見つかったのは、2024年にできた一本の亀裂ではない

2026年5月11日、東京大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、中央大学の研究チームは、2024年能登半島地震の海域震源域にある「大規模変形帯(Large Deformation Zone、LDZ)」を査読誌Scientific Reportsに報告した。能登半島北東沖を北東―南西方向に約30キロ延び、幅は測線ごとに約2.5~3.8キロ。内部には断層、褶曲、押し上げられた地層が集中する。

重要なのは、LDZを2024年1月1日に突然開いた30キロの裂け目と考えないことだ。探査断面に見える数十メートルの地層ずれ、約70メートル高い地形、侵食面は、複数回の活動と長期的な隆起が積み重なった構造を示す。2024年の地震は、何百万年も前の日本海形成時に生まれ、その後圧縮で向きを変えて使われてきた断層系の一部を再活動させた可能性がある。

今回の新しさは、「津波が起きた場所」に断層モデルを置くだけでなく、実際の地震波反射断面から浅部の形と分岐を描き、その形を津波計算へ入れたことにある。結果は強いが、決定的ではない。論文自身が、LDZの同時すべりへの直接証拠はないと明記する。構造の画像、限られた範囲の海底隆起、海岸の津波高を一つの整合的な仮説でつないだ段階だ。

約30km北東―南西に延びる大規模変形帯。
2.5–3.8km測線ごとに変わる変形帯の幅。
6–7m津波高を最もよく再現したNT4–NT5系の仮定すべり量。
最大約3m地震前後の測深比較で確認された局所的な海底隆起。

元日16時10分、150キロへ広がった破壊

2024年1月1日16時10分、石川県能登地方の深さ16キロで気象庁マグニチュード7.6の逆断層型地震が発生し、最大震度7を観測した。国際的な物理量であるモーメントマグニチュードはおおむね7.5とされる。「M7.6」と「Mw7.5」は別の尺度と解析法による表現で、別の地震を意味しない。

余震域は能登半島西岸から北東沖へ約150キロに及んだ。陸上では輪島市西部の基準点が最大4.10メートル隆起し、1.48メートル西へ動いた。北部沿岸では海だった浅瀬が陸化し、港の水深と海岸線が一夜で変わった。海上保安庁と北陸電力の地震前後データ比較は、珠洲市北東沖や輪島市北方沖の広域で最大約3メートルの海底隆起を確認した。

津波警報は地震の2分後、16時12分に石川・富山・新潟へ出され、16時22分に石川県能登は大津波警報へ引き上げられた。現地調査では、能登東岸の浸水高・遡上高が地点により3~6メートル、舳倉島北部の最大遡上高は6.5メートル、新潟県上越市船見公園では気象庁が5.8メートルの遡上痕跡を確認した。これらは同じ「波高」ではなく、計測地点と定義の異なる数字である。

数字何を測るか混同すると起きる誤り
断層すべり量 6~7m断層面の両側が相対的に動く距離。今回のモデル仮定海底が6~7m真上へ上がったことにはならない
海底隆起 最大約3m地震前後の測深差から得た局所的な鉛直変化全ての海底が一様に3m上昇したわけではない
津波高海上・検潮所で平常潮位から上がった水面陸上の痕跡高とは位置も基準も違う
浸水高浸水地点の水面痕跡を基準海面から測る地面からの水深と同じではない
遡上高波が陸上を駆け上がった最高地点の標高沖合の波が同じ高さだったことを意味しない

津波を起こすのは、地震の大きさだけではない

津波は、海底が広い範囲で急に上下し、その上の海水柱を押し上げたり引き下げたりすると生じる。マグニチュードは地震全体の規模を示すが、津波の効率は、すべりが陸か海か、断層が縦ずれか横ずれか、浅部まで達したか、傾斜と曲率がどうなっているかで大きく変わる。大きな横ずれが海底をほとんど上下させなければ、同規模の逆断層より津波は小さくなり得る。

