんと外せることも性能になる。大阪大学らの成果は、接着を弱くする研究ではなく、必要な時間は強く、終われば意図的に外すという材料設計の研究だ。

製品の寿命を決めるのは、壊れないことだけではない。壊れた部分を交換できるか、まだ使える材料を取り出せるか。光で切り替わる小さな接着界面には、その大きな問いが集まっている。

出典・参考資料

  1. 大阪大学大学院理学研究科 2026年9月4日
  2. 大阪大学 ResOU 研究成果 詳細
  3. 大阪工業大学 研究発表および論文情報
  4. 大阪大学 School of Science English release
  5. 原著論文 Matter & Light DOI
  6. 髙島研究室 接着材料の過去の研究
  7. Science Japan 2026年10月13日

資料確認:2026年10月13日。9月4日公表の研究を、10月13日のScience Japanによる紹介を契機に検証。