39社大阪府が誘致実績として公表した外国金融系企業等の累計(2026年10月5日時点)
2026–30年度「国際金融都市OSAKA戦略」の第2期活動期間
6分野GSE2026が重点を置いたディープテック領域
1730年幕府が堂島米会所の取引を公認した年

万博の後、大阪に残るものは何か

万博は閉幕すれば会場が静かになる。しかし、人のつながりまで消えるとは限らない。2025年大阪・関西万博で築いた国際的な接点を、研究成果の事業化や資金の流入へ変えられるか。大阪府が描く次の成長戦略の核心は、そこにある。

府は10月29日、同月4〜6日に海外の起業家・投資家3人を招いた「Osaka Innovation Tour」の概要を公表した。参加者は府の政策説明を受け、企業や支援機関と交流し、10月5〜7日のGlobal Startup EXPO 2026(GSE2026)にも足を運んだ。見学ツアーそのものは小規模だ。ニュースとして注目すべきは、府が海外の資本と関西の研究・産業を継続的に結び付けようとしている点だ。

府が公表した「外国金融系企業等39社の誘致実績」は、その象徴である。ただし、これは2026年10月5日時点の行政側の実績集計で、10月の新規進出件数でも、投資実行額でも、雇用創出数でもない。企業ごとの拠点規模や投資金額を確認しなければ、成果の経済的な厚みは測れない。

「商都」の記憶は、研究都市の未来につながるか

大阪を金融の新興都市と見るのは、歴史を見落とすことになる。江戸時代、諸藩の年貢米が大阪の蔵屋敷に集まり、米切手と呼ばれる証券が売買された。日本取引所グループによれば、1730年には堂島米会所で現物と帳合米商いが幕府に公認され、先物取引の発展における重要な先例となった。米を預かり、価格を発見し、将来のリスクを取引する都市だったのである。

近代には商業、紡績、機械、化学、医薬品へと産業が広がった。今日の大阪・関西には、大阪大学をはじめとする研究機関、製造業の層の厚い取引先網、医療機関、専門性の高い中小企業が集まる。だが、研究室で得た成果が製品として売れるまでには、技術検証、規制対応、量産、営業、そして継続的な資金調達が欠かせない。昔の商業力をそのまま起業の成功に置き換えることはできない。

GSE2026――技術を見せる場所から、契約を結ぶ場所へ

GSE2026は10月5〜7日、うめきた・中之島を中心に開催された。会場はグランフロント大阪、グラングリーン大阪の会議施設、中之島クロスなどにまたがり、展示、講演、ピッチ、商談の場を設けた。主な領域はバイオ・ヘルスケア、量子、フュージョンエネルギー、宇宙、AI・先端ロボット、半導体・通信の六つである。

2025年の初回イベントについて主催者は1万人を超える参加者を案内している。しかし、この数字を2026年の確定来場者数として扱うのは誤りだ。開催規模や名刺交換の数より重要なのは、イベント後に共同研究、顧客契約、資本提携へ進んだ案件がどれほどあるかだろう。府による追跡と透明な公表が期待される。

大阪大学の発表によると、10月6日のセッションには岸田文雄元首相、熊ノ郷淳・大阪大学総長、坂口志文・同大学特別栄誉教授が登壇し、研究成果の社会実装を議論した。研究を社会の利益につなげるという主題は、まさに大阪の課題と重なる。

中之島クロスで交差する医療、研究、資本

その構想を目に見える形にした拠点の一つがNakanoshima Qross(中之島クロス)だ。再生医療を含む未来医療の産業化を志向し、研究者、医療機関、企業、支援組織の距離を縮める。ここで何が重要かといえば、実験室の技術を臨床研究、規制対応、製造、販売につなぐための人材が隣り合うことだ。

2026年5月28日、日本生命保険とCICによるライフサイエンス特化型の拠点O-Nexus(オーネクサス)が中之島クロス内に開業した。運営側の公表資料によれば面積は約3,100平方メートル、個室オフィス123室、コワーキング25席、会議室14室を備える。6月には大阪府、日本生命保険、CIC Japan Innovation Services、未来医療推進機構が連携の覚書を結んだ。

10月の見学ではMaRI、Setolabo、TxPPIEが紹介された。医療機器、診断、研究データなど異なる事業の実例を示すものだが、各社の商用契約の規模や収益は府のツアー発表からは分からない。「拠点ができたこと」と「拠点から世界的企業が育ったこと」は、別の成果として検証したい。

研究を支える製造業――大阪だけでは完結しない関西の強み

大阪の産業基盤は、京都の大学・先端研究、神戸の医療・産業集積とも接続している。2020年には京阪神地域が国のスタートアップ・エコシステム「グローバル拠点都市」に選ばれ、2025年6月には第2期の「グローバル拠点都市(広域都市圏型)」として継続選定された。大阪府と大阪市の資料が示す通り、これは大阪市単独の政策ではない。