2024年地震では大きなすべりの一部が陸上を隆起させた。陸上の変位は強烈でも、海水を直接押し上げる効率は低い。一方、北東沖のNT4・NT5と呼ばれる区画では、断層が海底近くまで届き、海底隆起域とLDZが重なる、または隣接した。そこで起きた鉛直変位が近地津波の中心だったというのが2026年研究の仮説である。

「LDZが津波を増幅した」という表現も慎重に使う必要がある。海岸へ到達した高さは、発生源の海底変位だけでなく、水深、湾の形、岬、海底谷、港、堤防、陸上地形によって変わる。LDZは水を動かす発生源側の説明であり、各集落で波が何メートルになったかの全てを単独で説明するものではない。

「白鳳丸」が海底下を音で切った12日間

地震から約2か月後の2024年3月4~16日、学術研究船「白鳳丸」は能登半島北東沖で緊急調査を実施した。高分解能マルチチャンネル反射法地震探査の測線は14本、それぞれ約45キロ。単純合計で約630測線キロに及ぶ。二基のGIガンが約18.75メートルごとに圧縮空気で弾性波を発生させ、全長1200メートル、48チャンネルのストリーマーに並ぶハイドロフォンが地下境界から戻る反射を受けた。

音は、密度と地震波速度が変わる地層境界で反射する。反射が船へ戻る時間だけでは深さを正確に決められない。地層中の速度が違えば、同じ往復時間でも深度が変わるためだ。研究チームは速度モデルを反復修正し、反射点を真の深度位置へ移す「重合前深度マイグレーション(PSDM)」を使った。これは傾斜した断層を、時間断面より現実に近い角度と深さで描く処理である。

しかし地中を直接撮影した写真ではない。反射の切れ目や曲がりを、地質学者が断層・褶曲として解釈する。今回のストリーマーは1.2キロと比較的短く、深く急傾斜の反射に対する速度感度は限られた。論文は深さ約2キロで速度モデルの最大不確かさを約5%と見積もる。この限界が、研究者が次に長いケーブルと3次元探査を求める理由だ。

曲がった逆断層と「花」のような分岐

LDZの中心は、南東へ約50~75度傾く急な逆断層F1と解釈された。深部では約20~25度、中間で45~50度、浅部で約65度へ急になる「リストリック(曲面状)」の形を仮定すると、深部の水平圧縮が海底近くで大きな鉛直変位へ変換される。F1は、日本海が開いた時代の正断層が、現在の圧縮場で逆向きに再活動したものと考えられる。

主断層からは複数の逆断層と一部の正断層が上方へ枝分かれし、地層を山形に持ち上げる。断面では枝が上へ広がる「正のフラワー構造」に見え、局地的な横ずれ成分を伴う圧縮を示す。一本の面がすべる教科書図より、力が複数の枝へ分配される破砕帯に近い。

一つの測線では、LDZ上の海底が周囲より約70メートル高いポップアップ構造を示した。深さ約300メートルの分岐逆断層には約40メートルの落差、海底近くまで届く正断層に約5メートルの地形ずれが見えた。これらを2024年一回の変位と読んではならない。数十メートル級の構造は反復活動の累積であり、2024年の実測隆起は別に最大約3メートルである。

30キロは「新しい亀裂」の長さではない。何度も使われた断層と褶曲が集まる、変形の回廊の長さである。

海岸の痕跡へ合うまで、断層をすべらせる

研究チームは、JAMSTECの津波計算ソフトJAGURSを用い、約50メートル格子、約1億7409万セルの領域で津波伝播を計算した。海岸では非線形性、分散、底面摩擦を考慮し、計算した海岸津波高を現地の浸水高と遡上高に比べた。モデルの基礎は既存のNT2~NT5区画だが、地震波断面と海底隆起域を含めるためNT4を北西へ2キロ、南西へ5キロ広げたE-NT4を設定した。