深い技術を扱う企業では、試作品が動いても量産には移れないことがある。電子部品の品質管理、医療機器の認証、工場の歩留まり、海外販路の確保など、事業化を阻む課題は多い。関西の多様なメーカーや専門企業は、研究開発の「その次」を支える可能性がある。一方で、企業同士を紹介しただけでは共同開発が成立するわけではない。

「国際金融都市OSAKA」は何を目指すのか

府のもう一つの柱が国際金融都市OSAKAだ。推進委員会は2021年3月に設立され、戦略は2022年に策定、2026年3月に改訂された。第2期は2026〜2030年度。英語での相談窓口、金融ライセンス取得支援、事業マッチング、拠点開設に関する補助制度、対象事業者への地方税優遇など、進出の障壁を下げる施策を掲げる。

ただし制度には条件があり、すべての外国企業が助成や減税を受けられるわけではない。金融ライセンスの取得、税務、人材採用、顧客開拓は企業によって異なる。大阪府の公表した39社は政策の活動状況を示す一つの数字だが、資金調達総額や地元企業への投資成果を代弁するものではない。

大阪の成否を決めるのは、何人が展示会に来たかではない。大阪で研究が事業となり、顧客を得て、次の投資を引き寄せられるかだ。

府自身が認める課題――東京集中、人材、成長資金

興味深いのは、2026年改訂の戦略資料が弱点も明記していることだ。企業本社や資金・情報の東京集中、創業から成長段階への資金供給不足、ベンチャーキャピタルやPE投資家の少なさ、高度金融人材や英語対応人材の不足。さらに金融規制や国税を含めた税制上の国際競争力も課題に挙がる。

海外の起業家にとっては、誘致の案内冊子より最初の顧客、共同開発の相手、現地の専門家、追加調達につながる投資家が重要になる。ツアーで紹介された支援組織Plug and Playや海外企業支援の関係者が強調した企業との接点は、実務上の要請だ。

東京、シンガポールと何を競うか

東京は大企業本社、投資家、情報、人材が集中する日本最大のビジネス市場である。シンガポールは国際金融、広域の投資ネットワーク、域内事業運営における存在感が大きい。大阪が同じものを同じ規模で複製するのは現実的ではない。むしろ関西の研究・製造基盤、医療実装、都市間連携、暮らしや事業コストの特性を組み合わせて強みを示せるかが問われる。

世界のスタートアップ都市ランキングは参考になるが、評価指標は主催機関によって異なる。順位を単純な「都市の実力」の証明には使えない。投資額、海外売上、雇用、共同研究から製品化に至った事例、そして起業家の定着率といった複数の指標を見る必要がある。

次の万博は、契約書の中にある

1970年の大阪万博は高度成長期の日本が技術の未来像を示した催しだった。2025年の万博は医療、環境、国際交流を発信し、2026年のGSEはその接点を産業へと転換しようとした。けれども未来の産業は、華やかな展示だけからは生まれない。試験を繰り返し、規制を乗り越え、顧客に評価され、利益を伴う形で続いていく。

府は2030年度までの第2期戦略を進める。これから問われるのは、39社という入口の数の先に、どれだけの資金、雇用、技術、取引が生まれるかだ。堂島で米の将来価値を取引した街が、今度は研究成果の将来価値を支える金融と産業の仕組みを築けるか。万博の本当の成果は、閉幕後の数字に表れる。

出典・編集上の注記

一次資料・主催者発表・企業発表と外部比較資料に基づく分析。現地での取材や関係者への独自インタビューは行っていない。府発表の39社は誘致実績であり投資額や雇用数の証明ではない。

  1. 大阪府・Osaka Prefectural Government, 29 October 2026
  2. Global Startup EXPO 2026 — 公式開催記録・official program
  3. 経済産業省 — Global Startup EXPO 2026
  4. 大阪府 — 国際金融都市OSAKA戦略 第2期(2026年)
  5. 国際金融都市OSAKA推進委員会 — 戦略の沿革
  6. 大阪府 — ライフサイエンス四者連携(2026年6月26日)
  7. O-Nexus — 2026年5月28日開業のお知らせ
  8. 大阪大学 — GSE2026参加報告
  9. 大阪市 — スタートアップ・エコシステム拠点都市事業(2026年10月2日)
  10. 内閣府 — 2025年 第2期拠点都市選定
  11. 日本取引所グループ — 堂島米会所の歴史
  12. 2026 StartupBlink ecosystem rankings — methodological comparison