E-NT4・NT5のすべりを2、4、6、7、8メートル、北東側のNT2・NT3を0~6メートルで組み合わせた。能登を含む本州沿岸の観測に最もよく合った三ケースは、E-NT4・NT5が6~7メートル、NT2・NT3が0~1メートルだった。代表図は前者6メートル、後者0.5メートルを用いる。曲面状断層を通じたこのすべりは、局所的な最大約3メートルの海底隆起とも整合した。

適合度は相田の指標Kとκで評価された。Kが1に近いほど計算と観測の平均比が合い、κが小さいほど地点間のばらつきが小さい。本州ではK=0.95~1.05、κ=1.41~1.45となり、研究が採用した実務上の基準内に入った。従来モデルのK=1.59、κ=1.49より全体的な過小評価が改善した。

モデル要素試した範囲最良群意味
E-NT4・NT52、4、6、7、8m6~7mLDZを含む南西・中央の海域震源を主な津波源とする
NT2・NT30、0.5、1、2、4、6m0~1m北東側の長い逆断層は2024年には浅部すべりが小さい
海底隆起モデルから計算最大約3mと整合限定域の地震前後測深データと比較
津波高海岸観測と比較本州で適合改善断層仮説を支持するが、唯一解ではない

「再現できた」は「現場で証明した」と同じではない

津波逆解析には非一意性がある。異なる断層の位置、傾斜、すべり量、すべり時間の組み合わせが、限られた観測点では似た波形をつくることがある。2025年の別の高解像度逆解析は、断層形状を先に固定せず初期水位を推定し、NT5付近3.3メートル、NT4付近3.0メートルの隆起ピークを得た。2026年構造研究と独立した方法が近い場所を指すのは重要な補強だが、全てのパラメータが確定したわけではない。

2026年モデルは能登・本州側を改善した一方、佐渡島と新潟沿岸の津波高をなお過小評価した。論文は、NT2・NT3の変形、未解像の断層、海底地すべりを今後の候補に挙げる。遠方で合わないことを無視して「津波の全てを解明」とは言えない。

また、地震波断面に見えるLDZは長期構造であり、地震前後の全域3次元画像は存在しない。海底隆起の比較も空間的に限られる。LDZの一部断層が海底近くまで達し、震源域・隆起域・最良モデルと重なることは状況証拠として強い。しかし、2024年に各分岐が何秒目に何メートルすべったかを直接測ったわけではない。

海底地すべりは、別の問いである

能登半島東方約30キロの海底谷では、海上保安庁が2023年と2024年の地形を比較し、長さ約1.6キロ、幅約1.1キロ、最大約50メートル深くなった大規模斜面崩壊を検出した。JAMSTECなども富山深海長谷沿いの複数地点で新たな崩落痕跡を確認した。これらは地震で生じた可能性が高いが、LDZとは別の種類の構造・現象である。

富山湾の検潮所では地震後2~5分という非常に早い水位変化が記録され、震源断層からの通常の伝播時間だけでは説明しにくい。複数の研究は、湾内の海底地すべり、または急斜面の水平変位による局地津波源を提案している。ある複合モデルは富山市沖約4キロ、長さ約3キロの地すべり源を仮定すると波形が改善するとした。

ただし提案位置と実際に測量で見つかった全ての崩壊が一致し、津波寄与が確定したわけではない。2025年のJAMSTEC発表も、富山深海長谷の地形変化と津波の関係は不明としている。主断層が広域津波を起こし、複数の地すべりや湾内変位が局地的な早い波を加えた可能性はあるが、寄与率の分離は今後の課題だ。

同じ波でも、湾と岬が形を変える

能登東岸の飯田湾では、最初の水位ピークは地震から約20分後だったが、最大の越流は約30分後以降の後続波に起きた。岬で回折した波、岸に沿うエッジ波、湾内の反射が重なり、短周期の波が局地的に増幅した。発生源の初期水位だけを精密にしても、港の防波堤や数十メートルの海底地形が粗ければ、集落単位の被害を外す。

舳倉島では北部の最大遡上高6.5メートルに対し、防波堤背後の浸水・遡上高が無防護域より40~50%低かったとする調査がある。島を回り込む屈折と複数方向からの流入が、家財や漂流物を横断的に運んだ。防波堤は被害を完全に止めなかったが、局所的な高さを下げた。

反対に、能登北岸は震源に近いのに広い浸水が少なかった。海岸段丘と崖に加え、地震で1~4メートル隆起した土地が、相対的に海面を下げる形で津波の陸上侵入を抑えた。隆起は港を使えなくし、生態・漁業・復旧へ長期被害を与えた一方、瞬間的には一部沿岸を浸水から守った。地殻変動は「被害を増やす」か「減らす」かの一方向ではない。

日本海は、開いた時の傷を逆向きに使う

日本海は新生代中新世、日本列島が大陸縁から離れる背弧リフトとして開いた。地殻が引き伸ばされ、正断層が地層を落とし、深い堆積盆と地溝をつくった。能登沖から富山トラフへ続く構造の一部は、完全な海洋拡大に至らなかった「失敗したリフト」の遺産である。

後期鮮新世から第四紀にかけ、応力場は圧縮へ変わった。かつて引っ張られて下がった正断層が、押されて逆断層として再利用される「構造反転」が始まる。曲面状の古い断層は深部で緩く浅部で急なため、現在の圧縮に対して複雑な褶曲と衝上断層を成長させる。LDZのF1を、背弧リフトの古い正断層の再活動と解釈する地質学的背景だ。

太平洋側の2011年東北地方太平洋沖地震は、沈み込むプレート境界が数百キロすべった巨大地震だった。2024年能登地震は、日本海側の大陸地殻内にある活断層系が破壊した地震である。どちらも海底を動かして津波を起こすが、地質設定、断層規模、警報に使える時間、必要な探査方法は異なる。

能登の海岸は、過去の隆起を刻んでいた

能登半島には海成段丘と離水した生物付着痕があり、長期の隆起を示してきた。2007年3月25日のM6.9能登半島地震では北西岸が最大約50センチ隆起した。石灰質管棲ゴカイなどの古い付着上限を調べた研究は、同じ西岸区間に西暦1025~1235年ごろの地震性隆起痕跡を見いだし、2007年型の前回イベントが約1000年前だった可能性を示した。

2007年地震の津波は能登で20~30センチ規模と小さかったが、輪島と能登の検潮所では後続波が大きく異なった。数値計算は、半島北方の浅い海底地形で増幅した波が能登側へ向かい、輪島側へは向かわなかったことを示した。2024年より17年前に、同じ半島で「発生源だけでなく海底地形が波形を選ぶ」ことが既に実証されていた。

日本海東縁では1833年庄内沖、1964年新潟、1983年日本海中部、1993年北海道南西沖など、逆断層地震と津波が繰り返してきた。1983年津波は秋田北部で約15メートルに達し、日本海沿岸へ津波が短時間で来る危険を社会に刻んだ。過去3000年規模の津波堆積物も報告されている。能登の2024年津波は突然変異ではなく、開裂と圧縮を繰り返した日本海の長い構造史の一場面である。

時代・年能登・日本海の節目今回の研究への意味
中新世背弧リフトとして日本海が開き、正断層と堆積盆が形成現在再活動する曲面状断層の原型
西暦1025~1235年ごろ北西能登の古い離水海岸が地震性隆起を記録反復隆起の証拠。ただし今回のLDZと同一断層とは限らない
1833・1964・1983・1993日本海東縁で大地震・津波が反復日本海側海域活断層の広域ハザード史
2007M6.9能登半島地震、最大約50cm隆起、小津波海底地形による後続波増幅を実証
2018~2023北東能登の群発地震、2020年末に急増、2023年M6.5深部流体と上方移動する地震活動
2024M7.6主震、津波、陸・海底隆起。3月に「白鳳丸」緊急探査地震前後の差分と高分解能断面を取得
2025津波源逆解析、地すべり研究、海域活断層評価が進展異なるデータでNT4・NT5隆起を検証
2026LDZの構造と津波モデルを査読公表浅部断層形状を津波発生へ具体的に接続

群発地震と深部流体――引き金と津波源を分ける

能登半島北東部では2018年ごろから群発地震が続き、2020年12月以降に急増した。2023年5月5日には気象庁M6.5の地震が珠洲で大きな被害を生んだ。高精度震源決定は、地震活動が深さ約20キロから上方へ移動し、複雑な断層網をたどったことを示す。GNSSは群発域周辺の膨張と非地震性変形を捉えた。

温泉・井戸ガスのヘリウム同位体は、上部マントル由来成分が群発域近くへ上昇していることを示した。2024年主震の解析は、破壊が流体に富む震源付近で15~20秒かけて弱く始まり、その後大きなすべりへ発展したとする。流体圧が断層の有効摩擦を下げ、群発地震と破壊開始に関わったという像が形成されている。

しかし流体は津波を直接押し上げた水ではない。深部流体研究は「なぜ断層が動き始めたか」、LDZと津波研究は「破壊が海底へどう伝わり、海水を動かしたか」を主に問う。二つをつなぐには、深部の震源・すべりと浅部の分岐断層を同じ3次元モデルで結ぶ必要がある。

警報の2分と、近地津波の数分

気象庁は16時12分に津波警報、16時22分に能登へ大津波警報を出した。これは地震規模を迅速推定して広域へ警告する重要な機能だった。一方、震源が海岸の直下・直近にある近地津波では、揺れが止まる前後に波が沿岸へ到達する場所があり得る。富山湾では別の局地源と考えられる水位変化が2~5分で現れ、能登の位置情報研究は人々の避難移動が地震後2~6分で急速に始まったと報告した。

この時間尺度では、正式な警報を待ってから海を見に行く余裕はない。海岸近くで強い揺れ、長い揺れ、急な引き波を感じたら高所へ移動するという自己避難原則が不可欠になる。2024年の位置情報解析は、20~100分後に海岸へ戻り始めた人もいたことを示した。最大波は最初とは限らず、飯田湾では後続波が増幅した。警報・注意報が解除されるまで戻らないことも同じく重要だ。

断層形状を精密化する研究は、即時警報を一夜で10倍速くする魔法ではない。事前に想定波形と浸水域を改善し、観測網の配置、避難場所、港の設計へ反映する基礎だ。リアルタイムには海底圧力計、GNSS、強震計、沿岸カメラを統合し、事前モデルを観測で更新する仕組みが必要になる。

海底活断層地図は、なぜ地震後に更新されるのか

陸上の断層は地形、露頭、トレンチで繰り返し調べられるが、海底断層は水と堆積物の下にある。従来の単チャンネル反射法や時間断面では、浅い断層位置を広域に追えても、急傾斜の枝分かれと深部への接続を津波源の精度で描くのは難しかった。2024年以前にもNT2~NT6の区画モデルは存在したが、境界と浅部形状は解像しきれていなかった。

地震後、日本は海底地震計、測深、反射法、衛星、GNSS、津波波形を集中投入した。2024年8月、地震調査研究推進本部は兵庫県北方沖から新潟県上越沖の海域活断層を前倒し評価し、2025年6月に中南部日本海の第一版を公表した。現在の評価は長さ約94キロの能登半島北岸断層帯にM7.8~8.1程度の地震可能性を示すが、発生確率はまだ評価していない。規模範囲は「近く起きる」という予知ではない。

2026年論文が示す北東側約60キロの逆断層も、2024年に浅部すべりが小さかったから安全になったわけではない。断層崖と傾斜地層は過去の累積活動を示す。研究は、将来最大M7.8級となり得るとの政府評価を引用する。これも時期予測ではなく、地質構造が将来のシナリオに残るという意味だ。

この研究が示したこと、まだ示していないこと

証拠が示すことまだ示していないこと
震源・津波源域に幅2.5~3.8km、長さ約30kmのLDZがあるLDZ全体が2024年に一つの面として同時にすべった
浅部の急傾斜逆断層と分岐断層が海底近くへ達する各分岐の2024年すべり量と時系列
6~7mのNT4–NT5すべりモデルが本州の津波高を改善するこのモデルだけが可能な唯一解である
限定域で最大約3mの海底隆起が測定された震源域全体の連続した3次元変位場
新潟・佐渡の過小評価に別要因が必要地すべり・NT2/3・未解像断層の寄与率
長期構造は反復活動を示す各断層の正確な再来間隔や次回発生時期

次は3次元探査、掘削、海底観測

第一の課題は、長いストリーマーと密な測線による3次元地震波探査だ。2次元測線では、斜めに横切る断層を見かけ上の傾斜で捉えたり、測線間で枝の連続性を推測したりする必要がある。3次元体積画像なら、フラワー構造の分岐、NT4とNT5の接続、海底隆起域との重なりを直接追いやすい。

第二は科学掘削である。断層粘土、破砕岩、間隙水を採れば、摩擦係数、透水性、流体圧、過去の加熱痕跡を測れる。LDZがなぜ浅部ですべりを海底隆起へ効率的に変えたのか、どの枝が止まり、どの枝が動くのかを物性から検討できる。ただし掘削は位置、費用、安全、孔内観測の維持を伴う長期計画になる。

第三は、地震前後を比較できる基準データの蓄積だ。今回最大の情報は、2020~23年の測深が偶然ではなく制度として保存されていたため、2024年との差を測れたことだった。日本海側の海底地形、反射断面、海底圧力、地震計を平時から整備すれば、次の地震後に「何が変わったか」を推測ではなく差分で捉えられる。

海底の断面は、過去の記録であり未来の設計図である

2024年1月1日、能登の海岸は数分から数十分で変わった。だが、その変化を導いた断層の形は、元日に初めて生まれたものではない。日本海が開いた時の正断層、圧縮で逆向きに使われた主断層、横ずれを伴って枝分かれした浅部断層、繰り返す隆起と侵食が、30キロの帯を育てた。

2026年研究は、構造を津波計算に入れると、海岸の痕跡を従来よりよく説明できることを示した。それはLDZ仮説の強い支持である。同時に、佐渡・新潟の不一致、限定的な測深、短いストリーマー、直接すべり証拠の欠如も公開した。科学的な前進は、空白を消すことだけでなく、空白の位置を正確に示すことでもある。

断層地図は地震を止めない。しかし、どの海底が何メートル上がり得るか、波がどの湾で重なり、どの海岸へ何分で来るかを現実的にできる。30キロの大規模変形帯は、災害後に見つかった珍しい構造ではなく、平時の防災が読むべき海底の履歴書である。

主な資料・参考文献

編集注:「大規模変形帯」は長期に成長した断層・褶曲の集中帯で、2024年に新しくできた一本の亀裂ではありません。6~7mは最良津波モデルの断層面すべり量、最大約3mは限定域で観測された海底隆起です。LDZが2024年にすべった直接証拠はなく、モデルは佐渡・新潟の津波を過小評価します。海底地すべりの津波寄与も未確定です。M7.6は気象庁マグニチュード、Mw7.5はモーメントマグニチュードです。長期評価の規模は発生時期の予知ではありません。ヒーロー画像は編集イラストで、探査断面ではありません。